ビル正面に集まった風紀委員が、あちこちでぶっ倒れている。倒れているのは人だけではない。ロータリーのあちこちでタクシーが爆発炎上し、運悪く駐機していた護送車は横転して、その腹を晒している。
まさに美食研究会の悪名に相応しい壮絶な戦いだったといえる。
だが、それでも──。
「はぁ、ほんとうに面倒」
ただ一人、ヒナだけは何一つ変わっていなかった。
対する美食研究会はといえば満身創痍といっていい。
ジュンコはヒナに返り討ちにあい地面を舐め、耐久力に優れたイズミも倒れている。とはいえイズミの場合はダメージの蓄積というよりかは「お腹が空いた」という理由で動けなくなっているだけなのだが。アカリはといえば旗色が悪くなると「そういえば用事を思い出しました☆」といって遁走した。
かろうじて戦闘可能なのはハルナ一人を残すのみだった。
「はぁ、はぁ……」
その美貌に土埃をつけて上下させる姿は、ハルナが常日頃口にする優雅とはほど遠い。
「もうお終いにしようか」
ヒナが肩紐で吊った重機関銃を腰に構える。そのヘイローが闇色に輝き、強大な力がヒナを中心にして台風のような渦を巻く。空気を構成する原子の一つひとつまでもが怖れ戦くかのようにピリピリと張り詰める。
「はぁ、はぁ……ふふっ」
だが、この絶望的状況下で、ハルナの口元に浮かんだのは紛れもない笑みだった。
「そう、これでこそですわ……美食の追求は一日にして成らず。壁は高くあってこそ、求める味わいは至高のものとなるのです」
同時、ハルナもその狙撃銃を構えて、ぴたりとヒナへと据える。そのヘイローが力強い光を取り戻す。溢れ出る神秘の光が、その銀髪を煌めかせ、苛烈な戦場にあってなお少女を一層に輝かせる。
「──実力行使でいく」
ヒナの機関銃が高音域の唸りを上げ、ついに堰を切ったように力が解き放たれる。途端、吐き出される弾丸の群れ。驟雨の如くに打ち付けるそれらが地面を抉り、木々を吹き飛ばし、転がる護送車をスクラップへと作り変えながらにハルナへと襲いかかる。
迫る絶望を前に、それでもハルナは優雅に微笑み、そのヒールを鳴らして瓦礫を踏みつけ、
「──スコヴィル値1000万級の激辛ですわ」
溢れ出す光の奔流が、怒涛の如きヒナの掃射を食い破る。一筋の光は弾幕を打ち払い、ついにヒナを真正面から捉える。翼による防御も間に合わず、ヒナは咄嗟に銃撃をやめて、かざした片腕で受け止めるしかなかった。
「くっ……!」
短い苦悶を漏らしながらにヒナの体が大きく後退る。膝を着いたわけでもなく、ましてや深刻なダメージを受けたわけでもない。それでもヒナにとって、この戦いで初めて後退だった。
凄まじい力がぶつかりあったせいで辺り一面に土埃がもうもうと立ち込めている。ヒナからはハルナの姿が見えなかった。だが、彼女の力強い気配は消えていて、すでに戦闘不能になっているのだろう。それでも言っておこうと思った。
「貴方達の思想は理解できないけど実力は認めてあげる」
その間隙を突くようにして、
──ずどーーーーーーーんっ!!
ヒナの背後で大きな爆発が起きた。
「くっ、今度はいったいなんなのよ」
次から次へと降りかかる厄介事に思わず毒づきながらヒナは振り返り、
「げ、ヒナじゃん、やっばー」
ムツキ、カヨコ、ハルカの3人が姿を現す。
「便利屋……そうか、美食研の連中も貴方たちが──」
そう言いかけたヒナが背中を突き飛ばされたようにふらついた。
いったい何がと肩越しにロータリーへと振り返る。
薄らいできた砂埃の向こうから轟くエンジン音。
美食研究会が奪ってきた給食部の四輪駆動車。
その運転席で、
「──片手でも命中させられるわ」
アルの狙撃銃の銃口からは一筋の煙が立ち上っている。
「なっ!?」
ヒナが驚きの声を挙げた一瞬後、その小さな体が爆炎に包み込まれる。