星に願いを   作:ハレル家

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 やりたい事が多すぎて、文章が長くなってしまう……っ!!


主人がオオアリクイに襲われて一年

 

 この世界では、様々な世界が幾重にも重なっている。

 

 "界層(かいそう)"

 まるで地層のように南国の海や火山地帯、ジャングルや南極のような氷雪など環境が重なり合い、上か下の界層を移動すれば異世界に訪れたような環境の変わりように目を疑う。

 一つ進めば草原、一つ進めば大海原、一つ進めば樹海。

 多くの者達はその世界に魅入られ、界拓者として果て無き道を進んでいく。

 

 

 

 

 大衆食堂"ありあわせ"

 一界層で女店主である人間の女性が営業している飲食店。客層を界人に絞り、零界層の料理を提供する方針と店主の人懐こさで程々の人気を得た……現在は昼のラッシュが終わったばかりなのか客が少ない。

 いや、正確にはとある席を敬遠している……最初は人間連れの二人組に注意をしようとしたが、滲み出る負のオーラが『触れるな』と言わんばかりの圧で周囲の客達が視線を逸らしたり、関わりたくないのか他愛ない話で知らぬ存ぜぬを通そうとしてる。

 

 そんな空気の中でタコの界人――キャトル・アルデバランは目の前の大男に辟易していた。

 大男の服装はブーツ風の黒い安全靴に黄土色のカーゴパンツ、黒のシンプルな無地のシャツ、膝裏まである丈の長いオリーブ色のモッズコートの背中に"愛"の一文字が黒の達筆で大きく書かれていた。

 そして、一番注目を集めたのは――

 

『……ひっくッ……ぐずっ……ううぅぅ……』

 

 ――頭部を隠すかのように頭陀袋を頭からすっぽり被った状態で机にうつ伏せのまま男泣きしている。

 何を隠そう、目の前の大男こそがキャトルが戦鎚(ハンマー)で打ち上げた変態である。

 あの後、気絶した彼が目を覚ました頃を見計らって彼を拘束した状態で一通り事情聴取をして、別の場所で報告を纏めたくて近くの店に入った……人間お断りの看板に気付かず入店してしまったのは、早く腰を下ろしたかった彼女の焦燥感が起こしたミスである。

 

「……あの、その……元気、出してください紡生(つむぎ)さん……金を巻き上げられる前で良かったじゃないですか……」

 

 机でうつ伏せになって涙を流す大男――紡生イチヤにキャトルは慰めの言葉をかける……そう、あの現場で男女が変態に襲われていたが、実は加害者と被害者の立場は逆だったのだ。

 経緯は便利屋として活動していた(イチヤ)の元に一通の依頼が届いた。依頼内容は『ストーカーの退治』と書かれており、彼はストーカーの執着心を利用して『変態が彼女を尾行している』噂を軽く流し、一目で変態だとわかる服装で待ち伏せしていた。

 しかし、真実は彼の評判を(はずかし)める為に用意した罠で、変態的な格好をしたイチヤを男女の二人組は写真や映像を撮って、さらにボコボコにして陥れようと棍棒型のデザイアを片手に襲った……だが、予想外だったのは彼の戦闘力が二人を軽々と凌駕していた事だ。

 男を瞬時に返り討ちにして気絶させ、女に事情を聞こうとした時にキャトルが乱入し、イチヤをハンマーで衝動的に打ち上げてしまった。気絶したイチヤを心配するキャトルの隙を見て、男女は一目散に逃げていった……その際にスマホを落とした事に気付かず、それを拾ったキャトルが中を確認して事情を理解したのだった。

 

「男性と女性のスマホから証拠となる映像や写真、計画的犯行となるメモも確認されたので……慣れた手口や保存された複数のデータから初犯では無いようなので……その、だから……」

 

 攻撃した事を謝ったとはいえ、騙された事に精神的なダメージで落ち込むイチヤに、キャトルは掛ける言葉を必死に手繰り寄せようとした。

 

「そ、そういえば、お怪我は大丈夫ですか? 衝動的とは言え、打ち上げてしまいましたが……」

「……あぁ、大丈夫……昔から体が頑丈なのが取り柄だし……心は傷だらけだけど……」

「……あう……」

 

 うっかり心の傷に触ってしまった事に及び腰になるキャトル。それでも、励まそうと言葉を探して、イチヤを元気づけようとする。

 

「そ、そういえば、この一界層で何をしてたんですか?」

「……便利屋だ……高校に入ったけど会わなくて問題起こしてやめてしまって、心機一転したけど……閑古鳥が鳴いてる……」

「だ、大丈夫ですよ。出会いは……その……まだあると思いますし……」

「今日を含めて二十三回目だ。フラレたり、騙されたり……俺なんて人間の女性が不釣り合いなんだ。雌ゴリラと付き合えばいいんだ……」

「……は、はわわわ……」

 

 より一層深くなった負のオーラに言葉をなくすキャトル……自虐に走るイチヤを尻目に周囲に助けを求めようとするも全員が関わりたくなくて視線を逸らし、くだらない話に夢中な様に演じ始める……唯一、此方を見ていた女店主には無言で首を左右に振られた。

 助け舟が来ない状況に頭を抱えるキャトル。

 

「あれ? キャトルじゃん」

 

 しかし、神は彼女を見捨てなかった。

 キャトルに声をかけたのは黒と黄色の縦縞の長髪、小柄な体格だが少し大きめの衣服を着ているせいか少し大きめの萌え袖になっており、人魚のような下半身をした車椅子に乗った少女だった。

 

「こんな所で何してんだよ」

「ア、アスランドさん……助けて、ください……!!」

「そんな嵐の夜で道に迷ってたら一軒家を見つけたような表情して……ん? 知らない人?」

「……誰だよ?」

 

 車椅子の少女――リオ・アスランドはキャトルの表情にツッコミを入れながらも、頭陀袋の大男に自己紹介する。

 

「ハロハロ〜、こんにちは。リオ・アスランドって言います。エンゼルフィッシュって言ってもマイナーすぎて分かんないでしょうから、とにかく人魚型の界人とだけ覚えておいてください。下半身がこんなんなので色々迷惑かけると思います……困難だけに。まぁ、気楽に接してください。よろしく!」

「好き」

「ド直球に即答するんじゃないよ……あれ? その声って紡生くんじゃん」

 

 自己紹介の返しが告白にツッコミをいれると、聞き覚えのある声だったのかリオはイチヤに呆れた視線を向けた。

 

「知り合いですか?」

「便利屋に依頼したことあってさ、料理の腕はイマイチだけど接客は上手いから雇ったことあるの……前はカボチャ頭だったから、わからなかったよ」

「イマイチってのは何だよ。イマイチって……接客は実家が関係あるけどよ……」

「実家ってことは、何か飲食店でも経営しているのですか?」

 

 リオの紹介に不服があるのか軽く言い返すイチヤ。イチヤの反応にキャトルが興味を示して質問する。

 

「……せ、セクハラ」

「なんで!?」

 

 予想だにしない返答に驚くキャトル。その様子にリオはイチヤに指摘する。

 

「というより、親に黙って便利屋やるより実家の手伝いした方がよくない? 学校から近いし稼ぎもいいはずでしょ?」

「いやぁ、家に帰り辛くて……ここで稼いで自立出来てることをアピールしたら、多少は目を瞑ってくれるかなって……」

「火に油を注ぐ行為にならない? 知り合いからホームレスよろしく広場で野宿してるって聞いてるよ」

 

 イチヤの反論にリオは呆れた様子を見せるが、キャトルは何かが引っかかったのかイチヤに質問する。

 

「……あの、つかぬ事をお聞きしますが……便利屋を始めたのは何時ですか?」

「たしか……数週間前ぐらいだな」

 

 イチヤの解答にキャトルは必死で思い出そうと考え始める……そして、自分が罰として巡回探索を依頼された場所は怪しい人影を見た事を思い出し、怪しい人影が最初に出た日付を照らし合わせると、ちょうどイチヤが野宿した日付と重なった。

 つまり、そこから導き出される答えに辿り着いたキャトルはゆっくりと顔を天井の方を見上げる。キャトルの行動に疑問符を浮かべるリオとイチヤ。

 

「…………」

 

 瞬間、キャトルの顔面はうつ伏せに倒れて机に激突した。

 目の前の大男(イチヤ)が人影の犯人である事に気付き、行き場のない感情が渦巻いた結果である。

 

「キャトル!? 急に机に頭ぶつけてどうしたの!? 何か思い出した!?」

「どうした!? 悩み事か? 今なら元カレのデストロイを率先して行う便利屋ツムギが力になるぞ!」

「……御心配なく、大丈夫です……」

 

 心配そうに声をかける二人にキャトルは苦笑いで答え、今回の報告をどうすべきか悩み始める。

 

「はい。お待ちだよ」

 

 ふと、横から料理が運ばれてきた。

 視線を向けると様子見していた女店主が美味しそうな匂いを放つ料理を持っていた。

 

「す、すみません。あの、私は注文していないのですが……」

「気にしなさんな。大方、コイツが迷惑かけたんだろ? 代金はコイツのツケにしとくよ」

 

 注文していない事に謝りながら料理を下げてもらおうと声を掛けるも、女店主は色々と察したのかキャトルに苦労人を見るような目で見ながら料理の支払いをイチヤに押し付けた。

 

「店主さん!? いくらなんでも、いきなりすぎだろ! 男らしくてステキだから清い付き合いから始めませんか!!」

「……いや、君もいきなりすぎない? 一瞬だけ告白した事実に思考が止まったんだけど?」

 

 ドサクサに紛れて告白するイチヤに呆れるリオ。その様子に女店主は笑いながら一蹴した。

 

「残念だね! アタシは彼氏がデキたから無理さね!!」

 

 沈黙。

 女店主から出た言葉に周囲の客が固まり、キャトル達も予想だにしない言葉に固まった。

 

『『『カ、カレシィィィィィ!?』』』

 

 次の瞬間、店が揺れた。

 

「あ、コレは秘密にしとけって弟に言われてたんだった……忘れといてくれ」

 

『いやいやいや、無理無理無理だって!?』

『衝撃すぎて脳破壊されたから忘れねぇよぉ!!』

『ウソだ……僕をだまそうとしてる……あっ……頭が……』

『俺達のマドンナを奪うなんて……チクショウメェ!!』

 

 女店主を狙っていたであろう客の界人は狼狽えており、冷静さを持っている者が少ない事を見るに意外と人気があったようだ。

 

「うわぁ……阿鼻叫喚」

「そ、その、どんな方ですか?」

「セイウチの界人でねぇ。ふくよかでプヨプヨな腹部にイチコロさね!」

「こっちはこっちで恋バナ始めてるよ……」

 

 もはや無法地帯になりつつある周囲に遠目で見つめるリオ。ふと、隣にいるイチヤが静かである事に気付き、気絶してるんじゃないかと視線を向ける。

 イチヤは気絶しておらず、むしろ眩しいモノを見るかのようにキャトルと恋バナしている女店主を微笑みながら見ていた。

 リオの視線に気付いたのか、イチヤがリオに声を掛ける。

 

「……どうした?」

「いや、てっきり寝言みたいなアホな事を言うと思ったら、言わないんだなって」

「とりあえず俺をどんな風に見てるか気になるんだが……まぁいいか」

 

 財布から数枚の千円札を取り出し、机に置いて立ち上がるイチヤ。

 

「どっか行くのか?」

「おう! これから午後に依頼人と待ち合わせしてるから向かうんだ」

「やめとけよ。どうせ騙されてる」

「騙されてる前提で言うのやめてくれるか!? それに今回は大丈夫だ!」

 

 仕事に行くのだというイチヤに無駄骨だと助言するリオ。イチヤはそんな彼女の言葉を否定しつつ、大丈夫である根拠を話し始めた。

 

「主人がオオアリクイに襲われて1年が過ぎた事を憂いてる未亡人が依頼人だ……親身になって助けに行かないとダメだろ!!」

「それ、一昔に流行ったアリクイスパムじゃね?」

 

 迷惑(スパム)メールの中でも一二を誇るトンチキな内容に似た依頼を本気で信じ、颯爽と去っていく目の前の男の姿にリオは二重の意味で心配そうに見送った。

 

「あれ? 紡生さんは?」

「午後に依頼あるから先に行ったよ……止めた方がよかった?」

「いえ、調書は書けたので報告するだけです……リオさん、夕方から予定は空いてますか? 店主さんが人手が欲しいと言ってるのですが……」

「生憎だけどパス。今日は定休日だけど食堂の仕込みがあるから」

 

 恋バナから戻って彼が去った事に気付いたキャトルはリオに女店主から頼まれた事を伝えると、リオ自身も食堂の手伝いがあるからと断った。

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