深海で燃える愛、あるいは爆ぜるような恋   作: 燃える空の色

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3.友情の始まり、あるいは失恋のカウントダウン

 

 姉妹に言われるがまま、週末のまだ早い時間、少年――蓮は、遠路はるばる静岡にまでやってきていた。

 薄曇りの朝。駅前はまだ人影もまばらで、商店街のシャッターはほとんど降りたまま。都会に比べて静けさが肌に馴染む一方で、蓮の胸にはどうしようもない不安が渦巻いていた。

 

 

「……被身子め」

 

 憎たらしげに姉妹の名を口にし、蓮は小さく吐息をついた。

 蓮が爆発頭の彼との出会いを果たしたその日、被身子は無責任に「もう一度会えに行けばいい」などと笑った。まるでなんてことの無い、買い物のついでに立ち寄れと言わんばかりの軽さで。

 

 

 だが蓮にとって、それは冗談で済ませられる言葉ではなかった。


 あの日、路地裏で伸ばした手の温度。振り返った少年の鋭い眼差し。あの瞬間から、蓮の胸に灯ったものは消えずに燻り続けていた。

 ――けれど、どうすればいいのか。

 もう一度会って、何を言う? どうすればいい?
 ただの感謝か、それとも……。

 歩きながら蓮は何度も自問する。だが答えは出ない。出るはずもない。
 姉妹の言葉に押し出されるようにここまで来てしまったものの、蓮はただ霧の中を彷徨うような気持ちで足を動かしていた。

 そんなときだった。

 ふと住宅街を抜けた先、小さな公園の奥から――爆ぜるような音が響いた。


 空気を裂く衝撃と共に、淡い白煙が立ち昇る。蓮は息を呑み、自然と足がそちらへ向かう。

 火薬の破裂音に似た轟きと、眩い閃光。

 そこに居たのは、両腕から火花を散らす、彼の姿だった。


 誰もいない早朝の公園を、まるで自分の戦場のように駆け、爆ぜる炎で空気を裂いている。

 

「……っ」

 

 声にならない息が漏れた。


 一週間前に出会ったきり、再び目にしたその姿は――恐ろしくて、美しくて、目を離すことができなかった。

 彼は腕を振り抜き、掌から爆炎を放つ。


 その光は一瞬、暗い公園を真昼のように照らし出す。


 全身に走る衝撃波と、皮膚を舐めるような熱。


 それらすべてが、蓮の心臓を強く叩いた。

 

「……何してんだ、テメェ」

 

 爆ぜる音が止み、炎の残光が消えた頃。
 彼が振り返り、蓮を見据えた。


 額に浮かぶ汗、荒い呼吸。だがその瞳は獲物を射抜くように鋭い。

 低く、困惑を含んだ声音に、蓮の鼓動はひときわ大きく跳ねた。

 

「ひ、久しぶり……?」


「……テメェ、こんな朝っぱらから、なんでンな所にいやがんだ」

 

 問い詰められて、言葉が喉に詰まる。


 今どう答えても、きっと彼の目には不自然に写ってしまうだろう。


  とりあえずと、蓮の口は咄嗟の誤魔化しを並べ立てた。

 

「ボクはちょっと買い物に……キミは?」

「……見てわかンだろうが」

 

 そう言う彼の姿に、改めて目を向ける。

 冬の寒さを彷彿とさせない袖無しのタンクトップに、汗ばんだ肌。

 息は僅かに上がっていて、周囲の地面は凸凹と荒らされたような跡。

 

「……特訓?」

 

 予想を小さく口にすると、彼は苛立たしげな視線を蓮に向けた。

 暗に、分かったらさっさと帰れと伝えているような視線、しかしここで帰ったら本末転倒。きっと姉妹にも怒られてしまうだろう。

 蓮は咄嗟に、勇気をだして――、

 

「ちょっとだけ、見てってもいいかな?」

「……勝手にしろや」

 

 吐き捨てるような台詞、けれど拒絶の意思はなく。

 蓮はその言葉に甘えるように、公園に備え付けられたベンチに腰掛けた。

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