はい!すいませんでした!
――― 三月 卒業式 ―――
三月上旬、俺は今日総武高を卒業の日を迎えた。
といっても、既に卒業式は終えているし、たった今最後のHRも終えたのだが。
HRが終ると同時に友達の元へ行き、別れを惜しんでいる連中を脇に見つつ俺はそそくさと教室を後にする。平塚先生に挨拶をしていこうかとも思ったが、連中に囲まれている姿を見て、どうせ後でまた会うからいいか。と、判断する。決してあの人だかりをかき分けて行く度胸がなかったとか、そんな事はない。むしろ俺があの場に近づけば、モーゼの海渡よろしく全員が俺を避けることだろう。…嫌われすぎだろ……俺。
そうして誰からも声を掛けられることなく、教室を出た俺は迷わず廊下を歩きだす。目的地は考える前に既に決まっていた。
廊下を歩いていると至る所に友との別れを惜しみ泣いている者や、これが最後だといわんばかりに騒いでいる者の姿があった。その中には知っている顔も見かけたが、構わず俺は歩き続ける。そんな連中も、目的地に近づくにつれだんだんと少なくなっていったが、俺は足を止めない。むしろ俺の歩くスピードはどんどんと上がっていく。早くしないと、あいつを待たせる気がした。きっと…あいつはもう俺たちを待っているだろうから。あの頃と同じように。
教室を出て歩き続けること数分。目的の場所、奉仕部元部室に到着した俺はその扉の前で立ち止まり、深呼吸する。初めて来たときは見る間もなかった扉。それから意識してみることもなかった扉。今になって改めてみてみると、これまで気が付かなかった装飾や傷があることに気が付く。
「今日で最後か…。」
そう、俺がここへこうして足を運ぶのは今日が最後なのだ。来ようと思えばいつでも来られるのだろう。しかし、いつか雪乃が言っていたように、誰かに会うためだとかそういったことの為にここへ来ることはもうないだろう。
「………。」
そう考えると扉を開けることは躊躇われた。この扉を開ければ終ってしまう。俺の高校生活が、俺の………。
「………らしくねえな。」
そんな自分らしくもない逡巡に俺は苦笑すると、遂に意を決しドアノブへと手をかける。ギギギ…と重い音をたてながら扉があくと、俺の頬を爽やかな風がなぜる。そして、その先には木漏れ日のさす教室の中で静かに佇む雪乃の後姿があった。
まるで絵画のようだ。と、いつかとまったく変わらない感想を抱く俺。
「…うっす。」
声をかけることでその風景を壊すことに躊躇いを感じたが、いつまでもぼうっとしていたら何を言われるか分かったもんじゃないので、俺はいつものように声をかける。すると、雪乃はこちらを振り返る。その時、風になびく髪は以前の様に長くはなく、短く切り揃えられていた。俺たちが―――俺を含め卒業生のことだ―――雪乃が髪を短く切っていることを知ったのは、雪乃が壇上に上がり答辞を述べた時だった。それまでトレードマークだった黒く長い髪を雪乃が切ってきたことは、少なからず俺たちに衝撃を与えた。しかし、髪を切った雪乃はすごく大人びていて、凛としたその姿は、俺たちにこれから迎える未来への確かな実感と希望を抱かせた。結依なんて「ゆぎのぉぉぉぉぉぉぉおん」なんて言いながら号泣していた。…あれには正直ドンびいたぞ…。かくいう俺も、胸からこみあげてくるものは確かにあったのだが。
そして、今こうして目の前にその姿を見ると、誰かわからなくなるほどに雪乃が大人びて見えて………。
「…さっきから何をジロジロと見ているのかしら。そんないやらしい目で見ないでもらいたいのだけれど。」
あー…。うん、こいつ雪乃だわ。見た目変わってもこの毒舌は変わんねえわ、なんか逆に安心しちまったぜ…。
「やらしい目なんかで見てねーよ。自意識過剰か。…ハア、なんつーか。いろいろ台無しだぜ…。」
「なんのことかしら…。それで、いつまでそこの立っているつもり?入口に立っていては通行の邪魔でしょう。早く中に入りなさい、棒立ちが谷君。」
「誰だよそれ…谷しかあってねえよ。…てかここに来るやつなんてそうそういねえだろ。」
そう文句を言いつつも、俺は教室の中へと入る。
中を見渡すと、部室はもう俺たちが奉仕部として活動していた時の面影は残していなかった。部室に会った雪乃のティーカップやポット、アンティーク類のものも片付けられているし、結依の持ち込んだ私物も一つも残されていない。それどころか、机や椅子すらも既に片づけられている。部室はまさにもぬけの殻の状態だった。
「ふぅ…。」
机と椅子がなくなったことで、どこにいればいいか悩んだ俺は窓際に背もたれることにする。外には満開に咲いた桜が、風で散るのが見えた。
「結依と一緒にはこなかったのね。」
雪乃が俺の横に移動しつつそう尋ねてくる。
「あいつは三浦とか葉山とかそこら辺の奴とお別れがあるからな。それが終ったらくるだろ。」
「そう…。あなたはよかったの?お別れをしなくて。」
「ばかいえ、俺にお別れする奴なんていねーよ。むしろ教室を出る俺を止める奴がいなかったまである。」
「それはただ、声をかける間もなくあなたが出て行っただけなのではないかしら…。」
雪乃はため息交じりにそう言う。つってもなー、あのまま教室に俺が残っててもやはり声を掛けてくる奴なんていなかったと思うが。なんであいつまだいんの?的な目で見られるのがオチだっただろ。戸塚とは別のクラスになっちまったしなぁ…。あんときゃもう学校に行くのをやめようかと真剣に悩んだぜ…。ちなみに葉山グループはちゃっかり全員おんなじクラスになってたりする…戸辺以外。クラス発表の時、戸塚と同じクラスになれなっかった事であからさまに沈んでいる俺の横で「えぇぇぇぇぇえ!?まじありえねーっしょ!」と叫ぶ声は今でも鮮明に思い出せる。
「そういやよ、雪乃。お前なんで髪切ったの?」
しばらく沈黙が続いたのち、俺はおそらく全校生徒が気になっていたであろうことを雪乃に尋ねる。
「似合ってないかしら…。」
「いや、似合ってはいるんだが…。唐突だったからな、何かあったのかと思ってよ。」
「そ、そう…ありがとう…。いえ別に大きな理由があるわけじゃないのよ。いい区切りだと思ったし、一種の願掛けというか、これからやることへの決意が揺らがないように何か形にしておきたかったのよ。」
「そうか…。大丈夫なのか?」
「ええ、心配には及ばないわ。姉さんもいるし、それに…、何かあればあなたたちに遠慮なく頼らせてもらうから。」
「そうか…。ならいいんだ。…ああ、そうだ、雪乃。」
「何かしら、はち君。」
「卒業おめでとう。」
俺がそういうと雪乃は一瞬面食らったような顔をし、
「ありがとう。」
そういい微笑むのだった。
そうして話に区切りがついたとき、廊下からかすかにパタパタ…、と誰かが走る音が聞こえてくる。その音はだんだんとこちらに近づいてきている様だ…。
俺と雪乃は顔を見合わせ、これからここへ来るであろう人物を想像し苦笑するのだった。
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ピピピ…。ピピピ…。ピピピ…。
「んん…。んう……。」
午前二時、俺は自分のセットした目覚まし時計の音に目を覚ます。コーヒーを飲んだ事で久々にぐっすり眠れた俺はまだ眠たい体に鞭を打ちベットから起き上がる。なんだかまた懐かしい夢を見た気がする。胸の中には懐かしさと何かが入り混じったおかしな感情がのこっていた。
ぐうぅぅぅぅぅう。
そこで俺の腹が鳴る。…やはりコーヒーじゃ根本的解決にはならないか。空腹をごまかすことはできても、満たすことはできない。ただ英気を養うことはできるのでそれだけましといえるが。
「何とかしねえとな……。」
できるだけ人間の肉を食わなくていい方向を模索したいが、最後にはその道も覚悟しなければ…。
「はぁ…、どうすっかな。」
ともかく今は、昨日のみきってしまったコーヒーを買いに行こう。
そう考え俺は夜の街へと繰り出すのだった。
その日の夕方、時計が四時を回ったことを確認した俺は、軽い身支度をし家を出る準備をしていた。理由は喫茶店あんていくへと向かうためだ。…昨日店で会計をする際、財布を開くと一枚のメモがはさまっていることに気が付いた。そこには一言、
〈お腹がすいたらあんていくへ〉
と書かれていた。
何か怪しいものも感じたが…、しかし腹が減っているのも事実で、背に腹は代えられず、俺はあんていくへ向かうことにした。
鍵を閉め家を出た俺はあんていくへと向かう。何か忘れている気がするが……。忘れるくらいだ、きっと大したことではないのだろう。
そう決めつけ、俺は家を後にするのだった。
この時もしも無理にでも思い出していたなら、あんな最悪の結果にはならなかったのかもしれない。俺は後にこの事を深く後悔するのだった。
お久しぶりです。皆さん……。
さてとりあえずは、
遅れて申し訳ありませんでした!
理由はですね…高校生活最後の冬休みを謳歌させていただいておりました……。
しかし!決してサボっていたわけではありません!
今回この作品をプロットから練り直しまして…というか作ってなかったのですが…。作りました。はい。
と、いうわけで。
一度作ったプロットに沿って第一話から順次編集しなおしていきたいと思います。
建て直したりなどはしないのでご安心を。
もしも大きな変更点などがあれば活動報告なり次話のあとがきなりでご報告いたしますのでよろしくお願いいたします。
ちなみにサブタイは今回よりつけないことにいたしました。決してめんどくさくなったとか、ネタが尽きたとかそんなことではありませんよ?ええ、まったく。
と、いうわけで皆さん!東京喰種:八をこれからもよろしくお願いいたします!