星に願いを   作:ハレル家

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第0章『その男、"アイ"に生きる者』
ファーストキスは土の味


 "地球空洞説"

 かつて、とある学者が提唱した説の一つ。

 最初は誰も信じられず、否定されて闇に消えていった……それから長い月日が経ち、突如として現れた獣人――界人との交流により、その説が真実へと裏返った。

 界人により語られた真実に多くの人間が心を震わせ、界人も人間の世界に心を震わせ、異文化交流による平和条約を締結した。

 それから数百年に近い月日が流れ……交流により発展した文化の非日常な日常を謳歌する世界で、とある運命の歯車が動き出したのだった……

 

 

 

 

「……ここですね」

 

 一人の女性が身の丈ある程の戦鎚(ハンマー)を構えながら、周囲を見渡している。

 そこは岩壁や木の板などが置かれ、半ば放置状態となって空き地となった広場である。

 

「最近、怪しい人影を見たと報告が多く、巡回探索を依頼されていた現場ですね……特に怪しい所は無いようですね」

 

 女性の手には身の丈ある大きく長い戦鎚(ハンマー)を杖をつくように歩きながら、周囲に怪しい物がないか目を見張る。地面をつく度に戦鎚の石突が地面を突き刺して小さな丸い跡を残すぐらい重い戦鎚を女性は拾った木の棒のように片手で軽く持っていた。

 

「うぅ、まさか罰としてここに来るなんて……しかし、これまでの事を考えると、温情なのでしょうか……」

 

 ……いや、訂正が一つある。その女性は普通とはかけ離れていた。

 黒紫の長髪に菫色の瞳、戦鎚に負けない高い身長、成熟した体に黒い学生服のような隊服を着ており、服越しからでも彼女の豊満なボディラインがわかる。

 しかし、それ以上に目が映る部分は彼女の腰から蛸のような触手が四本蠢き、周囲を警戒するように揺らめいていた。

 

 界人――過酷な環境を生き抜く為に独自の進化を遂げた種族。体の一部に角や尻尾、翼などの特徴を持つ者や全身が獣人のような姿をしているのが確認され動物の特徴を持つ種族と確認されており、一部では『狼男や河童、吸血鬼などの人外は彼らだったのではないのか?』という仮説が建てられている。

 

 触手は彼女の意思を読み取って動き、立てかけられた木の板や大きな岩に巻き付いて持ち上げ、彼女の探索を手伝っている。

 

「だ、大丈夫なハズです……今は昼ですし、まだ人工太陽が昇ってるんです……そう簡単に問題は……」

 

 今のところ異常がない事を確認し、自分を奮い立たせて次の目的地に移動しようとした瞬間、何かを破壊したような大きな破砕音が周囲に響き渡った。

 

「はわっ!?」

 

 突然の音に驚く女性。一瞬だけ手放した戦鎚を素早く掴んで、音の方へ構える。彼女の周囲を蠢いていた触手も、彼女と同じ方向に触手の先端を向ける。

 

「……」

 

 あまりに不自然な破壊音。

 間違いなく人為的な要因がなければ発生しない音に緊張が高まる……女性は最悪の場合を頭に思い浮かびながら、大きく深呼吸する。

 

「……大丈夫……私も界拓者なんです……落ち着いて……」

 

 自分に言い聞かせて鼓舞する女性。戦鎚を構え直し、ゆっくりと音の方へ近付く……耳を澄ますと呼吸音が聞こえ、犯人が現場にまだいる事を確認し、彼女は物影から一気に飛び出した。

 

「動かないでください! その場に伏せて、大人しく手を挙げてください!!」

 

 大声と共に戦鎚を構え、呼吸音の主に降伏を促す。

 しかし、目の前の存在に彼女は言葉を失った。

 

 それは、紛う事なき変態だった。

 

 その人物は先ず股間の逸物に相当する部分に白鳥の首がそびえ立ち、バレリーナのような白いフリルが目立つドレスのスカートが凶悪に反り返った白鳥の首に持ち上げられ、男物のトランクスが丸見えになっている。

 白鳥の首によって意味の無い絶対領域を強調する様に黒いニーソックスを身に付けた足元で一歩足を踏み出す毎にプギュプギュと愛らしい音を鳴らすのは、可愛らしくデフォルメされたカエルの微笑みがトレードマークのスリッパ。

 上半身は筋骨隆々の体のせいかピッチピチでコルセットとドレスの上半身部分が今にも弾け飛んで破けそうなぐらい悲鳴を上げていた。左手に極太のズッキーニを逆手に持ち、右手には鼻血を流して気絶する男性の髪を掴んでおり、男性の鼻血が垂れ落ちる場所には何かで強く叩きつけられた跡があり、目の前の存在に叩き潰された事が容易に想像できた。近くの壁には褐色金髪の化粧がケバい女性が歯を絶えずカタカタと鳴らしながら恐怖に震えていた。

 なにより、件の存在の頭部は頭陀袋(ずだぶくろ)を頭からすっぽり被っており、目と思われる部分には覗き穴が空けられて青い瞳が戦鎚の女性を見つめるも顔や表情がわからない不気味さを漂わせる。

 

「…………」

「…………」

 

 どう控えめに表現しても変態(バケモン)が其処に居た。

 

「へ、変態だァァァァァァ!!」

「誤解だ! 俺は変態なんかじゃない! 強いて言うなら、紳士という名の――」

 

 変態(おとこ)が何かを言い終える前に女性は手に持っていた戦鎚で変態の脇腹を目掛けて振り抜いた。プロ野球選手も拍手喝采(スタンディングオベーション)する程の腰の入った力強いフルスイングは狙い通り変態の脇腹を真芯に捉え、変態を上空に打ち上げた。

 打ち上げられた変態は狂ったようにぐるぐる乱回転しながら宙を舞い踊り、その勢いと様子は高熱のアスファルトの上でのたうち回るミミズを彷彿させた。

 しかし、変態もタダでは転ばなかった。

 女性に打ち上げられた変態の視界はスローモーションよろしく遅く流れていた……感情が揺さぶられるような極限状態によって過去の記憶が次々と脳裏に映る現象――走馬灯に陥っていた。

 走馬灯で過去の記憶が脳裏に映るのは、一説によると現状を打開する策を見つける為に流れるそうだが……変態の脳裏には過去の記憶の代わりに別のモノが映っていた。

 

 黒紫の艶やかな長髪。

 物憂げな表情が似合う端正な顔に菫色の瞳。

 スイングによる慣性で揺れる巨乳(オッパイ)

 引き締まった(ウエスト)

 腰から生えている蛸の触手と触手で見え隠れする(ヒップ)

 しっかりと肩幅に開いた健康的な足。

 

 ……あぁ、美人だ……

 

 変態は、女性に見惚れていた。

 女性の姿を目に焼き付けるのに集中しすぎて、迫る地面に気付かないまま顔面から無様に地面に着地した。着地の際に首から鈍い音が響き、少しずつ意識が遠くなる。

 変態は慌てた様子の女性を視界に入れながら、ゆっくりと暗くなる視界に身を預ける。薄くなる意識の中で変態は気付いた事を思い出した。

 

 ……初めてのキス、土の味だったな……

 

 どうでもいい事を思いながら、変態は意識を手放した。




 始まりとして問題ないな、よし!!(白目)
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