風紀委員会本部ビルのあちこちで復旧工事が急がれていた。内部に潜入した何者かが仕掛けた爆弾がビル内のダクトスペースに近かった事もあり、影響がフロアをまたいで広がっている。復旧作業の指揮は風紀委員長自らが陣頭に立っている。
イオリはといえば先ほどの戦闘での負傷もあり、さすがに今日は早退させられた。本人的には傷はともかく風紀委員会の中にもしかしてスパイでもいるのではないかと気が気ではないのだが、もちろん杞憂である。
アコはもちろん風紀委員会の行政官として、この度の一件の報告をヒナの名代として万魔殿議事堂まで報告に上がっていた。「貴様ら風紀委員会のせいでトリニティの極秘事項を知る機会をみすみす逃したではないかっ! キッキッキ……これはペナルティを覚悟してもらわんとなぁ」「この言わせておけばっ!?」などと毎度毎度お前らそれ飽きないのかというやり取りを繰り返している。
残るチナツだけがまともに動ける為、鰐淵アカリ以外の美食研究会の面々をそれぞれに事情聴取していた。
獅子堂イズミの聴取においては──。
「えーん、おなかすいたー」
これを繰り返すばかりだった為、聴取自体を打ち切るより他なかった。
気を取り直して赤司ジュンコの聴取においては──。
「あーあ、やっぱりヒナがいるって時点で引き返すべきだったのよねぇー。え、アカリがわたしらを奪還しにくるかって? ないわね、わざわざ燃えてる現場に戻って来る性格じゃないし。あーあ、それにしてもまたお昼食べそこねちゃった」
最後、美食研究会の首魁を取調室に望む。
黒舘ハルナは相変わらず優雅の一言に尽きる挙措で椅子に腰掛けながらやりとりに応じた。さきほどヒナの銃撃を真っ向から受けた為、額に絆創膏を張っている以外に戦闘の痕跡をうかがわせるものはない。いくつかの形式通りのやり取りを終えてから、
「では、ほんとうに便利屋68との共謀、あるいは委託契約の関係にはなかったということですね?」
チナツがもっとも知りたかったことを訊ねる。
「もちろんですわ。私たちは美食の追求にこそ重きを置いていますのよ。まさか金銭で動くと思われてはさすがに心外ですわね」
その答えを聞き出せてようやくにチナツは一息をつく。戦闘中に姿をくらませた鰐淵アカリが何を仕出かすかわからなかったが、ジュンコとの証言を合わせると、これからもう一騒動ということはなさそうだった。
ともかく今日という一日を、これ以上の大過なく過ごせるならそれに越したことはない。少し気分を変えようとチナツは眼鏡を外して、目元を揉んでから言った。
「ふぅ、わかりました。まだ聴きたいことはありますけど……ひとまず休憩にしましょう」
「では、一つリクエストさせていただいてよろしいでしょうか?」
ハルナは組んだ両手の上に顎を乗せて優雅に微笑む。
「なんでしょうか」
「ランチがまだでしたので──カツ丼を一ついただけませんこと?」