姿形が変わったモディオに警戒するイチヤとキャトル。見たことない黒い
「……ぐぁ!!」
しかし、イチヤは瞬きをした瞬間、距離を一気に詰められ、モディオに蹴り飛ばされてしまった。
「
「余所見してる場合か?」
大きく蹴り飛ばされたイチヤを心配するキャトルだが、その隙を狙ってモディオはキャトルに襲いかかる。攻撃を避け、バイクを渾身の力で叩きつけるが、力に耐えきれずバイクは自壊した。
「……流石に効くなぁ……馬鹿力女ァ!!」
「きゃっ!?」
背中から生えた四本の足の一本による刺突を繰り出すモディオ。キャトルは右肩に赤い線ができるも攻撃を紙一重に避け、モディオから距離を離して
拾い上げようと手を伸ばし、そのまま地面に倒れてしまった。
「……!?」
「攻撃の際、毒を撃ち込ませてもらった……お前は一番厄介だからな……ククク……」
自分の体の異常に驚くキャトルにモディオは先程キャトルに攻撃した爪から、紫色の液体を垂らしながら近付いていく。
動こうとするキャトルだが、体が痺れて力が出ない事に焦る。モディオはそんなキャトルを見て、優越感に浸っているのか下卑た笑いを溢した。
「そこで待っていろよ……オレの計画を邪魔した慰謝料として、その無駄に育った体で楽しませてもらうからよぉ……ヒヒヒ……泣いてもやめないからなぁ」
黒い情欲に満ちた言葉と瞳に恐怖から青褪めるキャトル。毒で動かない自分に震え始め、その様子にモディオはさらに笑みを深める。
ふと、モディオの腰に誰かが抱きついた。
「どっせい!!」
イチヤのジャーマンスープレックスがモディオの頭部を地面に叩きつける。当たりどころによるが常人なら一撃で気絶する威力に、決まったと思ったイチヤ。
「また不意打ちか……芸が無いな」
しかし、モディオの背中から生えた四本の足が地面に突き刺さっており、上手く決まらなかった事をイチヤに告げた。足の一本がイチヤの
「そこで待ってろ……アイツを嬲り殺した後、たっぷりと楽しんでやるよ」
動けないキャトルに言い残してキャトルの体を糸で拘束し、立とうとするイチヤに四本の足から小さく固めた糸を機関銃のように射出する。
「おらおら、どうしたぁ!! 余裕がないようだなぁ!!」
「調子に乗りやがって……」
乱射するモディオ。弾丸の雨に近付けず逃げるしかできないイチヤだが、急に引っ張られて体勢が崩れてしまう。引っ張られた方を見ると、体に糸が付着していた。
「げっ!?」
「こっち来いよ!!」
モディオが引っ張ると、イチヤは釣り竿で釣られた魚のごとく勢いよく引き寄せられ、身動きができない空中でモディオにボディブローを叩き込まれた。
「げばぁ!!」
「はは、クリーンヒットだなぁ!!」
「紡生さん!!」
鋭利な鉤爪もあって小さくない傷と出血するイチヤ。逃げられないように糸が付着したままイチヤを殴り続けるモディオ。一方的に殴られ続けるイチヤの姿に心配するキャトルが声を上げる。
「げほぉ! ごぼ、ごほ!!」
「無理するなよ……殴った感じだと肋骨が肺に刺さったハズだ」
胸に深く突き刺さった一撃から自身の体の中から折れる音が聞こえ、吐血と同時に呼吸がしにくくなるイチヤ。
それでも諦めないイチヤの様子にモディオは冷めた感覚になる。
「……あー……飽きた」
突然のモディオの言葉に呆然とするイチヤとキャトル。モディオは動けないキャトルの方へ振り向き、呟いた。
「嗜好を変えるか……こいつの前で楽しむとするか」
その言葉に、二人は思考が止まった。
「女の悲鳴を聞き、無力な自分に嘆く……さぞ楽しいだろうなぁ」
モディオの言葉に全身が嫌悪感に襲われ、歯をガチガチと恐怖から鳴らして震えるキャトル……その様子に嗜虐的な笑みを浮かべて歩み寄ろうとするモディオだが、イチヤがモディオの背中にある足を掴んだ。
「……ざぁ、ぜる、がよ」
「……ちっ、しらけさせてんじゃねぇよ!!」
骨が肺に突き刺さった故か上手く喋れないが、捻り出すようにモディオを止めるイチヤ。その様子に苛立ちから振り向きざまに右腕の鉤爪による刺突を繰り出すモディオ。全身が怪我と疲労による満身創痍で反応できなかったイチヤは、無防備に胸を貫かれた。
月明かりに照らされ、モディオの腕がイチヤの胸を貫かれた光景にキャトルは目を大きく見開いた。
「紡生さん! 紡生さん!!」
「……ふん。大人しくしていれば、死なずにすんだのに……」
現実を受け入れられず、イチヤに声をかけ続けるキャトル。キャトルの声に反応しないイチヤに一瞥し、モディオはキャトルの方へ歩み寄ろうとした。
「……がぁ!? こ、いつ……!!」
しかし、進もうとした瞬間、モディオは後ろから首を絞められる。
額の赤い目で見れば、胸を貫かれたハズのイチヤが自身に
「……こいつ……死に損ないが!! とっととくたばれ!!」
四本の足がイチヤの背中に突き刺さる。何度も突き刺され背中から出血するが、それでもイチヤはモディオの拘束を解かなかった。
「もういい! もういいです!! イチヤさん、これ以上はアナタが……!!」
「この、いい加減に、しろぉ!!」
突き刺した四本の足をイチヤの背中から抜かず、そのまま横に動かして引き裂いた。
血と肉が飛び散る中、イチヤの意識は煙のように薄れていった。
■□■□■□■□
……ここは、どこだ?
イチヤが意識を取り戻すと、周囲が夜のように暗く、白い道の上に立っていた事に気付いた。
……オレ、もしかして……そうなのか……女の子にモテたかったなぁ……
冷静に思い出し、ここが死後の道だと理解して嘆くイチヤ。顔を触ると頭陀袋も被ってる事に気付いて親切なのかそうでないのか呆れる。
すると道が白く光りだし、前方の道が二つに分岐した。分岐した道の先には門があり、門はテレビ画面の様に向こう側が映し出されていた。
……ここが死後の道なら、天国か、地獄か……
片方の道には翼の生えた女性が大勢待ち、温かな陽光と風が吹いて、平和だと確信できる。
片方の道には蝙蝠の翼が生えた女性が鞭を片手に亡者である男を叩いていた。
……俺にとっちゃ、どっちも天国だな……ん?
女性が好きな自分にとって、どっちを選んでも損はない事を理解するイチヤ。どちらを選ぼうか悩んでいると、天国と地獄の間に見知らぬ門がある事に気付いた。
その門には、虚ろな目で力なく横たわる自分とゴミを見るような目で睨む蜘蛛男になったモディオ、そして自分の名を呼びながら涙を流すキャトルの姿が映し出されていた。
……好きな道を選べって、ことか……
天国へ続く道は平坦で楽である。
地獄へ続く道は山道のように険しいが歩けない訳では無い。
キャトルが映し出されていた門は無数の棘と高熱による熱気が漂っており、行く事は困難だとわかる。
……こんなの、一択しかないな……
ため息をこぼし、イチヤは自身が進む道に足を踏み入れた。
キャトルが映し出されていた門へ続く道へ。
……熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
踏み出した途端、肉を焼く高熱と肺を焼く熱気が彼を襲う。足に無数の棘が突き刺さり、地面からの高熱が棘にも伝わり、イチヤの体に深く刺さって内部の骨や肉を焼く。
……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
一歩。一歩。進むごとに激痛が襲い、彼の心を容赦なく折りにくるが、イチヤは歩みを止めない。しかし精神は無事ではなく、あまりの激痛に幻聴が聞こえ、イチヤは独り言を呟くように答える。
『ーー、ーーーーーーーー』
……そうだよ!! こんな道よりも、女の子が大勢待ってそうな、天国みたいな道を選びたかった!! 例え無理でも、こんな道を選ぶぐらいなら、地獄でも仕方ないと笑って妥協もできた!!
後悔を嘆きながら進むイチヤ。道が血で赤く染まり、指は熱に焼かれすぎて黒く炭化しかけている。
……でも無理だ! オレは、知ってしまった!!
『ーーー、ーーーーーー』
それでも、彼は進む。一歩、また一歩、その姿は痛々しくも見えるが、彼は目の前の門に映るキャトルから目を離さずに進む。
……
先程より熱が強く、棘が鋭くなる。足以外にも腕や顔、胴体にも熱を持った棘は彼を傷付けていく。
……だったら、この道を進むしかない。例え否定されようとも、無駄だと
ついに門の前に辿り着き、イチヤは門を押し開けようと触れ、硬く閉ざされた門を押し続ける。
……なにより、モテる人間ってのは……
暫く硬直していたが、門が少しずつ開き始める。ラストスパートに力を込めて前に進む。
……自分の想いを貫き通す人間のことだろ!!
ついに門が開かれ、イチヤは門の中に足を踏み入れた。
『ーーーーーーーー、ーーー』
……え……?
だが、門の中に足を踏み入れた瞬間、イチヤは深い闇の中に落ちていった。誰かに言われたような感覚を最後に、イチヤの意識は遠のいていく。
深い暗闇に溶け込む
■□■□■□■□
「……ようやく、くたばったか」
虚ろな目で横たわるイチヤの姿に、ようやく安堵するモディオ。無意識にイチヤに絞められた首を擦る。
……意識を失ってなお、俺の首を絞め落とす事をやめなかった……本当に人間か分からねぇ奴だったな……
死にかけの体で息絶える直前まで自分を本気で仕留めようとしたイチヤに薄ら寒い感覚を覚えながら、キャトルの方へ振り向く。
「さて、楽しみと……」
……あれ? 俺は何をしようとしてた?
キャトルと近付こうとしたモディオだが、ふと自分が何の為にイチヤを殺したのか忘れてしまう。何とか思い出そうと考え始め……ようやく思い出した。
……たしか……そうだ。たしか
強い飢餓感に襲われ、舌なめずりしながらゆっくりとキャトル近付き始める。キャトルは迫りくる蜘蛛の怪物を前に諦め、虚ろな目と表情で見つめていた。
……あぁ、ウマソウダナァ……
その姿に食欲を刺激されたのか、口からよだれを大量に溢しながらゆっくりと獲物を追い詰めるように近付く。
……ア……?
ふと、キャトルの表情に変化が訪れた。
最初は大きく目を見開き固まっていたが、徐々に泣きそうな顔をし、涙を流し始める……モディオが奇妙に思ったのは、その表情に喜びと安堵の色が混ざっていた。
……ナンダ、ソノヒョウジョウハ……?
理解できない変化に戸惑うモディオ。すると後ろから土を踏みしめる音が聞こえた。
……ウシロニ、ダレカ……!?
モディオは振り向き、その人物に驚愕した。
「……」
そこにいたのは、自分が殺したハズのイチヤが、立っていた。
……ナンデ、なんで、生きてやがる……!?
自らの手で命を奪った感覚を覚えているがゆえに、立っているイチヤに理解できない。貫かれたハズの胸は何故か塞がっているが、全身の傷口から血を流して満身創痍である。疲労困憊なのは一目でわかるのに、立っていることが不思議なイチヤにモディオは言いようのない感情に襲われる。
「く、クソが!! また送ってやるよ!!」
それでも振り切り、背中の足をイチヤの塞がった胸に目掛けて刺突を繰り出す。心臓の位置に突き刺さる勢いの一撃は、満身創痍である彼に避ける力さえ残っていない。
だが、その攻撃は金属音と共に弾かれた。
……金属音だと!?
彼の姿から隠し持つ事は不可能だと驚愕するモディオ。イチヤの胸からゆっくりと浮かび上がるかのように
「……
イチヤの体から現れた願望機はチャンピオンベルトよろしく左肩から斜め掛けされており、中央部には星遺物の装填スロットが設けられている。表面には複雑な回路模様が刻まれており、微かに青白い光を放っていた。
さらにイチヤの掌が光輝き、光が収束するとピンポン玉より少し大きめの白い球――星遺物が彼の手に握られていた。
「……白い……星遺物……」
キャトルは見たこともない星遺物に呟き、しかし黒い星遺物と違い見てて安心感を覚えた。
イチヤはいつの間にか握り締めていた白い星遺物を願望機の中央にある装填口に押し入れた。白い星遺物は吸着するようにピッタリと入り、同時に願望機から静かなベースの音が流れ始めた。
側面から伸びたレバーを押すと願望機が白く発光し、心臓の鼓動のようなベースの音は心地よいリズムを刻むジャズへと変わり、まるで悪夢が終わって楽しい夜が始まると言わんばかりに奏でる。
風が吹く。
今日一番の突風がイチヤとモディオの間を駆け抜け、ただでさえボロボロだったイチヤの頭部を隠していた頭陀袋が風に飛ばされる。頭陀袋は上空に舞い上がり、月明かりに照らされ、イチヤの素顔が
夜に溶け込むような藍色に近い黒――濃紺色のミドルカットが風に揺れ、顔に大きな横一文字の傷が目立つ凛々しい顔立ちの青年が、己の信念に満ちた瞳でモディオを射抜く。
イチヤは左手を親指だけを立てた形にし、親指を口の右端に持っていく。そして口の端に付いた血を乱暴に拭い取り、目の前の蜘蛛男から視線を逸らさずに静かに呟いた。
「――」
血を拭い取った親指で願望機をなぞるように装填した星遺物にまで持っていき、星遺物を勢いよく回す。
回転する白い星遺物から赤黒い靄が広がり、イチヤの全身を覆い隠す。イチヤは靄に覆われた状態のままモディオにゆっくりと歩を進め、その姿に恐怖を覚えたモディオが小さく固めた糸を弾丸にして機関銃のように乱射する。
モディオの弾丸は赤黒い靄に覆われた彼の体を貫き、後ろの景色が見える穴を無数に作り出す……普通ならば、彼は絶命して崩れ落ちているだろう。
そう、
彼は崩れ落ちることなく歩いている。それどころか空いた穴を赤黒い靄が埋めて元通りとなり、何事もなかったかのようにモディオへ近付く。
不気味に感じたモディオが再び糸の弾丸を乱射するが、同じように赤黒い靄は貫通して元に戻る……やがて赤黒い靄が薄くなっていく事に比例して糸の弾丸が火花を散らして弾かれ始める。
赤黒い靄が薄れていくと同時に靄の下からギヂヂ、と軋む音と共に硬質的な黒い肌へと変化していく。
足、腕、胸、と順に黒い肌へと変化していき、足と腕に虎を彷彿させる爪を収納させた手甲と足甲を装着した四肢、熊を彷彿させるマッシブな肉体、猪を彷彿とさせる小さな牙が生えたハーフマスクが顔の下半分に装着され、最後に象を模した仮面が頭部の上半分を覆うように被さり、後頭部に肩まである長さの白い鬣が生え、全身から靄が消えた。
いつの間にかジャズの音楽に軽快なトランペットやサックス等の管楽器が加わり、まるで祝福しているかのように鳴り響く。
『Start Your Dream!』
痺れを切らしたモディオがイチヤに殴りにかかるが一足遅く、願望機から音声が流れたと同時に黒い肌に白い線が走り、白と黒のツートンカラーで全身を彩られたイチヤはモディオの攻撃を受け流し、殴り飛ばした。
『Begins Night!!』
仮面の目の部分に光が灯る。月のような薄い黄色の輝きを放つ瞳は、目の前の怪人を逃さぬように見据える。
『I‘m Dreamer』
異形の戦士が、ここに誕生した。
変身待機音のイメージはルパンレンジャーのテーマBGMです。ジャズってカッコイイですよね。
余談ですが変身するまでの間、イチヤはずっとパンイチです。