ゲヘナでいちばんワルい奴ら   作:ふかしいも

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09_最強VS最悪

 給食部と横書きされた四輪駆動車から、少女は黒いタイツのスラリとした脚をさっそうと突き出し、ヒールを鳴らして降り立つ。長い銀髪を颯爽と振り払い黒館ハルナは、お茶会にやって来たお嬢様そのものの優雅さで会釈を送る。

 

「ごきげんよう、皆様」

 

 誰も想像すらしていなかった闖入者に、あのヒナすら目を丸くしていた。誰もが言葉を失う中、一早くにイオリが現実感覚を取り戻したのは、持ち前の特攻精神故かもしれない。

 

「なにをしに来た、美食研究会っ!」

 

 装甲車から次々に降り立つ3人の少女たちがハルナの両脇を固める。

 

「何をしに来たって言われても……ねぇ?」

 

 鰐淵アカリが小馬鹿にするような薄笑いを浮かべる。

 

「まぁ、ちょうどお昼だし」

 

 赤司ジュンコが気楽そうに頭の後ろで手を組む。

 

「うんうんっ、もちろん決まってるよねっ」

 

 獅子堂イズミが、もう我慢の限界ですとばかりにお腹を両手で抑えている。

 

「わざわざ言葉にするのもバカバカしいですが、ええ、私達、ランチに」

 

 イオリは黙り込んだ。聞き違いだろうか。でも、この前の聴力テストでもバッチリだったし、そもそもいかにも美食研究会が言いそうなことだったので、自分でも意外なほどにすんなりと受け入れられた。

 

「だったら食堂に行け。あっちだあっちー!」

 

「爆破しましたわ」

 

「……は? 何を言ってるんだ」

 

「だって信じられますかしら? 今日のランチは広島焼きという触れ込みでしたのに……出されたものはキャベツも具材もいっしょくたになっていたんですのよ」

 

「いや……え? それがなに?」

 

「それはお好み焼きです。広島焼きとはキャベツ、具材、生地がガレットのように重なっているものを指します。この両者を似ているからと言って一緒くたに語るのは、もはや食に対する冒涜というより他ありませんわね」

 

「……だから爆破を?」

 

「ご理解が早くて助かりますわ」

 

 応えるハルナの笑みはまるで天使そのもので、微塵もやましさがない。イオリもなんとなく納得しそうになったが、違う違うとかぶりを振る。てんで意味不明だった。

 

「いや待て待て! だからってどうしてうちに来る! なんでランチで風紀委員会なんだ!? おかしいだろ!?」

 

「まぁ、たしかに他にアテもあったんですけどね」とアカリが頬に手をやる。

 

「でもオープン直前に不発弾が見つかったとかでさ、新しいレストランにも行けなくなっちゃったし」とジュンコが肩を落とす。

 

「でもでもっ! こーんな書き込みを見つけっちゃったんだよね!」

 

 百点満点の笑顔でイズミが携帯をイオリに突き出した。

 

 イオリは警戒もあらわに近づいてSNS上の呟きを読み上げた。

 

「……本日正午よりゲヘナ風紀委員会本部ビルの取調室にて振る舞われるカツ丼の試食会を実施、事前の申し込み不要、千客万来……ってなんだこれ!?」

 

 思わず叫んだイオリだったが、一応、律儀に「え、こんなのあったか?」という顔で背後を振り返る。もちろん風紀委員らも困り顔で首を横に振るしかない。

 

「だよな……いや、こんなイベントやるわけないだろ! SNSに嘘を書き込む奴もバカだけど、それを真に受ける奴はもっとバカだぞ! もうちょっと常識で考えろ常識で!」

 

 イオリが乱暴にイズミの携帯を振り払った。

 

「……1つ」

 

「なんだ黒館ハルナ、なにか言ったか!? ていうかお前ら、これ以上、ここにいると公務執行妨害で全員しょっ引くぞ! どっか行け、ほら、あっち行け!」

 

「……2つ」

 

「だから、なんだそのカウントは黒館! なにか文句があるんだったらな、このアホみたいな呟きを書き込んだ奴に言え! 風紀委員会はお前らみたいなのを相手にしてるほど暇じゃないんだ」

 

「はい、これで3つですわ、イオリさん」

 

 ハルナが颯爽と銀髪をかきあげた。

 

「一度だけなら聞き間違いかもしれない。二度までなら言い間違いかもしれない。だけど、ほら、世の中、三度目の正直と言いますわよね」

 

「はあ? 何を言ってんだ、お前」

 

「この黒館ハルナ、気は長いつもりでしたが今はお腹が空いていることですし」

 

 まるで日が強いから日傘を差すというような自然さで、

 

「むしろ何が何でもカツ丼を食べたくなりましたわ」

 

 銃を抜く。

 

「いっいやいやいやバカかお前冗談じゃ済まないぞそれしたら!?」

 

「伊達や酔狂で美食の追求はできませんわ。ましてや冗談などと」

 

 その銃口がイオリを捉える。

 

「まったく心外ですわね」

 

 ──ズドンッ!

 

「ぐええええええええええええええっ!!」

 

 土手っ腹に銃弾をぶち込まれたイオリがぶっ飛んで、ジタバタと地面を掻いてもがく。

 

「あ……あたっ頭おかしいだろ、こいつらぁ、うっ……」

 

 がくり……イオリが気絶した。

 

「うあああああああああああ撃たれた! イオリさんがやられたーーー!」「狂ってる! こいつらは全員狂ってるんだーーー!」「反撃だっ! 反撃ぃーーーーーー!」「やれっ、ためらうな! このイカれた連中をなんとしてでも止めろーーー!」

 

 風紀委員らが一斉に銃を美食研究会に向けた。一斉に銃火が咲き乱れるかと思った直前、彼女らの頭上で榴弾が炸裂した。爆風に煽られて数名が吹っ飛んで倒れる中、アカリの目が怪しげに光る。

 

「ふふっ、お昼ごはんを邪魔するだなんて……ちょーっと怒ってますよ、私?」

 

 シュポシュポっと擲弾が次から次へと降り注ぐ中、ジュンコが二丁のアサルトライフルを横薙ぎに一掃射する。

 

「んじゃまぁランチ前の運動ってとこかな」

 

 あちこちで銃弾が跳ね回り、チュンチュンっとチェンソーで枝を払うような音が鳴り響く中、

 

「えーーー私もうお腹ぺこぺこなのにぃ~」

 

 涙目のイズミは腰だめに機関銃を構えてバリバリとぶっ放す。猛烈な銃火に押されて風紀委員らが「待避っ待避ーーーっ!」と叫んでビルの陰や木陰に身を隠す。風紀委員らは銃弾に追い立てられながらに思わずにはいられない。

 

 いったいどうしてこんなことになったのか。

 

 色々あるかけど、一番、端的な答えはこれだろう。

 

 彼女らこそゲヘナ最悪のテロリストと謳われる美食研究会だからである。

 

「さて、本音としては風紀委員長とはやり合いたくありませんが、しかしこれも美食の為」

 

 銃弾と爆炎、悲鳴と怒号の飛び交う戦場と化した本部ビル前で、ハルナはゆっくりとゲヘナ最強へと銃を向ける。何の躊躇いもなく、ましてや気取りもない、ごくごく当たり前といった動作だった。

 

 対するヒナはといえば混沌の渦中にあっても、あくまで悠然とした仁王立ちを崩しもせず、先程から一歩も動いてすらいなかった。

 

「一応、言っておくわ。五秒あげるから投降なさい」

 

「あら、お優しいこと」

 

 ──ズドンッ!

 

 ハルナは躊躇なしに撃った。

 

 カンっと乾いた音に続き、カラカラと寂しげな音が響く。ずいぶんと目標から離れたところでハルナの放った銃弾が路面の上でくるくると踊っている。さしものハルナもいったい何事かと目を見開いたが、しかし、すぐに察した。

 

 なんのことはない──ヒナが、その腰の翼で弾丸を弾き返しただけのことだ。

 

 ハルナが感嘆の息を漏らす。

 

「さすが委員長ですこと」

 

 対するヒナはあくまで冷たく言い放つのみ。

 

「警告はした」

 

 両者のにらみ合いはわずかのこと。

 

 ついにゲヘナ最強とゲヘナ最悪が激突に至る。

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