盗難車両は自治区の郊外へとつながるハイウェイをひた走っている。戦闘の痕跡も生々しく黄色のボディは弾痕だらけになって、ヘッドライトの片目が壊れていた。だが、幸いにも今しばらくはエンジンが急に止まりそうな兆候もなく、おそらくは便利屋68一行を遠くへと逃すくらいの頑張りは見せてくれるだろう。
「あーあ、ほんとーになんだったんだろうね今日のドタバタってばさ」
いまだ風紀委員の制服姿のムツキが、さすがに疲れた様子で深々と息をついた。
「そうだね、事務所までめちゃくちゃにされちゃったし」
的確なハンドルさばきで車を操りながらにカヨコが肩をすくめる。
「そうね、せっかく無事に逃げ延びたっていうのに……あ~あ、またしばらく公園暮らしかしらね」とアル。
「でも、アルちゃん? テントから何からふっ飛ばされちゃったけど」ムツキがリアシートへと振り返る。
「ま、待って、ということは……私たちいったいどうすれば……?」
資金がショートをして事務所を退去した時とは訳が違う。それどころかもっと悪い。野営をするにしても装備がなければ、いよいよただのホームレスである。さすがにそこまで落ちぶれた事はなかった。いよいよ一線を越えてしまったとアルが落ち込んでいると、
「で、でも、事務所がなくなったということは……もう家賃の支払いで悩まなくてもいいんでしょうか……? た、建物、こ、壊しちゃったのは風紀委員会ですし」
ハルカがおずおずといった。
途端、ハルカ以外の三人が黙り込む。カヨコとムツキは「それはそうだけど」というように顔を見合わせて続く言葉を飲み込む。つまりは「それがだからなんだ?」という訳である。ハルカも今さら自分が的はずれな発言をしたことを悟り、見る見る内に顔を青ざめさせていき、
「──そうよっ、よく気づいてくれたわ!」
ただ一人、社長だけが死中に活路を見出したとでもいわんばかりに瞳を輝かせていた。
「私たちは今日、この日に長きに渡る負債を解消したということよ! これでうちのバランスシートは劇的に改善を果たしたといって過言ではないわ。お手柄よ、ハルカ!」
カヨコ、ムツキはいわずもがな当のハルカ自身もアルがいったい何をいっているのか理解が追いつかなかった。一瞬、あえてムードを切り替えようと無茶苦茶を言っているのかと思ったが、
「さあ、疲れているところ悪いけれどカヨコひとっ走りしてちょうだい」
自信満々に腕組みをするアルの様子を見る限り、どうやら本気らしい。
「あー、一応、聞いておくけど、どこに?」
「もちろん仕事のあるところよ」
アルが不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ、心機一転、稼いで稼いで稼ぎまくるわよ! どんな悪党たちだって怯むような仕事だって華麗にやり遂げられるわ、孤高のアウトローである私たち便利屋68ならね」
他の三人が「やれやれ」と顔を見合わせて、やがて誰ともなく吹き出す。車中が大爆笑に包まれる。途切れることのない笑い声の中、アルはさっぱりわからないといいたげに目を白黒させる。
「なっ、なによ、どうしてそこで笑うのよ!?」
「くふふっ、ま、やっぱりこれでこそアルちゃんだなぁって」ムツキが笑い、
「はっ、はい、アル様はやっぱり、さ、最高のお方です!」ハルカが抱きつき、
「オーケー社長、飛ばすから掴まっててよ」カヨコがアクセルを踏む。
そうして便利屋68は走る。
多少の悪運は物ともせずに彼女らの信じる冥府魔道を──。