ゲヘナでいちばんワルい奴ら   作:ふかしいも

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10_参謀たち

 頭上の蛍光灯がカタカタと小さく揺れている。

 

「……」

 

 カヨコが目だけを動かして、それを見る。これで五度目だった。おそらくは爆発音だ。本部ビルの地下収容フロアにまで届くとは、いったい何が起きているのだろうか。自分とハルカを前後に挟む風紀委員らも、それに気づいたようで不安げに顔を見合わせている。

 

 彼女らにとっても未知の事態となれば行動を起こすとすれば今が絶好だった。ちらりと背後のハルカへ視線を送る。彼女もすべて承知しているというように小さく頷く。わずかに身を低くした時、

 

「──大人しくしておいた方が身の為ですよ、カヨコさん」

 

 前方右側、エレベーターのドアが開いた。アコが姿を現した。

 

「…何の話だかわからないけど」

 

「ふふっ、とぼけなくても結構ですよ」

 

 また爆発音がした。エレベーターシャフトが近いせいだろうか、その音は今までよりよほどはっきりと聞こえた。アコも隠す気はないらしく、胸の下で両腕を組むと余裕ありげに微笑んだ。

 

「お騒がせしてごめんなさい。ちょっと本部ビルに招かれざる客が来ているようで」

 

「私たちも招いてほしいなんて言ってないけどね」

 

 カヨコが付き合ってられないとばかりに肩を上下させた。

 

「あら、嫌われちゃったようですね」

 

「安心していいよ。最初から好きでもなんでもないから」

 

「……生意気なのは相変わらずですね。ま、いいでしょう。でしたらお互い遠慮せずにお話ができそうです何よりです」

 

 アコが脇に退いてカヨコらに道を譲る。取調室までは十メートルほどしかないが、アコに見張られている以上、ここで行動を起こしたところでどうにもならない。次の機会を待つしかないかとカヨコが小さく舌打ちをした時だった。

 

 ズドーーーーーーーーンっ!!

 

 今までとは比較にならないほどの爆発音が響き渡る。地震でもあったように頭上の蛍光灯がガタガタと揺れ、明滅を繰り返してから一斉に消えた。すぐに非常用電灯が廊下の壁や床一面を薄暗い赤に染める。

 

「くっ、なにごとですか」

 

「た、たいへんでーす」

 

 後ろから微妙に気の抜けた声がした。小柄な風紀委員がバタバタと足音を鳴らして、こちらへと走ってくる。彼女はアコの傍へと駆け寄ると、サッと敬礼をしてから耳打ちをした。すると見る見る内にアコの表情が曇っていくのがカヨコにもよく見えた。

 

「本部内で爆発? ビルの正面は? まさか突破されたとでも……?」

 

「正面ではまだ交戦が続いてます。ヒナ委員長はまだ健在みたいですけど」

 

「当たり前です! 委員長が負けるなんてありえませんから」

 

「はは、バカみたい」

 

 カヨコが薄ら笑いを浮かべる。

 

「なんですって!?」

 

「心配する順番が違うんじゃない。そう、たしかにヒナは無敵。だけどヒナが出払ってる本部ビルなら何とかできる。少なくとも私ならそう考えるよ」

 

「うぐっ……!」

  

 アコは悔しげにカヨコを睨みつける。それから「ああもうっ!」と頭をかいてから、

 

「本部ビルについては私が指揮します! あなた達は便利屋の二人を牢に戻してください。尋問は事態収集の後に行います!」

 

「了解しました」

 

 アコはたった今降りたばかりのエレベーターに飛び乗った。ランプが地上へと向かっていくのを見届けてから、アコへの報告に走ってきた風紀委員がくるりと振り返った。

 

「というわけで二人には悪いけど、もう一回、独房に──」

 

 その時には既にカヨコが動き出している。前に突っ立っていた風紀委員の背中を蹴っ飛ばす。それと同時、ハルカは勢いよく肩からぶつかって後ろの風紀委員を壁に叩きつけている。あまりの早業に身構える間もなかった二人は、あっさりと打ちのめされ伸びてしまう。

 

 そしてカヨコとハルカは残る一人に躊躇なく襲いかかろうとして、

 

「待って待って待って! 違うってば私だってば!?」

 

 慌てて風紀委員が制帽を脱ぎ去ると、押し込められていた銀髪がはらりと溢れ出した。ふるふると長い髪を揺すって「くふふっ」と笑うのは便利屋68の突撃隊長、ムツキだった。

 

「ま、でも仲間まで騙せちゃうなんてムツキちゃんの変装完璧過ぎたかな」

 

「たしかに風紀委員にしてはユルいかもって思ってたけど」

 

 表情を変えずにカヨコが肩をすくめる。

 

「けど、なに?」

 

「確信はなかったから、とりあえずぶっ飛ばしてから確かめようかなって。ハルカは?」

 

「わっわわわ私は、はい……まぁやる気でした、すっ、すいませんすいません私なんかが恐れ多いことを考えて今すぐ自爆します」

 

「いや、それはいいから」とカヨコ。

 

 二人の言葉がちっとも冗談に聞こえなかったので、さすがのムツキも冷や汗をかいた。

 

「あー……ま、とにかく無事でよかったよ。二人も、それと私もね」

 

 ムツキは膝を屈めると風紀委員の懐を漁る。リングに結びつけられた鍵の束を取り出す。

 

「二人ともひとまず手錠外そっか」

 

 金属の擦れる音が鳴ってから手錠が二つ投げ捨てられる。

 

「ありがとう。それで上では何が起こってるの」

 

「外ならアルちゃんだよ。中の爆発は私。とりあえずダメージがデカそうな所に時間差でいくつか仕掛けといたの。でも、あまり時間稼げないかもだから早く逃げよう」

 

「そうだね、ヒナまで出てきてるなら社長一人に任せるのは無理があるし」

 

 両手を握って開いてを繰り返しながらにカヨコが言う。

 

「んー、助っ人呼ぶって言ってたけど。狙いが当たったんじゃないかな」

 

 ムツキが肩をすくめる。

 

「で、でも、うちにそんなの頼むお金ありましたっけ? はっ、ま、まさかアル様、わわ私なんかを救うためにまた酷い借金を……!?」

 

 あわあわとハルカが顔を青ざめさせる。それを見てムツキがおかしそうに笑った。

 

「違う違う、世の中にはお金より大事なものがある子達もいるってわけ」

 

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