……私のミスでした。私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。
結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。
……今更図々しいですが、お願いします。
水篠先生、きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。
ですから……大事なのは経験ではなく、選択……あなたにしかできない選択の数々。
責任を負う者について、話したことがありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも……。
ですから、先生……私が信じられる大人である、あなたになら。この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。
だから先生、どうか……。
辺りを見渡せば、そこは白い電車の中、車窓から覗く夕日が青髪の少女を厳かに照らす。その少女は祈るように言葉を紡ぐ。
「君は……」
『何を言っているのか』と聞こうとした瞬間、世界が大きく歪む感覚が俺の視界を埋め尽くし、思わず目を瞑る。そして再び目を開けばそこは……先程の少女が座る車内ではなかった。
「ここは、なんだ?」
その光景は、激しく崩れた大きな建築物、足元に転がる瓦礫の数々……極め付けに、血を流した人々が地面に転がっている。まさしく、崩壊した文明都市という言葉がよく似合っていた。だが、その中でも特に目を引く存在がいる。腰まで長く伸びた、白髪に頭上に天使の輪の様な物を浮かべた少女と、瓦礫によりかかるようにして倒れ込む男。だが、目の前の光景で起こった事は…俺の想像を遥かに超える物だった。
「……っ、待て!」
白髪の少女が手に持った拳銃の引き金を、男へと向け……直後、数回の乾いた音が俺の鼓膜を揺らした。刹那、弾丸の音は俺の意識を再び、車内へと引き戻す。
「……っ、はぁ……はぁ。い、今のは……?」
俺は、この感覚を知っている……?昔の記憶を手繰ろ寄せていると、青髪の少女は、俺の言葉を引き継ぐように話し始める。
「今のは……先生がこれから向かわれる世界で起こる、1つの可能性です」
「ですが、あなたなら……『影の君主』であられる、先生なら。どうか、私の願いをどうか……辿り着く結末を」
「君は、一体……『君主』の事を、どうして……」
俺の言葉が最後まで放たれる事は、ついぞ無かった。先程と同じように、意識を失ったからだ。だが、異なるのは……それが暖かい、『光』のような物に包まれている事だ。俺はその心地よさに身を任せ……深い、深い場所へと沈んでいく。
沈み行く意識の中、俺が最後に見たのは……青髪の少女が微笑む姿だった。
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(!)お知らせ
<シークレットクエスト『アナタと歩む青の軌跡』の条件をすべてクリアしました>
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(!)お知らせ
<『先生』になりました>
<それに伴い『先生』:水篠旬の記憶とスキルの一部に制限を掛けます>
「………い……ん……い……先生!!」
「……!」
鋭い声が耳に響き、目を覚ます。そこは大きな窓が幾枚も連なった、オフィスのような場所。だが、窓から覗く初めて見るはずの見覚えの無い景色に、俺の心はどこか揺さぶられるような……既視感を覚えていた。その既視感を他所に、黒髪の少女が俺の事を真っ直ぐ覗いていた。その様子は、どこか……犬飼課長を思い出させる。
「……少々お待ちくださいとは言いましたが、よほどお疲れだったのですね……まさか熟睡されるとは。どうかなさいましたか?」
「あぁ……すまない。少し、気を抜きすぎていた……」
(……『先生』?まさかとは思うが、俺の事を言っているのか?)
再度辺りを見渡し、それらしい人物は……というか、少女を除けばこの部屋の中には俺しかいない。
(この世界は『ゲート』の中じゃないのか?しかし、仮にここがゲートの中だったとしても……モンスターの気配はおろか、魔力さえも感じ取れない。だが、『次元の狭間』という異次元がある以上、警戒は怠らない方が…)
「もう一度、改めて状況をご説明します。私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会、生徒会長代理です。そして貴方は私たちがここに呼び出した先生…のはずです…」
「待ってくれ……はずっていうのはどういう事だ?」
「……ああ。推測系でお話したのは、私も先生がどのようにこちらに来られたかが未だに分かっていないのです」
(……世界を跨ぐ程の移動手段ともなれば、それこそゲートの存在が必要不可欠のはず。だが、魔力さえもないこの世界に俺がやってこれたのは、なにかしら外部の力が加わっていない以上は難しい筈だ……)
現状、分からない事が多すぎる。俺という存在が介入している以上、この世界で何が起こるかわからない。どちらにせよ、まずは情報収集が必須だ。今すぐにでも影の兵士を、放ちたいのだが……先に目の前の少女から最低限の情報を得たい。
「何故、俺を呼んだんだ?」
「……どうしても、先生にやっていただかなければいけないものがあるのです」
「俺がやらなければいけないこと……」
(ここはシステムの管理下なのか?やらなければならない……。正体不明の存在が俺を使って何をしようとしている?)
「学園都市の命運をかけた大事なこと……と言うことにしておきましょう」
そう言って、リンはこの部屋を出て、先に進んでいった。俺もその後ろに着いていきながら、先程から気になっていたことを確認する。
「インベントリ、ストア……ステータス表示」
(良かった……魔力が無い以上、それを前提としたものは消えたと思っていたが……持ち物やレベル、影の兵士なんかは消えてない。黒い心臓も保有している……だが不老不死が消失しているのは何故だ……?)
「この世界にとって都合が悪いのか?というか、兵士の数こんなだったか?増えすぎてわからん……」
(さっきからお一人で何を話されているんでしょうか……?)
そうしてエレベーターにリンと共に乗り込む。全面ガラス張りのエレベーターは、先程の部屋よりも鮮明に都市の景色を覗かせた。
「改めて『キヴォトス』へようこそ、水篠先生。きっと先生がいらっしゃった所とは様々な事が異なり、苦労をおかけすると思いますが……先生なら大丈夫でしょう」
「俺なら……。それはどういうことだ……?」
「それは……あの、『連邦生徒会長』が、お選びになった方ですからね」
(連邦生徒会長……妙だな、どこかで聞いた事があるような響きだが……)
しかし、俺の思考を遮るかのように目的の階へと着いた音が鳴る……と同時に声が聞こえてきた。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待っていたわよ!早く連邦生徒会長を呼んで!」
「首席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました、風紀委員長が今の状況に納得のいく回答を要求されています」
「あぁ…面倒な人達に捕まってしまいました」
「こんにちは、各学園からわざわざ訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他暇を持て余している皆さん。こんな暇そ……大
事な方々が来られた理由はよく分かっています。今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
「今、暇そうって言ってなかったか?いやてか、混乱?」
「言っていません。ええ……話すと長くなるのですが……」
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ!連邦生徒会でしょ!?こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの!?今すぐ連邦生徒会長と会わせて!」
「……連邦生徒会長は今席にいません、正直に言いますと行方不明になりました」
(なるほど...…だからリンは『代行』と呼ばれているのか。そりゃあ、犬飼課長に似ているはずだ)
「結論から言うとサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかりませんでした…」
「その言い方……今はなにか方法があると言うのですか?」
「はい」
リンは俺の方へと指差し、こう言う。
「はい、この先生こそがフィクサーになってくれるはずです」
「俺が……フィクサー?」
「ちょっと待って…そういえばこの先生はどなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスの外から来られた方のようですが……先生だったのですね…」
「はい、こちらの水篠旬先生はこれからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した方です」
「行方不明になった連邦生徒会長から指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの…」
「ええっと……水篠旬……です、よろしく……」
「こ、こんにちは、先生…私はミレニアムサイエンススクールの…って今は挨拶なんてどうでもよくて……!」
「そこのうるさい人は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
「あ、ああ……よろしく早瀬、さん?」
「名字で呼ぶのはやめてください。ユウカで構いませんので!」
早瀬……いや、ユウカの迫力に押されるように思わず身を後ろに寄せる。だがしかし、ユウカの言う通り、今はこのような問答をしている場合ではないのだろう。
「あまりべたべたしないでください。ええ、先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問として、此方に来る事に
なっていましたから」
「部活...…とは?」
「連邦捜査部...…シャーレ。便宜上部活と呼称しておりますが、一種の超法規的機関です。所属は連邦組織になりますので、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを制限なく加入させる事が可能です。更に各学園の自治区で、制約なしで戦闘行動も許可されています」
なるほど……考え方としては国家権力級のハンターに近しいものがある。一個人に国家と同等以上の権力を与える事によって他国への牽制になるだけでなく、その個人に自分がどういった存在であるのかを自覚させる事が出来る。部活と謳った法的軍隊……どのような勢力のもと、この世界が動いているのかはわからないが、『ただそこにある』という一点だけで反勢力への抑制に繋がる事は間違いない。
「シャーレの部室はここから30km離れた外郭地区にある一棟です。連邦生徒会長の命令で、その建物の地下に『ある物』を持ち込んでいます。先生を其処にお連れしなければなりません」
(30km……影を介しての移動を使えば一瞬なんだがな。どういうわけか、この世界でスキルによる移動ができないんだよな)
そう考えていると、「モモカ、シャーレの部室に向かうヘリを手配してほしいのだけれど……」といつの間にか、リンはモモカと呼ぶ相手と連絡を取り始めていた。しかし、徐々に曇っていくリンの表情から、携帯端末から聞こえる内容があまり良いものではなかったようだ。
《シャーレ?…...あぁ、外郭地区の?なんかそこ、大騒ぎしてるけど...》
「..….大騒ぎ?」
《矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ》
「.......はい?」
《連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしているみたい。巡航戦車までどっかから手に入れて
来たみたいだよ?》
「え?」
《連邦生徒会所有のシャーレ部室を占拠しようとしているみたいなの。まるでそこに大事なものがあるみたいな動きだけれど…...あ、
頼んでたデリバリー来たから、また後で連絡するね!》
「……」
そうしてブツッと小さな音が、その場にはやけに大きく響きながらも通信は切れた。そして、リンの堪忍袋の緒も切れたようだ。
「……」
(怒ってる……)
「あの……大丈夫、か?」
リンが手に握る携帯端末がメキッと奇怪な悲鳴を叫ぶ。心做しか、彼女ら4人は距離を空けているように思える。
「大丈夫です…少々問題が発生しましたが、大したことではありません。ちょうど目の前に各学園を代表した、立派で暇そうな方た
ちがいるので心強いです」
「やっぱ暇そうって言ってるし……」
「というか……なんで私たちの方を……?え、噓でしょ?」
ユウカはこれから言われることが分かってしまったようだ……他3人も同様に。
「キヴォトス正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です……行きましょう」
「え、ちょ、は!?どこに行くのよ!」
ユウカはまさかと思い、リンに声をかける。
「もちろん、シャーレです」
晴れやかな表情でそう言った。
「なんで私たちが戦場に出ないといけないのよ!」
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すために、部室の奪取は必須ですから…...」
「そうだけど!それは聞いたんだけど!なんで、なんでセミナーの私が...…」
……かなりお怒りなのだろう。
荒ぶるユウカを宥めようと、栗毛の少女が奮闘しているが、それも徒労に終わっている。依然小言がブツブツと出てきているユウカ、
宥めようと未だ挑戦し続ける栗毛の少女、割とガン無視な黒翼の女性と白髪の少女。
(魔力が無いから大雑把な評価になるが、ここにいる全員がD~C級程度か……?)
「…...戦える、とは思えないが...…」
俺は思っていることをつい口に出してしまった。無口気味だった俺が喋ったことに驚いたのか、皆こっちをむく。
「いやその…...各学園を代表してお前達はあそこに来たんだろう?それはつまり、この問題を解決できるほど大きな力を持つと認め
られているということだろう?任せられるというのも、その実力があるからじゃないのか?」
(あ、危ない……雫のご機嫌取りの為に身に着けたスキルが活躍してくれた……)
滑らせた口の終着点をユウカ褒めタイムにする事によって話題を逸らしつつ、好感を持たれるというスキル。この言葉の目的に、2割程戦闘に否定的なユウカの説得が混じっているのは秘密だ。
「頼む、ユウカ。お前達にしか出来ないことなんだ」
「...え、えぇ!協力すればいいんですね!連邦生徒会の頼みは断れませんし、キヴォトスの...結果的にミレニアムの為になりますし!ええ、仕方ないですね!」
チョロいと言えば、怒られるだろう。
(このチョロさは諸菱君を思い出すな……)
チナツは華麗な手の翻し方に感動したのだろうか。いや……よく見れば若干、身が引いている。おそらく痺れもしてないし、憧れもしていないだろう。ライフルを担いだ女性、黒翼の女性が声を掛けてくる。
「連邦生徒会所属ともなれば、主要な生徒は把握済みでしょうか...?ですが一応、自己紹介を。正義実現委員会の羽川ハスミです」
忘れていた、というふうに、チナツ達も続ける。
「あぁ、えっと...ゲヘナ学園風紀委員の、火宮チナツです。よろしくお願いします」
「トリニティ自警団の守月スズミです」
「わ、私は早瀬ユウカです。先程も挨拶させていただきましたが……」
正しく、十人十色。律儀に自己紹介をしてくれた生徒に、俺も言葉を返した。
「改めて、水篠旬だ。一応先生なんて大層に呼ばれているが……まあ、よろしく頼む」
彼女らは、そろって「よろしくお願いします、先生」と呼んだ。挨拶も終えた頃、待っていたかのように不良生徒集団からの銃撃を受ける。
「っ!痛い!痛いってば!」
(っておいおい……銃弾を食らっても痛がるだけ……体の作りが根本から違うのか?)
「伏せてください、ユウカ。今は先生が一緒なので先生を守る事が最優先。あの建物の奪還はその次です」
「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないからやってきた方ですので……」
「ええ、わかってるわ。先生は絶対に戦場に出ないでくださいね!私たちが戦ってる間は隠れていてください!」
「いや、その必要はない」
そう言って彼女達の前に立ち、言葉を放つ。
「お前達、仕事の時間だ……『出てこい』」
呼び掛けに応えるようにして俺の足元の影が後方へと次第に拡大する。その影の中からは幾影もの黒色の兵士が次々に浮かぶ。中でも一際存在感を放つ影の兵士が3つ。
二足歩行のアリ……『ベル』
マントを羽織り、長く鋭い剣を持つ鎧……『イグリット』
角のような兜を被り、歪な形をした剣を持つ騎士……『ベリオン』
相貌は異なれど、三人は現れて早々、跪くようにして俺を囲う。そして彼らの登場と共に、俺の目の前に見慣れたウィンドウが出現する。
(!)クエスト発生
<クエスト『生徒と歩む第一歩』が発生しました>
<目的:暴徒化した生徒の鎮圧&学園連邦捜査部部室の奪還>
<報酬:『シッテムの箱』>
<注意:暴徒化した生徒を殺害した場合、ペナルティが発生し、生徒からの好感度が減衰、及びスキルの剥奪>
「『シッテムの箱』……?それよりまさか、ここでもクエストが発生するとは……久しぶりに見たな。まぁいい、イグリット!ベリオン!」
「はっ……ご命令を」
「お前等は左右に分かれている生徒達の鎮圧を頼む、ただし殺すな。制圧が終わり次第、そこで待機してろ」
「……御意に」
「君主様のご命令とあらば」
イグリットとベリオンは俺の言葉に短く答える。イグリットはマントを翻して颯爽と駆け始め、ベリオンは対の翼をはためかせ指示した場所へと飛んでいく……相変わらず仕事の出来る奴らだ。さて……問題は。
「キエェェェ!王よ!お久しぶりでございます!このベル、王に呼ばれるこの日をどれだけ心待ちにしていたか……!誠に!恐悦至極に!存じまする!此度の戦も、王の前に立ち塞がる障害の全てを薙ぎ壊す事を!そして、この大いなる忠誠を改めて……!」
「うん……ベルも変わってないな。でもそういうの良いから、ちゃんと後で聞いてやる。今は俺と中央の突破だ」
「承知いたしました。あぁ……再び王と共に戦う事が出来るとは……!あまりの感動でこの影の肉体が……震えるようでございま
す!」
……ベルも相変わらずのようだ。しかし、俺にとっては懐かしい兵士達だが、生徒にとってはそうではない。見ればハスミは、その長い銃を構えていた。そして、一早く、ベルはその殺気を感じ取りハスミの眼前へと迫る。
「キエェェェ!王にそれを向けるとはどういう了見だ!?即刻、降ろさなければ今すぐにでもお前を……!」
「一旦黙れ、ベル」
銃を構えたハスミを脅すようにベルが俺の前へと立ち塞がるが、軽い跳躍をしてベルの頭を掴み地面に沈ませる。
「せ、先生その怪物達は……?」
「いや……これは俺の兵士達だ。黒い色の奴らは俺の仲間だと思ってくれればいい」
「し、失礼しました」
……素晴らしい反応速度だった。魔力が無いが肉体の反応速度や技量が磨かれている。どうやら、実力は本物のようだ。評価を見直す必要があるな。
「先に言っておかなかった俺に責任がある。すまない」
「い、いえ...」
「キエェェェ……王よぉ……」
少し気まずくなったが、先んじて駆けていったイグリットとベリオンの視界を介して、敵の情報を集める。
「敵総数、48人...…S級クラスが1人」
そのS級と捕捉された彼女には、ヘイローと呼ばれる天使の輪に酷似した物が宿っていた。
「さて、俺達は攻めの姿勢を取る。左右はさっきの奴らが受け持つ。その間に敵の大将を速攻で倒す..….全員、付いて来てくれるか?」
「了解...って、先生!?戦場のど真ん中に、先生も行くつもりですか!?」
ユウカの意外そうな言葉に「邪魔にはなるつもりはない。気にしないでくれ」とだけ返す。
「おい、敵襲か!」
……思ったより、早く気づかれてしまったようだ。みな、戦闘態勢に入る。不良生徒が俺へと向けて銃弾を放つ。ユウカの「やば……先生!」と未だに俺の身を案じる声を聞き流し、銃弾を全て『支配者の権能』を以って叩き落とす。ユウカに「な?心配するなって言ったろ?」と振り向けば、ユウカだけでなく他の生徒も呆然とした目で俺を見ている。
「あー……あんま指示出すのは得意じゃないんだがな……ユウカ、シールドを貼って、できるだけ敵を集めてくれ」
誤魔化す様にユウカへと指示を飛ばす。
「り、了解!」
彼女を包むようにして、障壁画出現する。これが彼女らの持つ『神秘』というものらしい。……魔力は使用していないが、性質的には似ている。
「う、撃て!」
そのシールドに向かって、無謀にも乱射する不良。ユウカはまだ余裕そうだ。ユウカはシールドに加え、被弾を減らす立ち回りと、できる限りのヘイトを集める。
「……近くに何人か集まってもいる……完璧だ。スズミ、閃光弾を頼む」
「はい!閃光弾、投擲!」
放たれた閃光弾は、素晴らしい軌道を描きながらほぼ全員に命中した。
「うおっ!?」
これで敵の視界を4秒は奪うことが出来る。その4秒があれば、余裕で潰せるだろう。
「ハスミ、今だ!だが無力化に抑えろ!」
「はい…射撃」
ハスミは右から順に、手元を狙った射撃で沈静化させていく。その間にも、ユウカとスズミは近接戦闘でその他を仕留めていく。ベルにも指示を飛ばし、常に生徒を回復させ続ける。ふと感知範囲ギリギリに潜伏して近寄ってきている不良を発見した。
「ベル、右に1人抜けてる。やってくれ」
「承知しました!」
ベルは羽はためかせて、素早く孤立した不良に向かった。ベルであれば必要以上に傷つけずに問題なく無力化できる。
「……す、すごい」
ユウカが感嘆の声を漏らす。見れば不良の山。先程の一瞬で、第1波を防いだのだ。
「気を抜くな、まだあるぞ……第2波だ」
「はいっ!」
「……1人1人の距離が離れている。ハスミ、少し大変だが狙撃してくれ」
「はい」
「ユウカ、スズミ、聞こえているか。これより『3人』で固まって前へ進む。できるだけ相手の意識をこちらに向け、ハスミに撃ち抜かせる。護衛にベルを付ける。こっちでも敵を出来る限り減らすことが重要だ。かなりリスクが伴うが、これが成功すれば今後楽になるぞ……チナツはこちら3人側の援護を頼む」
「了解で……え、3人!?」
「まさか...先生も前に出るのですか!?」
「さ、流石に危険すぎます!」
俺の提案に全員が反対を示す。確かに、この身体は見てくれは弱いかもしれない。非力な人間が、銃に立ち向かえば、蜂の巣になることは間違いないのだから。
「問題ない。それに、俺を抜いて2:3で別れれば、敵は3の方を重要視してくる。前衛でないチナツとハスミが危険に晒される。だから、ここでベルと俺を分ける。そうすればその危険もリスクも下げられる」
「で、ですが……あぁもう分かりました!先生、絶ッ対私の後ろにいてくださいね!じゃないと死にますよ!」
「不本意ですが...やるしかありません」
「回復剤、最速投げしますからね」
「信じています、先生」
とうとう折れた4人。俺はそれを確認して、指示した。
「スズミ、進むぞ!ユウカ、前へ!シールド展開!」
「先生っ……!」
ユウカは再びシールドを展開し、前を張る。俺が後ろにいるせいか、あまり回避行動を取っていない。
「……ユウカ。さっき見せたが自衛手段はあるから、回避に力を入れるんだ」
「……ッ、はい!」
素直にも聞き入れ、ユウカのスピードが2段階増した。その速度について行きながら、ドローンで相手の行動を確認する。
「スズミ!閃光弾を右前40m付近に!いけるか!?」
「……は、はいっ!閃光弾、投擲!」
放たれた閃光弾はしっかりと40m先に着弾し、爆発した。とはいえ、40mきっちりと飛ばすその力と技術に感服せざるを得ない。
当たってただ突っ立っている者はチナツ、ハスミ、ベルに強襲を受けている。しかし、食らった後それを悟ってギリギリ射線から抜け出せた者もいる。
「ユウカ!閃光弾の爆破地点まで素早く行くぞ!閃光弾を食らって隠れている奴がいる、確保するぞ!」
「舐めないでっ……はい!」
ユウカは近接戦闘をしていた敵を見事に打ち倒し、指示に従った。
「もし閃光弾を食らって、身を隠すなら……」
ユウカは廃車となってしまった車を思い切り蹴飛ばす。
そこには、目を覆っている不良が二人いた。
「計算通り、完璧〜。」
どこかご機嫌になりながら、ユウカは彼らを始末した。
俺はその蹴飛ばされた廃車に滑り込み、遮蔽にして銃弾を受けた。そしてスズミに指示を出す。
「スズミ!この廃車を根城にして戦闘するぞ!」
「了解です……先生、なんか」
スズミは疑問を口に出す。
「凄く……速いですね?」
「まあ、俺は先生じゃなくて……コッチが本職だからな」
と、少し落ち着いた時、端末が鳴った。端末の表示を見ればそこには『七神リン』と書かれていた。
『先生!先程、こちらの騒動を起こした主犯格が分かりました』
「あの、赤いヘイローを持つ生徒か?」
『そうです。名はワカモ……現在停学中の、百鬼夜行連合学院の生徒です。矯正局を脱出した生徒で、多くの前科を持ちます。気をつけてください』
停学。不良中の不良と言ったところか、他の不良を束ねるほどのカリスマと実力があるようだ。そして、今回の敵勢力の中で唯一のS級クラス。
「彼女が、キーになりそうだ」
彼女は確かに偵察用の影の兵士に目を合わせていた。狐のお面をつけていたが、明らかに彼女は、こちらの影の兵士を視認していた。本来ならハスミのように即、反応し倒すべきだろうが、彼女はそれをしなかった。たしかに、俺の影の兵士は一度倒してもマナが尽きない限りは無限に再生を続ける。さらに、追加でまた兵士を配備することが出来るだけでなく、影を起点に移動も行える。一気に複数の兵士を破壊しない限りは追跡を経つことは難しい。それを、彼女は把握しているのか...または、これが敵のだと分かっていないのか……?
「先生!前方に、主犯格と思われる生徒が……!」
考察はスズミによって妨げられる。気を取り直して前を見ると、絶賛主犯中の彼女がいた。彼女、ワカモがこちらを見ていた。
「あら……あれ?」
ワカモは首を傾げた。
「何故、前線に先生が……」
影の兵士は俺の目かつ耳である。今も尚、兵士で視認かつ音を拾っている。
「……そんなに『先生』がいるのが異質か?」
「……先生がいる以上、危害を加える訳には行きません……皆さん、撤収の準備を」
……幸をなしたか。ワカモは撤退命令を出し、すぐさまその場を去った。
「え、ワカモさん……!?」
「な、なぜ……」
急にリーダー的存在が消滅し、狼狽えている不良。どうやら撤退命令は聞き入れられないようだ。
「仕方ない……こっからはほぼ、消化試合のようなものだ。スズミ、ユウカ。行くぞ」
「「了解!」」
指示をした瞬間、飛ぶかのように前へ躍り出た。不良はその奇襲に対応できず、次々と倒れていく。瞬く間に、第2波が潰れた。
「47人鎮圧完了、1人逃亡……任務完了だ、よくやったな」
影の兵士を通して敵が居ないことを確認し、任務完了の旨を伝えた。ワカモの逃走は、あまり良くないだろうが。
「ふ、ふぅ……やり切りましたね」
「戦闘がうますぎて、回復剤の投与がほぼ要らなかったです」
「お疲れ様です、先生」
続々と集まってくる生徒達。彼女らの戦闘は、目を見張るものがあった。ハスミの射撃、スズミの投擲、ユウカの盾、チナツの援護。
「即席とは思えない連携、良いものを見させてもらった……あの時の言葉は撤回させてくれ」
俺は正直に彼女らに言った。
「いえ、先生の機敏かつ聡明な判断のおかげです。驚きが隠せません」
ハスミがここぞとばかりに褒め倒してきた。
「そ、そうよ!先生、何その身体能力と演算能力!戦場に出て命の危険に晒されながらも、冷静な判断で指揮していく....銃弾で沈むように思えない……」
「先生はかなり脆弱であると聞いていたので……特に、閃光弾着弾地点への誘導の早さにびっくりです」
「回復剤……」
「えぇ……」
2人からの先生雑魚宣言に思わず声が出てしまった。チナツに関しては回復剤をちょっと根に持っている。というよりも回復に関してはベルがずっとかけ続けていたというのが大きいだろうが……。それにしても、この世界の先生というものは、どうやらE級の頃の俺と同じ、貧弱な存在らしい。
「ま、まぁ運が良かったんだ。リーダー格が逃げたのも、シャーレの顧問である俺を害せば、どんな仕打ちが待っているか分からないだろうからな」
「リーダー格の逃亡はそうかもしれませんが……運絡みであの作戦行動は再現不可能ですっ!」
ユウカは思わず声を張り上げた。と、そこまで話した所でベル、イグリット、ベリオンの三人が戻ってくる。
「キキキキキッ……こやつらも王の力に魅せられたようであるな。それがどれほどの幸福であるのかを噛み締めて眠るが良い」
と、俺の戦績を自分の事のように喜びつつも、偉そうに語るベル。
「主君よ、此度の戦いを無事終えることが出来て何よりです。それにしても、この子供らもとても良い動きでした。肩は並べられずとも、同じ戦場の上で戦えた事、嬉しく思います」
と、恭しく頭を下げながらも、ユウカ達へと向けて光栄だと述べるベリオン。
「……一名の逃亡を許したようですがよろしかったのでしょうか?」
と、ワカモを逃がした事への疑問の言葉を投げかけるイグリット。
「いいんだよ。あの子はパッと見でもS級以上の実力があった。それに『神秘』とかいう正体不明なもんがある以上は下手に出を出せないからな……」
そこまで話したその時、地鳴りのような音がした。
「……ん?今の、ユウカさん?」
「……いや、違います。」
影の兵士が、何かを視認する。
「……っ!?その建物、気を付けてください!」
すぐ近くにあった建物が揺れ始め、それに気づいたチナツが声を上げる。生徒たちとベル達は、すぐさま距離を取った。その際、念の為、影の兵士の召喚を解除する。
「今ので影の兵士が巻き込まれたか……。カイセル!」
俺は影からカイセルを召喚し上空から辺りを見渡す。恐らく、最初に視認した人数は間違っていたようだ。上空から見下ろすと、高速で別の部隊がここ、シャーレを目指して突っ込んできていた。
「追加か……24体。そして…」
俺にとってはあまりに見覚えのある形状をしていた。もしかすると、この世界では別の利用用途がある可能性も捨てきれないが……この機体はそういうものだろう。
「まさかこの音…皆さん、注意してください!」
ハスミの声は爆音によってかき消された。揺れていた建物は異物によって貫かれ、崩壊した。瓦礫などで砂埃が起こり、視界不良だが、その物体は存在感を衰えさせなかった。
俺はその異物を見て、確信した。
「……戦車、だろうな」
「クルセイダー巡航戦車!?どうしてこんな物を...!?」
ハスミが驚きを口にした。スズミも、ユウカも目が釘付けになっている。カイセルの召喚を解除し、自由楽観委身を任せながらも、その迷いを打ち払うようにして声を張り上げる。
「……ユウカ、右前20m先の遮蔽へ進行!一定間隔で発射されるであろう砲弾は絶対に受けるな!」
「う、嘘でしょ!?は、はいっ!」
「ハスミ、有効射程内で最も距離が離れていて、狙撃に適した場所がある!4階建てアパートの屋上か3階!その位置にまで移動を!」
「り、了解です!」
「ま、まさか戦車を相手取るんですか……!?」
「チナツ!君は後退し、回復剤がユウカに与えられる位置に!」
「はいっ!」
「スズミ!できる限り戦車の妨害が出来るよう、発射直前に閃光弾を打ち込みたい!俺がタイミングを指示するから、従ってくれ!」
「戦車に……了解です!」
「私はできる限りユウカに近づく!みんな、よろしく頼む!」
できる限り具体的な、わかりやすい戦法を伝える。やりたいことは明確だ。ハンターの狩りとなにも違う事は無い。硬くて攻撃が痛い敵は、ヒーラーを付けたタンクでヘイトを受け、魔法職で妨害をし前衛職で削れば良い。
……明らかに物理を受け付けないような見た目をしている。だが、あの装甲が悪魔王やアイアンほどの装甲を超えているとは思えない。キバの召喚も考えたが、あたりを焼き尽くす可能性がある以上、勝つ手段は限られる。戦車の元から、ぞろぞろ不良が出てくる。
「第3波だ……ハスミ!よろしく頼む!」
「集中……集中っ!」
ハスミは絶えず不良を落としていく。スズミはかなり数の多い不良に苦戦しているようだ。
「スズミ!そちらの不良の数が多い!閃光弾はその場所で使用!完了次第こちらに合流!戦車の目くらましはその後だ!」
「ぐっ……は、はい!」
かなり傷ついてしまったスズミがこちらに合流してくる。閃光弾で追手を眩ませており、しっかりとハスミによって沈ませている。
「回復剤です」
チナツの射程内に入ったか、即座に回復が投げ渡された。
「……!戦車、砲撃を準備してるわ!総員回避っ!」
ユウカはSMGを使用している。SMGでは、戦車に大したダメージを与えられない。ほぼほぼ、弾は歩兵の不良に叩き込まれる。戦車は悠長に砲弾の準備をしていたようだ。記念すべき一発目といったところか。
「……射撃!」
その1発目は、ハスミによってずらされた。砲身を狙った一撃で少しズレ、放たれた砲弾は彼方へと旅立った。
「よくやった、ハスミ!」
「いえ」
端的な返事だが、流石のファインプレーに少し気持ちが高揚しているのだろうか。声が高かった。
「残り13体!気を抜くな、まだ戦車は残ってる!ユウカ、もっと進行し、戦車の後ろについてくれ!」
「少し遮蔽が少ないけど……問題ないわ!シールド展開っ!」
ユウカは怖いもの知らずか。シールドを展開し、勇猛果敢に飛び出した。魔力を有するハンターでなくとも優秀なタンクだ。
「ハスミ!戦車の転回を阻止したい、下を狙え!」
「了解です」
弱点をうろちょろされると辛いものがある。なら、動きを固定すれば問題ない。狙撃でキャタピラを損傷させれば、移動能力を欠いた固定砲台の出来上がりだ。
「2撃目、来ます……!」
「スズミ、閃光弾を!」
「閃光弾……投擲っ!」
放たれた閃光弾は、戦車の目を眩ました。しかし、撃たれる砲弾。
ユウカを捕捉していたので、砲塔は荒ぶり、裏の不良ごと吹き飛ばした。肝心のユウカはピンピンしている。
「残り9体。その9体がほぼ、ユウカへ向かっている。スズミはできる限り戦車の一部分を撃って、装甲を脆くするんだ」
「……ハスミさんの狙撃を通すためですね、了解です」
鋼鉄の装甲と言えど、疲労は存在するものだ。できる限り盾を削り、大技でその盾ごと貫けば良い。
「ハスミ、ユウカの援護を。チナツはもう少し前に出て、不良の鎮圧だ」
「「はい」」
ハスミは今までいた3階から屋上に場所を移し始めた。チナツはユウカの回復範囲にいたおかげで、すぐさま援護に来た。
「あんた達……許さないわよっ!」
ここにほっぽり出された恨みが解放されたのだろうか。ユウカは爆速CQCで対応していく。チナツはハンドガンでユウカの取りこぼしを仕留める。俺は彼女らを鼓舞する。
「残り3体……戦車も、キャタピラは傷つき、疲労している状態だ!ラストスパート、かけていくぞ!」
その瞬間だった。
「せ、先生!砲塔が...!!」
戦車は、俺の声を頼りにし、砲塔をこちらに向けたのだ。まさかの、聴覚による敵の捕捉。信じられなかった。
「っ...!射撃!」
ハスミが必死に砲塔に弾を当てようとするが、焦りからか、ギリギリ外してしまう。スズミとチナツは気づいて、素早く動き始めたが、距離が遠かった。
「っっ!!!先生!!」
ユウカがこちらに走ってくる。しかし、間に合わないだろう。私は、戦車からの衝撃に身構えた。
戦車の砲撃。
「……アイアン!」
俺の声に応じて影が湧き始める。「グオォォォォ!!!」と咆哮が響き渡る。俺の目の前に全身を鎧で包んだ巨大な体躯。極めつけは二股に分かれた角の甲冑、巨大な戦斧と盾。俺の記憶の中にあるアイアンそのものが目の前に現れる。
放たれた砲弾。それは、アイアンへとぶつかり、爆発するが圧倒的なまでの防御力を誇るこいつの前では無意味に等しい。
「「...!?」」
彼女らは、これまでにないくらい驚いているようだ。無理もない。俺自身、驚いていたのだから。
「……なんでここにいるのかは知らないが、助かった」
「グォッ!」
ハンドサインで親指を立てたアイアンの動作に思わず苦笑しながらも、虚空に手を伸ばし、雷が空間を裂くようにして出現する。次の瞬間、俺の両の手には『カミッシーの怒り』が握られている。
伝説の竜の双剣を振るう。
「『乱刀』」
戦車は未だに猛威を奮う。その破壊をもたらす猛威とやらを、俺は切り捨て続ける。
「せ...先生...?」
ユウカは動きを止めている。他の生徒も同様だった。俺を恐れているのか、もしくは先程の驚きがまだ続いているのか。
「『乱刀』」
ただ、戦車が砲撃し、それを断ち切る。砲撃は、全く意味をなさない。いくら工夫しようが、砲弾は切り捨てられるのみ。
砲弾を切り捨て続け。ようやく、砲塔が動きを止めた。とうとう、砲弾が潰えたか。不良が中から出てきて、逃げようとした。
「逃げる前に捕らえろ!戦車は破損させるな、できる限り保護するんだ!」
「……は、はい!」
いつの間にか降りていたハスミも、不良の捕獲に参加した。戦車はボロボロになってしまったが、まだ出処は分かるだろう。俺は不良たちが更迭されていくのを横目に、黒い心臓が震える胸の中央へと手を伸ばす。
「周囲の敵もいない。今度こそ作戦は終了だ。シャーレを奪還できたのも、お前達がいてくれたおかげだ」
「せ、先生」
あの、不可解すぎる能力と兵士達。血のように赤黒く、妖しく輝く双剣。そして、どこか恐怖を感じるオーラ。
「不良達を更迭したら、仕事は終わりのはずだ。ヘリの手配をリンがしておくから、帰宅していてくれ」
先生は断固としてこちらを向かなかった。まるで何かを隠すような。まるで何かから逃れようとするような。
「そ、その力は……」
「……じゃあな」
先生はただ、この場を去って行った。