奮闘! “運び屋”68!   作:新人先生

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脇役にオリキャラ・オリ団体がチラッと出てきますが、私の書くブルアカ二次創作の中で特定の世界線にのみ出現する奴らってだけなので、軽く流してもらってOKです。(言い換えると共通する奴らがいる作品同士は繋がりがあるってだけのことです)

脇役がオリジナルの場合、主人公じゃないから「オリ主」タグは必要ないと思うんですけど、何かつけておくべき別のタグがあったりしますか…?

【追記】
「オリキャラ」のタグをつけました。アドバイスありがとうございます!


【第1話】戦車を運ぼう!

 

 

新サービス発足から数週間後――。

 

「もののたとえのつもりだったのに、一発目の仕事から戦車の運搬をすることになるとは思ってなかったわ……」

「内容的には運搬っていうか強盗だけどね。……みんな、準備はいい?」

「いつでもOKだよ~♪」

「は、はい……!」

 

早朝。トリニティ総合学園の敷地内に潜む4人の人影があった。小声で会話を交わしながらも、それぞれ手際良く自分の武装の最終確認を進めている。

 

――時間は少し遡り。

便利屋68が新たに始めた宅配サービス。だが、アルの考えた通りにいかず、なかなか依頼が来ることはなかった。そして依頼が来ない以上は会社としての収益は発生しない。だからと言って“闇配送”の対象となる依頼などそうそうあるわけもなく、地道に飛び込み営業を続けては追い返されを繰り返し、時折普通の配達員としての仕事を拾う日々を過ごしていたある日、匿名でメールが届いた。

 

『トリニティ総合学園の敷地内に置かれている戦車を運んで欲しい』

 

詳しい身元こそ伏せているものの、どうやらトリニティの生徒による依頼のようだった。詳しく依頼を読み解いていくと、単なる運搬の依頼ではなく、正義実現委員会保有の戦車を勝手に動かしてほしいという要求らしい。

 

つまりは実質的な強盗である。

 

「――で、引き受けちゃったんだよね。アルちゃんが」

「ええ! だって“普通の業者には引き受けられない闇の配達”がウチの売りでしょう? しかもトリニティのお嬢様からの依頼ってことは、依頼料の回収もしっかり見込めるわ!」

「そ、それにしても……自分の自治区を襲わせるなんて、何を考えてるんでしょうか……?」

「まあ、どの組織にも不満分子はいるってことじゃない?」

「……『どの組織にも』……そういうものかしらね……?」

「そういうものでしょ。とりあえずはこの仕事で一気に稼げそうなのは事実だし……。とにかく今は集中して――」

 

普段は優等生やお嬢様然とした清楚さが目立つトリニティの生徒。だが実態はといえば権謀術数が渦巻き、派閥同士の政争が陰湿に続いている。エデン条約をきっかけにある程度まとまりを見せ始めているとはいえ、依然として自治区内部での軋轢は存在する。

 

そんな思惑が絡んだ上で今回の依頼が飛び込んで来たのだろうか。カヨコは淡々と銃器の動作を確かめながら思考を巡らせた。

 

「……ねえ、カヨコ、ムツキ、ハルカ」

 

しかし一体どういう訳か、アルは突如神妙な面持ちで3人の方を見つめた。依頼前に緊張しているという訳でもなさそうだが……。3人は互いに顔を見合わせた。

 

「アル様……?」

「な、何、社長……。急に改まっちゃって」

「どうしたの? アルちゃん?」

「……私、本当にみんなには感謝してて……」

 

そう言ったアルはなぜか急に恥ずかしそうに目を泳がせている。

 

「私は……いろいろとやらかしたこともあるし……それに……その……正直怖気づくこともあったし……でも……それでも私を信じてついて来てくれたみんなは最高の仲間よ……本当のアウトローを目指すことができたのも、みんなのおかげで……」

 

「「「……???」」」

 

3人が困惑した顔で顔を見合わせる。いったい何の話をしているのだろうか? しかしその意図にいち早く気がついたカヨコが「あっ!」と小さく声をあげた。

 

「――ゴメン、社長。さっきの無し。『どの組織にも』って言ったけど、私たちは別だから。私たち全員社長を信用してるから!」

「あっ、そういう!?」

「アル様……! 私などにそこまで言ってくださるなんて……! ありがとうございます……! 私、一生アル様についていきます……!」

「そ、そう……?」

「……ぷっ、くくっ……そ、そんなことで……」

 

アルの様子を見たムツキが吹き出し、その理由を察したカヨコとハルカが慌ててフォローを入れる。一方のアルは安心した表情になると笑いをこらえきれないと言った様子のムツキをじとっと睨んだ。

 

「もう! ムツキ!」

「ごめんごめん! つい面白くなっちゃってさ~。アルちゃんってば本当に可愛いんだから」

 

こうして4人は戦車強奪の依頼を引き受けることになった。

計画については参謀のカヨコが担当。普段は校舎に停められている正義実現委員会の戦車が早朝の整備時に移動し、駐車場にてメンテナンスされることからそのタイミングを狙うことに。正義実現委員会が早朝巡回で姿を消すタイミングも把握しており、作戦実行のタイミングとしてはバッチリだった。

 

とはいえ、ヤマがヤマだけに、本来便利屋だけでは作戦遂行に伴うリスクが高い。そのことを依頼主に説明したのだが、相手としてもこの作戦にはそれなりの用意をしてきたようで、依頼主曰く“とっておきの装備”を融通してくれることになった。

しかし、それでもどうこうできる難易度の依頼ではない。なにせ、相手の本丸に入り込んで宝を盗み出してくるようなものなのだ。本来はそれこそ裏社会の腕利き達が数十人がかりで挑むような仕事である。

 

そのため、自前の戦力以外にも人員が必要なことは明らかだった。しかし資金難の便利屋に傭兵を雇うだけの財力などない。なのでここはカヨコの発案により、裏社会ならではのやり方で“動員”することに。

 

「――大丈夫、それ? 本当にその作戦でうまく行く? 嫌な予感しかしないのだけど……」

「わからないけど、手段を選んでいられるほど今の私たちにリソースは無い。最善は尽くすよ」

「まあ、どーんと構えていこうよ。アルちゃん。なにせうちの参謀は、先生と一緒に空の彼方まで飛んでって、世界まで救っちゃったメンバーの一人なんだから!」

「……みんなが地上で頑張ってくれたからだよ」

「そ、そうですよ……! あの時もこうして結束していればこそ乗り越えられたんですから……!」

「そうだね。大丈夫。今度もみんなで頑張ろう」

 

4人はお互いに顔を見合わせて頷きあう。その眼には強い意志が宿っていた。

 

「さあ――それじゃあ、便利屋68の新しいサービス開始よ!」

 

 

 

 

 

 

そして現在。

予定通りトリニティの敷地に潜入した便利屋たちは目標地点に向かった。作戦は以下の通りだ。

 

まず“動員”したメンバーに騒ぎを起こさせる。

次に、その混乱に乗じて戦車を持ち去る。

 

このようにシンプルな二工程だが、その中にはさまざまな苦労が込められている。トリニティ総合学園の敷地内は広大かつ複雑で、潜入は困難を極める。

 

そのため、下調べは入念に行い、作戦は綿密に練った。成功に必要な要素は全て詰め込んだつもりだ。

そして、つつがなく作戦が進めば、そろそろ作戦の第一段階が発動するころだが――

 

 

 

ドガアアアアアアン!!!

 

 

 

瞬間、学園前の庭園で強烈な炸裂音と共に爆発が起きた。

 

「どうやら上手くいったみたい」

 

遠距離の目標を確認していたカヨコが呟いた。爆発音に引き続いて、何者かの高らかな笑い声が響く。

 

「ハーッハッハッハ!!! ここが『温泉が出る』とタレコミのあった場所か! こ~んな見た目だけの庭園として使うだなんて、世界の損失に他ならない愚行! 温泉郷として作り替え、トリニティの生徒たちにも温泉の悦びというものを恵んでやろうではないか!」

「部長~! この辺に湧くみたいですよ!」

「そうか! トリニティに憎き風紀委員長はいない……派手にやってしまえ!!」

 

「ちょっと!! 急に何事ですか!? あなたたち、一体どちらの方で――ちょ、まっ、や、やめ……おいゴラァ!! 止めろって言ってるだろ! 誰か正義実現委員会を呼べ!!!」

 

そう。今回の“動員”に便利屋が利用したのはゲヘナの温泉開発部だ。

ゲヘナの要注意団体――というよりテロリスト団体と言った方が適切だが――で、“一人一温泉”を掲げて暴れる厄介者の集団であり、そこに温泉があれば開発し温泉がなければ一応確認のため掘り起こそうとするという、どこからどう見ても迷惑千万な存在である。とはいえ、何事も使い方次第で役に立つことは世の常で、便利屋は彼女たちに泉脈のレポートを送り付け、この地に“温泉を発掘させる”形で騒ぎを起こさせることにしたのだ。

 

「なんでも、ここの温泉は効能が凄いんだって! 腰痛改善、美肌効果、恋愛成就に金運上昇……なんでもござれだってさ! すごくない!?」

「この効能が本当ならば、一大観光スポットとしてキヴォトス中に広まる日も近いぞ……!」

 

「勝手に人の土地を観光地にするな!!! 第一、恋愛だの金運だの何の根拠があってそんな効能が付与されてるんですか!? ありえないでしょ!」

「あれを見ろ、ダイスケ! ついに邪悪なゲヘナの犬が本性を現したぞ! だから私はエデン条約なんて反対だったんだ!!! 真に条約を結ぶべき相手は、共に革命を目指す同志であるべきだったんだ!!」

「私たちの自治区で勝手な真似は許しませんよ! 私たち『清き羊の会』の手で(自主規制)して(下品な放送禁止用語)した後(過剰表現)にして差し上げますわ!」

「こら! 放送禁止用語が出ていますわよ! それが“羊”を自称する者の言葉遣いで……ちょっ、落ち着い――おい!!! 服にシワがつくだろ!!!! てめえの汚い足跡つけたらただじゃおかねぇからな!!」

「皆さん、落ち着いてください……! ここは私たち『テンプレ騎士団』が何とかしますから……! ええっと……こういう場合の対処のテンプレートは……」

「こんな非常事態に悠長にマニュアル読んでんじゃねーよカス! マニュアル通りに行かない状況だから非常事態なんだろーが!! 使えねぇ奴らばっかかこの自治区は!! えぇい、もういい! 私がやる!!」

「あっ、それは私たちの研究によると、負けるときのテンプレートで――」

「正義実現委員会はまだか――ぐあっ……!?」

「ほらやっぱり!」

 

……などなど、現場は喧騒に包まれている。なお当然だが前述のように泉脈レポートは偽造したものであるため実際に温泉が掘り当てられることはない。ただの騒乱を起こすための茶番劇である。

 

「……なんだかやけに過激な人たちが集まってきてますね……?」

「さすがトリニティ。狂信者はいるところにはいるってことだね」

「やっば~。このままじゃこっちまで巻き込まれちゃう。早くいこ!」

 

すでに目的の戦車の周囲に人気はなくなった。しかし、騒ぎを察知した正義実現委員会のメンバーがすぐに駆けつけてくることだろう。

残された時間は少ない。喧騒を横目にしながら、この隙に4人は急いで動き出した。

 

 

 

 

 

 

数十分後――。

 

「ふぅ……。なんとかうまくいったわね!」

「こんなに上手くいくのかってくらいスムーズだったね~。流石カヨコちゃん!」

「や、やりました……!」

「みんな、油断しない。届け終わるまでが配達なんだから」

 

便利屋たちは首尾よく戦車の奪取に成功。

そのまま戦車を運転し、トリニティ総合学園の敷地から脱出。今は公道を走って目的地へと向かっている。

 

「「“盗んだ戦車で走り出す”~♪」」

 

ムツキが鼻歌混じりに戦車を運転し、その後ろでカヨコが目的地までのルートを端末で確認しつつ注意する。一方でアルは助手席に座りながら、目の前の操縦桿を握っているムツキの様子を眺めつつ、同調して歌っていた。ハルカはハッチから体を出して周囲を警戒している。

 

「……それにしても、この服すごいね。一体どういう技術してるんだか」

「おかげでヴァルキューレのふりをして堂々と表を歩けます……!」

 

4人が着ているのは依頼主から任務支援として贈られた衣服。正確には光学迷彩装置であり、これで4人はヴァルキューレ警察学校の生徒に見えるようになっている。

そのおかげで、ヴァルキューレの巡回のふりをして、堂々と公道を走ることができているのだった。

 

「それにしても凄すぎない? こんなハイテクの代物をポンと差し出してくるなんて。依頼者の人、一体何者……?」

「なんでも、この前の先生誘拐事件で使われたやつと同じらしいよ」

「も、もしかして……。先生が連邦生徒会の人と『セックスしないと出られない部屋』に閉じ込められたときのアレですか……?」

「……ん? は、ハルカ? ちょ……ちょっと待ってもらえるかしら? 今、なんて?」

 

先ほどまで陽気に歌っていたアルはすっかり固まってしまい、素っ頓狂な声をあげる。一方カヨコは冷静にスマホの地図アプリを確認しながら答えた。

 

「いや、そっちじゃなくて……。先生、『虚妄のサンクトゥム攻略戦』の直前にカイザーに誘拐されてたんだって。そのときにカイザーの兵士がヴァルキューレの生徒に成りすますのに使ったもの……らしいよ」

「ふーん? 先生を騙せるなんて、これってかなり優秀な機能なんだね~。それにしても、誘拐なんかされちゃって先生大丈夫だったの?」

「怪我はなかったみたいだよ。噂では、一人でカイザーに突っ込んでいったヴァルキューレ公安局の局長に助けられたとかなんとか」

「うわ~なにそれすっご。仕事中にその局長サンには出くわしたくないかも」

「それについては大丈夫。詳細はよくわからないけど、不正をしたとか何かで今は謹慎中らしいから」

「なにそれ? 良い人なんだか悪い人なんだか。アルちゃんはどう思う?」

 

カヨコの説明を聞いたムツキはニヤニヤしながらアルの方をちらりと見やる。

そこには顔を真っ赤にした社長がいた。口元に手を当ててプルプル震えている。

 

「え……? 聞き間違いじゃないわよね? せ……『セックスしないと出られない部屋』……って言ったのよね? ハルカ?」

「は、はい……」

「それって……その。先生が……え、えっちなことをしたってこと?」

「いえ……そこまではちょっとわかりません。どうにか外から部屋を壊して救助したらしいですけど……」

 

アルは「ま、また先生が私の知らないところでそんな大人な体験を……」と顔を赤くしたまま目をグルグルさせていた。

 

「ま、まあいいわ! 救助が入ったんだし、たぶん何事もなかったはずよ!」

「え~、でもわかんなくない? そもそも『セックスしないと出られない』ってのがどこまで本当かわかんないし、先生も大人の男性でしょ? お手付きせず耐えるなんてできるのかな?」

「『セックスしないと出られない』というのが本当だとしても、その直前くらいまでは行ってるかもしれませんしね……」

「もうやめましょうこの話! ねえ、カヨコもムツキを止めて頂戴!」

 

アルは悲鳴じみた声を上げる。一方でカヨコは何も言わずに地図アプリを見つめ続けていた。

若干不自然なほど一心不乱に操作している。

 

「……カヨコ?」

 

怪訝に思ったアルが近寄ってみると、なにやらブツブツと独り言を繰り返している。

 

そんなわけないそんなわけない何もなかった何もなかった先生はそんなことする人じゃないきっと我慢したに決まって

 

「ひっ……!!」

 

どうやらカヨコの方がかなり重症だったようだ。いつもクールなカヨコがこんなに取り乱すなんて。恐るべし。

 

「ま、まあ……とりあえずは気にしないことにしましょうか……。ひとまずは依頼に集中ね!」

 

アルは考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

そうしてしばらく順調に戦車を運び続け、目的地までは折り返しを過ぎ、ちょうど便利屋たちの気も緩んできた頃のことだった。

 

「――すみませーん! そこのヴァルキューレの方!」

 

歩道から一人の生徒がこちらに向かって呼びかけてきた。サングラスをかけ、頭からは大きな耳がひょこひょこ揺れている。

 

「な、何かしら……?」

「社長、慌てないで。大方のところ、こっちがヴァルキューレの格好をしているから道を尋ねようとしているとか何かだと思うよ。見た目は完全に偽装できているはずだから、ドンと構えておけば何も問題ないはず」

 

無視は流石に怪しまれるだろうということで、いったん路肩に戦車を止め、代表してムツキが応対に出ることにした。

 

「どうしたの? 困りごと?」

「いいえ。ただちょっと気になることがありまして」

「んー? なになに~?」

 

ムツキが身を乗り出すようにして答えると、その生徒はやや雑談じみた調子で語り掛けてきた。

 

「あなたたちの乗っている戦車……素晴らしい戦車ですね」

「んー? ありがと! でもそれがどうかしたの?」

「あまり見かけないような気がするのですが、最近配備された新式のものですか?」

「……そうだよ! この前トリニティから購入した戦車! 詳しいことは教えられないけどね~」

「なるほど……」

 

ムツキは適当に誤魔化した。どうやら見慣れない戦車に違和感を覚えて声をかけたということらしい。

便利屋たちは光学迷彩スーツで服装を偽装している。しかし、戦車の方はそのままの姿なので、確かに見る人が見ればトリニティ製であるということがわかってしまう。とはいえ変なことでも言わなければ、ただの一般人を欺くことは難しくはないはず。ムツキはそう楽観的に考えた。

 

しかしムツキの答えを聞いたその生徒は、やや含みのある表情をした。しばしの沈黙ののち、彼女はボソリと呟く。

 

「――本当にヴァルキューレにこのような戦車があったのだとしたら……優良装備を手に入れるためなどという理由で、私が地上げ行為の片棒を担ぐ必要なんてなかったはずなのだがな」

「……え?」

「まだ私が誰かわからないのか?」

 

そう言うと、彼女はサングラスを投げ捨てた。

 

「『狂犬』の名を、一度は聞いたことがあるだろう?」

 

「げえっ!? ヴァルキューレの局長!! なんでこんなところに!? 謹慎中のはずじゃ!?」

 

噂をすれば、なんとやら。なんと会話相手はヴァルキューレ警察学校公安局の局長、尾刃カンナその人であった。

カンナはキッとこちらを睨みつける。

 

「ちょうど食料と日用品の買い出しに出ていたところだ。貴様ら、ヴァルキューレの生徒ではないな……! 何者だ!!! なぜヴァルキューレの生徒の格好をしている!!」

 

「――アルちゃん! 今すぐ戦車を出して! 全速力で!!!」

 

状況を理解したムツキが叫ぶ。瞬間、アルが素早く操縦席に乗り込み、エンジンを回す。

戦車は急発進すると、その勢いのまま路地へと入り込んだ。

 

「ヤバいわ! 逃げないと……!」

「ど、どうしましょう……!?」

「大丈夫! あっちには乗り物が無いし、全速力で飛ばせば巻けるはず……! って、はやっ!?」

 

一瞬の隙をついて逃走を図った便利屋たち。しかし、カンナは超人じみたスピードで走って追ってくる。

その様子は地上なのに巡航ミサイルを彷彿とさせるほどで、もはや人間の域を超えた速さで距離を縮めてきていた。

 

「待て!! 止まらないか!!!」

「アルちゃんもっとアクセル踏んで! マッハで!!」

「踏んでるわよぉ!! この戦車、意外と速いんだけど……全然振り切れそうにないわ! もう! なんでこんなことになってるのよ!!」

 

便利屋は必死に逃げ回る。しかし、カンナはそのスピードを落とすことなく執拗に追跡してくる。そして一分と経たずして追いつくと、戦車に飛び乗って側面に張り付いた。

 

「捕まえたぞ!!」

「うそお!? もう!?」

 

アルが驚愕の声を上げる。どうにか振り落とそうと戦車を左右に振ったり、段差を利用して跳躍させたりするが、カンナは一向に剥がれようとしない。まるで接着剤でくっついているかのように、がっちりとその身を固定している。

 

「絶対に離さないぞ……! 謹慎中で体はなまっているが、それでもビルにへばりついて登るくらいのことはできる! SRT式登頂訓練でも好成績を取ったことがあるんだ……!」

 

「知らないわよそんなの!!」

 

このままでは不味い。状況を打開しようと、アルは藁にもすがる思いでハルカに救援を求めた。

 

「ハルカ! 悪いけどなんとかしてちょうだい! あなたが頼りなの!」

「――! あ、アル様……いま、なんと?」

()()()()()()()()!! アイツを引きはがしてちょうだい!! あなたの力が必要なのよ!!」

 

「あっ、社長! ハルカにその頼み方はマズいって――」

「そ……そこまで私に言っていただけるなんて……! 承知しました! アル様の御命令とあらば、私が命に代えてもあの犬畜生を殺してきます……!」

「ああもう! しーらない!!」

「あははは!! だんだん面白くなってきたじゃん! もういっそカヨコちゃんも楽しんじゃおうよ!」

「できるわけないっ!」

 

ハルカは勢いよくハッチを開けて頭を外に出すと、戦車の側面に張り付いているカンナに発砲を始めた。

 

「死んでください死んでください死んでください死んでください……! いつもいつもアル様を追い回すヴァルキューレなんか全員、死んでしまええええ!」

「うおっ!? なんだこの狂人は……!?」

「ハルカ!! 周りの人に当てないようにね!」

「もうそれどころじゃないって社長……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――二時間後。

 

「どうにか巻いたわ……ね……」

「は、はい……」

「疲れた~」

「うう……頭がクラクラする……」

 

どうにかこうにか便利屋たちはカンナを撒くことに成功し、ついに目的地の海岸へとたどり着いた。

カンナのへばりつきは異様にしぶとく、ハルカによる射撃もほとんど意味をなさなかった。最終的に、カンナごと戦車をビルの外壁にこすりつけ、靴裏にくっついたガムをはがす要領でどうにか剥がしたのであった。

 

しかしその代償は大きかった。

 

「……戦車、ボロボロになっちゃったね」

 

ムツキがポツリと呟く。戦車はあちこちに傷や凹みができており、装甲や塗装はぼろぼろ。

ビルの外壁がえぐれるほどに強くこすりつけた結果、戦車の方も相当のダメージを負ってしまったのだ。

 

「……これだけ損傷がひどいと、正直報酬はあんまり見込めないだろうね」

「そ、そんな~! あれだけ苦労したのに!」

 

アルが悲痛な声を上げる。せっかく苦労して運んだ戦車だが、このままでは安く買い叩かれて終わりだろう。

 

「しょうがないよ。勉強代と思って次頑張るしかない。……ほら、社長。元気出して」

「うう……カヨコぉ……」

 

しょぼくれる上司の背中を優しく叩きながら励ますカヨコ。まるで年の離れた姉妹のような光景であった。

 

「ところで、なんで『海のそばに』って指定されてるの?」

「なんでも、依頼者さん的には海岸の方が都合が良いみたいです……」

「あー、もしかして船に積み込む感じか何かな? ま、いっか。とりあえず、依頼主さんに連絡しておいて!」

「了解です……!」

 

ハルカが依頼者へメッセージを送信する。

 

「じゃあ、今回の依頼はこれでおしまい。みんな、帰ろう」

 

「はい……!」

「は~い!」

「うぅ……はい……」

 

そうして便利屋たちは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

――その背中を見つめる人物が、一人。

 

「――行ったみたいですね。さて、依頼の品は……どれどれ」

 

依頼主の女性は一人、海岸に佇む戦車を眺めた。可愛らしい水着の装いをしており、パッと見では裏社会に依頼をするような人物には決して見えない。

 

「ううむ、結構ボロボロですね……。でも、大事なのは中身です」

 

そう言って彼女は戦車に乗り込むと、エンジンをかける。

 

「――かかった! これなら十分動くし、期待以上です。便利屋の皆さんがここまでできるだなんて……!」

 

難なくエンジンがかかったことを確認した彼女は、笑みを浮かべた。

 

期待以上だ。

確かに外装はボロボロだ。しかし正直なことを言えば、どういう形であれ便利屋が「動く」状態の戦車をここまで持ってくることができる見込み自体少ないと思っていた。

 

自分自身トリニティから戦車を運び出そうとしたことがあるが、あのときは学校の敷地を出ることすらなく、あえなくお縄についてしまった。

どうやって戦車を奪取し、どんなルートでここまで運んできたのかは不明だが、結果的にここまで戦車を届けることができたという事実は評価できる。自分ですらできなかったことなのだ。

 

持ってきてくれれば儲けもの、くらいの気持ちだったのだが、大当たりだった。

 

「……現時点でこれなら、これから経験を積んでいけば、いずれは――」

 

彼女たちは未だ粗削りの存在だ。しかしだからこその魅力が溢れている。磨けばもっと輝きを増すことは間違いない。

そしてそれを期待させるだけの価値が、便利屋68にはあると確信できた。

 

「そのためには、便利屋の皆さんにたくさん経験を積んでもらう必要がありますね。それとなく知り合いに“便利屋の新サービス”をおすすめしておきましょうか。……ああ、そういえば」

 

ちょうど、「清き羊の会」が“神”を運ぼうとしていなかったか。

 

それを頼んでみるのも面白いかもしれない。どうなるか楽しみだ。彼女たちが大きく成長していればよいのだが。

 

「――い。おーい、■■■! どこに行ったんだ! さっきからみんな探してるぞ!」

 

そんなことを考えていると、遠くから友人の声が聞こえてきた。どうやら自分のことを探しているらしい。

彼女は戦車のハッチを開けると、顔を出した。爽やかな潮風が吹き付けてきて気持ちいい。

 

「こっちです! アズサちゃん!」

「おおっ!? どうしたんだ、■■■!? 正義実現委員会の戦車じゃないか。また借りてきたのか?」

「いや、私じゃないですよ? ただ、なんでかわからないけど、ここにあって……。でもちょうどいいし、ちょっと借りちゃいません?」

「勝手に乗って大丈夫なのか? 怒られないか……?」

「私たちもトリニティの生徒だからたぶん大丈夫ですよ! 海と夏には戦車が欠かせませんし!」

「それもそうか。よし! 久しぶりに乗ろう! どこに行く? どこまで行ける?」

「どこまでも行きましょう! 私たちの青春が続く限り……!」

 

そうして二人は、青空の下、戦車で砂浜を走っていくのであった。

 

 

 

 

(――せいぜい美味しく実ってくださいね?)

 

 

 

 

自分たちが、一体どんな存在に目を付けられたのか。

そんなことなど、便利屋たちはまだ知る由もなかった。




いったいどこのファウストなんだ……?

次回、「神を運ぼう!」(たぶん)


https://syosetu.org/novel/387297/

「セックスしないと出られない部屋」の件はこちら。
本話でちらっと登場したテンプレ騎士団が主役の話です。
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