全員酔っぱらった結果、とんでもないことになってしまった黄金裔と開拓者の話 作:千里のみち
3.4ストーリーまでの展開を見返す
→これくらい明るい世界線があってもいいでしょ?あってください!
の気持ちで当時書いたものです。
キャラや時系列を始めとして色々とおかしい部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。
謎に満ちた惑星、オンパロス。
外からの観測は不可能とされ、その正確な場所を把握するものはごく僅か。
かつては栄華を誇った都市が点在していたというが、暗黒の潮の侵攻によって見る影もなくなってしまったという。
現在唯一残された都市、オクヘイマ。
そこに集うのは火種を追う者たち、黄金裔。
彼らは長きにわたり身命を賭して脅威を退け続け、タイタンの持つ火種を手に入れようと日夜動いている。
とはいえ、毎日戦いに明け暮れるというわけにもいかない。
いかに常人を遥かに上回る力を持つ彼らでも、休みなしでは疲労がたまるもの。
「天外からの来訪者が旅に加わりました……これも良い機会かもしれませんね」
黄金裔のリーダーを務める者の呼びかけにより、人類最後の砦となる都市の一角である酒盛りが繰り広げられることとなったのである。
「あ~もうさ、火を追う旅ってホント辛すぎ!強いやつ倒して12個の火種を全部集めろとか、ゲームじゃないんだからさ、こんな面倒くさいこと誰が考えたの?いっそその辺の焚き火の火で代用できないかな?火は火でしょ?」
「あ、相棒……ちょっと、飲みすぎじゃ……」
「飲みすぎぃ?こっちはちょっとお喋りしただけで処刑されかけたんだよ!?しかも向こうがしつこく聞いてくるから、しょうがなく答えただけなのにさぁ!キャストリスの手がすべすべじゃなかったら、丹恒をバットにして振り回そうかと思ったくらい」
「注目するのはそこなのかい?というか丹恒先生の扱いひどくないかな?」
黄金裔の一人、ファイノン。
かつて故郷を暗黒の潮に滅ぼされ、今は火を追う旅の一員として戦いを続けている青年である。
そんな彼の目の前にいるのは天外からの来訪者、星。
黄金の血を持たない身でありながら、「歳月」のタイタンに認められた異例の存在。
一見華奢な外見と裏腹に剛毅な性格は、少しずつ人々の心を動かしていた。
そんな彼女は今、グラスを片手に顔を真っ赤に染めていた。
緑色の発泡酒をなみなみと注いだグラスを、ごくごくと飲み干すと勢いよく机に叩きつける。まるでやりきれない感情が噴き出すかのように呟き始める。
「んで、処刑はなしになったと思ったらさ、今度はヌカドリーとかいう不死身でとんでもなく強い奴の本体と戦うぅ?しかも暗黒の潮の軍勢ぶっ飛ばすのとセットぉ?そりゃ私は列車の一員で、宇宙に名を馳せる銀河打者で、今までもこういう困難はいくつもあったけどさぁ、こんなの酒でも飲まないとやってらんないっての!ね~、ミュリオン?」
「ミュ!ミュミュミュー!」
「ミュリオンまでお酒を飲んじゃって……あとニカドリーだよ。ヌカドリーって何だい?」
「あん?なんだっていいじゃん、ヌカドリーでもニカドリーでも変わんないって。一文字だけなら誤差でしょ、あははははは!」
星は一転して笑い出し、グラスに新たな酒を注ぎこんだ。
こぼれるのも気にせず、満杯になった酒を構わず飲み干してしまう。列車の仲間にコーディネートしてもらったと自慢していた、お気に入りの服にまで酒の匂いが色濃く染みついていた。
おまけに視線も定まらず、今度は酒樽に向かって話し始めた。
精霊のように寄り添うミュリオンも小さな顔を酒に突っ込みながら、『ごみ箱の真理』なるものを熱弁する星の話に頷いている。ふらふらと揺れて酔いつぶれているのは明らかだった。
こんな姿、とても人には見せられない。
ファイノンが思わずため息をつくと、背後から一人の影が近づいてきた。
「大丈夫か、ファイノン」
「丹恒先生か。彼女はその、相変わらずだよ。そっちはどうだい?」
星と共に来た天外からの来訪者にして、列車の一員、丹恒。
その腕もさることながら、判断力に長けた知恵者でもある。周りの喧騒から取り残されるかのように、彼は騒ぎの中でも冷静さを保っていた。
「……こっちも変わらずだ。むしろ酒の量が増えるたびに、どんどん悪化してる。うっぷ……」
「!大丈夫かい!?」
「問題ない、少し酒気にあてられただけだ」
「いったん休んだほうがいい、一緒に外へ行こう」
咄嗟に倒れかけた丹恒にファイノンは肩を貸す。
酒で湿った衣服の感触を感じながら、ぐったりとした彼に歩調を合わせて歩き始めた。
一時間以上前から彼らの対処を一人でこなしていたことを想像すると、本当に申し訳ない。ファイノンの内の慚愧の念は膨らむ一方だった。
(どうして、こんなことに……)
慣れない暗がりから入口へと向かう中で、ファイノンはなぜこんな事態になってしまったのかを思い返していた。
――― ◇ ―――
事の始まりは数日前の、ディアディクティオによる一本の連絡だった。
「アグライアからの連絡か。……『慰労会のご案内』だって?」
日々オクヘイマを守らんと戦い続ける者たちに、疲れを労うための食事を用意しているという。
開催は数日後。既に把握していたのか、外敵に剣を振るい続ける彼にとってもちょうど予定の空いている時間だった。
星や丹恒にも同様のメッセージが届いたらしく、回答は三人とも『出席』。
どんな料理が食べられるかと目を輝かせている星と、それを抑える丹恒の姿がファイノンの記憶に残っていた。
しかし外敵はそんな事情など配慮しない。
あと数時間で開催というタイミングで、暗黒の潮の軍勢の報告があった。規模そのものは小規模で金糸で守られたオクヘイマへの影響はないものの、一時的に外部へ出ていた民を安全に届ける必要が出てきた。
そこでちょうど近隣区域で行動していたファイノンが、後で合流する旨を伝えて現場に急行することとなったのである。報告通り襲撃は小規模で、襲われかけていた数人の民もオクヘイマへの帰還途中だったのは幸いしたと言える。
「あれ、新しいメッセージ……丹恒先生からだ」
そのまま彼らを都市へ送り届け、今から向かうと連絡しようとした時のこと。丹恒からの新たなメッセージが届いていることに気づいた。
しかも文頭に緊急と付いている。予定通りなら会場へと向かっており、既に慰労会は始まっているはず。一体何があったのかと画面を開いた。
「えっと『救護は終わっているだろうか。もしこのメッセージを見ているなら会場に来てほしい。できれば今すぐ』……?」
(ちょっと遅れてしまったけど……今から行っても間に合いそうか)
あくまで食事に過ぎないはずの場で、何か起こったのだろうか。
道はすでに頭に入っている。一抹の不安を抱えながらも、ファイノンは駆け出していた。
走るのに慣れている身は、荒れている道さえ息を切らさずに駆け抜けていく。
オクヘイマの外れにあるその会場へ着くまでの間、ファイノンは走りながらも今の状況を思い返していた。
休むことなくオクヘイマの守護を担い、火を追う旅を主導する「浪漫」の火種を担う黄金裔、アグライア。
彼女の側近であり時に処刑人の役目を果たす「死」の火種を担う黄金裔、キャストリス。
絶え間なく暗黒の潮と戦い続ける戦士、「紛争」の火種を担う黄金裔、モーディス。
千年の時を駆け抜ける小さな預言の使者、「門と道」の火種を担う黄金裔、トリビー、トリアン、トリノン。
他にも神悟の樹庭の学者にしてファイノンの教師でもあったアナイクスや、昏光の庭の首席看護師であるヒアンシーも招かれているようだ。
皆が皆、火種の試練を越えて半神の身となっているわけではないものの、殆どが何らかの形で火を追う旅に触れている人選だった。
天外の情報に関わる処刑の一件もあり、黄金裔と星たちの間にはまだ十分な信頼関係が築かれているわけではなかった。
それでもアグライアが今回の呼びかけを行ったのは、状況に少し変化があったのだろう。あるいは創世の渦心の時のように慰労会を装い、来訪者の意思をいま一度確かめるための布石かもしれない。
(今すぐ来てほしい、とはどういうことだろう?ディアディクティオの様子も妙だ。何かトラブルでもあったのか?)
アグライアがその場にいる以上、よほどの事態がなければ問題は起きない。不埒な行動でも起こさない限り、処刑に至ることもないだろう。
ディアディクティオの接続不安定は気にかかるが、考え込んでいても仕方がない。
事の真相を本人の口から確かめよう。ファイノンは駆ける速度をさらに上げていった。
――― ◇◆ ―――
「丹恒先生、今着いたよ。一体何が」
「は~い!今からこの私、ライアちゃんが金糸縄跳び100回チャレンジやりま~す!応援してね~?せーの、いーち!」
「あっ、ライアちゃん1回で引っかかっちゃった!だいじょうぶ?おちゃけ飲む?」
「あたまぐるぐるして糸がたくさん見える……」
「ぎゃっはははは!さいほー女の記念すべき記録は、なんと0回でした~!けーひんはあたしだけど、没収で~す。残念でした~」
「ああ、セファリアがいなくなっちゃう……こうなったら、力づくで手に入れちゃいましょう」
「ぬわっ!?糸がたくさんで逃げられなっ、顔ちか、にゃ~っ!」
「サフェルさま、その調子です。もっとこの光景を書かなければ」
「じろじろ見てないでたしゅけ、むぐっ」
「うへへ……ほらほら久しぶりに会えたんだから、もっともっと飲もうよ~!」
咄嗟に縦横無尽に伸びた糸を避ける。彼女たちには直撃しなかったようだが、状況は混沌を極めていた。
普段の冷酷な表情からは想像もつかないほどあられもない姿で、捕らえた少女に顔を寄せるアグライア。
真っ赤になって必死に抜け出そうとしながらも体は嫌がっていない、猫を彷彿とさせるサフェル。
ぽわぽわとした雰囲気の、まるで三者三様のトリビー、トリノン、トリアン。
この場の誰より冷静そうに見えながらも、書き込まれているのはでたらめな文字と幼子のような絵だけのキャストリス。
一歩踏み出すだけで鼻を刺すような酒の匂いが漂う。酒類に詳しくはない彼でさえ、この光景が何を意味するかをすぐに理解した。
原因こそわからないが、どうやら皆酔っぱらってしまったらしい。そしてこの状況で応援要請が送られたということは。
(丹恒先生と相棒が危ない!)
黄金裔の力は凄まじい。酔いつぶれた彼らを二人では抑えきれず、助けを求めたのだろう。できる限り刺激しないよう、視界に収まらないように移動する。
(二人とも、どうか無事でいてくれ……!)
商品や飾りに傷をつけないよう細心の注意を払いながら、広々とした宴用の大部屋を駆け抜けた。
「みんな?だいじょ」
「や、やっと来てくれたか……」
「丹恒先生!?」
出入り口の傍にもたれかかっていたのは、ぼろぼろの風体になり果てた丹恒だった。
急いで駆け寄って抱き起すと、どうにか自分で動けるくらいには回復していたらしい。肩を借りて座る姿勢を整えていた。
「一体何が起こったんですか?」
「それは……見てもらった方が早いだろう」
「……まさか」
「は~い、それじゃあこれから第3回マッサージ体験はじめま~す!」
「クレムノスの王子たるもの、こんなものに負けるわけに、わぁっ!?」
「このあたりでいいのですか、師匠?」
「そうそう、そこですアナイクス!いい感じに叫んでるでしょう?星さんのほうも、えいっ」
「うぎゃぁっ、ヒアンシー様ありがとうございますぅ」
「こんな理由で冥界に送り込まないでよぉ……寂しかったのは確かだけど、送り返すの大変なんだから……」
「私のことはアナクサゴラスと……あばっ!?」
「手が止まってますよ~?一度師匠と仰いだからには、ちゃんと続けてください。イカルンと一緒にまたオシオキ……されたいんですかぁ?」
「はい、直ちに!」
「うぐぉっ!?たとえ第10胸椎を突かれようが、負けんぞ絶対にぃ!」
もしこれが夢なら、どれほど幸せだっただろう。
常日頃から接してきたファイノンにとって、目の前で繰り広げられている惨状はとても信じられなかった。
嗜虐的な笑みを浮かべ、杖でポンポンと叩くヒアンシー。
ツボを押されて恍惚の笑みを浮かべる星。
教壇での毅然とした姿とは裏腹に、かつての教え子に平伏して指を押し込むアナイクス。
負けないと叫びながらも指を押し込まれるたびに嬉しそうな表情を見せるモーディス。
車いすに乗っているキャストリスに似た女性はマッサージの餌食になっていないが、酔いつぶれてぐちぐちと呟きながら泣いている。
最初に見たアグライアたちもそうだが、視界に収めるほど恐ろしさがこみあげてくる光景だった。
一刻も早くここを離れなければ、この場にいる自分たちも同じ目に遭うだろう。
そんな恐ろしい予感を抱きながら、ファイノンは丹恒と共に笑い声に包まれた部屋からそっと距離を取った。
――― ◇◆◇ ―――
「水を持ってきたよ」
「ありがとう」
そう言うや否や奪うようにコップを取り、ごくごくと飲み干す。一気に水を飲み干した丹恒は、吐き出すように大きなため息をついた。
「すまない、急に連絡をしてしまって……救助のほうは大丈夫だったのか?」
「問題なかったよ。暴れていたのは一体だけで、オクヘイマに戻る途中で偶然会ってしまったらしい。誘導にも従ってくれて、戻った後は無事に帰れたそうだ」
「そうか……それならよかった」
安心したように丹恒は息をついた。その安堵が目の前の男だけに向けられたものではないことは、ファイノンも察している。
「それで、今回の慰労会だけど、一体何があったんだい?アグライアがお酒を飲むことだって滅多にあることじゃないのに、あんなに羽目を外すなんて……」
「……そうだな。そこの部分は書いてなかった。あの時はそれどころじゃなかったからな……」
丹恒は一瞬目を伏せると、ばつの悪そうな顔になる。
何か恐ろしいことがあったのだろうか。戦場で数多の敵を切り伏せてきた筈の彼は無意識に息を呑んでいた。
「結論から言うと、今回の事態の原因は星だ。本当に、申し訳ないことをした」
「相棒が?そんな謝るなんて、一体何があったんだい?」
「……すべての始まりは慰労会で酒が出た時だったんだ」
丹恒の口から語られたのは、ファイノンが来るまでの慰労会の状況だった。
最初は本当に平穏な食事会だったらしい。
ヒアンシーに誘われて仕方なく来たアナイクスが不機嫌そうだったり、アグライアが密かに値踏みするような視線を向けたり、キャストリスが一定の距離を保って食事していたことはあったが、特に騒ぎが起こることもなく、互いを知り疲れを癒すための慰労会だったという。
変化が起こったのは始まって数十分がたった頃のことだった。
慰労会という名目上、テーブルに並ぶのは料理だけでなく酒類も数多く並べられていた。
「ソーダ、フルーツジュース、ビール……様々な場所から取り寄せたらしくて全ては覚えていない。それを見た星が何を血迷ったのか、ドリンクを混ぜ合わせた何かを作ったんだ」
「混ぜる?ちょっと待ってくれ。複数の飲み物を混ぜるのが天外流の飲み方なのかい?」
「いや、全く違う。断じて違う。むしろ遊びやいたずらで出てくるような奇抜なやり方で、飲み物はそれぞれの味を楽しむものだ」
丹恒は強く首を横に振って続けた。
あろうことか星はその奇妙な飲料を皆にも勧めようとした。
混ざったはずのそれがメーレと瓜二つの見た目であることはかえって不気味で、アグライアはキャストリスに距離を詰めるよう指示しかけ、トリビーですら遠慮がちに拒否の姿勢を取ったのだと。
結局、飲んだのは不満そうな星だけだったが、そこで変化が起こった。
なんと三口飲んだだけで盛大に酔っぱらってしまったのだという。その場にあった酒はそこまで度が高くなかったにもかかわらず。
「なんだか意外だね。相棒は、そんなに酒が弱かったのかい?」
「いや、耐性はある。かつて訪れた星でのことだが、夢の中とはいえ何杯も飲んでおきながらケロッとしていたからな。……ああ、夢と言っても特殊なもので、現実の状態を精巧に反映させるものだ。だから、酒に対する強さも現実とそこまで差はないはずだ」
「にもかかわらず酔ってしまったって?混ぜ合わせの力、ということかな」
「……正直な話、俺にも不可解な現象だ。とにかく酔ってしまった後から事がややこしくなったんだ」
深々と溜息をつくとともに、丹恒は続けた。
浮かれた星は酔いに任せて、誰彼構わず自作ドリンクを飲ませようとし始めた。
あまりの押しの強さにモーディスさえたじろいでしまい、アナイクスも思わず受け取ってしまったと。
その流れでアグライアにも絡んでいたようだが相手にされなかったという。不服そうに頬を膨らませてどこかへ行こうとしていたのだが。
「その時、一瞬風が吹いたような気がするんだ」
「風、だって?」
「ああ。目にもとまらぬ速さで通り過ぎるような……ほんの一瞬だからはっきりとは分からない。その後にアグライアがグラスを取って飲んだら、様子がおかしくなったんだ」
一瞬の風。
尋常ではない速さの何か。
(まさかそれは、先ほど弄ばれていた……)
当たってほしくない嫌な予感が、ファイノンの頭の中をよぎっていた。
「下を向いたままだからトリビーが心配していると、急に顔を上げて『全員、これを飲みなさい』と据わった目になっていたんだ。おまけに金糸まで延びて全員が拘束され、たっぷりとあのドリンクが俺たちの中に注がれた。この現象は、星がアグライアのグラスをすり替えていたとしか思えん。これほどまで事態が悪化するのを止められず、本当にすまない、ファイノン」
「……」
「俺はどういうわけか、飲んだ後も平気だった。だが他の者たちは皆、ご覧の有様だ。なぜか途中から『セファリア』という名の参加者が増えていたり、キャストリスが近づいても死の力の影響がなかったり……どうしたんだ?」
「すまない。恐らくだが……犯人は相棒というより、サフェル姉さんだ」
「何だって?サフェルとは一体誰のことなんだ?」
一人で真相に気づいていたら、今頃頭を抱えていたに違いない。
混乱する丹恒にファイノンは彼女について説明した。
「詭術」のタイタン・ザグレウスの神権を受け継ぐ黄金裔、サフェル。
文字通り目にもとまらぬ速さで大地を駆け抜ける力を持つ。ファイノン自身は彼女との深い親交は持っていないものの、アグライアやトリビー達とは古くからの知り合いだという。
なぜかオクヘイマには姿を現そうとしないが、この店は都市の外れにあるため、こっそり来てみたのかもしれない。
(もしかして、トリビー先生が密かに誘っていたのか?)
いずれにしてもほんの悪戯のつもりが、まさかこんな事態になるとは本人も想像していなかったのだろう。
糸に縛られながらアグライアに抱き着かれていた姿を思い浮かべていた。
「……認識できないほどのスピード。なるほど、だから風が吹いたように感じたのか。だが、最初にドリンクを作ったのは星だ。謝ることはない」
「だとしてもここまでの被害になることはなかったはずだ。僕たちにも責任はある」
確かに星が作ったとはいえ、それが広がる原因を作ったのは彼女ではない。今は酔いつぶれているから忘れるかもしれないし、いくら先達とはいえ次に会ったときはきちんと言っておかなければならない。
小さく聞こえてくる甘い声にファイノンは溜息を付きたくなっていた。
「それでこの後はどうするんだい?何とかして酔い覚ましを取りに行こうか?」
「もう試したが、効き目は無かった。解毒剤を作ろうにも肝心の医師があの姿ではな……」
毒物扱いしていることを流しながら先程の部屋をのぞき込むと、役者が変わったのか、今度は星がアナイクス先生のマッサージをしていた。
ヒアンシーは机に座ったまま見下ろすように指示を出し、モーディスは車いすの女性の相談に乗っている。
杖先が飛んで喜んでいるのは気のせいだと信じたい。かつて減点と共に指導された姿を思い浮かべると涙が浮かんでくるのを感じていた。
「あの様子では、当分ダメそうだね」
「酒気が抜けるまでひたすら我慢するしかない。それまで俺たちは……」
「あ~、ファイちゃんだ!来てたなら、おちえなさい!」
聞き慣れた声に背筋が凍る。
ゆっくりと振り向くと、そこにいたのはリンゴのように顔を赤く染め、ニヤニヤと笑みを浮かべながらコップを二つ持っているトリビーだった。
「ファイちゃんの分も、もってきてあげたわよ。ほらほら、のみなちゃい。ぐいっと」
「そ、そんな……すみませんが僕は」
「とちうえのゆーことがきけないって!?ファイちゃん、いつからおとなになったのかちら?」
「いや、僕はとっくに大人ですよ。先生も呂律が回ってないじゃないですか」
「あたちからすればみ~んな、ちびっこなのよ。みてこのからだ。こんなちっちゃなからだで、1000さいのおばーちゃん、なん、だか、ら……」
ふにゃりと笑って倒れそうになったのを近くにいた丹恒が抱える。やはりこの酔いは小さい体には厳しかったのかもしれない。
彼女をゆっくりできる場所へ運ぶとして、皆の注目が向く前に早くこの場を脱さなければ。ファイノンがそう決めた直後のことだった。
「おや、ファイたんじゃないですか~。たんたんもいたんですね~」
後ろに倒れていた星たちを引き連れ、扉の前にいたのはヒアンシー。
甲斐甲斐しく患者の手当てをする普段の姿からは想像もつかないほどの威圧感。
丹恒もトリビーに捕まってすぐには動けない。彼をおいて一人で逃げる選択肢は、救世主と呼ばれる彼には存在しなかった。
「3人を相手にするのは物足りなかったんです。せっかくだからマッサージ、二人も受けてみましょう?ね?」
人々を癒すための杖が、まるで首を刈り取る刃のように揺らいでいた。
ここまでのあらすじ
アグライア「宴会を開きます」
星「特製ドリンク完成!」
サフェル「すりかえちゃおっと♪」
アグライア「うぃ~、全員飲みなさい」
ヒアンシー「マッサージするから跪いてください、ね?」
モーディス「なぜ激痛と共に快感が走るんだ?」
ボリュシア「不思議な力で呼ばれたら、酔っぱらいしかいない……現世ってコワイ」
ファイノン「な ん だ こ れ は」
後編は明日投稿。