全員酔っぱらった結果、とんでもないことになってしまった黄金裔と開拓者の話   作:千里のみち

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後編からはファイノン視点です。
相変わらず、無茶苦茶な展開になっています。


後編

 

「ううっ、やっと外の景色が……」

 

「このお店、廊下が長いからね。今のうちに休んでおこう。ゆっくりで大丈夫だよ」

 

 

 ヒアンシーたちの念入りなマッサージ。トリビー先生たちの絡み酒。そして相棒を始めとして酔っぱらったみんなへの対応。

 三大試練からどうにか抜け出した僕たち二人は、店の外で休憩することになった。

 

 相棒がマッサージを手掛けたときは力加減が分からないのか妙に痛かった。

 ヒアンシーがするときはそうでもないのだから、経験の有無は大きいのだと実感させられる。指を押し込む前にペシペシ叩かないでほしかったけれど。

 

 先生たちがひたすら酒を勧めてくるのも大変だった。飲まないと脅されたり、泣き落としをされたりして、結局何杯も飲まされてしまった。

 どうやらその酒は開拓者が作ったものではなく、先生が真似て作ったものらしい。ジュースが多めだったおかげで、酔い潰れずに済んだのは幸いだった。

 

 それと、キャストリスは先生の頬をもちもちと触っているのは本当だった。

 あれは大丈夫なのか慌てて聞いて見たら本当に何ともないそうだ。これも相棒の作ったドリンクの力なのか……?

 

 少しふらつく頭で考えていると、丹恒先生が口元を抑えていることに気づいた。

 慌てて駆け寄ると、なぜか制止される。

 

 

「すまない……ちょっと、茂みに行ってくる。少ししたら戻るから、心配は無用だ」

 

「……分かった」

 

 

 青い顔をした丹恒先生を見送る。

 今にも吐きそうな表情だった。しばらく邪魔をしない方がいいだろう。

 

 

(……うぅ、そういう僕も結構きついかな)

 

 

 一瞬足がふらついたのを、ヘリオスを杖代わりにして支える。

 意識はまだしっかりあるけれど、この後も皆の介抱に戻ったらお酒を飲まされるのだ。酔っぱらったトリビー先生が3人がかりで飲ませてくるから逃げられない。

 

 

(何より、今度こそ相棒特製のドリンクを飲むことになるかもしれない。あの惨状を見れば何が起きることか……)

 

 

 そう思って剣を下ろし、座ろうと思った時だった。

 

 

「!?」

 

 

 右からの一閃。

 咄嗟に避けた後には深々と斬撃の跡が残っていた。慌てて剣を構え、前方の人影を見据える。

 

 黒い外套に仮面を備えた、異形の風体の剣士がそこに立っていた。

 

 

「……火種を、渡せ……再起動せねば……火種を……」

 

 

 うわごとのように繰り返される言葉だけで、その狙いを察するのは容易だった。黄金裔がが一挙に集まったこの機会を逃すまいと、彼はここへやってきたのだろう。

 しかしオクヘイマ周辺は金糸が守っているはずだ。今までだって入ってこれなかったのに、どうして今日になって現れた?

 

 

(まさか、酔っぱらったせいで金糸の力が弱まっているのか!?)

 

 

 一筋の冷や汗が流れる。そうだとしたら状況は最悪だ。

 もし突破された場所から暗黒の潮の侵攻が始まれば、オクヘイマは危険に晒される。いやそれ以前に、この剣士は確実にこの家に突貫して皆の命を奪うに違いない。

 

 

(……落ち着け。まだ、手はあるはずだ)

 

 

 やるべきことは二つ。

 まずは黒衣の剣士を足止めし、この店に入らせない。

 そして同時にアグライアへ連絡して、金糸の結界を直してもらう。

 

 正直、どちらも望みは薄い。一目見てわかる、油断のない殺気。僕一人で相手をするのはあまりにも不利な相手だ。

 今もこっそり緊急メッセージを送っているけれど、あの有様からして気づくかどうか怪しいと言わざるを得ない。

 

 そんな思考の隙を突かれたのか、先に動いたのは奴の方だった。

 

 

「……火種を……」

 

「分身か!?」

 

 

 奴の姿が揺らいだ瞬間、店に向かって猛進する。

 僕が酔っているのか、本当に分身しているのか。あわてて剣を振ろうとするけれど腕がもつれてしまう。まずい、間に合わない!

 

 

(しまっ……仮にも扉が一瞬で)

 

 

 突撃が店の扉を粉々に砕き、黒い影が煙の向こうに消えていく。何としても皆の元へたどり着かせるわけにはいかない。

 まどろみを必死に振り切りながら、僕は必死でその後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

              ――― ◇ ―――

 

 

 

 

 

 

 

 僕は奴のことを甘く見ていたのだと、はっきりと思い知るまでに時間はかからなかった。

 曲がりなりにも慰労会をアグライアが企画していただけあって、金糸は廊下にも張られている。

 サフェル姉さんならともかく、それ以外の人間が金糸を無視して進むのは困難だ。

 

 

(これなら時間は稼げるはず――え?)

 

 

 そんな僕の思考は、奴の剣が糸を切り裂く姿に断ち切られた。暗黒の潮やタイタンの眷属を阻み、オクヘイマの守護を担うはずの糸が簡単に切られてしまった。

 想像したくはなかったけど、やはりアグライアは酔いつぶれている可能性が高い。

 

 

「これ以上は!」

 

「……」

 

 

 何とか追いついてヘリオスで背後から切ろうとした。でも簡単に受け止められ、蹴り飛ばされる。

 壁にぶつかった拍子に喉の奥から押し寄せるのは、飲まされた酒の数々。しかも吐き終わるまでろくに動けない。

 その間に奴はどんどん進んでいくものだから、急いで追いかけてもう一撃。でも分かっていたかのように受け止められ、躱され、また吹き飛ばされて吐く。この繰り返し。

 奴は何ともなさそうなのに、僕は吐く度に酒の臭いと悪寒が押し寄せて気分は最悪だ。

 

 そしてこの繰り返しは最悪の形で終わろうとしていた。

 扉の前に何重にも張られた糸が、剣の一振りではらはらと床に落ちる。

 

 

(まずい、その扉を破られたらアグライアたちが目の前に!)

 

 

 金の意匠が凝らされた木製の扉は黒衣の剣士を止めるにはあまりにも心許ない。

 伝わってくる喧騒と甘ったるい空気は変わっておらず、どう考えても警戒しているとは思えない状況だった。

 

 

(うっ……また吐き気が)

 

 

 何度も殴られ、蹴り飛ばされた体はボロボロだ。踏み出そうとしても中々足に力が入らない。

 

 

「……寄越せ……再起動せねば……」

 

 

 ついに奴が扉を破り、僕が何度目かの叫びを上げようとしていた―――その瞬間。

 

 

 

「88、89、90……あと10回で合格だ、101!」

 

「アナイクス、なわとびで引っかっちゃだめよ?こんどやったら本で100回たたきゅからね?」

 

「なんで誰もアナクサゴラスと呼んでくれないんですかぁ、もう足がつって動けません……」

 

「ぎゃっ、そこはダメ!すごく凝ってるんですさいきん!元老院のタコどもがうるさくてストレスがたまりすぎてるんですうぅぅぅ!?」

 

「にゃっふふふ、やられた分はやりかえさないとねぇ……ほれ、ここをぐっと」

 

「ぼくもやっちゃお!ほれ、もういっぱ~つ!」

 

「みんなその調子ですよ~、うまくできた子には特別なマッサージ、してあげますね……?」

 

「あっはははっ、見てお姉ちゃん!あの人ねこみた~い!」

 

「なんだか抱き着きたくなってしまいました……トリノンさまもいっしょに失礼を」

 

「むぎゅ……ぽかぽかあったかい……」

 

 

 絶句した。

 変わってないと思ったけど、少し目を離した隙によくなるどころか、さらに悪化していた。

 乱雑に散らかった酒瓶、端に積まれた机と椅子。むせかえるような酒の匂い。

 町の店でこんなことをしたら一発で追い出されそうな惨状だった。

 別の意味で惨状を作ろうとしたであろう黒衣の剣士さえ、呆然と立ち尽くしている。

 

 

(……!今がチャンスだ!)

 

 

 足に力はどうにか入って、奴の背中にヘリオスとともに飛び込む。

 外套を翻して迎え撃とうとするけれど、もう遅い。

 

 奴の体のど真ん中を剣先が貫く。意外なほど軽くて、驚くほど重い。

 あと一撃加えればきっととどめを刺せる。そう思った瞬間のことだった。

 

 

「……再創世は、為されてはならない……」

 

 

 三日月の形をした剣が彼を傷つけるとともに、黄金の傷口から大量の何かが流れ出す。

 それはまっすぐに僕めがけて押し寄せ、僕の意識を飲み込んでいく。

 

 

(なんだ、これ、は)

 

 

 鉄墓の計画。

 黄金裔と再創世の真実。

 繰り返された時間。

 受け継がれてきた宿命。

 

 

 先程までの酔いなど、可愛いもの。

 一秒にも満たない瞬きするほどの時間で、流し込まれた情報と力が体中を駆け巡る。

 感情も知識も頭の中をぐるぐるとめぐり、いつまでも止まらない。

 

 いつの間にか、奴の姿は消滅していた。

 託すべきものは託した以上、後は僕の番ということだ。

 

 理屈では理解できる。僕のやるべきことも、やらなければならないことも。

 でも今は、今だけは待ってほしかった。

 

 

(うっ……きもち、わるい)

 

 

 多少吐いたとはいえ、そもそも僕の中の酔いが消えているわけじゃないのに。

 外にいる丹恒先生ほどじゃないけど、ゆっくり休みたいくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

              ――― ◇◆ ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ファイちゃ~ん、おかえり。いっちょにのむ?」

 

「帰ったか救世主よ、お前も縄跳びをやらないか?あっちむいてホイでもいいぞ?中々に奥が深くてな、いっそこれを試練にしてもいいかもしれん」

 

 

 この状況で使命を託される。

 まるでおなか一杯になった直後に、モーディスと本気の決闘をするようなものだ。

 とてもじゃないけれど体も心も追い付くはずがない。

 

 

「ぼーやぁ?聞こえてる~?お~い?」

 

「サフェルさま、手を止めないでください……」

 

 

 これから皆にどんな顔をして会えばいいのだろう。

 頭の中の運命をどれだけ否定しようとも、終末のタイムリミットは確実に迫っている。

 いつかは彼らをこの手にかけなければならないのは、受け継いだ記憶から知っているのだ。

 

 

(繰り返す度に僕は、何食わぬ顔で彼らを騙し続けるのか?何度も繰り返すうちに、それに慣れてしまうというのか?)

 

 

「ヒアンシー様が聞いてるのに、ぜんぜん返事しないとはいいどきょーですね?オシオキでも……あれ、グレーたん?」

 

「ふふふ、これにて完成。名付けて『壊滅的おいしさのミックスドリンク』!これを飲ませれば誰でもいちころだよ!」

 

「その、名前は変えた方がいいのでは……」

 

 

 さっきからざわざわしているけど、何を言っているのか見えないし聞こえない。

 今はどこか一人になれる場所に行かないと。そう思っていると急に顔を持ち上げられた。

 

 

「……ん?あいぼ」

 

「それじゃあ私とファイノンの二人でいっきま~す!ルールは?」

 

「「「やぶるためにある~!」」」

 

「!?」

 

 

 朧げな視界で、大きなグラスに入った緑色の何かを流し込まれていた。

 舌で感じる味はめちゃくちゃ、甘くて辛くて酸っぱくて苦くて。

 頭を無理やり壊された挙句、素手で思いっきりかき回されるような、気の狂いそうな感覚だった。

 まずい、体の中から何かが出てきそうだ。出てきてはならない何かがあったはずだが、もう何が何だかわからない。

 

 

「ぐぁあぁあああぁあっ!」

 

「このあじすごすぎ……って、ファイノン!?翼が生えて髪も金色だし、なんか変身してない!?かっこいいんだけど!」

 

「……これも、ドリンクの力かな?」

 

「ホントに?特許取れるかな、私天才かも」

 

 

 断言していい。まったくもってそんなことはない。

 最悪だ。集められた火種の力が、こともあろうにお酒一つで解放されてしまうなんて。

 

 

(もう、選択肢は一つしか)

 

 

 こうなったら僕はもう自分を制御できる自信がない。今はどうにか皆を焼き尽くさないよう抑えてるけど、いつ漏れ出してもおかしくないんだ。そうなる前に、僕は皆を―――。

 

 

「じゃあもっと飲んだらパワーアップするかな?なんか私もすっごい力が湧いてくるんだけど!ほら、一緒に飲んで飲んで~?」

 

「なにを、むぐぐ……」

 

「あ、ミュリオンも飲む?まだあるから、一緒にのも~」

 

 

 完全に目が据わった相棒の手でまたあれを流し込まれる。この謎の飲み物、何で蒸発すらしないんだ?

 混濁した味が渦巻いて、なんだか目の前の景色があやふやになっていく。

 

 

(なんでこんな目に合うんだ?)

 

 

 目の前で絡み酒に及ぶ相棒を見ているとだんだん腹が立ってきた。

 周りのことなど知ったことか。何とかして吐き出さないと、あふれ出るこの感情は収まらない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

              ――― ◇◆◇ ―――

 

 

 

 

 

 

 

 考えているうちにいつの間にか誰もいなくなっていた。

 気配を追うと外にいるらしい。

 

 

「第2回ホームラン勝負!私に勝てる人はいるかな~?」

 

「私の魂を狙い撃つ一撃で、記録を追い越してみせましょう!」

 

「ホームランなんだから銃は禁止では?」

 

「常識にとらわれてはだめなのですキャストリス。どんなものでも再構築すれば……あがっ!」

 

 

 言葉にもならない喧騒が聞こえてくる。

 外にいるなら遠慮は不要か。思いっきりやらせてもらおう。

 

 

「それにしても、この光るボールは何かしら?」

 

「わかんない、なんかドリンク飲んだ後に色んな火種?の力を感じてさ。それを集めてお団子みたいに握ったらできたんだよね~。すっごい綺麗で、球拾いに行かなくて済むの便利だから、今度練習につかおっかな」

 

 

「私も一杯……はぁ、セイレンスとケリュドラもいてくれれば……」

 

「ほんと~、セイレンス姉さんならグレっちに一泡吹かせることができたってのに」

 

 

 目標はすべての元凶、鉄墓だ。

 無駄だと笑うなら笑えばいい。酔いつぶれた愚か者というならそれでもいい。

 とにかく今は思いっきり吐き出さないと気が済まない。

 

 

「私も一緒に投げるわ!ロマンチックな投球にしたいもの」

 

「あは~、気のせい?ミュリオンが人間みたいに見えるよ~?妖精の時はピンクだったのに、顔真っ赤じゃ~ん」

 

「何でもいい!この俺が今度こそ、記録を抜いてみせる。来い!」

 

「それじゃ手を重ねて、一緒に行くよミュリオン!それっ!」

 

 

 その手に宿した剣に怒りが、憎しみがこもる。

 燃え滾る肉体が一秒後の爆発に備えている。

 

 

「そこだ!」

 

「今こそ、星々を焼き尽くす曙光をもたらそう!」

 

 

 遥かなる過去からの宣言とともに、僕は天に向かって羽ばたいた。

 

 

「クリーンヒット!」

 

「どんどん伸びてくじゃん!やるねぇ」

 

「……あれはファイノンか?ボールと同じ方角だが、どこに向かって飛んでいる?」

 

「飛べるようになったから空中散歩してんじゃない?凄いスピードだけど」

 

「あ。さっきの光るボール、ファイノン様の剣に引っかかりましたね」

 

「ホームランってボールが飛んでいるときのきょりだけど、あれって記録にいれるのかちら」

 

「だったらノーカンだよ!それならボクの打った球が鳥に持ってかれた時も記録越えなんだから!」

 

「どうしたんですか、開拓者?そんなに記録を抜かれたことがショックですか?」

 

「先生、自分が勝てなかったからってそんなに喜ばなくても……」

 

「……なんか今、空の向こうで誰かに笑われた気がする」

 

「えっ?」

 

「よく分かんないけどすっごくムカついてきたから、一発投げてくる。ヒトミュリオンもやろうよ!」

 

「その名前可愛くないから、キュレネって呼んでほしいんだけど……でも賛成ね!一緒に投げましょ」

 

「よ~しキュレネ、それじゃあ行くよ?3、2、1……ゼロ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、今回はずいぶんと動くのが速いことで」

 

 

 元老院とも創世の渦心とも違う何処か。

 鉄墓の情報をより詳細に収集、観察できるその場所にライコスはいた。

 

 

「それにしても、せっかく掴みかけた僅かな光を自らの手で見逃し、滅びの道を歩むとは……」

 

「もっとも、あの程度の存在を味方に引き入れたところで計算に影響はありませんが」

 

 

 答える者はおらず、二本足で立つのはただ一人だけ。

 それでも常時の振る舞いが出てしまったのか、舞台役者のように踊る。

 

 永劫回帰の初期に繰り返されたセプターへの攻撃はすべて失敗に終わっている。

 かつてのファイノン自身もその無力さを理解し、自らが変数になるのをあきらめたというのに、またそれを試すつもりなのか。

 そして待ち望んだ変数が来たというのに、あろうことか酔いつぶれて正常な判断を捨てたと来た。

 

 懸念材料でもあった外部因子の波紋。

 その可能性を彼自らの手で阻害してくれるのなら、勿怪の幸い―――。

 その思考を打ち切らせたのは一つの映像だった。

 

 

「……ん?何です、剣に付随したあの光は」

 

「後ろから2つの球状の力も追いかけてきている?その方向、まさか」

 

 

 その瞬間、観測記録は光に飲み込まれた。その後に移るものは何もない。

 オンパロスを観測できるはずのそれが急に停止するのはあり得ない。何が起こったのか、鉄墓への影響は。

 嫌な予感を押し殺すように手を動かし、計測結果が表示された。

 

 

『鉄墓の損傷率:100% 修復不能』

 

「……え?」

 

 

 あまりにも唐突で理不尽としか言いようのない計画の破綻に、知恵の行人は呆然とするほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

              ――― ◇◆◇◆ ―――

 

 

 

 

 

 

 

「……頭が痛い」

 

 

 天からの光に目を覚ます。

 鳥がさえずり、木々がざわめく。そよ風を肌で感じられる。

 

 なんだか酷くすっきりした気分だ。いつ以来だろう、こんな気持ちで目を覚ますのは。

 寝転んだままでは体に良くない。いつものように、ゆっくりと身を起こした。

 

 

(どういうことだ?思い出そう、昨日何があったか……)

 

 

 酒を何度も飲まされたせいで記憶が曖昧だ。

 それでも何とか思い出せるところだけでも。

 

 オクヘイマ近郊に救援へ向かって、すぐに民を送り届けた。

 そうしたら丹恒先生からのメッセージを受けて、急いで向かったら慰労会が宴会になっていた。

 酔った皆の相手をしているうちに、僕もお酒を飲まされて……。

 

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 

 とても、とても懐かしい声がする。

 かつての僕が時を繰り返す中で失ってきた、あの声。

 

 

「……まさか、君、なのか?」

 

 

 声の聞こえた方に振り返る。

 少し離れた場所に座る、襤褸切れをまとった一人の少女。彼女が成長したらきっとこんな姿になっただろう。

 幾度となくその死を見届けてきた彼女が、今生きて目の前にいる。

 

 

「あなたと、あの子たちのおかげよ。打ち込まれた一撃によってオンパロスを、私たちを取り巻いていた因果は断ち切られた。失われたものは戻ってきたの」

 

「……キュレネ!」

 

 

 気づけば僕は走り出していた。剣さえも放り捨て、瓦礫を踏みつける痛みさえも感じない。

 するとキュレネは目を細めて、こう言った。

 

 

「喜ぶのは嬉しいわ、でも、その前に自分の姿を見た方がいいんじゃない?」

 

「……えっ?」

 

 

 下を向いて自分の体を見る。

 シャツも、ズボンも、下着も、靴もない。つまるところ、今の僕は全裸だった。

 思わずキュレネの顔を見返す。向けられる青い眼差しは生暖かいものが混ざっているような気がした。

 

 

「あなたは戻ってきたときにここに墜落したんだけど、その余波でみんなの服が燃えちゃったのよ。ここにはいないけれど、他の皆も裸で、アグライアが起きるのを待ってるわ。さっき戻ってきた丹恒はずっと森にいたから無事だし、連絡を取っている所ね。なんだか角が生えてたけど」

 

「……」

 

「とりあえず、これでも着てね。物語の終わりが『衛兵に捕まる』だなんて、ちょっと残念でしょ?」

 

 

 ……恥ずかしさに身を震わせながら、僕はキュレネの差し出した襤褸切れを受け取るのだった。

 

 

 





開拓者が投げた光球はPVに映っていた例のアレ。
3.5組と3.6組は執筆時点で情報が無さすぎて、ほとんど出番なしになってしまいました。
本当に申し訳ない。

あのPVでハッピーエンドになることを願いながら、次のバージョンを待つことにします。



おまけ
アグライア:普段から政治のストレスをため込んでいたせいか、一番酔っていた人。サフェルのすり替えには気づいたが、毒物はないから対処可能と考えていた。起きたのは一番最後で、応急処置で皆の服を用意した。

トリビー、トリノン、トリアン:頭脳は大人でも体は子供なので酔いやすかった。トリビーは絡み酒、トリノンは寝落ち、トリアンは盛り上げ役と、普段とあんまり変わらない。

モーディス:周りが酔うのを見てちょっとまずいかと思ったが、挑発されてグイっと飲み干した。幼少期に縁のなかった遊びにはまり込んでしまい、酔いから冷めた後に樹庭で本を借りようかと考えている。

アナイクス:弟子に誘われて飲んだらとんでもない目にあった人。恥ずかしさで死にそうになっていたが、丹恒と一緒にいる大地獣を見てハイテンションに。

キャストリス:よく分からないものを飲んだら、よく分からないうちに他者と触れられるようになって、よく分からないまま妹に再会できた人。取っていたメモは誰にも見られないように隠した。

ヒアンシー:飲ませたらヤバい人。酔っている間のことはすべて忘れている。

サフェル:ほんのいたずらのつもりが大惨事を招いてしまった人。千歳だけどもうお嫁にいけないと泣いている。

セイレンス、ケリュドラ:復活した人。アグライアに預けていた思い出の品がまさか開拓者の光球に影響するとは思っていなかった。ターミネーターよろしく裸で復活だったので、真っ先に服を着させられた。

長夜月:出番なし。何処かからこの結末を見て唖然としているかもしれない。

丹恒:気分が悪くなって休んでいると、空へ向かって飛んでいく光を見た。何とか体調がよくなったところで謎の大地獣と遭遇、いつの間にか姿が変わっていた。

開拓者(星):例のドリンクは姫子のレシピをヴェルトのものと間違えて覚えたものを改良(大嘘)したもの。オンパロスに伝わる材料と悪魔合体した結果、一口で誰でも酔うナニカが出来上がった。

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