イタリア人の前でパスタを圧し折るとぶちギレるらしい。   作:薔薇尻浩作

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裁判所のパスタ 2

 

「では弁護人であるワタシ、神田川の方から被告人のプロフィール紹介をさせて頂きます」

 

「婚活パーティーかよ」

 

 

 私のツッコミは背後から刺す気満々の友人に華麗にスルーされた。

 クラス変えから1ヶ月。確かにクラス全員と友達になれたわけでは無いので新手の自己紹介と考えれば悪くは無いのかもしれないが、何が悲しくて罪人扱いの末に友人から自身のプロフィールを暴露されなくてはならないのか。

 

 ジト目で睨みつける私の抗議は意味をなさなかったようで、神田川くんは手元のメモ帳をペラペラと捲りながら私のプロフィールとやらを語り始めた。

 

 

「被告人。生国と発しますは花の大江戸八百屋町、昨今改めまして日ノ本が誇る東の京で御座います。姓名の儀を発しますは、姓は早乙女。名は鹿之助。人呼んで南暮里中の鹿乙女と申します。お見かけ通り、あちこちの生徒様、教師様に御迷惑お掛けがちな、まだまだ稼業未熟者の粗忽者でございます」

 

「勝手に人の名前で仁義を切るな」

 

 

 お控えなすってぇ。なんて二昔前くらいのヤクザみたいな台詞は絶対に言わないからな。

 あとなんだよ鹿乙女って。言われたこと無いわ。確かに私は女顔ではあるけれども。

 

 

「身長体重は147センチ、39キロ。血液型はA。9月1日産まれの乙女座。我が南暮里中学の3年C組に所属。委員会、部活動共に無所属ですが過去に調理部に入部していた時期も有り。趣味は料理、特技はツッコミのようですね」

 

「勝手に私の特技を捏造しないで」

 

 

 何で私の身体データをそこまで詳しく知っているのか……あ、四月の身体測定表を友達と見せ合って騒いでいた事もあったな。あの時の情報か。

 それから決して私の特技はツッコミでは無い。

 

 

「性格は温厚で友人は多くもなく少なくもなく。男女共にそれなりに人気が有りクラスメイトとの仲は良好。成績は概ね優秀。得意科目は国語と英語、苦手科目は体育に数学と理科。典型的なインドア派の文系男子と言えましょう」

 

 

 まあ、これについてはその通りだ。体格に恵まれなかった事もあり、体育の成績は恥ずかしながら5段階評価で3より上を取った事が無い。走るのも遅いし。

 国語や英語はテスト前に軽く復習する程度でテストで8割から9割は安定して取れるものの、理数系は本当に苦手。今はこんな茶番劇の末に敵に回ってしまった神田川くんだが、テスト前には本当にお世話になっているのだ。

 

 

「ちなみに早乙女くんの昨年末の最後の期末テストの総合順位は学年で25位。一学年で約200人が在籍している事を考えると上位10%に入るか入らないか。といったところ。全体的に見て学力に関してはかなりの高レベルと言える成績でしょう……まあ、このワタシは常に1位ですけどね」

 

「何でそこで自分の自慢いれたの?」

 

「判決。弁護人、被告人共に死刑」

 

「「僻むな学年200位」」

 

 

 委員長による見苦しい八つ当たりはともかく、神田川くんが説明したプロフィールには大きな相違点は見当たらない。

 強いて言うならば身長だ。147センチではなく147.6センチ。四捨五入すれば148センチなのだから、そこだけは忘れないで欲しい。

 ……きっと高校に入る頃には180ぐらいになってる筈だもん。

 

 

「弁護人、ご苦労。さて被告人よ。見苦しく己の罪から逃れるのは止めなさい。と言うか、とっとと認めて面白おかしく俺達にイジられなさい」

 

「その言葉を聞いてますます認めるつもりが無くなりましたよ。そもそも私の罪状って酷過ぎるでしょ。何も悪い事してないのに」

 

 

 クラスメイトが女子を交えず男連中だけで過ごしてたのは完全にそっちの都合だし、私だって別にリブさんとイチャついてなんかいない。

 いや、まあ。晩酌後にいつもの如く酔っ払ったリブさんからセクハラされまくったので、見様によってはイチャついている。と言えなくもないかも知れないが。

 

 少なくとも私からすれば、いくら美人だからと言って人様の耳を無断でハムハムしたり、ペロペロと舐め回す人とイチャつこうとは思わない。

 ……あの時はムズムズして、味わったことの無いような変な感覚に悶える羽目になったし。

 

 

「まだ認めないつもりか……宜しい!! ならば証人尋問に移る!! 目撃者よ、前へ!!」

 

「おう!!」

 

 

 シュバッと音が鳴りそうな勢いで右手を掲げた裁判長の言葉に、傍聴席からまた一人の生徒が立ち上がった。

 先ほどから私に濡れたティッシュをぶち撒けたり、やけに達筆な字で勝訴と書いた紙を掲げたりと何かと行動が鼻に付く坊主頭の野球部男子は『目撃者』とこれまた達筆な字でデカデカと書かれた襷を掛けている。

 ぶっちゃけ神田川くんとは違い、彼は3年生になってから初めて知り合った人なので未だに人となりが分かっていない。

 

 確か彼の名前は……。

 

 

「では証人よ、先ずは自己紹介を」

 

「おう!! 俺の名前は『蹴玉(けりだま)秀人(しゅうと) 』。野球一筋!! 野球に人生かけてる男だぜ!!」

 

「そこはサッカーだろ名前からして」

 

 

 サッカーをやる為だけにつけられた名前なのに何故彼は野球に走ってしまったのか。

 いやまあ、別にそこら辺は個人の自由なんだから責める気は無いのだけれど、どうにもツッコミたくなる衝動に駆られる。

 

 

「ちなみに書道部も兼任してるぜ!!」

 

「即効で野球一筋から浮気してる」

 

「ちなみに昨年の書道コンクールで文部科学大臣賞を受賞したぜ!!」

 

「もう野球じゃなくて書道に人生かけなさいよアンタ」

 

 

 そう言えば昨年の終業式の時に書初めで表彰された生徒が居たっけ。

 当時は別のクラスの人間だったから余り気に止めていなかったので、誰が表彰されたかまでは覚えていなかったのだが。

 

 

 

「では早速、証人尋問を行おうじゃないか。蹴玉くん、君が先日目撃したという被告人の様子を説明してくれたまえ」

 

「と言うか今更ですけど何で裁判長役の人が検察官役まで兼任してるんですか?」

 

「被告人。次に俺の言葉を遮ったら顔面デッドボールの刑に処します」

 

「唐突に野球要素を入れてきたぞこの男」

 

 

 私の言葉は理不尽なまでに遮るくせして自分の発言を邪魔されるのは我慢できないらしい。

 そんな裁判長の言葉に証人役の蹴玉くんは「おう!!」と威勢のいい返事をあげると記憶を掘り起こすようにして語り始めた。

 

 

「あれは部活が休みだったから、丁度三日前の話だな。時刻は昼過ぎで、多分14時ぐらいだったと思うぜ。近くの商店街で福引フェアをやってるって耳にしたもんだから、行ってみる事にしたんだ。暇だったし」

 

「ゲッ。よりによってその日ですか……」

 

「被告人は静粛に。証人は続けなさい」

 

 

 蹴玉くんの発言に思いっきり覚えがあった私は思わず引き攣ったような声をあげてしまった。

 確かに三日ほど前、リブさんと買い出ししたスーパーの会計時に近くの商店街で使えるという福引チケットを貰ったのだ。

 夕飯の支度を始めるには早い時間だし、せっかく普段来ないところまで足を伸ばしたのだし。という事で、件の商店街まで散歩がてらの寄り道したのだ。

 

 

「福引にはちょっとした行列が出来ていた。小さい子供や家族連れが多い中、俺は思わず二度目したね。何故なら俺の一つ前に並んでいたのはクラスメイトの早乙女だった。しかも! その隣には信じられないぐらいに美人で巨乳なパツキンの姉ちゃんが笑顔でアイツに寄り添っていたからだ!!」

 

「異議あり!! 彼の証言は極めて恣意的で客観性に欠けています。確かに私は彼女と福引の列に並びましたが寄り添ってなどおらず、適切な距離感を保っていました」

 

 

 クワッと音が鳴りそうな劇画チックな顔面で証言する蹴玉くんの言葉に、思わず私は反論した。

 寄り添う。だなんて表現は大袈裟だ。確かにリブさんは酒さえ入れば距離感0でセクハラしてくるぐらいにパーソナルスペースがガバガバな人間ではあるが、素面の時はまだ常識を弁えている。

 

 

「ちなみに福引で三等を当てた時に、外人の姉ちゃんは早乙女を胸に抱き締めたり頬っぺにキスしまくってたんだぜ!!」

 

「判決!! ぶち殺死刑!!」

 

「畜生!! 確かにあの時はハグされた!!」

 

「「ぶち殺死刑決定だ!!」」

 

 

 三等賞の酒屋さんオススメ日本酒詰め合わせセットを当てた事によりテンションがぶち上がったリブさんのせいで、残念ながら私は死刑が確定。

 光の如き速さで閉廷した裁判に救いなど始めから無かったのだ。

 

 

「不当判決だ!! 控訴、控訴を要求する!! おいコラ蹴玉!! 無駄に綺麗な達筆でデカデカと黒板に勝訴って書くな!!」

 

「控訴なんて認めるわけが無ぇだろこの腐れリア充がああぁ!! さあ吐け。洗いざらい吐け。本気で俺達モテないメンズ達の嫉妬パワーを集結させた八つ当たリンチの餌食になりたくなければ噂のパツキン姉ちゃんについて吐きやがれ!!!!」

 

 

 かくして私はぶち殺死刑という名目の元、クラスメイトからリブさんについて根掘り葉掘り尋問された挙句に晒し上げにされるという地獄のような刑に処される事となった。

 

 

「つか実際のところどうなん? マジで彼女なの?」

 

「写真とか無ぇの? 美人の外国人と仲良くお出かけとかマジでお前ぶち殺すからな」

 

「ちくわ大明神」

 

「巨乳って聞いたぞ? 何カップだ? Dか? Eか? それともFか? ま、まさかそれ以上の爆乳なのか!?」

 

「エッチなことしたんですか? エッチなことしたんですよね!?」

 

「相手年上? 何歳差よ?」

 

「誰だ今の」

 

 

 マイムマイムでも踊ってるのかと誤解する勢いで20名近い男子生徒にすっかり囲まれている籠の鳥状態は精神的に辛いものがある。

 委員長に至っては血走った目でリブさんの胸の大きさを問い詰めて来てるし、普通に気持ちが悪いし。

 

 

「だから彼女ではありません……あの人は、えっと。家庭教師みたいな人でして」

 

「みたいって何だよ、みたいって。どっちにしろパツキン姉ちゃんが家庭教師だとしても羨ま死刑だけどな」

 

「理不尽極まりない」

 

 

 苦しい言い訳かも知れないが、一応嘘では無い。一時期リブさんからイタリア語を教わっていた時期もあったのだ。

 先ず最初に教えてくれた言葉が『Cazzo』だったので、それ以来リブさんから言葉を教わることは止めたけど。

 

 

「それよりも早乙女えええぇぇ!! 金髪姉ちゃんの巨乳を顔面で味わった気分はどうだったんだよおおおぉぉ!?

 

「な、何ですかその言い方。味わったって言われても……」

 

「蹴玉の証言でお前がパフパフを味わったのはバレてるんだよぉ!! どんな感触だったのか舐め回すかのように食レポしろ食レポ!!」

 

「言い方が一々キモ過ぎる!?」

 

 

 本当にいい加減にして欲しい。どうにかこの場から逃げられないものだろうか。

 そんな私の必死の願いが通じたのか、不意に教室の前扉がガラガラと音を立てた。

 

 

「おーい。お前ら何を騒いでるんだ? 廊下まで声が響いてんぞー?」

 

「ナイスタイミングです先生!! 私を助けて下さい!!」

 

「はぁ? 何で早乙女は縛られてるんだ?」

 

 

 無精髭にノーネクタイ。草臥れたスーツからは煙草の残り香がプンプン臭っている、割と駄目な大人の部類である担任教師の存在が今この時だけは救いの天使にすら思えてきた。

 カクカクシカジカ。私は必死に現状を訴えては先生に救いを求めた。

 

 

「おいおいお前ら、悪ふざけも過ぎればイジメ扱いになるんだから気をつけろ。最近どこもかしこも人権やらコンプラやらで煩いんだ。馬鹿騒ぎもいい加減にしておけ」

 

 

 一連の騒動の概要を聞いた先生は呆れたような溜息を吐き出すと、面倒くさそうにガシガシと頭を掻きむしりながら生徒達に注意してくれた。

 しょっちゅう二日酔いで登校してはダルそうに教卓の上でダレている駄目人間とは言え、やはり教師は教師。

 いざと言う時には本当に頼りになる。

 

 

「でも先生。こいつパツキンの巨乳美女とイチャついてたんだぞ。しかも公衆の面前でおっぱいに顔をうずめてた」

 

「よしお前らー。早乙女を裏の山に埋めに行くぞー。手伝ってくれた奴にはジュース奢ってやる」

 

「「「「「わーい! やるやるー!!」」」」」

 

「アンタそれでも教師か!?」

 

 

 神は死んだ。救いなど無かったし、目の前の駄目人間はやっぱり教師失格の最低人間だった。

 

 

「ガキの分際で外国人美女と乳くり合うだぁ? ザけんなボケ。こちとら婚活10連敗中だっつうのに当てつけかよクソガキが」

 

「私怨丸出しにも程があるでしょうよ」

 

「ちなみに俺のおっぱいスカウターによると件のパツキン美女のおっぱいはGカップ以上は確実だったぜ!!」

 

「ヨシ。早速埋めに行くぞー」

 

「蹴玉お前マジで余計なこと言うな!!」

 

 

 養豚場の豚を見るような目でもって割と本気で私を埋めようと手を伸ばしてきた先生に、私は必死で身をよぎっては何とか抵抗し時間稼ぎをするしか無い。

 

 が、その時。ふと目の前でヘラヘラと笑いながら勝訴と書かれたプリントを掲げる蹴玉くんを見て思い出した事があったのだ。

 

 

「そう言えば蹴玉くん。君もあの日、女の子と一緒に並んでましたよね。しかも3人も連れて」

 

「えっ?」

 

 

 蹴玉くんの証言が正しいとすれば、彼は私とリブさんの真後ろに並んでいた事になる。

 当時は私服姿だったので印象がハッキリしていなかったが、確かに彼らしき少年が真後ろに居たのは覚えている。

 

 そしてそんな彼が、タイプはそれぞれ違えど、みんな整った顔つきをした少女に囲まれていた事もだ。

 

 ギュルンッ!! そんな音を立てる勢いで私に向いていたクラスメイトの視線が、首ごと蹴玉くんに集中した。

 

 

「蹴玉ぁ……まさかテメェも裏切ったのかぁぁああああん!?」

 

「リア充だったのかよ。俺たちを嘲笑っていたのかああああ!!」

 

「いや、違っ……!! た、たまたまマネージャー達と出会したから一緒に行動していただけだしっ」

 

「野球部のマネージャーは美少女揃いで有名だろうがこの勝ち組がああああぁぁ!!」

 

 

 ヨシ。矛先が完全に蹴玉くんに向かった。

 私に向かっていた興味と嫉妬は今やすっかり彼に乗り移ったようで、哀れな蹴玉くんは委員長に胸倉を掴まれてガクガクと揺すられている。

 

 

「吐けええええ吐くんだあああぁぁ!! そしてあわよくばマネージャーの女の子を紹介しろおおおおぉぉぉ!!」

 

「ちょっ、締まってるっ。首締まってる!! せ、先生、助けて〜!!」

 

 

 蹴玉くんの救いを求める声に流石の先生も心を動かされたのだろう。

 まるで仏のような笑みを浮かべながら蹴玉くんの肩に優しく手を置くと、こう言った。

 

 

「野球、やろっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌ああああ先生ええぇぇ!! 顔!! 顔がアウトでレイジな人になってるからああああ!!」

 

「暴れんじゃねえバカ野郎!!」

 

「とっとと堪忍しやがれこの野郎!!」 

 

「魚の餌にしちまうぞバカ野郎!!」

 

 

 どこからか持ってきたキャスターつきの椅子に縛り付けられていく蹴玉くんを尻目に、私はとっとと帰宅する事にした。

 ポケットに入れていたマナーモードのスマフォが震えている。チェックするとリブさんからのメッセージ。

 どうやら今日も夕飯を集りに来るらしい。

 

 

「ら、らめええええええええぇえぇぇ!!!!」

 

 

 級友の断末魔を背景に。

 私は今日の献立を考えながら足早に教室を後にした。

 

 





・早乙女 鹿之助
主人公。ようやく名前が出せた。低身長と女顔がコンプレックス

・委員長
名前は不明。クラスの良きムードメーカー。巨乳好き。

・神田川くん
下の名前は不明。早乙女くんの友達。見た目は堅物だがノリが良い。茶番劇にも積極的に参加。

・先生
名前は不明。3年C組の担任教師。割と駄目人間。

・蹴玉 秀人
惜しいやつを無くした。
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