「ボクたちは、きっと普通には生きられない」
「ワタシたちは、この世の中じゃ生き辛いのです」
それは、いつかの春を迎えて直ぐの頃。
夜更け、みんなが寝静まった暗闇の中。
薄い毛布に隠れるようにして、二人きりの秘密の空間を作り、息をひそめながら向き合う。
互いにとって、互いは特別だった。
血を分けた存在ではある。だが、ただの兄妹や姉弟という括りで語れるものではない。
友人はいた。家族もいた。けれど――「自分と同じ」だと認められる存在は、この狭苦しい毛布の中で並んでいる相手だけだった。
「オレたちは、きっと人を好きになってはいけない」
「けどワタシたちは、きっともっと好きになる」
灰を被ったような髪をした少年。兄あるいは弟。彼は拒絶を口にした。
癖毛が特徴的な薄金髪の少女。姉あるいは妹。彼女は受容を口にした。
相反する二人は、まるで互いに確かめ合うように、反発するように、呼応するように。互いの言葉はぴたりと重なり、二人の本質を暴き立てていく。
「だから、ボクは」
「だから、ワタシは」
互いに顔を見合せ、小指を繋いだ。
それは誓いだ。それは約定だ。それは確約だ。
二人が、お互いの道を歩む事を認めるための。
二人が、もう『普通』ではいられないのだと示し合うための。
もう絶対に、そうは生きられないんだと、確認するための。
「オレはもう、誰かを"好き”になんてなりたくない」
「ワタシはもっと、誰かのことを"好き”になりたいのです」
どこまでも、どこまでも似か寄らず、どこまでもそっくりで、どこまでも違って、どこまでも同じで。
お互いのことが大好きで、お互いのことを他の誰よりも知っていて。
世界で最も正反対で、世界で最もそっくりな血を分けた兄妹に向けて、少年は諦めるように。少女は喜ぶように告げる。
「でもボクは、きっとまた、誰かのことが"好き”になる」
「だからワタシは、きっとこれからも、色んなヒトを"好き”になる」
正反対で、同じ。
突き放しているのに、抱き寄せている。
その相反する言葉を吐き出し、二人は歪な笑顔を浮かべた。
世界に満ちる“好き”という言葉。
友達に向けて。恋人に向けて。誰もが気軽に交わし、誰もが平然と受け入れる。
けれど自分たちにとって、その言葉はあまりに重すぎる。
好き、好き、好き――。
口にすればするほど、その想いは異常に歪んでいく。
「けどオレたちは、『普通』に人を愛せないし、愛されない」
「だけどワタシたちは、『普通』がとっても分からない」
愛して愛して愛して愛してやまないというのが本音なのに。
好きで好きで好きで好きで仕方がなくて本気なのに。
恋して恋して恋して恋して胸の高鳴りが収まらないのが本心なのに。
「ボクたちにできることは、『普通』のフリをしていきていくことだけ」
「ワタシたちにできることは、好きな人とひとつになることだけなのです」
それでもその"好き”は、その"愛”は、決して誰にも受け入れられることは無い。
自分たちは『普通』じゃない、『普通』が何かなんて分からない。
そんなこと、もうとうの昔から分かりきっている。
それはまだ二人が小さい頃に、泣いて喚いて確かめあったことだ。
「けど」
「だから」
目の前にいる男∕女は、どうしようもなく他人∕家族で、どうしようもなく姉弟で兄妹で。
だから、だからこそ。
二人は誓い合ったのだ。
「―――なぁ、約束しよう」
「―――ね、約束しましょう?」
「―――オレはもう」
「―――ワタシはもう」
「―――もう絶対に、誰かを好きになんてならない」
「―――もう絶対に、ワタシの好きを我慢しない」
指切りげんまん―――指切った。