お爺さんが芝刈りに、お婆さんが川に洗濯に行くように、伊草ハルカは夜のブラックマーケットでガラクタを集めて回る。
「ふ、ふふふ、ふふふっ」
ぶつぶつと頬を染めるハルカは傍目にも明らかにヤバい。とはいえその人となりを知れば、それが誤解だと知るだろう。夜ごとあちこちに対人地雷やトラップを仕掛けて回る女の子が、ヤバいなどという形容で済むわけもないのだから。
「こ、今夜も大漁です。これで少しでも足しになれば」
彼女の所属する便利屋68の財務状況はいつだって苦しい。だが、ハルカはそれを尊敬する社長の経営手腕のせいだとは毛ほども思わない。いや、たとえば鬼方カヨコが指摘するように、もう少し出費を抑えたらという指摘は正確なのだけれど、ともかくハルカは絶対にそれはしない。
では、ハルカなりの解釈は何かといえば──すなわち自分のせいだ。
自分がゴミでクズでおまけに間抜けで、キレたらクライアントだろうが誰だろうが喧嘩を打ってビルごと爆破させるような厄介な職員だからに決まっている。ただ、そういう狂気の反面、ハルカは誰より仲間思いである。
今もまたキャッシュ不足に喘ぐ便利屋68の事務所代を工面する為に、このような自主的時間外労働を苦労とも思わないのだから。
「それにしても今夜は」
ハルカはこわごわと周囲をうかがう。
「ちょ、ちょっと静かすぎるような……?」
この辺りはトリニティとの境界に近いこともあり、何か掘り出し物を探しに来るような物見遊山気分の人間は少ない。闇の運び屋や偽造屋といったアングラのサービス業が多い事もあり本職以外、さして用事がないのだ。
とはいえ今日の静かさは異常だ。
「なにかあったんでしょうか」
そう口にした矢先、ふと闇の向こうから誰かに見られている気がした。そんな嫌な予感がして、ぶるりと身を震わせる。良い予感はたいてい思い込みでしかなく、悪い予感を思い過ごせば酷い目を見るというのがハルカが学んだこの業界第一の法だ。
一度、ぶちギレたら相手が誰であれキレまくるのがハルカだが、そのスイッチが入らない限りは大人しく、冷静な判断もできる方だった。ともかく経験則に従い、今日のガラクタ漁りを打ち切りを決めたその時だった。
「……ん、あれは?」
路面に散乱するペットボトルやコンビニ袋に混ざって一枚のBDが落ちていた。拾い上げてみる。なんのラベルもついていない。裏面にはデータがプリントされているのを示す焼き痕が見える。正体不明ながら、ともかくブランクではないらしい。
「じゃ、じゃあ今日はこれで」
リュックザックにそれを詰め込んでハルカの深夜残業は終わった。