艦隊を発した郷真機と鈴色機のF-35B飛行隊、ストレンジャーユニットは。
まずは洋上を大陸沿岸部を目指して飛び、そしてさほど経たずに大陸沿岸の海岸線を目視した。
洋上ではまだ少し残っていた遠海の悪天候の影響は、海岸線に至った頃には無くなり。
大陸上空は微かに雲があるが、恵まれた天候が広がっていた。
「海岸線を確認、方位を060へ」
《了解》
海岸線に至ったタイミングで両機は通信を交わし、二機編隊は進路を変更。海岸線に沿うように飛び始める。
《――2時方向、IFFに反応複数。識別フレンド》
「こちらでも確認」
海岸線に沿うように飛行を始めてからまた程なく、二番機の鈴色が知らせの通信を寄越し。郷真もまた自機のレーダーに、自分等とは別の複数の存在を確認する。
《下方、見えた》
「戦爆連合だ」
そして二機両名は同時に、示された2時方向下方にそれを見止めた。
少し高めの高度を取る二機より下方、いくらか地上に近めの高度に見えるのは。およそ10機ほどからなる航空機の編隊。
郷真等が合流を目指していた戦爆連合だ。
郷真等からもその内訳が見える。
航空宇宙自衛隊からの、F-2Aが4機。F-15Jが2機。
そしてアメリカ空軍からの、F-15Eが4機。
それ等が機種ごとの飛行隊で、適度な散会隊形にて編隊を形成している。
これらは異世界のこの大陸に通じていた最初の「接続点」の、その近くに展開された飛行場から出撃したものだ。
「戦爆連合各機へ、こちらはいずもDTG 分遣飛行隊のストレンジャーユニット。そちらの8時方向上空に居る、合流し護衛態勢に入る」
《ストレンジャー、こちらは7空3飛のブレイバー3、当方もそちらを確認している。併せて合流し護衛の兼も了解、頼むぞ》
郷真は戦爆連合に呼びかけ、こちらの存在と行動を示し。
向こうからもすぐに応答が、名乗りとこちらの行動を了解する旨が端的に返ってきた。
それを聞きつつ、郷真機と鈴色機は進路の調整変更と併せて高度を下げ。
戦爆連合編隊のやや側方上空、全体を援護できる個所に位置取る。
《ブレイバー3よりストレンジャー、作戦地点まではあと少しだ、今から備えてくれ》
「了解、すでにいつでも始められる」
ブレイバー3、F-2Aの編隊長機からそう備えるよう促す言葉が来るが。
郷真はすでに状態が完了している事を返す。
それから、郷真等の合流した戦爆連合は。海岸線に沿って少しの間、数分程度を飛行。
《――見えたぞ》
間もなく、編隊内から誰かが通信に声を上げた。
各機各員の視線の先、地上の向こう。
海岸から少し陸に進んだ所の土地に、小さく構造物らしき物がまず見え。すぐにそれが城壁で囲われた街あることが分かった。
それこそハーケィ王子に救って欲しいと託された、リュシテ王国のその王都であった。
《目的地点を目視ッ。各機散会、所定の行動に入れッ》
目的地点の目視確認と同時。ブレイブ3が指示の声を発し、直後には戦爆連合各機はそれぞれ所定の行動を開始。
上空を抑えての護衛警戒の役割を担うF-15Jの2機は、そのために急めの上昇を開始し。
F-2A編隊及びアメリカ空軍のF-15E編隊、地上攻撃を担う各隊各機は。
それぞれ地上への進入投射行動のために、バンクからの降下、あるいは緩い上昇行動で散会していく。
《ヨシ――踏み込むよ》
「あァ」
そして各機の行動を見つつ、郷真と鈴色は声を交わし。そして両機はバーナーを吹かした。
ストレンジャーユニット両機の担当は先鋒。
作戦地点、王都上空の低空域に最初に飛び込み。実際に現場状況を確認すると同時に、地上攻撃各隊のために王都上空の露払いをして確保するのが主たる役割だ。
そして他、必要とされる各行動を行う。
高度を下げながらバーナーを吹かして加速し、それから十秒も掛からない間もなく。
両機は王都へと至り、その上空へと飛び込んだ。
「――ッ」
《!》
飛び込んだ先、王都の上空より眼下に見えたのは――凄惨とも言える光景、王都の状況であった。
リュシテ王国の王都は、今まさに暴虐の手に飲まれる寸前であった。
リュシテの王都は、比較的控えめな広さの土地を城壁で囲い。
その中に豪勢ではないが気品を携える街を作り上げたもの。
元は、穏やかさと活気を両立した良き街であったその王都は……しかし今、暴虐に飲まれようとしていた。
現在王都は、ドゥリオルン幻龍帝国の軍団兵力にほぼ完全に包囲されている状況であった。
数で圧倒的に勝る幻龍帝国の軍団に対して。リュシテ王国軍の兵力はとても不利なものであり、そしてこの王都に後退して来るまでの抗戦の影響で、疲弊し傷ついていた。
王国軍の兵はそれでも今も王都に籠城し、懸命に戦っているが。しかし王都城壁に雪崩のように群がる帝国軍兵力を前に、対する王国軍の抗いの手はあまりに少なく、それすらも徐々に討たれ減っていき。
そしてついに城壁の正面城門には波状槌が叩き打たれ始め。
最早陥落は時間の問題であった。
帝国兵たちが城壁に群がり梯子を掛け、あるいは城門を破城槌で破りに掛かり。
投石器でしきりに火石が王都に投げ込まれ。
さらには帝国の名称にも関される『龍』が。正確には翼竜を用いる飛竜騎兵が、火息(ブレス)を吹いて城壁の王国兵を襲う。
「貴様ら、もっと腰を入れんか!そんな様では日が暮れるぞ!」
そんな、帝国兵達がリュシテの王都に攻撃の手を向け、乗り込み雪崩込まんとしている中で。
大型の陸竜に跨り、声を張り上げる男の姿がある。
猟犬のような鋭い容姿の男は、リュシテ王都を包囲する帝国軍の一軍団の軍団長。
軍団長の男が声を張り上げ兵の尻を叩く理由には、もちろん鼓舞の意味もあったが。同時にそこには『焦れ』があった。
ドゥリオルン幻龍帝国は急な拡大戦略により各地に兵力、軍団を進出させたため。それに対する補給が満足に追いついていないという問題を抱えており。
それゆえに兵は『飢えていた』。
飲食に、休息に、そして『欲』に。
「気張れ!雪崩れ込めばこっちのもの!飯に酒、そして女を奪い頂きたいだろう!」
幻龍帝国、いやこの世界の少なくない国々において。
戦火の元での略奪行為は認められており、兵の権利対価でありそして貴重な補給源という考え方が一般的であった。
そんな理由背景から。軍団長は飢えて不満を溜める兵達に食わせ与え、軍団の戦力・士気を維持回復させるためにも。
なんとしてもこの王都を陥落させて物にしたかった。
幻龍帝国は冷酷な国だ。勝利を献上した者は称えられ与えられるが、敗北にて帝国の名を穢した者には、無慈悲な末路が待っている。
「腑抜けた打ち込みはいらん!褒美を欲するならばもっと猛り奮え!!」
その背景事情が故に、軍団長は焦れ、そして声を荒げていた。
ここを破り王都を落とせば、軍団が少なからず潤うばかりか、王都を陥落させたという勝者の称号が手に入る。
多くが軍団の、己の利に傾く。
「あと少しで……!?」
しかし、そんな軍団長の。いや軍団の全ての兵たちの耳が。
「その音」を聞いたのは直後。
それは、あと少しで届こうとしていた飢えを満たす潤いを。遥か彼方へと遠ざける無慈悲な知らせ。
多くの者が最初は耳鳴りかと思った「それ」は、次第に空気を震わせるような轟音へと変わり。
「!……――!?」
瞬間。周辺を切り裂いたのかと思うが如き爆音が響き渡り。
そして同時に軍団長の、軍団の兵たちの真上を。何らかのシルエットが信じられぬ速度で飛び抜けた。
「……な!?」
思わず身構え身を庇った軍団長は、次には顔を起こして頭上を飛び去った気配を追いかけ。
そして信じがたい異質な姿に、剥いた目を奪われる。
向こうの大空を背景に、宙空を切り裂くかのように飛ぶ二つの飛行体が。
まるで雷光の如きそれ――F-35Bの姿が見えた。
郷真機と鈴色機の二機のF-35Bは、低高度にてリュシテの王都上空へと進入。
「――ッ」
《!》
王都上空を飛び抜け通過し、反対へと抜けるまではわずか数秒であったが。
その際に二機の両名は眼下、王都の状況を目に入れた。
帝国軍団に包囲され群がられ、王国軍側に不利な様子は一目瞭然。
そして投石器により投げ込まれる火石や、さらにはこの異世界に存在すると聞いていた『竜』の吹き降ろす火息(ブレス)によって、王都のあちこちから火の手が上がっていた。
《見た?酷い……っ》
王都上空を飛び抜け、すぐさま二機は反転のための旋回行動に入りながらも。
上空から見ても分かった王都の惨状に、鈴色が苦い声色での言葉を通信で寄越す。
「仕事を急いだほうがいい――地上攻撃隊への脅威の可能性を排除する」
鈴色からの声を聞いた一方の郷真は、凄惨な王都の状況に思うところが無いではなかったが。しかし普段と変わらない淡々とした言葉でそう返す。
「低空域の飛行生物。ドラゴン――かは知らないが、あれは攻撃隊進入の阻害になりうる」
《了解、それをやろう。威嚇効果で、地上の助けにもなるかも》
次にはターゲットを決定するやり取りを通信で交わしながら。
両機は旋回半径を違えて少し距離を離す調整行動を伴って、旋回行動を完了。王都の方向へ再び機種を向ける。
「――」
先行する郷真機は高度を低めに保ちつつ、機を進入コースに乗せた。
郷真は直進コースの向こうに、王都上空で飛行する複数の飛竜騎兵を目視。そして次にはそれ等をHUDに表示されたレティクルに捕まえ。
操縦桿のトリガに指を掛ける。
「――ッ」
郷真が人差し指に力を込めた瞬間――
郷真機のF-35Bがその機体下面、「腹」に備える機関砲ポッドに。それに収まるGAU-22/A 25mm機関砲が唸りを上げた。
撃ち放たれた25mm機関砲弾の群れは、一瞬後には王都上空を脅かしていた飛竜騎兵たちを襲う。
突然の、帝国軍団からしたら全く正体不明な存在であるF-35Bの出現に。驚愕し呆気に取られ、緩慢な動きしかできていなかった飛竜騎兵たちは。
直後には、機関砲弾の貫通、そして接触着弾に伴う炸裂。それぞれの凶悪なエネルギーに千切られ弾かれ。
また一瞬の後には、まさにボロ切れの如きとなって宙に舞い散った。
しかしさらに、帝国軍の飛竜騎兵たちを襲う「凶悪」はその一度に留まらない。
タイミングをずらして続き進入した鈴色機が、郷真機が攫い切れなかった残る飛竜騎兵たちを襲撃。
郷真機と同様に機関砲を撃ち叩き込み。残る飛竜騎兵たちを先の仲間たちと同様に、宙空に千切れ散り果てるボロ切れへと慣れ果てさせた。
比類なき強大さを誇る幻龍帝国の、その国名に冠されるまでの強さの一つの象徴であった竜騎兵。
しかしその強大さの象徴は、武勇は。今の瞬間まさに、覆り砕かれたのだ。