『ねぇ…起きて。』
………俺を呼ぶ声がする………誰だ…?
『ねぇ、起きて。』
再び聞こえる声。…聞いたことのない声だ………。うっすら目を開けるとそこには一人の女性がたっていた。
『ふふふふふ…。よろしくね、比企谷 八幡君。』
誰だ………
あなたは一体………………………
誰なんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピッ....ピッ....ピッ....ピッ....ピッ........
「........ん、んん........。」
規則的な電子音が、眠っている俺の耳を刺激する。最初は無視しようとした俺だったが、結局その音に起こされてしまう。
「....どこだここ........。」
寝起きでだるさの残る体にムチをうち、体を起こし周りを見渡すと、そこは見覚えのない部屋だった。
自分の周りにおいてある機械や、体についている電極から察するに、ここは....。
「病院....か....?なんで病院なんかに........。」
『八幡。』
そう考えたとき、俺は思い出す。あの夜のことを。
そうだ、あの夜俺は陽乃さんに襲われて....!
俺はばっと病院服をめくると陽乃さんに貫かれた腹を見る。
しかし、傷口は既に塞がっており、特に異常もない様子だった。
枕元に置いてあったスマホを手に取りーーーディスプレイはあの夜そうなったのか、ひび割れているーーー今日の日付を確認する。
しかし、まだあの夜から3日しかたっていないようだった。
....なんだ、この異様な回復力は....?それとも怪我ってこんなに簡単に治るもんだったか....?
感じる違和感なにか、なにかが....おかしい.......。
と、俺が自分の体の調子に疑問を抱いていると、ガラガラ、と病室のドアが開いた。
「比企谷君ー。起きてますかー?ってわっ!」
か....んごしか....?病室の扉が開かれ入って来たのは看護師だった。そして、その看護師が入るなり俺の姿をみて驚きの声をあげる。っておい。その反応は失礼ではないか....。
「ほんとに....おきてた....。」
だからおい、失礼だろう。
「え、ええっと、かん....」
「ち、ちょっと待っててくださいね!先生を!すぐに!呼んできますから!」
「え、えぇー........。」
そう言い、看護師は慌しく病室をあとにするのだった。なんなんだ....いったい....。俺は呆気にとられ暫くドアを見つめる。…まあ、待つしかないか。
「お…。」
と、そこで俺の目がベットの脇の机に置かれていた新聞紙を捉える。何よりも俺の目を引いたのはその見出しだ。これって…あの夜の事だよな。
「遺族の同意なしに臓器を移植…?」
この移植された臓器って…。
「比企谷さんー。はいりますねー?」
外から声が聞こえたと思うと、俺の返事も待たずにドアがガラガラ…と音を立て開かれる。ノックぐらいしましょうよ…あなたは平塚先生ですか。
そして、入ってきたのは看護師だけではなかった。
「失礼するよ、比企谷君。」
「え、あ、はい。」
看護師の後ろから入ってきた男性ーーー白衣を着ている事から医者だという事が分かる。おおよそ俺の手術を担当した執刀医といったところだろうかーーーは俺の顔を見るとニッコリと微笑むとだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ご飯、ここに置いときますね〜。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
俺の担当の看護師ーーー田口さんという名前しいーーーが、俺の前に料理を置く。
…あの後俺は、俺の手術の執刀医を担当した嘉納先生に説明をうけた。
嘉納先生によると、俺は臓器を移植する事でなんとか一命を取り留めることができたらしい。かなりギリギリの状況だったらしいが、そこから命を救ってくれた嘉納先生には、感謝してもしきれない。
....陽乃さんは........死んでしまった、らしい。俺の元へ救助が駆けつけた時には既に手遅れの状況だったそうだ。それを聞いて俺は喜ぶべきか、悲しむべきか分からずにいた。陽乃さんは確かに俺を襲った喰種だ。しかし、なにか引っかかる。考えてみれば、様々な疑問が浮かんでくる。
例えば、何故今まで普通に接してきていたのに、今になって、俺を襲ったのか。それに、陽乃さんはああ見えてほんとに雪乃の事を大切に思っていた。なのに、何故雪乃と仲のいい俺を襲ったのか。そもそも....、あの陽乃さんが何の事情もなく、こんなにリスクの高い事をするだろうか。あの日、俺が陽乃さんと一緒にいた事は、多くの人が目撃している。それなのに俺が死んだとあっては、陽乃さんが真っ先に疑われて然るべきだし、下手をすれば彼女が喰種だという事がバレてしまっていた可能性だってあるんだ。陽乃さんとしてはそんな事は避けたいはず....。なのに、何故俺を襲う事に思い至ったのか。
あの陽乃さんが、何の裏もなく、こんなにリスクの高い事をするはずがないんだ。きっとなにか、事情があるはず....。
もしかしたら....俺がそう思いたいだけなのかもしれないが。
「比企谷君....?食べないの?」
「あ、すいません。いただきます。」
田口さんにそう言われ、俺は考え事を中断する。 ....考えても分からないんだ....とにかく今は早く退院しなければ。そのためにも、しっかりと飯を食べなければならないのだが........。
「不味い............。」
そう、ご飯が不味いのだ。味噌汁はまるで機械油を飲んでいるみたいだし、魚は生臭く、肉は獣臭い。ご飯なんて、消しゴムを食べてるような気分になる。とてもじゃないが食えたもんじゃない。
...病院食って、こんなにまずかったっけ?いやいや、そんなわけがないだろう。だとすると、やはり事故の影響で、俺の味覚がおかしくなってしまったのだろうか。
「すいません、これ....変な味がしませんか?」
「えー?そうですか?」
俺が我慢できずに、そう尋ねると田口さんは俺から箸を奪い、俺のあっと言う声を無視しひょいっと魚を啄む。そして、うーんと吟味した後....
「別に普通ですけど....?」
「そう…ですか。」
そう感想を述べる。やっぱり....俺の味覚がおかしくなってるようだ。
「ご飯....今日も、さげますか?」
「....すいません、お願いします。」
そんな俺の様子を察して、田口さんが気を回してくれる。最初こそあれだったが、田口さんは何かと気を回してくれる、いい人だ。もっとも、昔の俺だったらコミュ障を発動して、まともに会話もできなかっただろうが。
「やっぱり、俺の味覚....おかしくなってるみたいです。」
「そうですか...、それじゃあ、嘉納先生に相談してみましょうか?」
「お願いできますか?」
「はいっ。お願いされました。」
そう言い田口さんはふふ、と笑うと病院食をもって、部屋を出る。これで現状が改善されるといいのだが....。
そんな時、俺の腹がググウ....となる。
「腹....減ったな。」
俺は空腹を紛らわすために、眠りへとつくのだった。心の中に得体のしれない不安を抱えつつ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「比企谷君!退院おめでとうございます!…もう怪我しちゃダメですよ?」
「田口さん....お世話になりました。ええ、気をつけます。あんな痛い思いはもう、ごめんなんで。」
あの夜から一週間....俺は無事に退院の日を迎えた。相変わらず異常な回復力には首を傾げるが....嘉納先生に聞いても田口さんに聞いても適当に茶を濁らすだけだったので、深くは考えない事にする。ほらあれだ、押してダメなら諦めろってやつだ。....そんな言葉ないけど。
「お兄ちゃ〜ん!」
「はちまん!」
田口さんに挨拶をし、病院から俺がでると、俺の事を待っていてくれたのか、小町と結衣が駆け寄ってくる。入院中はお見舞いが無かったから、田口さんや嘉納先生以外の人間と会うのは久々だ。....別に面会がなかったのは俺が未だにぼっちだからとか、そう言う事ではなく、病院側が俺との面会を謝絶していたからだ。
「おー、わざわざわるいな、小町。結衣。」
「わるいな、じゃないよ!お兄ちゃん!ホント心配したんだからね!手術したってきいて....東京に来ても面会謝絶って言われるし!お兄ちゃんが死んじゃったら小町....小町....!」
「わ、悪かったって、小町。でもほら、もうピンピンしてるから大丈夫だ。」
目に涙をためながら怒涛のごとく早口でまくし立てる小町に俺は慌ててそういい、頭を撫でてやる。
「ん........。今度からちゃんと連絡してよね。」
「そうだよ、ヒッキー!私も小町も....ゆきのんも心配してたんだから!」
「いや、携帯が壊れててよ....。そういえば、今日は雪乃は来てないのか?」
結衣の、雪乃の名前を出す前の僅かな間が気になり、俺はそう尋ねる。
「うん....。ゆきのん最近連絡がとれないんだ。メール送っても返信ないし、電話しても留守番サービスにかかるだけだし....。」
俺の問いかけに結衣は俯き気味でそう答えた。
そうか....雪乃んちは陽乃さんが死んだんだ....。何かとバタバタしているのだろう。
「そうか....。まあ、あいつも陽乃さんの事でいろいろとバタバタしてるんだろ。」
「陽乃さん....?陽乃さんがどうかしたの?ヒッキー?」
「え....?いや、だって陽乃さんは....」
俺は思わず言葉を詰まらせる。結衣は陽乃さんが死んだことを知らない....?雪乃がまだ話ていないのか?だとすれば俺から言うのはあまり良くないだろう。
それに....陽乃さんの事を話すには、彼女が喰種だった事も伝えなければならない。それは、俺の中の何かが拒んでいた。
「お兄ちゃん....?」
「いや....なんでもない。まあ、あいつもそんな時くらいあるさ。その内連絡くらい、かえってくるだろ。」
「うん....。うんっ!そうだよね!ゆきのんがこういうの、疎かにする筈がないもん!」
結衣はそう言い、胸の前でぐっと手を握る。
....しかし、二人が陽乃さんが死んだ事を知らないのはなんでだ....?俺が怪我をしたのは知っていて、近くで死んだ陽乃さんの事はしらない....?....いや、さっきも考えた通り、雪ノ下の力が働いてるのだろう。だとすればこれ以上俺が何かを考えても、分かることは少ない。
そう俺は結論づけ、その事については深くは考えないことにする。
「よーし!それじゃあ、お兄ちゃんも無事に退院した事だし!ぱーっとお祝いしちゃいますかっ!」
「うん!いいねそれ!どこ行くっ?ヒッキーは行きたいとこある?」
「あー、俺....さ、今味覚が変なことなっててよ、この干し肉以外なんにも食べられねえんだわ。」
そう言い、俺は袋に入った干し肉をみせる。
ーーー入院中結局俺はご飯を食べる事ができずにいた。原因はこの味覚だ。俺の味覚は嘉納先生があれこれ原因を考えてくれたが、原因は分からずじまいで、一向に治らないままだった。
結果として、俺は必要な栄養は点滴からとり、腹は嘉納先生がくれた干し肉で補給満たす事となったのだ。この干し肉、何か特別な肉から作られてるらしく、この干し肉でなら俺は普通に食べる事が出来たのだ。....なにかきな臭さも感じたが、背に腹は変えられず、この干し肉で、原因がわかるまでは腹を満たす事にした。 乾物だから腹持ちがいいのか、ふた切れ程食べれば1日中何も食べずに過ごす事が出来た。
以上干し肉についての説明であったーーー
「そっか....じゃあ....「あー。」」
「だから....よ、飯食う所とかじゃなくて、そのカラオケとか....そこら辺ならいいぞ。」
「そっか....そっか!じゃあ、カラオケ!いこーっ!」
一度は残念そうにしてた結衣だが、俺がそう言ってやるとぱーっと顔を輝かせ、喜びジャンプする。 相変わらず、天真爛漫というか、感情の分かり易い奴だ。雰囲気は大人びても、こういうところは変わらない....。
結衣を見ながら俺がそんなことを考えていると、ふと、横から視線を感じ、そっちを向く。すると、そこにはニヤついた表情を浮かべた小町がいた。
「へぇ〜〜〜。ほんと、変わったよね、お兄ちゃん。」
「........いってろ。」
俺は小町の指摘に熱くなる顔を隠そうと、そっぽを向く。
「でも....。どんなに変わってもお兄ちゃんは小町の大切なお兄ちゃんだからね....。だからもう、心配させないでよ....?」
「ああ....。」
「ふふ、今の小町的にポイント高い!かな?」
そう言い微笑む小町は、昔と変わらない。変わらないが....どこか大人びて見えた。
「おーい!小町ちゃん!はちまーん!はやくいこーよー!」
「はーい!今行きますねー!いこっ、お兄ちゃん!」
「........ああ。」
そして、俺達は手を繋ぎ、いつの間にかはるか前方にいた結衣のもとに、駆けていくのだった。
というわけで、第四話でした。
なにやら八幡のようすがおかしいですね。まあ、喰種になってるからですけどね。隠しても意味ないんでさいっちゃいますけど。笑
しかし、眠る八幡へ話しかけた女性…一体誰なんでしょうね?
そして田口さんはこんなに可愛いくしてよかったのか…。
ご愛読して頂いてる方、お気に入り登録して頂いてる方、ほんとにありがとうございます。皆さんのご期待にそえるように頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします!