堕ちたる星   作:なばかりのはばかり

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 時は平安、居は不明。

 貴族は肥え、民が飢える土地に腹を膨らませた女がひとり。

 夫は亡く、親族もおらず、互助の友もいない。

 膨らみ続ける腹に栄養を取られ、満たされない腹を抱えて木の皮をかじるような毎日。

 いっそ死ねればと考えるも、今から産まれてくる子を思うと自ら命を絶つ決断は選べなかった。

 一度は首筋に刃を当てたこともあったが、腹を内から蹴る脈動がその手を止めた。

 

 泥の中を泳ぐような不安が終わりを迎えた。

 体にまとわり付いていた重みが一気に開放される。

 

 破水だ。

 

 子が生まれる。

 

 顔をのぞかせる我が子よりも先に己がうめき声をあげる。

 

 全身の穴という穴から液体が漏れ出る。

 まともな水も食料も摂取していなかったというのに、どこからともなくありとあらゆる物があふれ出る。声を聞きつけた近隣の者が血相を変えて産婆を呼びに駆けた。

 

 産婆、とは言っても時代が時代。まともな医術を修めた者ではない。

 経験と伝承による出産指南を行う呪い師のようなもの。

 

 そのような行いを生業としている女が着いた頃には赤子の頭が股の間から覗いていた。

 

 女のうめき声は今や悲鳴とも言えるほどに悲痛なものだった。

 産婆はその理由にすぐさま気づいた。

 

 頭が異様なまでに大きく、歪な、骨のようなものが女の股を裂いている。

 

 ただの出産とは訳が違う。

 すぐさまに手を貸さねば母子ともに死んでしまう。

 

 母親に励ましと労いの声をかけながら、天井の梁に縄を放り掛け、縛る。それを握って力を込めるよう指示を出す。

 いきむにしても何か掴める物があるだけで勝手が違う。

 

 湯を沸かせるだけ沸かし、できるだけ綺麗な布を近隣の住民に用意しさせた。

 安産に効果があるといわれる呪文を書いたお札を家中に張り、女の股の前へと座す。

 

 赤子の頭はもう少しで目が見えてるだろうところまで出てきていたが、そこからなかなか動く気配がない。

 

 右目のところだ。

 

 そこに妙な出っ張りがあって、それが出産の邪魔になっている。

 触れるとそれは固く、とても皮の様相ではなかった。

 皮に強く引っ付いている、というよりも、皮の下から生えているようなそれを、産婆は剥がすことを諦めて女の股の方を引っ張ることで通してしまおうと考えた。

 けれど、赤子の頭が大きく、もとより広がりきっている女の体をどうすることもできず、困り果てているとふいに産婆の顔に生暖かい液体がかかる。

 

 赤く、鉄臭いそれは紛れもない血。

 

 女がいきむあまり股が裂けてしまったのかと思ったが、その血は女の腹を両断する傷口から噴き上がっていた。

 股から腹にかけて、刃物で切り開いたかのような一本の筋。その中心には産声をあげる赤子。されど、その姿は異形異質。一目で忌子とわかるなりだった。

 

 

 人一倍大きな産声は頭部の口とは別に腹が割れてできた口からも漏れていた。

 

 ばたばたと動く両手は右にも左にも二本あり、生まれて初めて見る光にまばゆそうに閉じる瞳もまた、左右に二つずつあった。

 

 

 人々はこの者を畏怖の念を込めてこう呼んだ。

 

 

「両面宿儺」

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