シェイミと一緒に!   作:心月

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私の親友!

1 私の親友

 

燃えている。暗闇の中大きな鉄の楔で作られた十字架に磔られて、紫色の瞳を持つ1人の少女が磔刑されている。少女は私を見て微笑んだ。

 

私はその光景に強烈な眩暈と吐き気を我慢しながら、かつて親友だった彼女がこうなってしまった末路への不信感が込み上げて目を瞑る。

 

(あぁ…やっぱり私はあの時選択を間違えたんだ)

 

燃え逝く友の亡骸を、私は一人呆然と見つめていた。

 

 

ゆめをみる。

 

大きな羽根を持ったポケモンの背中に乗って、光で乱反射したキラキラと光る水面を追いながら大空を滑空する私。

 

星々の煌めきの下で黄昏ていたら、突然頭上が動き出して、それはそれは綺麗な流星群に遇う私。 

 

地下大洞窟で宝石を採掘していると、見たこともない大きな輝きを持って誰も知らないポケモンの化石を発掘する私。

 

登山していると川があって、暫くそこで水底を眺めていたら、世界一美しいポケモンが深くで此方を見ていて、そんな運命と目が合ってしまう私。

 

空も、海も、川も、地中も、私自身にだって沢山の奇跡が詰まっていて、それはまるで天の祝福みたいに降り注いでいる。

 

 

 

「あぁ…なんて素敵なの…」

 

私は大好きな冒険譚の絵本をそっと閉じると、目を瞑ったまま深く息を吐いた。作品を堪能したときに得られる幸福感。つまり甘美な物語に胸がいっぱいになっていたのだ。小説を読んだ後の高揚感は、きっと人生の時間を割いてその作品と真摯に向き合った人のみに与えられるご褒美みたいなものであろう。

 

(私もこういう風な冒険がしてみたいな…)

 

憧れを抱くようになってから何年の歳月が過ぎたのかは定かでは無いが、艱難辛苦を味わっても尚、この温かく、そして心が躍るような気持ちを手放さずにいれたのは、一重にこの冒険譚のおかげであろう。

 

そんなことを考えながら朝の静謐さを目一杯堪能していると、突然家のベルが鳴った。

 

「御免下さーい」

 

(誰かしら?)

 

知らない女性の声だった。普段ベルが鳴ることは滅多に無いので、びっくりして飲みかけのココアを机に溢してしまった。

 

私は朝の至福の時間に横槍を入れられた事にほんの少しだけ心が騒ついたが、来訪者に少し待つようお願いすると、机を拭き、急いで他所行きの服装に着替える。白いワンピースに紫色のリボンを付けて鏡を見た。

 

(うん!今日も可愛いわね私!)

 

鏡に映る瞳は、今日もアメジストのような深い紫色だった。

 

私のこの瞳は父譲りのものであり、見る人はミステリアスな印象を受けるらしい。実際、お仕事について語る父の目は、綺麗なものを沢山知っている人のような、全てを見透かしているような、そんな印象を受けて心底素敵だなと思っていた。

 

自分の姿に見惚れているといつの間にか時間が過ぎていたようで、玄関の方からご都合がよろしくなければまたの機会にお訪ねします。と声が掛かった。

 

私は急いで玄関まで駆け寄ると鍵を開け、ゆっくりとドアノブを回す。

 

「ごめんなさい、お待たせしました」

 

ドアノブから目線を上げると私を待っていたのは知らない女性。そして、その後ろに隠れて怯えたように様子を伺っている少女がいた。

 

女性の方は短髪で肌も日光でこんがり焼けており活発そうな印象を受けたが、少女は私と同じ黒髪長髪で、白い肌に目が前髪で隠れており対照的な印象を受ける。この子は私と同い年くらいだろうか。

 

私は和かに視線を上げ相手の顔を見ると、女性は少し驚いたように私の瞳を見た。そして、綺麗…と一言。

そのまま暫く私を見つめていたが、ハッとした顔をして、慌てて言葉を紡ぐ。

 

「忙しいところ御免なさい…私達今日此方に引っ越してきた者でして、ご挨拶をさせて頂きたいと思って!」

 

私のお母さんと近い歳くらいなのに、身振り手振りで必死に話している所作が可愛らしくて、私は微笑みを絶やさずにわざわざありがとうございますと返した。

 

「御両親にも挨拶をさせて頂きたいのですが、いらっしゃいますか?」

 

「家主は私なんです。今は1人で暮らしてます」

 

そう、私は13歳という若さにして独り暮らしをしている。母は2年前に他界し、父は簡単に言えば精神的な記憶喪失、専門的に言えば解離性健忘を患ってしまい、私立病院に入院中なのだ。

 

私がこの年にして大人びた口調なのは、身内が居なくても1人で生きていく為の処世術だったりするのである。

 

「そうだったんですね…あのっ私はチヅルと申します、この子はソラです」

 

罰が悪そうに自己紹介をした女性の後ろで自分の名前を呼ばれたソラちゃんは、ビクッと反応すると、完全に母親に擬態する様にピッタリと隠れてしまった。

 

 

(シャイな子なのかな?それとも私が怖いのかしら。この子に警戒心を解いてもらいたいのだけれど…)

 

ここフタバタウンは、自然豊かな景観や、近くに観光地として人気高いシンジ湖、コトブキシティがある為、立地は世間からそこそこ評判がいい。しかし、蓋を開けてみれば住民が殆ど居ない限界集落である。勿論子どもは私以外1人も住んでいないので、歳の近いソラちゃんと仲良くなれるのは、私としては本望である。

 

べ、べつに友達がいないわけでは無いのよ?私にはシロナさんとかシロナさんとか…あとシロナさんとか…?…うん…いるもの…

 

ごほんごんほ。

 

せっかく歳の近い子と仲良くなれる機会だ、ここは一つ、ソラちゃんと仲良くなる為に行動してみよう!

 

「私はシェラです。宜しければ少し上がっていきませんか?丁度先頃いい茶葉が入ったんです」

 

(打ち溶けるには、美味しいおやつを食べながらお話しする事が効果的ってこの前読んだ物語に書いてあったものね)

 

私はゆっくりと視線を下げ、微笑みをソラちゃんに向けてドアをそっと開いた。

 

「ごめんなさい…その、これから日が暮れるまでに荷解きをしなければならないの……そうだ、よければこの子と遊んでくださいませんか?

ソラは人見知りでお友達を作るのも苦手な子なので、よければ仲良くししてくださると嬉しいのですが」

 

チヅルさんは、私に少し申し訳なさそうにしながらも、後ろに張り付いているソラちゃんを見ながら微笑んだ。

 

断られるとは予想外だったが、ソラちゃんと2人きり。これは仲良くなるチャンスとして願ったり叶ったりだ。私は微笑みを一層深めて嬉しさを表現する。

 

「喜んで!私もソラちゃんと仲良くしたいと思ってました」

 

「えぅ!うえあぇぅ!?」

 

チヅルさんは自分の後ろで変な声をあげたソラちゃんを強引に引き出すと、それじゃソラを宜しくお願いしますね!とウィンクをし、忽ち自宅の方へと走っていってしまった。

 

「チヅルさんは意外と強引なのね」

 

私が笑顔でチヅルさんに手を振り終えソラちゃんを見ると、彼女はどうしていいか分からないようでスカートをギュッと握りしめて固まっている。

 

(これは相当に警戒されているみたい)

 

私はそっとソラちゃんに近づき、ギュッとしてる手を両手で優しく包んだ。そして、下から彼女の前髪で隠れた瞳を窺う様に腰を屈む。

 

「ソラちゃん!私ね、今日貴方と出会えてとっても嬉しいわ。少しの間隣で過ごしてくれるだけで私は満足なの。だから、美味しいお菓子を一緒に食べましょ?」

 

私は笑顔を崩さない。

 

ソラちゃんが何を想っているのか、それは分からないけれど、きっとここで踏み出さなければこの子は家に帰ってしまう。そう思った。

 

ソラちゃんは握られた手を見るとゆっくり手の力を抜いてくれて、ぎりぎり聞こえる震えた声で私に言った。

 

「う、うん…」

 

「ありがとう!じゃあ、入って」

 

 

家に入るとソラちゃんをリビングに案内した。リビングには木組みの壁にショーケースが取り付けてあり、そこに原石や宝石のコレクションがずらりと並べられている。部屋の隅には観葉植物のシェフレラ、横にカップボードがあり、そこには色鮮やかな食器が並べられていた。

 

ソラちゃんはキョロキョロと部屋を見渡すと、落ち着かない様子で手を胸に当て強く服を握っている。私はこっちに座ってとショーケースの前に陣取っている大きなソファに誘導すると、そのままキッチンに行く。ケトルに電源をつけ、過日にシロナさんが持ってきてくれた美味しい紅茶と、私が手作りしたお菓子を準備する。お茶請けに出したのはオランジェットとプラリネ。

 

(女の子にチョコレートが嫌いな子はいないよね!)

 

そう思いながらお菓子と紅茶をソラちゃんの前に置き、向かいの椅子に座った。彼女を見ると、私に遠慮しながらもお菓子に手を伸ばして 美味しそうに堪能してる姿が見れる。

 

お互いに言葉を交わすことはなく、淡々と時間が過ぎる。でも、それは決して居心地の悪い空間というわけではなかった。私とソラちゃんの沈黙には意味がある。そう思えただけで、それが静粛な実情を誰にでもなく許されたように感じるのだ。

 

こういう時、言葉を交えるより素敵な時間を堪能する方法を知っている。それは心に直接感動を届けるもの。

 

私は椅子から立ち上がると、家の隅に置いてあるバイオリンケースを取り出す。そしてソラちゃんの前に立ち、見ててと微笑んだ。

 

ソラちゃんは私の持っているバイオリンを見て、私と彼女の距離の間に入るものに安堵したような表情と共に、純粋に楽器に対して興味を示すような素振りを見せてくれた。

 

人前で演奏する事は久しくしていなかったが、私は昔からバイオリンを弾くのが好きだったので手が勝手に動いてくれる。

 

演奏するのはハクタイの森をテーマにした曲だ。心が穏やかになれて、少しミステリアスな雰囲気もあって、まるで影にそっと差しこむ木漏れ日のようなこの曲が大好きである。

 

目を閉じてそっと息を吸うと、意識がバイオリンに集中する。微妙な弓のタッチによって、音が幾色もの変化を齎すこの繊細な楽器が私は好きだ。弾いている間は、雑念や孤独を忘れられる。ゆっくり、ゆったり、優雅に弾く。ソラちゃんがリラックスできる様に優しく、優しく。

 

さっきまで静寂だったこの部屋に、バイオリンの音が響く。

 

誰かのために弾く音楽は、それが上手か否かで感動を分つものでなく。その意味が伝わることにこそ本懐がある。だから私は、ソラちゃんの事を鋭意想って弾いた。

 

しばらくして一曲弾き終わると、私はお辞儀をしてソラちゃんの方を見る。

 

「どうだったかな?これが今日私が貴方に与えられる時間。美味しい紅茶とお菓子、それから演奏を聴いてもらうこと。私が集めた、大好きなものよ」

 

(ソラちゃんにとってはシンオウ地方に来た初めての日で、それは特別なものだもの。環境の変化に恐れないで、少しでも安心してくれていたら嬉しいな)

 

ソラちゃんは前髪で目が隠れている為、表情の変化を感じ取る事は口元でしか分からない。でも、口元は少しだけほころんでおり、彼女は満足してくれた様な気がした。

 

私が演奏し終わったバイオリンをケースに閉まい定位置に楽器を戻していると、テーブルの方から今にも消えてしまいそうな声が聞こえた。

 

「綺麗だった」

 

ソラちゃんはポツリとその言葉をこぼす。

 

「貴方の演奏が、このお菓子が、そして紫色の瞳が、とても繊細で優雅で、貴方のことを素敵だと思った」

 

突然喋り出したと思ったら嬉しい事を言ってくれるソラちゃん。私はその言葉で嬉しくなると同時に、なんだか急に恥ずかしくなってしまって、ソラちゃんを直視できずに目を逸らしてしまった。

 

「そ、そう…聞いてくれてありがとう。気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」

 

「でもごめんなさい…」

 

「え?」

 

予想外の言葉に私は驚いて彼女を見る。先ほどの柔らかい感じと違い、彼女はテーブルを見つめて思い詰めた様に言葉を放つ。

 

「私は貴方の友達にはなれない。汚れた私の血が、綺麗なあなたの側にあってはいけない」

 

「えっと…どういうこと?」

 

「私はね、流星の民の末裔なの」

 

私はその一言で彼女が何を言いたいのか瞬時に理解することができた。

 

流星の民。勿論私もその一族を知っている。

曰く、その一族は世界の危機を予言できる。

曰く、その一族は世界を二度救っている。

曰く、その一族は伝説のポケモン、レックウザを呼び出すことができる。

 

預言者、観測者と言われている一族であり、その力の真価はいまだに不明である。しかし逸話は世間的に迷信として半信半疑であったり、過激に英雄と信仰する者がいたりと、普遍的な認識が存在しない。ただ、近年流星の民が起こした大事件があったのは記憶に新しい。

 

「ヒガナさんのことね」

 

私は彼女に聞くと、彼女は首肯する。

 

「ヒガナ、それは私の親戚なの。彼女が起こした事は許されることではない。だから私は貴方に相応しくないよ…ごめんなさい」

 

この時、私はソラちゃんの事を少しだけ理解した。この子は怯えていたのではなく、最初から期待などしていなかったのだ。他人から否定され、自身を卑下する事に慣れて、心を閉ざしてしまった彼女には他者と仲良くなれるという期待が微塵も無い。そこにあるのは波風立たない様にする術であり、つまり他人と関わらないようにするということ。今までの沈黙は彼女の解である。なぜそれがわかったのかというと、私が正しくそういった類の人間だからだ。

 

でも、だとするのであれば。

 

「ねえ、友達ってなんだと思う?」

 

私は彼女の正面に座り直すと、ゆっくりと問いを投げかけた。

 

彼女は答えない。

 

「私には友達と呼べる人は殆どいないの。だからね、友達がどういったものを言うのかはよく分からないのだけれど。でも、何事もまずは知る事からだと思うの。何かを始める時、がむしゃらに行動しても成功しないでしょ?だからまずは知識を取り入れる。きっとそれに似ている気がする」

 

彼女は静かに聞いていた。私の発言から気持ちを汲み取ろうとしているのがわかる。

 

「ソラちゃんの秘密を一つ、私に教えてくれてありがとう。きっと隠すことも出来たのに、誠実に向き合ってくれたんだよね。私はね、私のことを考えてくれたソラちゃんの事を好きになったよ。貴方の優しさを知れて嬉しかった」

 

私は自分の伝えたい言葉を整理しながら、ゆっくりと彼女に語りかけた。慎重に、丁寧に。

 

「だからねソラちゃん、私はもっと貴方のことを知りたい。私のことも沢山知ってほしい。ソラちゃんが良かったら、これからも一緒にいてくれると嬉しいな」

 

私は前髪で見えない彼女の目を捉えるよう見据えて、笑顔を溢した。私は貴方の味方だよ、その気持ちが伝わればいいなと思いながら。

 

すると不意に部屋の窓から強い風が吹き抜けて、ソラちゃんの前髪を撫でる。私は突如露わになった彼女の顔を見てビックリした。

 

彼女は泣いていたのだ。

 

そして、風で揺れた前髪の隙間から見えた宝石の様な彼女の瞳に目を奪われてしまった。

 

ソラちゃんは、その名の通り透き通った碧眼であり、涙と相まって、まるで緑柱石のような輝きを放っていた。エメラルドとアクアマリン。色によって異なる名前になる緑柱石。どちらも大好きな宝石だけれど、私は原石の輝きよりも、もっともっと美しく光るアクアマリンの様な彼女の瞳を、ずっと見つめていたいと思った。

 

彼女は今精神の様子を暗示している。彼女の心に踏み込むには今しかないとわかっている。それでも、その瞳に息を呑み、私は一つの奇跡を見た様に言葉一つ出てこない。

 

「ありがとう…シェラさん…」

 

私の名前を呼ぶソラちゃん。

ハッと我に帰った私はどんな顔をしているのだろう。彼女はしっかりと私を見ていた。彼女の気持ちがわからなくて、楽しんでもらう事に必死だった私に向けて、心からのありがとうをくれた。

 

それだけで、今まで抱えていた不安が昇華される。

 

今ならわかるよ、ソラちゃんがどんな顔をしているのか。

 

彼女の表情は豪雨に太陽が差し込んで天気雨に生まれた奇跡。そう、まるで虹のような、空に祝福されたような、そんな素敵な笑顔だった。

 

 

私はソラちゃんが泣き止むまで暫くヒガナさんが巻き起こした事件について想起していた。

 

あれは確か5年前のこと。ホウエン地方のトクサネシティにあるトクサネ宇宙センターで超巨大隕石の飛来が確認される。その規模は地球を破壊する程の大きさであり、隕石は地球に向かって着実と落下を始めていた。慌てて対策を講じたものの政府はこれを止める事叶わず、結果的にユウキという1人の少年がレックウザと共に隕石を止める事に成功し事件は幕を閉じた。その事件は世間に不安を煽がないよう事の終わりまで秘匿されていたが、後に顛末がメディアによって露呈し、同時に騒動の裏で起こっていたヒガナという少女の暗躍についても報道されたというわけだ。

 

[悲報:流星の民、世界を終焉へと導く]

こんな感じで大きな記事になっていた事を私も大凡覚えている。

 

内容をまとめると彼女はこの事件で以下三つの罪を犯している

 

・ホウエンチャンピョンであるダイゴの父の大手企業、天下のデボンコーポレーションがトクサネ宇宙センターに協力し、デボンが誇るワープ装置を用いて次元転送装置を開発した。この次元転送装置を積んだロケットを宇宙に飛ばし、飛来してくる隕石とロケットが衝突する寸前で装置を展開することにより、別の次元へ隕石を送る。この大規模な計画が水面下で動いていたのだが、ヒガナという1人の人物に転送装置を破壊され阻止された。

 

・過去に悪の組織であるマグマ団、アクア団に別名義で潜入していた。マグマ団はマツブサという人物が率いる組織であり、「人類にとって理想の世界を追い求める」という旗幟を掲げ陸地を増やそうと企んでいる。アクア団はアオギリ率いる組織であり、「ポケモンにとっての理想郷を築く」を主張し、地上に大量の雨を降らすことで海を増やそうとしている。そんな組織に潜入したヒガナはそれぞれに伝説を復活させる方法を教え、大地の化身と海の化身を蘇らせた。

 

・他人に無理やりバトルを仕掛けてポケモンの新たな進化、メガ進化をする為に必要なキーストーンを強奪した。奪われた人物には、ポケモンチャンピョンや強豪と名高いトレーナーの名前が多く列挙されており、ヒガナという人物のトレーナーとしての資質が凄まじいものであることが窺える。

 

 

確かその記事には彼女の言葉も掲載されていた。ヒガナさんは「想像力が足りないよ」この言葉を言い放ち、メガシンカの存在しない世界を危惧していたという。

 

(気になる点が多すぎるわね…)

 

①なぜ転送装置を破壊したのか。

②なぜ悪の組織に潜伏し伝説のポケモンを復活させたのか。

③なぜ他人のキーストーンを奪ったのか。

 

もしかしたらソラちゃんなら何か知っていることがあるのかもしれない。そして、知らないところで起きている事件の真相は、目に見えることだけが正しいとは限らないから、きっとこれにも穴がある。

 

(いつか機会があったら聞いてみよう)

 

ヒガナさんの事件を脳裏で振り返っていると突然、ぎゅるるるりゅーっとソラちゃんのお腹の音が聞こえてきた。ソラちゃんは顔を真っ赤にしながら「安心したらお腹すいちゃったみたい…お菓子をいただいたばかりなのに…うぅ」と、年相応の柔らかい表情になり照れ笑い。

 

「あら、気がついたらもうお昼なのね…それじゃあご飯にしましょう!ソラちゃんも作り置きで良かったら一緒に食べよ?」

 

私が席を立つと、それを見たソラちゃんも同時に席を立つ。いいの!?シェラさんのご飯食べたい!私も手伝うよ。と言ってくれたが、食材を温めるだけなのでソラちゃんには座って待っていてと伝えた。

 

私はキッチンに行き冷凍してある手作りパンをオーブンで焼きながら、昨日煮込んでおいた牛頬の赤ワイン煮込みを温め直した。

 

「ソラちゃんは嫌いなものとかある?あったら遠慮なく言ってね」

 

私はソラちゃんとお昼ご飯を食べれることが嬉しくて、ルンルンと鼻歌を歌いながらレタスをちぎって氷につける。

 

「私は大丈夫!お母さんになんでも食べるよう言われてるから」

 

「ソラちゃんは偉いね、私は苦手な食材がいっぱいあるよ…」

 

なんでこの世界には美味しくないものを我慢して食べる事を美徳とする風習があるのかしら、食材も私も嬉しいことなんてないのにね…心でそんな事を考えながらレタスを水揚げしたあとでお皿に移し、そこにトマトと生ハムを乗せて粉チーズとオリーブをかける。最後にシーザードレッシングと胡椒を塗したら完成!

 

私は牛頬の赤ワイン煮込みを白いお皿に、パンを食べやすく切ったあと木のお皿に乗せ、テーブルへと運ぶ。

 

ソラちゃんは出てくるご飯を見て、目をキラキラ輝かせていた。

 

「こ、これは!貴族のご馳走…!」

 

私は笑いながらワイングラスを二つ持ってきて、そこにドライフルーツを入れ葡萄ジュースを注ぐ。これは以前シロナさんが飲んでいたサングリアを真似したのだけど、ドライフルーツが氷の代わりになっておしゃれなのと、ジュースを飲んだ後フルーツを食べる楽しみもあって私はこの飲み方を気に入っている。

 

「ソラちゃんお待たせ!さあ食べましょ」

 

私たちは一緒に手を合わせていただきますを言うと、パンに牛頬を乗せて味わっていた。

 

「シェラさん凄いよ!私こんな美味しいもの食べたことない!おいしいおいしい!」

 

ソラちゃんは心を許してくれたのか、はしゃぎながらとっても嬉しそうにご飯を食べている。私はそれを見て心が温かくなった。普段は1人で食べているご飯も、一緒に食べるとこんなにも美味しいのね。

 

「私もソラちゃんと一緒に食べれることがとっても嬉しい!」 

 

微笑みをソラちゃんに返すと、ソラちゃんはまた顔を真っ赤にして照れている。なんて可愛らしい子なのだろう。

 

(この子の為にも、ヒガナさんの行動の真意を知って伝えなきゃ)

 

私は密かに決意しながらソラちゃんと楽しい楽しいランチを堪能した。

 

ご飯を食べ終わった後も、私たちは暫く好きな本や色、星座などで談笑し、お互いのことを知っていった。

 

知れば知るほど、好きになれる。

 

私はソラちゃんと出来ること、したい事が増えていき、たくさんの可能性に心を躍らせた。

 

(友達がいるってこういうことなのかな。私今、とっても充実している)

 

それはまるで、嬉しい気持ちや楽しい気持ちを2人分感じることができるような。これからどんな事が起こるだろうという期待で想いが増してゆくような。そんな幸せな時間だった。

 

暫くお話しをし、ソラちゃんと夜星を見に行く約束をして一旦お別れしたのだった。

 

ーーー

時は経ち‥

初夏、満天の星である。

ここは心情湖。今、私はソラちゃんと約束をした通り、シンジュ湖で夜空を眺めている。

まだ夏になったばかりで夜の湖は冷える。そこで私たちは博士からヒコザルを借りて、しっぽの炎で暖まりながらお話をすることにした。

 

草の吐息と虫の演奏を堪能しながら、私たちは言葉を交わすことなくただ空を見つめていた。

 

夜に咲く星々が私たちの出会いを祝福してくれているように禍々しく輝いていて、そこに座っているだけでまるで冒険譚のIページのようだ。

 

「空が綺麗だね、満天の星。私は今日、ソラちゃんとこの夜空を見れたこと、きっと忘れない」

 

ぽつりとそんなことを呟く。

私は思ったことを心に留めておくことが苦手なので、ソラちゃんの方を見て微笑むと。

 

ソラちゃんは照れくさそうな顔で私を見つめ、笑い返してくれた。

 

「シェラさんは不思議だね。私が真実を口にしても、変わらず目の前にある私の姿のまま捉えてくれる。この世界は言葉が大切で、私はいつも言葉が足りなくて、それが嫌だった。でも、言葉じゃなくて、私自身を、この状況を。大切にして楽しんでくれるシェラさんは、とっても素敵だなって思うんだ」

 

ソラちゃんは自分の膝を見つめながら、そんなことをぽつりとつぶやいた。

 

私はソラちゃんの言っている言葉の全てをそのまま理解することはきっと叶わないけれど、その言葉に含まれていることが今宵彼女にとって少しの拠り所になり得るのなら、それで今は十分だと思った。

 

ただ、一番初めてのことだったので

 

それだけで特別になれる世界。

私たちは、他者目線に立てる人が社会的に上がることを知っている。

 

でも打算的じゃなくて。作り物じゃなくて。

 

ただ、

 

ただ、美しい。

 

ただ、

 

ただ尊い。

 

これを分かち合いたいという気持ちも打算的で、作り物で、エゴなのだとしたら

 

それは、

 

それは肯定できる人の営みなのかもしれない。

私はそれを嫌悪感なく受け止めることができるのかもしれない。

 

理不尽ばかりの世の中で頭を空っぽにしたふりをした私達は、曇りきった眼でそんなことを思いながら、雲ひとつない夜空を見上げている。

 

ディストピア化したシンオウ地方も、夜だけは神に許されているような穏やかさだった。

 

「ソラちゃんはあれを見ても怖がらないんだね」

 

私は開けた湖の丁度前方に広がる山脈を、前髪の間から睨みつけた。

初夏というのに、標高の高いその山は今も冠を被ってる。そのうえ山頂には不気味な時空の歪みが出来ており、見つめていると今にも吸い込まれそうな感覚に陥る。

 

「えっと…あれは、童話に出てくる不死の山?」

 

ソラちゃんは私の少し冷酷な話し方に違和感を覚えたのか、こちらに気を遣い慎重に聞いてくれた。

 

「ううん、あれはね、童話ではなくて神話なの。そう、災厄の象徴、テンガン山よ」

 

私がその山の名前を口にすると、ソラちゃんはビックリしたようにその山を見つめた。

 

それもそのはず、このシンオウ地方が闇に覆われ1500年が経つ。

朝日が昇る事は無く、怪奇現象の多発により住民は激減。シンオウ地方は空から伸びるあの時空の亀裂によりすっかりゴーストリージョンだ。

 

それもこれも、全てあの山で起きた一つの出来事によるもの。

だから私は、この地方に今更ながら引越してきたソラちゃんたち家族が訳ありなのは予測できる事として、特段驚かなかった。

斯くいう私も…

 

「私はね、あそこに行きたいの。でも、何度登ろうとしても辿り着けないの、山頂に」

 

ポツリと呟く。

2年前、私が自由の身になった時はじめて願ったのはあの山に行く事。

でも、あそこに向かう途中でどうしても戻されてしまう。道中に強い時空の歪みが生じているのだろうか。2年経った今も、私はここにいて、暗闇の中夜空を見つめている。

 

ソラちゃんは私の言葉を聴いても今度は驚かなかった。

 

また沈黙が戻ってくる。お互い言葉を紡ごうとせず、それぞれの感情をなぞっている時間だった。しばらくして、ソラちゃんは徐に立ち上がった。そして私を堂々と見据える。

 

「シェラさん。それなら…私も連れていってほしい」

 

私は視線をテンガン山からソラちゃんに移す。

貰った言葉についつい驚いて、ソラちゃんのことを真顔で見返してしまった。

 

でもソラちゃんは視線を合わせたまま淡々と言葉を続ける。

 

「気づいたの。私は自身の血に従って生きてきて、何か特別な使命があることが当然だと思っていた。でも、憧れていたヒガナさんは空を救うことができなかった。だからきっと私自身も特別な人間にはなれないんだろうって。そうやって心を殺して生きてきた。でも、きっと、特別な人間にはなれなくても、世界に一人だけの逸材になれなくても。誰かの特別にならなれる。ちょっと違うかな…私は今日、シェラさんの特別になりたいって、そう思ったんだ。だから、シェラさんと一緒に居たい。貴方があの空に手を伸ばすのなら、あの空こそ私の運命だ」

 

座っている私に今度はソラちゃんが手を伸ばす。

 

ソラちゃんは私の怒りも過去も覚悟も知らないけれど、でも私の隣に立ちたいという意思はしっかり持っていた。それは表情を見ればわかる。

 

私はどうする?

 

熱は冷める。

 

絆された感情はいつしかそれを他人の責とする。

 

私はこの手を取っていいの?

 

反射的に伸ばしてしまった右腕は、ソラちゃんの手を掴まずに、ゆっくりと地面に向かって落ちていく。私の視線も地面に吸い付けられるように下を向いた。

 

でも、ソラちゃんは落ちた手を両手で拾い上げてくれた。

 

ソラちゃんの両手に包まれた私の右手を見て、私は反射的にソラちゃんの顔を見上げると、彼女は笑ってくれていた。

 

「あそこが危険な場所だって事は私も知ってるよ。シェラさんがあそこに行きたい理由はわからないけれど、きっと私達が出会った事に意味があるとするならば、それはあそこに行く事だと思うの。私は空と生きていく一族だから、あの空を濁す時空の歪みは見過ごせない。シェラさんが一緒なら私は今度こそ頑張れそうだから。だから、私も連れていってくれないかな」

 

ああ…

 

やっぱりソラちゃんは綺麗な瞳をしてるな。

 

下から見上げているから。今はソラちゃんの瞳がよく見える。本当に綺麗なものを知っている人の、素敵な目だ。

 

私は暫く見惚れていたが、ハッと意識を戻して考えうる限りの言葉を簡潔に伝えた。

 

「ありがとう。ソラちゃんが居てくれたら、私はあそこに辿り着けそうなきがする。でも、危険なことにたくさん巻き込んでしまうし、もしかしたら命を落としてしまうかもしれない。それでも、後悔しない?」

 

ソラちゃんは笑顔のまま無言で頷く。

 

私は甘えてしまった…

13年間生きてきて、人に甘えることなんて両親以外してこなかった私が、初めて友達に甘えてしまった。

 

ほんとはわかってる。都合のいいことを言っていることを。死の危険が隣り合わせの目標に、自分の罪に他人を巻き込みたく無いと思っていたはずなのに。

でもこの子となら何故か成せる気がする。

ソラちゃんが流星の民の末裔でも、心細い自分の心情に寄り添ってくれたからでもなくて、ただソラちゃんが誰でも無いソラちゃんだったから。だから信じることができた。

 

私は立ち上がるとソラちゃんの両手と私の手を繋ぎ、にこやかに笑って言った。

 

「これから楽しくなるね。ソラちゃん、末永くよろしくね」

 

「こちらこそ、シェラさんと一緒に冒険できるの楽しみっ…よろしくね」

 

頭上から一つの流星が瞬いた。

私たちはもう一人じゃ無い

それだけで、十全だと思えた。

 

 




初めましてmitukiです
初めて小説を書いてみようと思い、幼少期から知っているポケモンの世界を舞台に執筆してみました。
主人公はまだ登場していませんが、サブキャラクターから始まる小説も悪くない?のかもしれません笑
この世界はレジェンズアルセウスにて、主人公がウォロとギラティナに敗北した後の世界観になっております。
またギラティナはアルセウスを降ろすことに成功し。シンオウは闇に包まれました。
この闇に立ち向かうは少年少女の勇気ある冒険譚です。コメントお待ちしております。気が向いたら続きを書いていきます!
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