Fate/stay night - for IF   作:oriha

1 / 3
#0 ある学生の前日譚

半円状に開けた部屋の中で壮年の男性の声が響く。

部屋は酷く古めかしく、一部がつぎはぎの様に新しいものに取り替えられた「教室」だった。

 

それらを聴講する人間はおおよそ20代前半であり、しかし10代を超えたかどうかの様に見える者も居れば、明らかに40を超えているようにも見える者もその場に集まっていた。

 

彼らの年齢は実に開きがある面々が揃ってはいるが、しかし一つの共通点は、正しく学徒としての表情で部屋の”中心点”―――黒板の前、教壇の上で喋る男性の事を注視し、その横で苦手としている食べ物を口に詰め込まれたかのような表情で沈黙する恰幅の良い青年をチラチラと伺っている。という事だ。

 

「―――――というわけで総評すると、悪くはない。が、良くもない。

 

独創性は認めるが有用性は認められない。理論には穴が無いようで居て粗が目立つ。

この学部においてなかなか良い視点と言えるが、まだ凡庸の域を出ない。

私の講義からうまく取り入れているが、しかし活用しきれていない。

 

そう、つまり私はこう言いたいわけだ。

君の研究は一発表として判断するには実に『中途半端』だ……とね。」

 

つらつらと滑舌よく並べ立てた言葉は恰幅の良い青年に向けられたもので、締めくくりの言葉に青年は天を仰ぐようにして、絞りだすように反応を返した。

 

「あー、ええと。...教授、それはつまり―――」

 

「出直してきたまえ。」

 

「解りました……。」

 

長々と続いた論評は9文字に畳み込まれ、それを背負い込んでトボトボと重い足取りで聴講席へと戻る。

 

「では……と、こんな時間か。では一度ここで本日は閉講だ。次の講義はミス・ソフィーから―――」

 

丁度終わった講義に安堵するように息をついて席を立つ。

 

(今の研究がコストに見合わないというのは解ってる。だけどこれ以上試行錯誤するにも今よりももっと多くのパトロンが居なけりゃ研究も進められなくなってくるよな……)

 

傍から見れば、何処かで見られるような「研究者」の姿だった。

時に講義に出席し、発表を行い、資本に悩む。

 

世を広く見渡せば何処かに彼と同じように自分の研究に対して頭を悩ませている者がいるだろう。

 

 

しかし、根本的に彼は世の研究者とは違っていた。

 

(こんなんじゃ【魔法】はおろか、一魔術師として大成も出来ないかもしれないな……。)

 

―――魔術師。

 

比喩でも言葉遊びでもない。

今の時代の一般常識から外れた、幻想としてだけ語り継がれる「神秘」の担い手。

 

世界の始まり、その『根源』を解き明かすことに心血を注ぐ探求者であり、

その『究極の一』を求める人類の「外れ者」達の1人、それが彼―――「ニック・カミアン」だった。

 

ただ、彼の現状に関して理解が外れるのではないかと思う必要はない。世の社会人(・・・)が生存本能のままに裕福な暮らしを求め、結果として金銭を求め、あくせくと働くのと同じように彼ら魔術師というものも本能に刷り込まれたように【根源】を求め、結果として魔術を使い、あくせくと研究に勤しんでいるのだ。

 

似て非なるものだが、当事者ではない立ち位置から見ればその程度の話である。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

ニック・カミアンは今一つの壁にぶつかっており、それに苦悩していた。

思考は徐々に徐々に暗礁へと舵を取り、それに気付くことでより深みに嵌っていた。

 

(このままじゃいけない。このままじゃいけないんだけど―――)

 

しかし右も左も闇が広がるかのような思考のどん詰まりに達してしまったニックはその言葉に囚われ、逃げ出すことも叶わない。

 

 

その時だ。

 

ニックの丸い顔についた比較して小さな耳が聞き覚えのある単語を拾ったのだ。

 

 

「―――そうか。では最後に冬木市、いや日本に行くのなら――――」

 

ハッと目を向けると時計塔の名物講師「プロフェッサー・カリスマ」「マスター・V」「絶対領域マジシャン先生」「グレートビッグベン☆ロンドンスター」「女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男」……巫山戯と本気が入り交じる『時計塔一アダ名の多い講師』がスーツの女性に話しかけていた。

 

自分の他にも何人かの視線が足早に進む彼と彼女に向いていた。

すれ違うように歩いていた二人の話はそこだけしかまともに聞き取れなかったが、だからこそ天啓のように聞こえた。

 

 

(冬木、冬木か……)

 

思い出すのは10代の頃、父に連れられて旅行(少なくとも、当時の自分はそう認識していた)に行った時の記憶だ。あの地に降り立ったその日、目線を合わせるようにして話しだした父の話は未だに覚えている。

 

『日本にも、フユキという地で聖杯を求める儀式があってな……』

 

 

 

聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。

他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる―――

 

 

 

聞かされたお伽話(うわさばなし)に胸を躍らせた。しかし「聖杯に選ばれた者」だけが参加するシステムだと聞いて、自分には遠い話だと、もしも自分が選ばれたら、と。ただの妄想として楽しんでいたあの頃。

 

(冬木に旅行へ行って気分転換というのも、悪くないんじゃあないか。)

 

たしか『トオサカ』なる人物が管理者(セカンドオーナー)だったはずだ。

許可が貰えるのであれば、久々にフィールドワークでもしよう。

 

……そうだ、日本の菓子類は実に美味しかった。

それにあの時は時期が外れていたが「オテラ」ではもう少し前だったら――あの時は11月だった。つまり今、10月なら綺麗な木々、「コウヨウ」が見られると言っていたはずだ。

 

 

(いいぞ、いいぞ。)

 

モヤに包まれた思考が、徐々に晴れてきた気がする。

あまり長い期間をとれるわけではないが、鉄は熱いうちに打つべきだ。

 

 

 

ニックはそう奮起すると旅行の準備をする為に自分の工房(ラボ)へと走りだした。

 

 

 

 

 

やがてこの旅行が彼の人生に大きな影響を与える一大事になるとは、

 

勿論誰しもが予想しなかったように、考えすらしないまま―――――。




この章での主な登場人物

ニック・カミアン (出展:オリジナル)
Nick.Kamihan
誕生日・血液型 :2月9日 O型
身長:185cm 体重:99kg
イメージカラー:ベージュ
特技:料理全般・肉体に対する転換魔術
好きな物:日本文化・美味しい物・ビーズクッション・ウォーターベッド
嫌いな物:固いもの
天敵:???
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。