「どんなもんよっ! 一発食らわせてやったわ」
野戦配食車両の運転席で、アルがガッツポーズを決める。
「しゃっ、社長! すごいです、ふっ、風紀委員長に直撃させるなんて!」
ハルカが助手席に乗り込む。
「もーっと褒めてくれていいのよ? って今はそれより誰か運転できない!?」
「アルちゃん、なんで運転もできないのに車に乗ってるの?」
ムツキが後部座席に飛び乗る。
「ハードボイルドでしょこういうの! というか社長と呼びなさい社長と」
「私がやるから席変わって」
カヨコが請け負い、アルが後部座席に移る。すれ違いざまに「やるじゃん」と微笑む。
「うっ、うううっ、しゃ社長ぉ~~~私なんかの為に~~~」
「あったりまえじゃない、みんな私の大切な社員なんだから」
「今はいいから社長座って! 飛ばすよっ!」
カヨコがシフトレバーを動かしアクセルを踏みつける。キュッとタイヤが路面を噛んで車が走り出す。戦闘で所々がめくれたアスファルトを蹴りつけて一気にスピードに乗っていく中、
「──逃すか」
その翼を大きく広げてヒナが爆炎を吹き散らした。ヘイローの輝きにはわずかの曇りもなく、直撃を受けたことを示す数少ない証拠といえば、その衣服の砂埃だけだった。まさに無敵、ゲヘナ最強戦力の名は伊達ではない。その恐るべき威容を一目するなり、
「ななな、なっ何ですってぇー!」とアルが白目になり、
「いやーさすがのムツキちゃんもお手上げかも」とムツキが呆れ混じりに感嘆し、
「どっ、どどどどどうしましょう爆弾抱いて特攻しましょうか……!?」とハルカが対人地雷を体に巻き付け始め、
「社長! 例のBD持ってる?」
カヨコがハンドルを切りながらに叫ぶ。
「あれをヒナに投げて!」
「それよ名案よ課長!」
仲間を取り戻した今、もはや用事はない。トリニティ絡みの証拠品なんて大凶のおみくじどころではない厄ネタだ。持っているだけで狙われるならば、さっさと手放すに越したものでもない。
アルは懐からBDを取り出し高々と掲げて叫んだ。
「ヒナー! これもういらないから貴方達にあげるから~~~!」
遠くでヒナが、こちらの様子をうかがうように身構えた。
「そっちに投げるからもう好きにしてーーーーーーーー!」
その瞬間だった。
「──っ!?」
ヒナも、アルも、ムツキも、カヨコも、ハルカも、そしてようやくに立ち上がったイオリも同時に声を失う。
無理もないだろう。
なにせアルの手元でBDが木っ端微塵に砕け散ったのだから。
「「「「「「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?っ」」」」」」
全員の叫び声がまるで合唱のように重なる風紀委員会ビル正面ロータリー。そこから北に千二百ヤード離れたゲヘナ学園旧校舎5階。かつては音楽部が使用していた一室で、少女は射撃後の虚脱状態に陥っていた。だが、スコープの視界がボヤける直前、銃弾がBDを打ち砕いた場面を目にしていた。
一呼吸分の間を置いてスコープ越しの像が鮮明さを取り戻した時、そこでは便利屋68の面々が一様に大口を開けている様子が映し出されていた。間違いない。証拠は全て無へと帰したのだ。
マシロは任務の達成を確信し、傍に置いていたスマホに手を伸ばしてイチカへとメッセージを送る。
──目標を完全に破壊しました。