奮闘! “運び屋”68! 作:新人先生
便利屋68――それは、裏社会で暗躍するアウトローたち。
社長の陸八魔アルを筆頭に、ゲヘナ学園の個性豊かな問題児が集うこの組織には、あらゆる依頼が舞い込む。
その内容は、猫探しから潜入、爆破に襲撃まで。金さえ積まれればなんでも請け負う。当然その業務は多岐にわたり、本職の人間の手に余る危険なものすら含まれる。だが、彼らに依頼すればどんな難題も必ず達成すると言われている。
『……次のニュースです。近年、キヴォトスでは物資輸送の増加に伴う配達員不足が深刻な問題となっています。そこで、連邦生徒会は新たな施策として――』
クロノススクールの放送するテレビニュースを背景に、社長の陸八魔アルは、こだわりの社長椅子に腰かけるとパソコンの両手の人差し指でぽちぽちとキーボードを叩いた。日課のメールチェックである。しかしやはりというべきか――
「……ぜんっぜん依頼が来ないじゃないの!!! どうなってるのよ~!!!」
「あはは、やっぱり?」
「笑ってる場合じゃないわよ!」
アルは、自分の会社の事務室内で声を張り上げた。社長の前には、デスクを挟んで小悪魔めいた笑みを浮かべた少女が立っている。
深紅と黒を基調にした制服風の衣装を身に纏い、白い髪を大きなサイドテールにしてまとめた彼女の名前は浅黄ムツキ。便利屋68の行動隊長兼突撃部隊長である。
「実際、笑い事じゃないよ。もう2か月は依頼ゼロ。モヤシでしのぐのも、もう限界」
「この間なんて、たまたま出くわしたSRTの人たちと廃棄弁当の取り合いになりましたしね……。で、でも……! 私は最後までアル様にお供します……!」
室長の鬼方カヨコと平社員の伊草ハルカが続けて言う。ちなみに便利屋68は零細企業であり、ここまで登場した4人で全社員である。そのため「社長」や「室長」などの肩書はほとんど実質的な意味を成しておらず、見た目だけでも企業としての体を演出するためのものだ。アルの可愛らしいプライドのなせる業である。
現在、この4人の少女たちは絶賛困窮中である。収入はゼロ、貯蓄は底をつき、食糧はほぼ尽きてしまった。まさに崖っぷち、いつ潰れてもおかしくない状況にある。
「落ちぶれるところまで落ちぶれると、私たちもああいうところに行きつくかもしれないってことよね……。SRTは未来の私たちよ」
「同じステージで争った以上、もう同じ穴のムジナじゃない?」
「うぐっ……!」
書類やダンボールが無造作に積まれた部屋。ボロボロの応接セット。資金不足で前のオフィスを追い出され、這う這うの体で引っ越してきた先の、いかにもな貧乏オフィスで、4人は顔を突き合わせた。
「……でも、なんでこんなに依頼が来ないんだろうね~? 平和になって需要が無くなっちゃったとか?」
「いや、キヴォトスでそれはあり得ないよ。単に私たち以外のところに依頼が回ってるってだけだと思う」
「キヴォトスの裏社会が困窮するなんて、それこそ世界の終わりですからね……」
「くふふ、まあ、当然っちゃ当然じゃない?」
「どうしてよ!?」
「雇い主のカイザーに反抗した挙句、いろいろやらかした前科がある私たちの信用がまだまだ回復してないってこと」
「そうなの!? 間違えて爆破した取引先には、私があんなに頭下げて謝ったのに!?」
「謝って済むわけないよ……」
アルが嘆く。確かにそれは事実だった。以前、この便利屋68はカイザーコーポレーションから依頼を受けた。しかし何の因果かその任務に失敗してしまい、しかもその過程で便利屋たちはカイザーに牙をむいてしまったのだ。その他にもいろいろとやらかしを重ねていたのだが、これは裏社会では許されざる行為。仕事が減ってしまったのは至極当然のことだった。
「で、でも! まだ手はあるわ!」
「お? なになに~?」
ムツキが期待に満ちた目で先を促す。ムツキは経験上、こういう時のアルは“とても面白い”ことを思い付くと知っていた。今回もまた何か“楽しいこと”を考えついたに違いない。
アルは自信満々と言った様子でデスクに両ひじをつき、顔の前で両手を組んだ。そして、不敵に笑う。
「ふふ……依頼がないなら、自分たちで開拓すればいいのよ!」
「……それってつまり?」
「――新事業よ!!」
一拍置いてから言葉を発したアルの顔は生き生きとした希望に満ち溢れている。隣ではハルカが嬉々とした表情で「さすがアル様です……!」と同意していた。
一方でカヨコは呆れを通り越して思わずため息を漏らした。
「社長。だからって、具体的に何をやるつもり? 便利屋だし、基本なんでも請け負うことにしてるのに依頼が来ない現状なの、わかってる?」
「そうね……これまで通りじゃダメよね……。だ・か・ら! 今こそ、私たちの看板サービスを作るとき!」
「看板サービスねぇ……。でも何をするの?」
「ふふん、実はたった今ひらめいたのよ? あれを見てちょうだい」
(“たった今”……!?)
あまり良い予感を伴わない単語にカヨコは一抹の不安を覚えつつも、アルの指さす方に視線を向ける。そこにはクロノススクールの放送するニュース番組があった。
『――そこで、連邦生徒会は新たな施策として学生向けに配送業者として登録できる制度を作りました。詳細なルールは後ほど発表される予定です。生徒の皆さんにとっては収入源となり、地域にとっても配送が円滑になる利点があります』
画面の中でキャスターの女性が報道している。内容は簡単、最近急増した荷物配達の需要に対し人員が追いついておらず、深刻で慢性的な配達員不足になっているらしい。
そこで政府機関である連邦生徒会は抜本的な解決策として“学区ごとに学生を配送業者として登録すること”を決定したとのこと。これにより生徒たちは配送業者として正式な仕事を得られることになる。同時に物資流通網の拡充にもつながる。
「ふーん……。最近よく聞く話題だけど……それがどうかしたの? まさか配送員でも始める気?」
「そう! ずばり、私たちはこれから宅配便サービスを展開するわ!」
「はぁ!?」
「アルちゃん、やる気満々だね~」
「といっても、アウトローを止めるわけじゃないわ。依頼があればどんな品でも届ける闇運び屋みたいなものよ。もちろん、正規品だって配達可能!」
胸を張って宣言するアルにカヨコは思わず額を押さえた。
「待って。いくらなんでも安易すぎ。大体それだけだったら今までと何が違うの? 今までだって、依頼があれば運び屋の仕事だろうと引き受けるスタンスだったでしょ?」
「でも、実際運び屋の依頼は来ていないわ。私が思うに、“何でもやる”のが事業のボトルネックになっていると思うの。これまで私たちは様々な仕事をしてきたけれど、だからこそ何が強みなのかアピールできずに埋もれていたのよ。ハルカもそう思わない?」
「あっ、え、えっと……確かに、改めて言われると……日常で“便利屋”に何か依頼しよう、ってタイミングってないですよね……」
「でしょう? だからここで明確なサービスの軸を打ち出すことが大事なの。要は私たちの看板を作りたいのよ。その看板が宅配業っていうわけ。もちろん便利屋も続けるわ。宅配事業で新規顧客を開拓して、次のサービスに繋げるのよ」
「実際、“何でもやります”って言われても、ピンとこないもんね~。それで宅配業になったのは?」
「あんなふうにテレビで特集されているくらいだからニーズがあるはずでしょ?」
「いやまあそれはそうだけどさ……」
そこまで言ってアルは立ち上がり、くるりとターンすると指をビシッと一本立てて続ける。
「他の宅配業者ができない領域の仕事も引き受けられるのが私たちの強みよ! 例えば夜間の危険地域の配達だって私たちならこなせるじゃない? 戦車だって届けちゃうわよ? ほら、ほかの誰にもできないでしょ!」
「ははは! おもしろ~い! アルちゃん大天才かも! それで行こう!」
「……社長がこう言い出したら聞かないからなぁ」
やれやれ、とカヨコは肩をすくめた。正直に言えば、カヨコはそこまで乗り気ではない。そもそも宅配業をするにしても会社としての運営方法はどうするのかとか、既存の業者や今回のニュースを受けて新規参入してくる人たちの棲み分けや競合をどうするのかとか、いろいろ疑問もあるし心配事も多い。実際、「宅配業」というアイデア自体は良いとしても実現可能性としては相当厳しいだろう。
だがまあ、アルが望むならとりあえずやってみるのもいいかもしれない。何よりこれくらい突拍子のないことがあってこそ便利屋68だし、面白くなる可能性も秘めているのだ。それにムツキにハルカまで乗り気みたいだし……と結論付けた。
「配達料金を安く設定して知名度を広めつつ、最初は赤字覚悟で回すしかないけど……うん。できなくはないかな」
「でしょう!?」
それに仮に事業が失敗したとして、この4人で一緒に落ちぶれる分には悪くないと思ってしまう自分もいる。少なくとも、空っぽの部屋に1人残されるような寂しい思いはしなくて済むのだから。調味料しか入っていない冷蔵庫にぶつくさ文句を言い、くたびれた布団に4人でぎゅうぎゅう詰めになって眠る日々が続いても別に――
ふとカヨコは軽い破滅願望を持っている自分に気が付き、内心苦笑しながらも、そんな様子を露とも表に出さず頷いた。
「ま、とにかくやってみる価値はあるかもね」
「決まりね! じゃあ早速準備にかかるわよ!」
「はい!」
「はいは~い♪」
「はいはい」
そうして始まった宅配事業。これが後に伝説となる、運び屋68の物語である――。