センチメント   作:蕾-RAI-

1 / 1
オリジナル作品です。
こちらは完成度80%ほどのため、後日に完全完成版を投稿する予定でございます。


起伏の刻

 大粒の雨が降りしきる中、高貴なマントを靡かせた王と、一人の戦士が戦っていた。

 戦士は世界を守るために、拳を王の胸部へ向けて殴りかかる。けれど王は、その一撃を軽々と受け止め骨が折れそうな強さで握りしめる。

 戦士は苦しそうに声を漏らすが、相手の顔を睨みつけてみぞおちに膝で2度蹴りつけた。

 すると王はその攻撃に嗚咽を漏らして手を離し、戦士の首を掴む。そして鉄柵に勢い良く押さえつける。

「ッ……、このっ!」

 反撃の意思はまだ残っている。首を掴む手を力強く握りしめた。

「お前らは、必ず俺様達が滅ぼす。」

「そうね、アンタたちは…そういう種族だものね……!」

 首を片手で締められる中、彼女は強気なまま小言を言う。それに苛立ちを覚えた敵は、大きなマントを右腕に纏わせる。

 そして右腕は紫色のオーラが現れ、戦士の腹を殴った。

 攻撃を直接受けた戦士は、折れた鉄柵と共に高所から落ちていく。

 王が立つ場所へ虚しく手を伸ばすが、届くわけもない。だが、大切な人たちの笑顔の為に諦めるわけにはいかない、戦わなければならない……!

(みんながっ……、笑顔でいられるために……ッ!)

 揺れる視界の中、ただそれだけを思い伸ばした手で空を握る。

 戦っていた建物の下層部にあるテラス席へ叩きつけられた。その後すぐに傷に悶えながら立ち上がる。

 

 その時だった。

 

「っ……、ぁ゙ッ゙…!?」

 心臓を狙った奇襲。戦士の体が鋭い刃物で貫かれた。

「は…ぁあ、は……ッぁ、あ……」

 静かに視線を下に落とす。そこには左胸から飛び出す長物の刃。

 誰にやられたかもわからないまま、刺さる剣が捻られながら勢い良く引き抜かれる。

「ごふッ……! あ゙、ぁ゙……っ――」

 大量の血が、空いた穴と口から流れる。

 数秒後、体に力が入らなくなったことで戦士は膝から崩れ落ち、装備が解除されながら地面に横たわった。

(……みじかく、なったなーぁ…)

 好きだった長い髪の時期を思い出す。

(ばかだったな、私……)

 人生を棒に振った気持ちが半分。今まで守れた人々の笑顔に嬉しい気持ちが半分。

 だが満足とは思っていない。思ってはいない中で、死期を悟って1つ願う。

「姉ちゃん……?」

 倒れる瞬間を目撃した”城戸 悠喜”は、冷たくなった姉の体を抱きかかえ、必死に呼びかけ続ける。

 まだ死んでいないはずだ、そう何度も思っていたが……冷え切った体が呼応することはなく、その現実に絶望し、虚しい声を上げるのだった。

 

 

 

 それから時は流れ、11年後――。

 

 

 

 雲が3つ浮かんだ晴れた空、燦々と輝く太陽の下で墓の前に座って手を合わせる青年 ”城戸 悠喜”。

 そよ風が七三分けの前髪を揺らし、閉じた瞼が瞳を見せる。

「姉ちゃん、今日も笑顔で頑張るよ。」

 11年前に亡くなった姉 "城戸 嬉久”。

 彼女の口癖であった笑顔を、別れを告げた日に心に残した悠喜は虚ろな目でそう言った。

 そしてゆっくり立ち上がるとジーパンに付いた汚れをはたき落とし、着た道を戻っていく。

「……! こんにちは」

 普段は人いない墓地に、洒落た服装と黒い日傘を差した女性を見つけて挨拶を交わしながら通り過ぎた。

「ええ、こんにちは」

 小さい口で、機械的な口調で返した”哀海 光”。彼女はその場に立ったまま、悠喜がいた墓を黙って見続けて数秒後に一歩進み始める。

 道に咲いた花を踏み、光は墓の前に来るとその場に屈んで手を合わせた。

「貴方の魂は、きっと彼が引き受けます。だからその力を閉ざさずに私たちへ渡して」

 黒い瞳が顔をだし、無言のまま立ち去っていく。

 日傘を差し、長いスカートに付いた汚れすら気にすることなく帰路についているとポケットに入れていたスマホが震えた。

 

〜〜〜

 

 時刻は13時を過ぎた頃、玄関の扉を開けて帰ってきた悠喜は手洗いうがいを最初に済ませ、次に顔を洗う。

 その後自室で軽く身軽な服装へ着替えると、大荷物が入れられた手提げかばんを肩に背負って階段を降りた。

「もう時間? 気をつけて行くんだよ、悠喜くん」

「はい、行ってきます。浩平さん」

 同じ家に住む30代の浩平、彼は悠喜を玄関まで見送ったあとどこか物悲しそうに閉まる扉を見つめていた。

 一方家を出た悠喜は、階段を駆け下りて8階から1階へ。そして自転車を漕いで、学童へ向かう。

「お疲れ様です、照美さん。魅上先輩」

「よ〜っす悠喜」

「おはよう。珍しくギリギリね、なにかあったの?」

 到着した時間は14分。出勤時間まで残り1分で、いつもなら5分前に到着している。だが悠喜自身もわかっているのか、急いで荷物を棚に置きながら早口で返事をした。

「少し墓参りに行ってたんです、姉の。」

「……それなら仕方ないわね」

「なに気まずそうにしてるんスカ照美せ〜んせ、グホッ!?」

「魅上君は、早く子どもたちの所に戻りなさいっ」

「いってぇ…みぞおち、みぞおち叩かれた……」

 後ろで騒ぐ年の差コンビの会話は聞き流し、名札を胸につけた悠喜は魅上の肩を掴んで事務所部屋から出ていく。

「あ! 城戸せんせ〜!」

「るいくん、昨日解けなかった問題はできた?」

「うん! せんせい丸付けしてくださいっ!」

「いいよ。じゃあプリント持っておいで!」

 その言葉に笑顔で席に向かったるいを見て、悠喜は柔らかく微笑みながら胸ポケットから赤ペンを抜いて生徒がプリントを持って戻ってくるのを待った。

 ここはハッピー学童。ネーミングセンスが微妙すぎる照美が代表の学童。

 だがそんな場所に、ハッピーという単語に魅かれて入ってきたのが悠喜だった。彼はすべての人を笑顔にしたいという夢を持ち、地頭のよさをここで活かしている。

「せんせい!」

「はい、じゃあ丸付けするから隣に座ってね」

 るいが隣に座り、悠喜はペンをカチッと鳴らす。軽く指先で回しながら頑張って計算をして解いた回答に、答え合わせを始めた。

 結果は満点。るいは隣で嬉しそうに声を漏らし、それに悠喜も嬉しくなって頭をワシャワシャと撫でる。

「やったね! るいくんは、天才だ!」

「えへへ、せんせいありがとうっ!!」

「じゃあ今日の分の課題も、頑張っておいで! わからなかったら、俺呼んでいいからさ」

「うん!」

 また自分の席に戻っていくのを見送り、微笑みながら立ち上がった悠喜。すると後ろから肩を突かれ、何事かと振り返った。

 そこに立っていたのは事務室からでてきた照美。彼女は何も言わず、こっちに来てとハンドサインを送って二人は事務室へ入っていく。

 もしかするとあの子のことかと思い、内心頭を抱えながらスマホをカバンから取り出す。

「愛生ちゃんを探してきて欲しいの。あの子、送迎バスにまで来なくって……学校からそのまま何処かに行ったらしいわ」

「…じゃあ行ってきます。」

「悠喜くん。怪我はしないで帰ってくるんだよ」

「子供扱いしないでくださいよ、ちゃんと帰ってきます」

 財布とスマホ、それだけポケットに入れたあと室内の扉から飛び出す。

 急いで階段に向かって走っていると、表の出入り口に向かって進む黒い日傘を差した女性を横目に、手すりを掴んで階段を降りていく。

「すみません、私……”哀海 光”と申します。ここで働いている城戸という方に用があるのですが……?」

 学童の正面ドアを開けた光。

 目の前に駆けつけた魅上は、光の童顔に魅入っていたが頬の火傷痕に気づくとハッと我に返って先程の質問に答える。

「城戸なら、先程外出してしまいまして……良ければ伝言しますよ?」

「そう……さっきの、か」

 階段を急いで降りていく姿を目撃していた光は、左手の親指を唇に触れさせながら独り言を呟く。

 首を傾げた魅上に、光は淡々と言った。

「彼は何処に行きましたか?」

「多分、一度…近くの小学校に行くかと……でも城戸は自転車で向かったと思うので追いつかないと思いますよ?」

「問題ないです。教えてくれてありがとうございました、では失礼しました。」

「えっ……」

 光はまるで遠ざけるように冷たい態度のまま外へ出ていった。

 そして階段で降りた先には、二台のバイクと黒革のジャンパーを着込む男が待っていた。

「さっきの男が例のやつだったか?」

「うん。」

「念の為GPSは付けた。僕はっ……と、別件が入ったから抜けさせてもらう」

「動いたの?」

「ああ、特殊音波が一瞬だけ歪みが発生したらしい。じゃあな」

 男は黒塗りのバイクにエンジンをかけながらヘルメットを被る。そしてアクセルを回し、光を置いて走り去った。

 見送った光もバイクに跨り、アクセルを回してGPSが示す場所に走り出す。

 

――

 

 暗黒が喰らい尽くした世界に、たった一つ残された王城。

 その中にある玉座へ向けて、高貴なマントを羽織った王が座る。

「邪魔され続けたが、遂に狩り時だ。集え【ヘルフェール】!!」

 王”プラード”が誰もいない場に声を上げたその時、彼を囲むように3人の黒装束が現れた。

 彼らは皆、プラードに忠誠を誓って共に世界を滅ぼした者たち。そんな彼らを集めたプラードは、まず目の前にいる者へ視線を向ける。

「プラード様、私達が11年前に巻いた種が十分に刈り取れるほど……成熟いたしましたぁ…。この装置を使い、記念すべき最初の食料を芽生えさせましょうッ!!」

 研究者"コウル"。

 深く被ったフードから顔を出すと、左目から頬にかけて描かれた奇妙な絵とともに大きく見開き、充血した瞳を見せる。

 そして手元にその装置を出しながら、下劣に笑う。

 同時にプラードも高笑いし、席から立ち上がる。

「ハッハッハ!! そいつは面白い、まとめて狩るのではなく……選んで手にする。実に俺様の遊び道具になるな」

「貴方様の為を思って、お作りいたしましたぁ…。是非奴らも苦しむであろう、遊戯を始めましょうぅ」

 コウルは装置の液晶にあるボタンを押す。

 この合図が、時空の歪みを通して数名の人間の元へ合図が送られる。

 

 そのうちの一つは、少女の身に埋め込まれた芽。それが急激に体外へ向かい始める。

 

 そんなことも知らぬまま、少女を探す悠喜は辺りを見渡しながらペダルを漕いでいた。

「何処にいる……愛生ちゃん…っ!!」

 校門から出たばかりの小学生たちの隣を横切り、右へ曲がる。

 そして誘拐されていないことを願いながら、近くのショッピングモールにまで漕ぐ力を強め、向かうのだが……突然目の前を一人の黒装束が現れ、道を塞いだ。

「ぅおっとと…!?」

 急いでブレーキを掛けて止まる悠喜の事を一瞥し、そのまま通り過ぎていく。そのマイペースさに不快さを覚えるものの、悠喜はすぐにペダルを漕ごうと走り出したが突然知らない手で、自転車を止められてしまう。

「は…!?」

「この乗り物が、自転車というものか。あっちじゃ見る機会すらなかったから、珍しいモン見れたぜ」

「あの! どいてください、って!!」

「触るな――!!」

 自転車を押させる手に、悠喜は手を伸ばしたが黒装束はその手を叩き落とそうと一瞬で動く。だが、その動きに悠喜は直感で理解し、横に弾き返す。

「ッ……!」

「その言葉、そっくりそのまま返す。こっちは急いでるんだ」

「赤い瞳…お前……!!」

 一人で何かを理解する彼の隣を、悠喜は無言で通り過ぎていくのだった。

 

 その姿を横目に笑いをこらえ出した黒装束は、羽織った布を投げ捨てて顔を晒す。

「王が選んだ世界は……。思っていた以上に珍しいモンで溢れて、危険な物が残ってる見てぇだ。」

 男は首を回すと、耳につけていたピアスが揺れる。

 そして先程覚えた悠喜の匂いを辿って歩き出そうとしたところで、バイクのエンジン音が甲高く響き渡った。

「見つけたぞ【ヘルフェール】!!」

「こんなタイミングでくるとは……行け!」

 黒装束は首の骨を鳴らしながら、右ポケットから数枚の銀メダルを取り出して足元にばら撒く。

 そのメダルから生まれたゾンビのような怪物は、黒塗りのバイクに跨っていた男に向かって襲いかかる。

「ゔぇァ゙あ゙あ゙ー!!」

「ッ、ふざけやがって……ェ!!」

 男は被っていたマスクを外し、座席に置きながらバイクから降りた。

 目の前に迫ってくる一体のゾンビに向け、自ら全力で走って向かって一発拳を振るう。そして顔面に直撃したゾンビは地面に叩きつけられる。

(いってぇ……)

 あまりにも勢いがよすぎたせいで手首が痛み、軽く解しながら前へ歩き出す。

「ラァッ!」

 まだ向かってくるゾンビたちに、今度は長い脚で他を巻き込んで吹き飛ばす。すると、いつの間にか後ろに回り込んでいた他のゾンビに、男は両手を掴まれて壁に押さえつけられてしまう。

「舐めるな…よォッ!!」

 彼は怒りを爆発させ、押し返す。そして跳びながら両脚を大きく開脚させ、蹴り飛ばすと地面に着地。まだ居るゾンビたちからの攻撃を回避してバイクの元へ戻る。

「コイツでぶった斬ってやる!」

 バイクに格納された次作の人工大剣を取り出し、それを担ぎながら一体、二体と次々に斬っていく。

「残りはお前らだ。」

 男は目の前の三体を見ながら剣を引きずり、思いっきり振りかざす。すると大剣が赤く染まり、目の前の三体をまとめて斬り倒した。

 焦げた匂いが鼻腔をくすぐりながらも、慣れたことは気にしない。

「逃がしたか……クソが」

 見つけた【孤独】の感情をもった怪物は、すでに逃げられてしまっていた。

 

〜〜〜

 

 一方、ショッピングモールに到着した悠喜は自転車を停めて辺りを走り回る。

 全力で駆け回ったせいか、息切れが激しい。必死に辺りを見渡したその先で、ベンチに座った少女を見つけた。

「愛生ちゃん、やっと見つけた」

「悠喜先生……」

 何処か物悲しく顔を上げた愛生に、悠喜は安堵した表情を浮かべて駆け寄る。

「ダメだよ、連絡無しにここへ来るのは。でも無事でよかったよ……」

「ごめんなさい先生…、私……学童行きたくなったの……」

「どうして……?」

「えっと、その……」

 愛生は少しアワアワしだし、悠喜は笑顔で彼女の手を取る。

「お菓子買おう! 何が好き?」

「えっ!? ……めるめるめるね…」

「あ〜、あの専用の容器と魔法の粉が入った自分で作るお菓子か! おっけいじゃあそれ買ってくるから待ってて!」

 彼女が少しでも落ち着けるように、お菓子を買おうと中へ入ってお菓子コーナーへ向かった直後。悠喜は知らない女性に声を掛けられ、振り向いた。

「城戸悠喜は、貴方ね?」

「あなたは……どこかで…?」

 悠喜の名を呼んだのは、光だった。

 そして真っ白な肌に、顔にある火傷痕を見て引っかかっていた物が解決する。

「姉ちゃんの墓参り行った帰りにいた……!」

「その時にあったかしら…、まあいいわ。悠喜、貴方に用があってね。私達と共に戦いなさい。」

 光は自前の記憶力の無さで、あの時のことは忘れてしまっていた。

 そんなことがあったかと一度首を傾げながらも、彼に目先の距離まで近づいて耳元に囁くように告げる。

「……戦う?」

「そう、詳しく話してる時間があったら組織に来てもらったほうが早い。行くわ――」

「待って待って待って、話したいならまずは俺の用事が終わってからにしてくれ。お菓子買って、生徒と話が終わった後に学童に届けたい。」

「そんな事する必要あるの? こっちはそんなことさせる時間なんてないのだけれど?」

「必要ある、あの子が笑ってくれないと姉ちゃんの夢には届かない。だから待っててくれ」

 そう言って目当てのお菓子を買いに行った悠喜の後ろ姿を見つめる光は、静かに呟いて外へでていく。

「笑顔……、お姉さんそっくりね。」

 何か引っかかるような感じが心の中で生まれる事に気づかず、長い髪を手で整えながら出入り口を出る。そしてさっきいた愛生が座っていたベンチに向かう。

 その頃悠喜は、お目当てのお菓子を見つけると1つ取ってレジへ。

「いらっしゃいませ、こちら一点で127円です」

 素っ気ない店員の声に、すぐ財布から小銭を出して支払いを終える。

「お釣りとレシートのお返しです、あざしたー」

「ありがとうございます」

 明るく返事をして、すぐに出入り口へ向かって外へ出ると二人を見つけて急いで駆け出す。その時だった。

「っ……!?」

 突然右頬に弾丸が掠り、驚いて足が止まる。何事かと悠喜は振り返った。

 同時に光はベンチから立ち上がり、愛生を守るように一歩前に出て構える。

「オレはラッキーだ。まさか、熟した獲物までいるなんてな!」

 悠喜の目線の先に立つのは首の骨を鳴らし、無骨な銃を構えている黒装束。そして決定的な証拠であった声に、悠喜はハッと声を出して指を指した。

「お前は、さっきの!」

「ハハハッ思い出したか」

「何の用だ、それにあの子にいった獲物ってなんだ……!」

 投げかけた質問に、黒装束は羽織っていた布を脱ぎ捨て勇ましい男の姿を見せて答える。

「オレたち負の感情は、王の命令で熟した感情を回収するように言われてるんだ。そんで、最初があの小娘ってわけだ。そんなもんで、大人しくお前の命と一緒に渡してもらおうか!」

「俺も……!?」

 自らを負の感情と名乗った男は、呆然と立つ悠喜の首に腕を掛けて地面にアスファルトの上に叩きつけた。

 赤い痕跡が、大きく凹んだ地面と瓦礫に飛び散る。そして意識がグラついた状態のまま、悠喜は首を掴まれて持地面と足が離れる。

「な…んで、俺をッ……!」

「お前のその瞳は、一番の邪魔者だからだよ!!」

「グハッ……」

 悠喜は支柱に向けて勢いをつけて投げられ、瓦礫と共に地面に転がる。

 強烈な痛みに体が悲鳴を上げ、動けない。だが耳に届く足音で、変に心臓が高鳴る。

「死にたく…ない……」

 それが、怯えた体の出した言葉だった。

「ハハッ! そうか、なら良い提案をしてやる。あの小娘を差し出せば、今回だけ命は助けてやる」

 醜く懇願したように見えた男は、その場で屈んでそう言った。

 その言葉は少し離れた光たちの耳にも届いており、急いで声を上げる。

「私の仲間に連絡する! だから逃げるわよッ!!」

 光の言う仲間、それは学童の駐車場で分かれた男を含めた一つの組織。だが悠喜は、その言葉を聞いた上で立ち上がって男に無力な拳で、体を殴った。

 壁のように厚く、固い。衝撃は肉体の芯まで返って歯を食いしばることしかできない。

「答えは、決まったみたいだな。自分の命を投げ捨てるなんて阿呆だなァ!」

「ぉ゙え……、ゴホッ! ゴぁェ゙ッ…」

 赤い液口から溢れ、血溜まりを作る。

 視界が歪む、相手の姿がハッキリ見えなくなってきた。

「う…ッ!」

 

 何かが頬に勢い良くぶつけられた。

 

 もう何も聞こえない、見えない。

 

(守れ……ない……、あの子の笑顔……)

 その時、ポケットから転がり落ちたお菓子に目が留まる。

 愛生のために買ったお菓子、それをまだ渡せていない。まだここから彼女を笑顔にさせられるはずだ、諦めないで立ち上がって、目の前の敵を倒せさえすれば。

 闘志が蘇った悠喜は、ハッキリとしない視界の中で立ち上がる。

「あの子たちに、手は出させない…!」

 覚悟を決めた言葉に共鳴し、瞳が赤く光る。次の瞬間、悠喜自身を中心に赤色の覇気が溢れた。

 

「「……っ!」」

 

 それに男と光は、瞳孔を大きくして固唾を飲む。

 男の首筋に冷や汗が一粒流れ、早まる鼓動に焦りが先走った。

「目障りだ、消え失せろ!」

 オーラを纏う手刀を、悠喜の右肩目掛けて振り下ろす。

「……!」

 だが、眉一つ動かすことなくその場から動かない悠喜。

 そしてそこに赤い光の玉が割り込んだ。

「なんだ…!?」

 赤い光の玉は、攻撃を悠喜から守る。その後悠喜を必死に守るように強く輝き、攻撃を弾き飛ばす。

 弾き返された攻撃に後ろへ吹き飛んだ男は、焼けたような痛みを感じて視線を落とす。そして片手が真っ黒に焦げていることに気づいて目を丸くする。

「ふざけるな……、まさか俺はまたあの力にッ…!?」

 フラッシュバックする11年前の戦い。

 あの力に敗北した瞬間を思い出し、身震いが勝手に起こる。

 

 目の前で浮かぶ赤い玉、悠喜はゆっくりと手を伸ばした。

 光が手を包むと、それは人の温もりのようで、それはまるで……家族の温もりに近い。

 そして悠喜が核を掴んだ瞬間、玉は形を変えようと燃え盛る。

「これで――」

 悠喜は脳内で流れたイメージに一度口角を上げ、強く叫んだ。

「――武装!」

 赤い闘志を表す感情が力を解放する。

 眩い光が悠喜の体を包み込み、感情の装甲を纏う戦士【セルフュリエ】へと姿を変えさせる。

 その突然の覚醒に、光は唖然としていた。

「あの力が、認めた……」

 そして装甲を完全装着した悠喜は、重量に跪いてしまう。だが低姿勢のまま顔を上げ、唸るように目の前の敵に言う。

「リベンジだ……怪物ッ!」

「…いいだろう。また痛めつけてやるっ……!」

 男は自身の皮膚を剥ぐ合図の行為を行い、人間の姿から大柄の狼へ姿を変える。

 人並み以上で、悠喜を見下ろすほどの圧倒的体格差。だが悠喜は恐れることなく足に力を入れ、構える。

 男は鋭利な爪が生えた両手同士を擦り合わせ、悠喜は今の低姿勢から胸が地面に接触するギリギリまで姿勢を落とし、跳んで殴りかかる。

 

 

 ――刹那、鼓膜を大きく震わせる遠吠えが響き渡った。

 

 

 一種の波動という形となり、悠喜が向けた拳は肉体に当たる前に弾かれる。同時に余波が周辺のガラスを粉々に砕いて散らす。

 四方八方に荒く尖った大小のガラスが落ちていく。そんな中で悠喜は次の攻撃を仕掛ける。

「ハッ!」

 相手の二の腕に生えた体毛を掴み、もう片方の手で一つの欠片を握りしめる。

 そしてそのガラスの尖った部分を、相手の二の腕に突き刺し、切り裂く。

「ぐぁああああ! っ……お前ぇ…!」

 傷口から飛んだ青い血が、白く塗られた外壁に付着。裂かれた痛みに悶絶する。

 それによって動作が遅れ、そこに悠喜が至近距離まで走り、下顎を右膝で穿つ。

 怪物の体は大きく仰け反り、続けて胴体を狙って勢い良く蹴り飛ばす。だが爪を外壁に刺して傷を一直線に残して速度を抑えていく。

「グルルルル……」

 今度はこちらの番というかのように、敵は喉を鳴らしながら外壁に刺した爪を、奥深くまで差し込んでいく。

 外壁には大きなヒビが広がっていくその光景に何かを察した悠喜は、後ろにいる二人へ逃げるようジェスチャーで伝えた。

「くらいやがれェエ!!」

 二人が逃げていく姿を途中まで見送り、敵の方へ振り返ると抉り取った外壁が迫りくる。

「くっ……、このッ!」

 両手を広げても届かない横幅瓦礫に、悠喜は両手を広げる。

 すると手に乗った瓦礫の勢いと重さに後方へ押されていく。そこで瞬時に、両足を大きく広げ、体勢を変えて受け止める。

 だがそれでも衝撃は完全には打ち消すことはできず、後ろへ押されていくばかり。

「クソッ……、こンのぉおおおッ!!」

 悠喜はヤケクソ気味に、右の外壁へ瓦礫を叩きつける。

 すると壁と瓦礫の両方が粉々に砕け、悠喜は後ろに下がって前屈みの体勢へ移る。それは目の前にいる敵を見据えるために。

「ワァ゙ゥ゙ッ゙!」

(来た…!)

 粉々になって散る破片の合間を縫うように、迫りくる狼の姿へ向かって走り出す。

「ハッ、ヤッ! タァアアッ!」

 迎え撃ちに爪を立てて来た所で、悠喜は大きい破片を即座に選び、攻撃を交わしながら相手の顔に叩きつける。

 そして投げた破片が更に砕け、それが目に破片が入った。敵の体勢が大きく反れた瞬間に悠喜は、右脚で蹴り飛ばす。

 地面を破片と共に転がる敵は、見えなくなった目を押さえてよろよろと立ち上がる。その先にいる悠喜に警戒していたからだ。

「これで決める!」

 悠喜は腰に巻かれた機械のスイッチを強く押し込む。

 そして右太ももから、右足を血液のように巡った力を溜め込み、助走を着けて低空から蹴りを叩き込んだ。

「うっ゙……!」

 一撃必殺を受けた敵は悶え、地面に屈んだままの悠喜を振り返る。

「笑ってあげようか?」

「ざけんじゃ、ねぇ……ッ! ガぁあああ!」

 たった一瞬の問答を終えた直後、狼の体が膨れ上がり、爆散した。

 欠片すらも残らない敵の最期に、変身が強制解除された悠喜はそっと振り返って鼻で笑った。

 

〜〜〜

 

 戦いが終わった後、逃げていた光が愛生を連れて戻ってくると悠喜は笑顔で駆け寄った。

「愛生ちゃん、大丈夫?」

「うん。この人が一生懸命守ってくれた」

「そっか、本当にありがとうございます」

 愛生の頭を撫でながら、隣で呆れた表情を浮かべた光に向けて感謝を述べる。

 すると光は、力強く悠喜の手を取って少し離れた所に連れていく。あまりの強引さに雑に離された後、悠喜は自身の手をほぐす。

「貴方、やっぱり私たちの所に来て。」

「…は? なんで」

 説明不足な言葉に詳細を求めだした所で光は額に手を当て、また改めていい直した。

「貴方が怪物と戦った力、それは特別な物なの。だから私たちの所で管理しないといけないの」

「でも、俺には仕事が……それに、さっきの力は消えちゃったんだ……」

 先程目覚めた力は、戦いが終わって装甲と共に姿を消してしまっていた。

 それに気づいた光は目を泳がせつつ、大きくため息をついて悠喜の隣を横切る。

「……また近いうちに会いましょう。そうね…翌日頃に。」

 そう言い残し、光はその場を立ち去っていく。

 大事な時刻の部分を聞こうと身を乗り出した悠喜だったが、何故か直感でまた会うことになると確信し、遠ざかる後ろ姿を静かに見送った。

「愛生ちゃん、学童に帰ろうか。それと……あの姿のことは、誰にも言わないでね」

「わかってるよ先生。それと、ありがとう私を守ってくれて…!」

「!!」

 愛生が安堵した笑顔を向ける。

 それに満足した気持ちと、姉の言葉が浮かんでどうしたらいいかと迷いが浮かぶ。

「……お菓子、また今度でいいかな。多分潰れちゃったと思うし」

「大丈夫だよ。早く行こう?」

「ああ」

 そういって小さい手に握られ、悠喜は自転車のことは忘れて歩いて学童へ向かう。

 その後、こっぴどく生徒と一緒に叱られることになるのだった。

 

〜〜〜

 

 悠喜が戦士として覚醒した時、映像を眺めていた【ヘルフェール】の面々。

 静まり返った空間に、王の舌打ちが静かに響くと隣りに立つ者の方をみて命令を下す。

 

「ヤツを殺せ、クローシュ」

「はい。僕にお任せください、貴方様の優秀な右腕として」

 

 男にも女にも聞こえる特徴的な声で黒いフードをから覗く青く淀んだ瞳。彼女は王の右腕”クローシュ”。

 クローシュは、一礼をして歪んだ空間へ入っていく前に保管されたケースの中から一つの負の感情を取り出してポケットに仕舞う。

 それに王プラードも、コウルも他面々も咎めることはせずに視線を移す。

「まさか、ヤツの力が復活するとは思わなんだ…。」

「音沙汰はなかったというのに、まさに運命を感じる最高の瞬ッ間ッ!」

「まあいい、ヤツ含め全ての戦士を再び狩り尽くせばいいのだからな。遊戯はこれからだ、存分に楽しませてもらおう。【センチメント】共」

 王が恐れるほどの力、それは11年前に現れた戦士。

 だが映像をみた分では、あれの程のものではないと安堵しながらも万が一を考えてしまって苛立ちが収まらない。

「必ず、殺してやる。」

 そう言って、花瓶を落とすのだった。

 

 

 

To be continued... 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。