銀河英雄伝説 ヤン艦隊日誌追補編 未来へのリンク   作:白詰草

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Q 宇宙最強の台詞とは?


第4話 So What?

 ガイエスブルク要塞の襲来を退けたものの、風邪による体調不良を訴えて、司令官のヤン・ウェンリーは療養と称して引っ込んでしまった。戦勝祝賀行事は主賓を欠いた状況で行われたが、出席したところでスピーチに費やす時間は二秒間である。

 

 キャゼルヌ事務監が代読したメッセージのほうが、普段より長いくらいであった。死者への追悼と、留守中の健闘に感謝をし、美辞麗句が削除された真情の篭ったものだった。式典の参加者は死者への追悼ののち、生を謳歌した。死者の分まで精一杯楽しむのも、生者の務めであるのだ。だが、祝祭の時間は短い。

 

 それが終わってしまうと、イゼルローン要塞には厳しい後始末が残された。大きく分けるなら、駐留艦隊と要塞ハードウェアと人的被害の三点。

 

 艦隊戦で、破損した艦艇の修理。出動した艦艇の点検整備。周辺の宙域に散らばる、敵味方の残骸処理。これを片付けねば、演習や実戦どころか、物資の輸送にも差し支える。またはデブリとなって、イゼルローンをさらに傷つける恐れもある。

 

 ガイエスブルク要塞の主砲は、出力七億四千万メガワットの硬X線ビーム砲である。これには、イゼルローンの中和磁場も、四層に及ぶ堅牢な外壁も物の役に立たなかった。

 

 そして、要塞主砲の爪痕よりも大物がある。ミュラー提督率いる艦隊から受けた、レーザー水爆ミサイルの直撃。直径二キロものクレーターが穿(うが)たれ、外縁部はリアス式海岸を思わせる複雑な形状の損傷となっている。

 

 これらの直撃を受けたブロックの兵員は、主に熱と爆発、そして放射線により死亡。生存者を救出直後に周辺エリアを含めて封鎖、隔壁により遮断して空調を停止。要塞外郭のおかげで宇宙空間ほどではないが、零下数十度まで室温が下降し、冷凍庫状態となっているはずだ。彼らの遺体を収容するのは、残留放射能が漸減するのを待つしかない。

 

 しかし、一万人に迫る犠牲者であり、高濃度放射線対応の装備の稼働限界も2時間程度だ。作業が難航を極めるだろうことは、想像力が1グラムでもあればわかる。そして、遺体自体が高レベルの放射線に汚染されている。火葬も埋葬もできない。最終的には、宇宙葬にするしかないのだった。

 

 サイン製造機という通常業務に戻ったヤンは、キャゼルヌの言うがままにはいはいと決裁した。それも多くは要塞事務監に任せきり。給料泥棒ぶりに、いつもはお小言を言う事務の達人が、特に何も言ってこない。

 

「珍しいな……」

 

 ユリアンの紅茶を味わいながら、ヤンは首を捻った。現在の状況の改善に、ヤンが出来ることはない。

せいぜい、責任は取るからよきに計らってくれと了承することだけだった。艦艇の修理や残骸処理は想像がつかなくはないが、直径2キロのクレーターの工事の設計書や仕様書、積算の数字を出されても見当もつかない。キャゼルヌのお眼鏡に適ったならば、進めてもらうしかないのだった。

 

 死者の認定と昇進、遺族年金等の給付は、人事管理部にとっては定型業務。要塞内部の戦死者の収容は、放射能が減少するまで時期を待つことしかできない。こちらも優先順位を割りふって、ゴーサインを出すしかない。戦争の名人は、事務の達人の百分の一くらいしか日常業務には役立たないのである。

 

 普段は、それに対してちくりと毒舌を言われるのだが。本当に珍しいこともあるものだ。ヤンは、艦艇の修理や点検で、同じく暇そうな後輩に疑問を述べてみた。普段は宙港の士官食堂を利用するアッテンボローだが、久々に司令部のほうを利用していたので。

 

 ここには、将官用に個室も用意されている。そちらに席を移してのことだ。下っ端にとって、食事の席にまで上役がいたらうっとおしい。そのために、士官専用という形で隔離する。なかでも将官は、最大級の目の上のたんこぶだ。特別扱いというのは、排除の一形態でもあるのだった。

 

 その一室に、同盟軍を代表する若手提督が二人。並べられた紅茶が二杯。先輩はコーヒーの匂いも嫌うので、後輩の方が譲ったのだ。その後輩に、ヤンは思っていたことを切り出した。

 

「ガイエスブルクの襲来の後始末は、今まで以上に大変だと思うんだよ。

 いつもだったら、サインだけしてる私に、文句の五つや六つ言ってくるだろ。

 今回の留守中は特に大変だったから、余計とね。どうしたのかな、キャゼルヌ先輩」

 

「キャゼルヌ先輩は、本当に後方任務中心だったでしょう。

 やっぱり、今回の襲来は相当にこたえたんだと思いますよ。

 主砲の応酬ごとに、双方数千人単位の戦死者が積み上げられるんですからね。

 やっぱり、思うところはあるでしょうね」

 

 ヤンは、ほろ苦い微笑で肩を竦めた。戦艦乗りの感覚は確かにおかしいのだろう。戦死者が一万人なら要塞兵員の0.5パーセント、十万人でも5パーセント。生還確率的には上々なのだ。彼らの家族たちの嘆きを忘れることはできない。だが囚われていては司令官はできない。名将智将と呼ばれたところで、軍人はろくでなしがやる商売なのだ。

 

「あれはどうしようもなかったよ。度肝を抜かれる方法だったけれど、

 戦略的には意義がないし、戦術的には明らかにまずい戦いだった。

 でも、最悪よりは随分ましだよ。

 私だったら、小惑星にでもワープエンジンをくっつけて、最初からこっちにぶつける。

 そして、新しい要塞を持ってきて、ここに据え直す。

 その方法を取られたらどうしようもなかった。その幸運には感謝してるよ」

 

 レダⅡ号の中で副官にも披露した自論を、今度はアッテンボローに話す。そばかすの青年は、鉄灰色の頭をかきながら、恐るべき先輩を見やった。ケンプと名乗った司令官の苦し紛れの策を、最初にやると言っているのだ。一ダースの攻撃衛星を、同数の氷の船で打ち砕いた彼なら、むしろ当初から念頭にあったのだろう。あの混乱の状況で、すかさず弱点への攻撃指示を出してくるというのはそういうことだ。

 

「じゃあ、第七次攻略戦にはその案もあったんですか」

 

「ああ。だが、なんで同盟がここを手に入れようとしてたか考えてみてくれ。

 要塞として、食糧工場や兵器廠としての魅力があったからさ。

 壊してしまうのは簡単だがもったいない。

 無傷で手に入れないと講和の取引材料にもできないよ。

 金の卵を産むガチョウを手に入れようとして、ひき肉にするのは意味がないだろう」

 

 アッテンボローは乾いた笑い声を上げ、ようやっと相槌を打った。

 

「あ、ああ、まあそうですよね」

 

「でも、帝国にはもうその必要はない。

 門閥貴族に分散していた権力と財力を、ローエングラム公が手中にしたからね。

 あの要塞も、もともとは大貴族の所有物だったそうだ。

 技術は凄かったが、発想が普通で助かった。

 金銭(かね)があるなら、イゼルローンもああいう風にしたいところだけれどね」

 

「先輩の発想が普通じゃないんですよ。お願いだからいい加減自覚してください」

 

 後輩は嘆いた。この人との付き合いもそろそろ13年になろうとしているが、温和で大人しげなくせに根っこに劇薬が潜んでいる。彼の匙加減で、スパイスにも猛毒にもなるのだった。

 

「なんだ、失礼な。考えるのと実行するのは全然違うじゃないか。

 艦隊戦の行動限界はおおむね二週間といったところだが、

 相手にも要塞があったから、こんなに長期の会戦になったんだ。

 戦史上でも滅多にないことなんだよ。みんな、よく頑張ってくれた。

 だから、キャゼルヌ先輩が負い目に感じる必要なんてないんだが」

 

 アッテンボローは悄然と項垂れた。

 

「鈍いなぁ、もう。キャゼルヌ先輩が一番堪えているのは、ヤン先輩に対してですよ」

 

 指摘された方は、黒い目を丸く見開いた。

 

「は? 私にかい。そりゃまたどうして」

 

「司令官の代理なんて、こりごりだって言っていましたよ」

 

 ごもっともな言い分に、ヤンは黒髪を大雑把にかき混ぜた。査問会の嫌みに反発し、それ以来散髪を怠っているせいで、かなり長めになっている。軍人らしさの欠片もない。

 

「そりゃまあ、私も悪いとは思ってるよ。

 要塞司令官とは名ばかりで、留守ばっかりしているからね」

 

「違いますよ。ヤン先輩が、いままでに何度も矢面に立ってきた、

 その苦労の何十分の一かをようやく思い知ったってこぼしてましたよ。

 艦隊司令官の適性者が、150万分の一だということが改めてわかった。

 俺には無理だって。あの神経が特殊鋼ワイヤーのザイルみたいな人がですよ」

 

「やれやれ、おまえさん、そこまで言うか。

 今回は私なんて大したことはしていないのに、そんなに買い被ってもなんにも出ないぞ」

 

「そうですかね」

 

「そうだよ。みんな一丸となって抗戦したからこそ、焦って自滅したようなものさ。

 グエン提督とアラルコン提督を破ったのは、帝国の双璧の艦隊だった。

 主力中の主力が、帝都から六千五百光年も離れたところに、

 タイミングよくうろうろしているかい?」

 

 ヤンの示唆に、アッテンボローは肩を竦めた。

 

「ありえないですね。攻略軍への援軍だったわけだ。

 危ないところだったな。先輩の留守に、帝国の双璧じゃえらいことになってた」

 

 うそ寒い表情になった後輩に、ヤンは自身の仮説を披露することにした。

 

「だがね、私が思うに、帝国の司令官の焦りの原因はそれじゃないかな。

 我々にではなく、自身の功に対してだ。

 帝国の内戦の勝者は無論ローエングラム公だった。

 迅速な圧勝だったが、部下らにとっては問題もある」

 

 アッテンボローは憮然とした。

 

「どんな問題だっていうんですか。こっちまでさんざん引っ掻きまわしておいて」

 

「手柄を立てそこねた者にとって、出世に段差がついたということでもあるんだよ。

 一番手柄は亡くなったキルヒアイス元帥だが、同率の二番手がその二人の上級大将。

 部下の間に出世の段差ができた、それを埋めるための出兵ではないかと、

 メルカッツ提督がおっしゃっていた。私も一部は同感だね」

 

「はぁ!? 冗談じゃない。本当だとしたら、迷惑千万ですよ」

 

 色合いの異なる灰色の眉と眼を吊り上げる後輩に、ヤンは困った顔になった。

 

「私に言われても困るなあ。でも、今回はそのちぐはぐさに救われた。

 無論、私がいなくたって勝っていたと思うよ」

 

「無理ですよ。ヤン先輩でなけりゃ、あんなでかぶつ(・・・・)、どう始末できました?」

 

 学生のころから歯がゆいのだが、この先輩は自己評価が低いのだ。歴史好きで、いろいろな人物のことを学んだせいかどうかは定かではないが。

 

「そりゃ多分、あっちが帰還したんじゃないか?

 だったら、後始末が楽だったのになあ」

 

「そうとは限りませんよ。

 援軍に名将二人、(かさ)にかかって攻めてきたら負けていたのはこっちです」

 

「でも、ガイエスブルク要塞はイゼルローンより小さい。

 最初の一個艦隊に上乗せして、さらに二個艦隊の収容と補給はできないよ。

 そうなると行動限界が通常の艦隊戦なみに下降する。

 もうひとつ、彼我の間に自軍が四万隻もいると、あちらの主砲はそうそう使えなくなる。

 だが、こっちは駐留艦隊を引っ込めて、主砲を撃てる。第6次までの再現だよ」

 

 膠着状態となった時に、あの見事な退却戦を演じたミッターマイヤー、ロイエンタールの両提督はどう判断するだろうか。攻略軍の司令官のカール・グスタフ・ケンプは大将、援軍の二人は上級大将だ。やはり、上位者の判断を容れなくてはならないだろう。

 

 無理な攻略に拘泥せず、きれいに退いた可能性が高い。むしろ、そうするための人選ではなかろうか。双璧の判断ならば、ローエングラム公も(ヤー)とするだろうし、国内にも名分が立つ。ヤンはそう付け加えて、消沈した表情で溜息をついた。

 

 アッテンボローはヤンの分析に唸らされた。やはり本質的には戦略家であり、参謀なのだ。だが、ケンプらと一月近く矛を交えた者としては、素直に頷きがたい。

 

「ですがね、あっちの司令官は大分ねちっこい奴でしたよ。いかにも頑固そうなおっさんでね。

 援軍の名将にいいところ見せようと、ムキになったと思いますよ」

 

「格好をつけたがったら、要塞をぶつける策にはでなかったかもな。

 まあ、歴史のIFを数えたって不毛な話なんだが、グエン提督らの戦死は残念だよ。

 残骸になってしまったあの要塞と艦隊にも、何百万人が乗っていたことか。

 なあアッテンボロー、社会的、組織的な役割において、

 その人物でなくてはできないことはほとんどない。

 ローエングラム公のようなごく一部の例外を除いてね」

 

 そういう人間が英雄と呼ばれる。だが、民主共和制は、英雄への依存を否定した政治形態だ。ルドルフ・ゴールデンバウムを独裁者にしたのは、民衆が彼に依存したことだ。幼かったヤンの疑問に、父はそう答えた。以来、ヤンも折にふれて思い出し、考え続けている。

 

「その人物でなくてはならないのは、『彼』を取り巻く人々に対してだと思うよ。

 どんな平凡な人間でも、その人の代わりはいない。

 たとえローエングラム公のような美貌の天才でも、代わりにはなれない。

 階級も武勲も関係ない、誰かにとって唯一の存在なんだから」

 

 黒い瞳が、アッテンボローをではないものを見詰めていた。ここではないどこか、今ではないいつかを。茫洋と遠いあの表情だった。彼は声を励まして、ことさら反骨的に言い返す。

 

「ですが先輩、かといって俺たちがやられてやる義理もないですよ」

 

「アッテンボロー、それは居直り強盗の台詞だよ」

 

「それがどうしました?」

 

 自称宇宙最強の台詞で切り返す。

 

「たしかにそうだ、私も同感だよ。戦死した同盟軍の将兵には責任を感じるが、

 一方で、おまえさんやキャゼルヌ先輩、ユリアンたちが無事でよかったと思っている。

 大きな声では言えないがね」

 

「それは俺もですよ。先輩が無事に戻ってきてくれてよかった」

 

 まだ顔色が青白いし、穏やかな声にも掠れが残っていたが。

 

「あんな代物が襲ってきたら、帰ってくるしかないだろう。

 私の家があって、家族と友人達がいるんだから」

 

 叩きつけるつもりで辞表の用意をしていたことは、ヤンの胸の内に秘されている。何十年かのち、今より穏やかになった時代に笑い話として打ち明けるべきだろうから。

 

「遠いところでその全部を喪うのは、人生に一回で充分だ」

 

 ぽつりとした呟きに、士官学校からの後輩は痛ましい思いになった。エル・ファシルの脱出行の後だった。エコニアから帰って来た彼に、父と進学で揉めて以来、帰宅すれば喧嘩をする仲だと言った時に、『墓石に不平を鳴らすしかない』と応じられたのは。

 

 黙り込んでしまった後輩に、黒髪の先輩は苦笑を漏らした。

 

「なんだ、アッテンボロー。そんな顔をするなよ。

 今度はそんなことにはならなかった。それがすべてだよ。

 そんな『もしも』にならないよう、留守のみんなが持てる力を出した。

 だから今があるんじゃないか。過去ばかりが歴史じゃない。

 現在を積み上げて、未来に至るから、今は過去になり歴史となって行くんだから」

 

 停滞していた帝国と同盟の関係が、奔流となって新たな歴史の大海に注がれようとしている。人は、川面の木の葉のように翻弄されるかもしれない。だが、足掻いて、抗って、逆らえば、新たな岸辺で芽吹き、根を下ろすものがいるだろう。

 

「先輩が歴史書をものするというなら、俺は歴史の証人になるとしますか」

 

 後輩の未来図に、ヤンはふと思いつくことがあった。

 

「そうだ、アッテンボロー、おまえも来年は三十だろう」

 

 この指摘を受けたほうは、今までの会話の中で最大級の渋面を作った。

 

「そ、れ、が、どうしましたっ!?」

 

 まったく悪気なく言ったヤンは、後輩の剣幕に口ごもりつつ呟いた。

 

「いや、おまえも退役者年金の受給対象になるんだなってことなんだが……。

 年金で準備して、本来の志望の道を歩むのもいいんじゃないか。

 ジャーナリストになりたかったんだろ。人類史上最強の武器の遣い手に」

 

 アッテンボローの剣幕は、速やかに軟化した。記憶力に非常にむらのあるヤンが、心に留めていてくれたとは。

 

「覚えていてくれたんですか」

 

「親の稼業を継ぎたいなんて羨ましいよ。その点、私は親不孝者さ。

 でも、あの子は親不孝になってくれればよかったのにな」

 

 亜麻色の髪の被保護者の志望に、ずっと保護者は反対していた。当の本人が、その仕事に就いていて若くして栄達しているのだったが。だが、最終的にヤンは少年の意志を尊重した。

 

「ついにOKしたんですね」

 

「軍人なんて、ろくな職業じゃないんだからって何度も言ったんだがね。

 だが、メルカッツ提督がおっしゃるように、

 ユリアンが望むなら、その選択を阻む権利は誰にもないんだし。

 それにさ、職業差別も憲章に違反するんだよなあ」

 

「はあ、あの客員提督(ゲストアドミラル)どのがねぇ……」

 

 貴族階級の帝国軍人、さぞやガチガチの専制主義者だと思っていたが。

 

「うん、意外だったよ。だが、これは自由惑星同盟の国是だ。

 自分の選択に自分が責任を持つことは」

 

 アッテンボローも頷く。まだすこし掠れた声が続いた。

 

「誰にも邪魔をすることはできないし、誰のせいにもできない。

 個人の罪は、個人にのみ帰属する」

 

 そこに潜む意味の厳しさ。アッテンボローは息を呑む思いで、黒い髪の上官を見詰めた。同盟軍史上最高の智将を。味方の死と、それ以上の敵の死に対する思いであったろう。だがそれは、ほんの一瞬だけ姿を現した、名将の思考の切っ先。

 

 青灰色の視線の中で、ヤンはいつもの眠たげな様子を取り戻す。

 

「でも、それが民主主義のいいところだと思う。

 自分が自分を背負い、その人間の集合体であるところがね。

 だから、失敗もやり直しも許される。

 他の道を選び直すこともできる。生きている限りね」

 

「さすが、31歳は言うことが違いますね」

 

 先輩から垣間見えたものに怯んだことを隠して、過ぎた誕生日のことを揶揄してやる。さっきのお返しだ。だが、アッテンボローの反撃は報われなかった。

 

「それがどうしたんだい。二十代のひよっ子にはわからないと思うね」

 

 まだまだこの人には敵わない。そう思うアッテンボローだった。




A 「それがどうした」

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