「うぐぁ!?」
モディオはイチヤに投げ飛ばされる。先程まで優位だった余裕は、彼の変身によってかき消され、焦燥感が積もりだした。
「……この野郎、もう一度送ってやるよ!!」
右腕の鉤爪による刺突を繰り出すモディオだが、今度は掴み取られ、捻り上げられる。
「……こいつは、キャトルちゃんの分だ」
「がぁっ!?」
顔面に一撃を貰い、たたらを踏むモディオにイチヤは追い打ちのように右左のワンツーを繰り出し、アッパーで防御をハズし、体勢を崩した所を狙って飛び蹴りでモディオを蹴り飛ばした。
「一気に攻める」
「調子にノってんじゃねぇよ!!」
左ジャブを振るうイチヤだが、モディオがそれを受け止める。後ろの四本足でイチヤを貫こうとするが、イチヤの右腕の筋肉が
「がぁ……クソぉ!!」
モディオは背中の足を向け、糸を弾丸として射出する機関銃のような一斉射撃を行おうと構える。標的にされたイチヤは慌てることなくモディオに右手を向けて冷静に
「……ぬぁ!?」
掴んだまま引っ張ると、モディオは右足が突然引っ張られる感覚と共にイチヤの下へ滑りながら引き寄せられる。体勢が崩れた事で糸の弾丸はあらぬ方向へ飛んでいき、謎の力に引き寄せられて動揺するモディオの隙を狙ってイチヤの右足の筋肉が隆起し、引き寄せられたモディオをサッカーボールよろしく力強く蹴り飛ばした。
「……く……そがぁ!!」
今までと違う展開に苛立ちを隠せないモディオ。四本の足を向けて撃とうとするが、イチヤの両足の筋肉が隆起して勢いよく跳躍する。
「な、野郎……どこへ!?」
目の前から突然消えたイチヤに慌てふためくモディオ。ふと、足元に奇妙な影が映っている事に気付き、振り返るとイチヤは空中にいた。
満月を模した界層を照らす人工月にイチヤの姿が逆光で暗闇から目を光らせる様子にモディオは、イチヤが自分を倒す処刑人のような姿を幻視した。
「な、なめんじゃねぇぞ!!」
動揺するモディオは糸の弾丸を射出する。弾丸は雨のごとくイチヤに飛来するが、イチヤは両足の筋肉をもう一度隆起させ、空中を跳んでモディオ目掛けて空を駆け抜ける。
着地したイチヤに襲いかかるモディオ、それを迎撃するイチヤの攻防は激しくなるが、精神面ではイチヤの方が一枚上手だった。
左腕の筋肉を隆起させ、攻撃が来ることを予想したモディオの防御をイチヤは右足の筋肉を隆起させたフェイントの一撃で蹴り飛ばした。
砂煙が周囲に舞い上がり、視界が悪くなり警戒するイチヤ。瞬間、後ろから大量の糸がイチヤに襲いかかる。右腕で糸を受け止めるが引き寄せられそうになり、両足の筋肉を隆起させて踏み
「おっと、大人しくしろよ……さもないと、あの女に打ち込んだ毒は解毒しねぇ」
「……最後までクズだな」
「へへへへへ……」
キャトルに打ち込んだ毒をイチヤにも食らわせる魂胆なのか下卑た笑いを溢しながら、少しずつ近付いて来るモディオ。その様子にイチヤは鼻で笑った。
「変なマネするんじゃないぞ? あの女を助けたくば大人しくするんだな……特別に一言だけ聞いてやる」
「丁度いいな。お前に言いたい事があったんだよイケメン野郎」
勝利への余裕か、イチヤに遺言を聞こうとするモディオ。その答えにイチヤは静かに言う。
「お前の願いは……叶わない!!」
イチヤの右腕が回転する。ギュイイイン、という高音を出しながら右腕がドリルのように高速回転し、糸を巻き取っていく。
そのスピードとパワーは逆にモディオが回転の勢いに負けて引き寄せられる事になった。
「てめ、正気か!? 俺が倒されたら、解毒はできないんだぞ!?」
「お前に命を握られる程、あの娘の価値は安くない……それに、今の俺なら、助けられる!!」
立場が逆転されて狼狽えるモディオにイチヤは巻き取った糸が着いた腕で力強く殴り飛ばす。モディオはボールのように地面を跳ね、遠くにある木にぶつかって止まった。
「クソ……まだだ、こうなれば、あの女を人質に……なっ!? これは!?」
交渉決裂となって、モディオはキャトルを人質に取ろうと立ち上がろうとするが糸が木にへばりついて離れない事に気付いた。
皮肉にも、キャトルを拘束した状態と同じである。
「クソが!! ふざけんじゃねぇ!! 俺はまだ……ッ!!」
糸を剥がそうと
「…………」
「……あ……あぁ……」
まるで死神を見るような目でイチヤを見るモディオ。その様子にイチヤは静かに
「ま、まて……と、取引をしようじゃないか……あの女を好き放題にヤラせてやるから見逃してくれよ。いい夜になるぜ」
一回。指で押し込む。
「そ、それにお前と俺が手を組めば、界層の支配者にだってなれる! お前が王になれるチャンスも来るんだ!!」
一回。指で押し込む。
「お前、モテたいんだろ! 俺の話は悪くないハズだ! お前は女を好き放題に取っ替え引っ替えできるぐらいモテて、俺は裏社会を牛耳られる……さぁ! 共に手を取ろうじゃないか!!」
一回。指で押し込む。
レバーを三回押して軽快なジャズが鳴り響く間に、最後の悪足掻きかイチヤに媚びを売るモディオ。とても殺気を剥き出しに襲いかかった人物とは思えないぐらい口が回る。
モディオの交渉にイチヤは少し考えた後、左手を親指だけを立てた形をモディオに見せる。
「そうだろそうだろ! お前ならわかって――」
「言ったはずだ」
交渉成立と思ったモディオは気分よく語ろうとするが、それを遮るようにイチヤが告げる。
「お前の夢は、叶わない!!」
そして願望機に装填した星遺物を勢いよく回した。
『Wish Star!!』
白色の燐光が全身を駆け巡る。首元から白いエネルギーが放出され、さながら風にたなびくマフラーのように見える。昼だと錯覚するかのような周囲を照らす光が両足に収束していき、イチヤは右足を踏み込むと同時に左足で跳躍。空中で回転しながらモディオ目掛けて飛翔した。
『Begins N∅VA!!』
イチヤが夜を照らす純白の光を纏いながらモディオに飛来する。キャトルはイチヤが流星の如く夜空に軌跡を描きながら駆け抜ける姿に目を奪われ、その一撃がモディオに直撃した事を見届けた。
「……あ……あぁ……ァアァァアァァァァ!!」
モディオは力が抜けていく感覚に絶望しながら、気絶する。モディオの体から黒い粒子が排出され、それがモディオの頭上で一つにまとまり、黒い星遺物となった。
パキパキ、という何かが割れる音がイチヤから聞こえた直後、仮面の口部分が割れ、黒い星遺物を丸呑みした。
「えぇ!?」
予想だにしない行動に驚いていると、割れた口が元に戻ったイチヤがキャトルに近付く……ゆっくりとイチヤが手を伸ばし、キャトルは毒と糸で動けない状態から目を瞑る。
しかし、いつまで待っても衝撃はこない。ゆっくりと目を開くとイチヤはキャトルを拘束していた糸を千切り捨て、白い光を放つ手を翳すと徐々にキャトルの顔色は良くなった。
戸惑うキャトルにイチヤは彼女の視線に合わせるようにしゃがみ、願望機に装填していた星遺物を取り出して変身を解除して、声をかける。
「キャトルちゃん、大丈夫? 怪我とか毒とかは平気?」
「……え、あ、はい……」
イチヤの心配する声色にキャトルは戸惑いながら、答える。
「……よかった……」
キャトルの答えにイチヤは表情を緩めて安堵する。初めて見るイチヤの素顔に呆然としながら、キャトルは目を点にする。
「……あ……ごめん。限界だわ」
「え? ちょ、紡生さん!?」
そんな事を呟いた直後、イチヤは横に倒れる。突然倒れたイチヤを心配するキャトルは彼を揺するが、暫くして寝息が聞こえてきた。
「……ねてる……」
「……ぐぅ……ぐぅ……」
聞きたい事が沢山あるキャトルだが、幸せそうな表情で眠るイチヤに微笑みを
遠くから、女店主と二人の男性の声が聞こえ、事情を説明する事と騒動が終わった事に軽く息を吐いた。
人工月は、事件の解決に導いた二人を賞賛するかのように照らしていた。
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二人がモディオと戦闘した所から離れた場所。
双眼鏡でキャトル達の様子を見る人物がいた。
全身を黒い外套で覆い隠した人物は、何処かに連絡していた。
「こちら観察班。緊急連絡です」
緊急と言っているが焦る様子もなく、謎の人物は電話の向こうにいる誰かに話しかけている。
「先日、黒い星遺物を渡した男が倒されました」
その言葉に、電話の主は驚愕を口にする。
「倒した人物は、白い星遺物を使いました」
その報告に電話の主は興奮した様子で話している。そのテンションに外套の人物は嫌そうな表情を見せる。
「どうします? 今なら排除できますが?」
冷たく言う外套の人物。淡々と言うその声色は何度も言ってきた慣れが滲み出ていた。
「……はい……はい……現状維持ですね」
電話の主の言葉に外套の人物は反論することなく受け入れ、やがて電話の主に一時の別れを伝える。
「一度帰還します……星に願いを」
そう言って、外套の人物は電話を切り、去り際にキャトル達の方をしばらく見つめ、ゆっくりと去っていった。
どうも、ハレル家です。
ようやく0章、終わったー!!
週に一回投稿と宣言しましたが、あの調子で投稿してたら『年内に一章終わらねぇな』と察し、急遽ガリガリと連投の勢いで書きました!!
ようやく次の章から参加してくださった人達のキャラを書くことができます!! 待たせてしまって本当に申し訳ありません!! 少し話を書いてから、参加してくださったキャラを登場させますので、もうしばらくお待ちください。
最後に、一度はペンを、指を置いた駄作者という私を信じて、参加してくださった皆様。本当にありがとうございます。
歯を食いしばって、頑張りたいと思います。
もう一度、ありがとうございます。