星に願いを   作:ハレル家

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 一章、突入!

 プロローグなので短めです。


類友ですかな?

 

 界立零界層支部界拓者養成高等学校。

 多くの人達からは長いので『カイサンコウ』と呼ばれてる。

 界拓者を養成する学校。普通科や商業科もあり、卒業生は実力と功績次第だが最高で四界層に行ける証明書(ライセンス)を修得でき、界層で商売をする者や界拓者を多く輩出している。なお、零界層故に各界層の界人も受験してくるので年間の競争率が恐ろしい程に高い。

 自宅から通学する人もいるが寮もあり、男子寮と女子寮に別れてるのが人気の一つでもある。寮が嫌な人でも、学園と提携している下宿もある。

 

 白く聳え立つ校舎はまるで城塞のように見える建物の前で一台の黒い車が止まり、車から二つの人影が現れる。

 一人は黒いスーツに身を包み、透き通るような青い瞳と半月型の眼鏡がトレードマーク。ひげと髪が長く、銀色の髪が風に揺らめきながら、ゆっくりと歩く初老の男性。

 もう一人は全身を魔法使いのような青いローブに包まれ、足となる六本のタコの触手を器用に動かしながら、もう一本の触手には鞄を、もう一本にな杖の形をした願望機を両手のように掴んでおり、顔には口の部分に小さなタコの触手が髭のようにびっしりと生え、横長の黄色い瞳を初老の男性に向けていた。

 

「報告は以上です。暁月(あかつき)学園長」

 

 初老の男性――暁月スバルは歩きながら隣のタコの界人の報告を聞き、苦労人を見るような目で労る。

 

「……このような形で報告を聞くことになってしまい、申し訳ありませんパシフィック先生」

「いえいえ、学園長も多忙です。今年の一年生は歴代最高と言うぐらいに、才能もトラブルも引き起こしますからな」

 

 暁月は後ろをついて行くタコの界人――パスカル・パパパーパ・パシフィックに声をかけると、パスカルはケラケラと軽く笑う。

 

「実際、単位を最低限とって下の界層に突き進もうとする生徒が少なくありません……学生である身分を理解して欲しいモノです」

「彼らは下の界層に行く事に意義がある若者ばかりです……ここでジッとするよりも、一日でも早く下の界層へ行きたいのでしょう」

 

 ため息を吐き、今年入学した一年生に愚痴をこぼすパスカル……頭に浮かぶのは、クラスの担任となった当日に学校の工房を爆破した女子生徒を思い浮かべる。

 渋い顔をするパスカルにスバルは苦笑いをこぼし、宥める。

 

「……確かに、元々五界層に住んでいた者達はともかく、浅い界層に住んでた者達が早い段階で四界層に行けるようになったのは異例の成長速度……期待の新人とも言えますが、私としては喜ばしいモノではありません」

 

 長い廊下を歩きながら不貞腐れるように言うパスカルにスバルは自分が思ってた事とは違う事を言うパスカルに目を点にする。

 

「……意外ですね。パシフィック先生は星遺物の研究が捗ると喜んでそうと思っていましたが」

「充分な安全を確保できなかった黎明期に生きた私にとって……彼らは突然ぶつかる壁に挫折、最悪は命を落とすのではないかと日夜ヒヤヒヤしてます……学園(ここ)は学ぶ為の場所なので、生徒達は磨く為に腰を据える必要があるのです」

 

 どこか遠くを見るような目になるパスカル。スバルはその瞳に心当たりがあるのか、何も言わずに目を背ける。

 やがて、二人が丸い円のオブジェの前で止まるとパスカルは懐から紫の星遺物を取り出すと隣に設置してある台座に装填すると、円の内側が水面のように揺らめき、二人は入っていった。

 

「お待ちしてました。学園長、パスカル先生」

 

 円の内側から二人が出てきた先には、白い待合室のような場所で、褐色の肌を持つスタイルの良いスレンダーな美女が待っていた。

 肩口まで伸ばした艶のある焦げ茶色の髪。切れ長の赤い瞳を持っており、女性に見られる目の回りを縁取る緑のアイシャドウが際立たせ、服装はスーツの背中が開いた大胆な物だった。

 しかし、その女性に目を奪われるのが開いた背中から大きな翼が出て、脚が猛禽類のモノに非常に近く、専用の靴を履いている。

 

「トゥモルテ先生。例の二人は?」

「応接室で待つように言いました。一人は意識が戻ってませんが、時期に目覚めると思います」

 

 鳥の翼と脚を持つ褐色の女性――オルティナ・トゥモルテは二人に合流して、資料を渡して応接室に案内する。

 

「パシフィック先生。黒い星遺物を所持していた男はどうなりましたか?」

「知り合いから聞いた話だと、警察の取り調べで『何も覚えてない』の一点張りですね」

 

 資料を共有できた所を確認できたオルティナがパスカルに質問を投げるが、彼の言葉に眉を顰める。彼の言葉を疑ってるわけではなく、目撃者も多数いる状態で隠す意味がないのに隠そうとしてる様子にである。

 

「売買ルートを隠しているのですか?」

「いえ、恐らく本当に覚えていないのでしょうね」

「……何故、そう思うのですか?」

 

 頭に浮かぶ事を口にするオルティナに達観した様子でパスカルは否定する。

 

「星遺物は強い願いが込められているモノもありますが、それは身に余る程の力が備わっており、迂闊に使えば副作用で使用者を滅ぼしてしまう……星遺物の研究に携わっていると、よく耳にするのです……『強すぎる願いに滅んだ』のだと」

 

 理由を訊ねたオルティナにパスカルは答えるが、二人はそんな代物が裏を出回っている事に渋い顔をする。

 

「恐らく、あらゆる事件の裏で黒い星遺物が暗躍しても表に出てこないのは、この副作用が関係しているかもしれませんな」

「……なるほど……となると前向きに考えるしかありませんね。今回の件で黒い星遺物の存在が確認できたって事ですか……」

「黒い星遺物と言えば……アルデバラン少女ともう一人、協力者がいましたね……たしか、紡生イチヤという名前でしたっけ?」

 

 スバルの口から出た人物名にパスカルは口の触手を蠢かし、どこか気分よく答える。

 

「報告書に記載されていた白い星遺物の所有者ですな。まさか黒い星遺物だけでなく白い星遺物の目撃談を聞けるとは……彼やアルデバランさんから色々と話を聞ければ良いのですが……」

「パシフィック先生!」

「あぁ、これはすみません。つい研究者としての血が騒いでしまって」

 

 さすがに不謹慎だったらしくオルティナが咎めると、それを理解したパスカルは自身の態度についてすぐに謝罪した。

 

「資料を見る限り、彼は先月まで零界層の公立高校に通ってたみたいですが……生徒の半数と数人の教師と喧嘩沙汰を起こし、最終的に理事長を殴り飛ばして自主退学、その後は一界層で営業許可証も無しで便利屋を営んでいたようです」

 

 オルティナが資料を読み上げ、少しずつ三人の頭の中に浮かび上がる文字が大きくなる。二人は黙っていたが、代表してパスカルが口にした。

 

「……これはまた……類友ですかな?」

「パシフィック先生!!」

「ハッハッハッハッ!! 否定できませんね!!」

「暁月学園長も!!」

 

 否定できない言葉に笑うしかなかったスバルとパスカルにオルティナは諌める。そんなオルティナの様子を見かねたスバルが彼女に語りかける。

 

「……不安ですかな? オルティナ先生」

「……不安です……何か企みがあって、アルデバランさんと接触した可能性もあります。彼女の家は……」

「それでも、私は彼を信じようと思います」

「……何か、根拠でも?」

「えぇ、実はここに来る前に……」

 

 不安を零すオルティナ。そんな彼女に自分はイチヤを信じると言うスバル。赤の他人で学校の関係者ではない彼を信じる根拠をオルティナが訪ね、スバルが答えようとした瞬間――

 

『イィィイィィィヤァァァァァァァ!!』

 

 ――悲鳴が響く。

 まるで絹を裂くような高い声の悲鳴にオルティナは駆け出した。

 

「おや? 悲鳴ですね?」

「あぁ! 待ってくださいトゥモルテ先生!!」

 

 駆け出したオルティナをパスカルが追って止めようとする。幸いにも待合室は目と鼻の先だったのでパスカルは追いついた。

 

「トゥモルテ先生! この声は……」

「すぐに突入します!!」

 

 拳銃型願望器を取り出し、何か焦ったような表情でオルティナは待合室に突入した。

 

「動かないで!! その場をふせ……て……」

 

 拳銃型願望器を構え、その場に伏せるように警告するオルティナだが、扉の先に広がる光景に言葉を失った。

 

「……大丈夫……大丈夫……天井のシミを数えてたら、すぐに終わりますので……大丈夫……」

 

 イチヤの両手両足を触手で拘束し、右手にドライバー、左手にハンマーを持って頬を朱色に染めて興奮しながら、笑顔でにじり寄るキャトルの姿がそこにあったからだ。

 

「ウソだ! そんなこと言って、オレに酷い事するんでしょ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」

「え、エロド、そ、そんなんじゃありません!! 少しだけ、そう、少しだけ紡生さんの願望機(デザイア)解体(バラ)……調べるだけです!」

「いま解体(バラす)って言いかけなかった!?」

 

 イチヤの言葉に顔を茹でダコのように真っ赤にして答えるキャトルだが、言いかけた言葉にイチヤは笑えなかった。

 

 あまりの光景に硬直するオルティナの隣をパスカルが横切る。かたまって呆然とする彼女の横でパスカルが杖に星遺物を装填し、杖の先を床に軽く叩くと星遺物が輝き、パスカルの頭上に野球ボールくらいの大きさの水の塊が二つ浮かび上がる。

 

「あ、よかった! 天の助けだ!! ヘルプミー!!」

「とりあえず、正座」

「ナニガバァ!?」

「ぴぃっ!?」

 

 水の玉は少年の眉間と少女の側頭部に激突し、小さな悲鳴をあげる。その様子を応接室の外から見てたスバルは苦笑するしかなかった。

 

 説明するには、彼らが来る一時間前に巻き戻す必要がある。

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