Fate/stay night - for IF   作:oriha

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#2 執行者と修道女の前日譚

一人の青年が慰安旅行を決意するその数時間前。

倫敦、時計塔の一室にて。

 

 

 

 

「執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツ。」

 

 

神秘を祀り、それでいて隠匿する時計塔にはその神秘を保存する役割もある。

時に「領地」として覆い隠すこともあるし、観測してそこに踏み込もうとする一般人を欺く結界を敷くこともある。

 

しかしそれらは『其処に在りて動かない』モノへの処置であり、

魔術師の中で産まれた『神秘』、希少能力に目覚めた魔術師(ニンゲン)たちを永遠に保存(・・)することで他の者達の研究に役立てようとする極々親切な(はた迷惑な)機関が存在する。

 

 

 

封印指定執行者。

 

もしくは単に「執行者」とも呼ばれる彼ら。

 

 

「この度の任務、ご苦労だった。追って報酬は振り込んでおく。」

 

 

少し立ち戻って、封印指定というのは詰まるところ脳髄ホルマリン漬け(お飾りの標本)と化すことを意味しているので根源を目指す研究者である彼ら彼女らは当然逃げ出す。

その結果として隠遁生活を行うようにして次代に希少能力を託そうとするものや、自らの持つ領地へと籠城することで自らの持つ希少能力が失われる前に早急に根源を目指そうと全力を傾ける者達がうまれる。

 

 

前者は凡そ無害だ。

何故なら次代に託そうとする意志はつまり自分の才能では無理だと、引き際だと思っているからだ。

問題は後者で自分だけでやろうと決心した上で文字通り『全力』を傾けるからだ。

魔術師の全力とはつまり神秘という神秘を自己の意志だけで一つのことに差し向けそれが齎す副次的な一切合切に無頓着に活動する。……ということだ。

 

時に近代兵器を凌駕する力を持つ「神秘」をなりふり構わず扱えばどうなるか。

 

いわずもがな、迷惑という言葉では語り尽くせない大事故(魔術災害)の温床である。

 

 

そこで執行者(協会の狗)がそれらを鎮圧、封印指定を執行するために派遣されるわけだ。

 

 

 

「早速で申し訳ないが次の依頼……の前に、二週間ほどの猶予期間の申請があったな。行くのか、冬木に。」

 

「………!」

 

 

執行者はつまるところ後ろめたい事を含めた事情持ち(・・・・)であるが故の協会の便利屋だ。そうでもなければ、当然ながら根源の探求をするような者達が道草(・・)を食うようなことをする事はないだろう。

 

まぁ、真似事ぐらいは資本金に困った賞金稼ぎまがいの一般人(普通の魔術師)もするだろうが、こと時計塔では首を回してみてもそんな奴は居ない。

 

 

「あー……そう警戒しないでいい。私の略歴も知っているだろう?いらんお節介だとは思うんだが、偶然耳にして、それが尚且つお得意様(・・・・)となれば……まぁ少しはな。」

 

「……いえ、感謝しますミスタ・ベルベット。今更調べようにも、少々難しく感じていたところです。」

 

 

そんな協会の便利屋(ボトムズ)に多少なりとも情を持って関わろうとするものもまた、首を回しても執行者の1人――バゼットの目の前で染み付いた渋面に、さらに皺を増やしている魔術師ぐらいなのではないだろうか。

 

 

「感謝なんて要らん、文字通りのお節介だからな。それにちょっとした打算もある。」

 

「打算、ですか。」

 

 

わざわざ口にだすのが彼なりの誠意であり照れ隠しだと薄々気付き始めて、バゼットは苦笑を隠した。

 

彼女が今の顧客(ウェイバー・ベルベット)に出会った切欠はウェイバーの上司に当たる男(どこか胡散臭い魔法使いを名乗る老人)の紹介からだった。冬木の地に偶然散ってしまった魔術道具の後片付け(事後処理)を命じられたウェイバーが、上司に頼んで『十分な戦闘能力のある仕事に忠実かつ今暇な人間』の紹介を依頼した結果、彼女が呼ばれたのであった。

 

現地の魔術師と協力して事にあたることになったが、それ以来、時折彼から彼女好みで彼の苦手とする依頼(腕っ節が必要とされるお仕事)が回されるようになったのだ。

 

 

 

 

「さて、どこから話そうか。第四次聖杯戦争とその結末を――――」

 

 

 

どこまでも残酷で鮮烈に残る昔話を語るウェイバーの表情はどこか後悔を残すようで、それでいて全てを糧に生きることを決めたどこか殉教者達のソレに似ていた、と後にバゼットは語る。

 

 

 

 

 

 

◆            ◆             ◆ 

 

 

そしてまた、更に数時間。

けれど時差にして同時刻。

 

ある極東の、小さな教会にて。

 

 

 

室内は執務用の机と聖書や書類を仕舞う本棚だけが置いてあり、寝るための寝台だけが唯一誰かの部屋だと思わせる殺風景な部屋に鈴を鳴らすような少女の声が響く。

 

 

「まさか、本当に始まるとは思っても居ませんでした。」

 

いや、始まることは確定していた。

しかし彼女は自分の任期中に始まるのは三割ぐらいかと予想していたのだ。

よって、何も用意も準備もしておらず、彼女にやれることは教会の一室に仕舞いこんであった”前回”の記録を確認するぐらいであった。

 

機械的に情報を記録(インプット)だけしようとしての作業だったが、其処に書いてあった内容からその興味が移りだす。

 

「―――死者多数、その内魔術師(マスター)としての生存者は……3名? ああ、終了直後にお亡くなりになられているのですね。最終的にはこの敗者である「ウェイバー・ベルベット」のみが生還、と。随分とまた凄惨な結末を迎えたのですね、四回目は。」

 

装飾の反射光で薄っすらと青色を帯びた室内に少女の言葉が静かに反響する。

 

室内に合わせたような青いシスター服を身に纏い少しウェーブのかかった神秘的な銀色の髪を肩ほどまで無造作に下ろしている彼女の言葉は字面では悼むような内容だが、その表情は只管に『呆れ』のソレだった。

 

「それにしても、勝者もなしとなると、一体何をしに彼等は来たのでしょうか?」

 

まるで困ったような表情で顎に人差し指を当てて首をひねる姿は実に可愛らしく―――

 

「ふ、ふふふふ、ふふふふふふふふふ………!」

 

そのまま、思索に(ふけ)った様子から急に笑い出すのは実にホラーな絵面であった。

 

「ふふふふふ、ふふふ……ふぅ。嗚呼、神よ。貴方の思し召しに感謝いたします――――」

 

そう、ひとしきり笑い終わるとシスターらしく(・・・)両手を組んで祈りを姿をとって、静かに瞼を閉じる。

 

 

(――――こんなに楽しそうな事に巡りあわせていただけるなんて。)

 

 

しかし、胸に秘めたその言葉は諸々を返すと悪魔に祈りを捧ぐ者にも見えなくはなかった。

 

さらり、と腕を捲る。

時に情婦として悪魔を呼ぶこの身であるが、タトゥーを彫るなどという事はしたことがない。

 

 

 

「精々、皆さんの足裏を蹴り飛ばして遊びましょうか―――」

 

 

赤く光る刻印をなぞりながら、少女は聖母のように微笑んだ。




参戦者/登場人物

ニック・カミアン

バゼット・フラガ・マクレミッツ

トオサカ・???

トオサカ・サクラ

ルヴィア???・???

???・???

???・???・???

???・???
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