リュシテの王国王都を救うための航空作戦から数日後。
視点は大陸中央の一地域へ。
そこは、陸上自衛隊がリェエンの村の近くの要衝地に設営した駐屯地から、またいくらか進出した地点。
周辺は草木が適度に茂り、とても緩やかな丘の傾斜と稜線で描かれる地形。
本来は静かで穏やかな場所であったであろうその場所は――しかし現在、物々しい無数の炸裂音が響きそれに包まれていた。
「――ッ」
地上草原に走っていた轍に沿って、乱雑な縦隊で停車しているのは第101前進観測隊の車輛群。
そのいくつかは、各搭載火器の銃口を側方向こうに向けて、銃火を唸らせ撃ち向けている。
そして各車輛にはそこを遮蔽にして取り付きカバーし、切羽詰まった様子で戦闘行動を行う各隊員の姿がある。
そしてそんな車輛群縦隊や各員の傍を、真剣かつ急く様子で駆ける一名の隊員がある。
前進観測隊に組み込まれる選抜射手(マークスマン)、越生だ。
第101前進観測隊は現在、突発的な遭遇戦状態にあった。
設営された駐屯地を朝早くに出発し、大陸のより奥地への調査を進めるため、進行行動中にあった第101前進観測隊は。
その道中、中規模の不明勢力と遭遇。そして同時に襲撃を受け、戦闘状態に突入することとなった。
「敵ッ、二個小隊規模ッ」
「右後方から周ろうとしてる、阻害しろッ」
各車が搭載火器を苛烈に唸らせ、カバーする各員が声を張り上げながらまた交戦行動を行っているその傍を。
それを少し横目に見ながら、駆け抜ける越生。
「――ッと」
そして縦隊車列の傍を駆け抜け切り、その先に飛び出た越生は。
そのまま側方にずれ、緩やかな下り傾斜部となっている場所に勢いのまま飛び込んだ。
「――隊形をさらに両翼に展開させろッ」
そこには先んじて、隊長の須藤及び本部要員の数名や、普通科小隊長の御邸など。
居合せた、もしくは必要から集った各員が傾斜を利用してのカバーから展開していた。
「いずれかの装甲車輛を前に上がらせろ、守りの展開が不十分だッ」
「了、2分隊にやらせますッ。併せて支援火器を左向こうの高所に周らせます、いいですねッ?」
「許可する、アドバンテージを早急にこっちのものとするぞッ」
須藤に御邸が居る関係から、そのままそこが戦闘指揮の場と中心となっており。
須藤と御邸は向こうの敵を指し示しながら、襲撃された故に後れを取っている状況を覆すべく、算段の声を交わし張り上げている。
「選抜射手、来ました」
「越生か」
そんな場に、越生は傾斜にスライディングの形で飛び込み。身体を遮蔽させると併せて、自分の到着を須藤に伝える。
「何か目標の指定は?」
「今の所、あまりに特異なものは見ていない。目標選択は任せる」
次には当然の動きと言うように。控えていた自身の火器、7.62mm狙撃銃 HK417を傾斜遮蔽から突き出し構えながら、越生は須藤にそう尋ねる。
選抜射手である越生の分担は、敵の下~中級指揮官や重火器など。特に重要、もしくは脅威度の高い敵性存在を優先して排除することだ。
その上で、指揮官である須藤に指定の優先目標があるか一応のお伺いを立てたが。須藤からは判別選択は越生に一任する旨が返される。
「了」
須藤からの任せる言葉に端的に答えた後、越生は突き出し構えたHK417のスコープの覗いた。
スコープ越しに、数百m程間を空けた向こうに見えたのは。多数の中型陸竜と、いくつかの簡素な馬車に荷車が縦隊を成す一団。
その縦隊は今は荒く乱雑に止められ、陸竜の類はよくて伏せさせられ、あるはただ放置され。
そして敵方縦隊各所には多数の人影が散会して身を隠し、こちらに矢撃などを攻撃の手を向けて来ていた。
「――」
それを視線を流して観察してから、越生は一旦敵縦隊のみへの中止を止め。一帯全体を広く見渡す。
こちらと向こうの間に広がる草原の上に点在して見えるは、崩れ沈んだまたいくつもの陸竜と、それを操っていたであろう騎手の亡骸。
それは遭遇接敵からの初動の最、真っ先にこちらに向けて接近襲撃を仕掛けようとして来た。そしてしかし、前進観測隊の各火器の応戦によって儚く砕け沈んだ敵の慣れ果てであった。
前進観測隊からの苛烈な応戦行動は、敵方にとっても想定外のものだったのか。また視線を戻して敵側縦隊の各所を見れば。
向こうの端の方には、足並み揃わぬまま回り込み行動を企んだか。しかしこちらの重機関銃の撃ち込みに、砕かれ吹っ飛ぶ陸竜騎兵の有様がちょうど見え。
また、指揮官クラスと思われる人間が怒号を張り上げているが。しかしやはり足並みを揃えるには影響せず、おぼつかな様子で走りまわる向こうの人間の姿が見える。
「――」
そんな敵方の状況に、若干の呆れと労しさを覚えつつも。
越生は「標的」を探す。
構えるHK417を、その銃口を静かに動かし。
次にスコープ越しに目に映したのは、敵方の縦隊に組み込まれる荷車。
正確には、その上に乗せ据えられた物々しい造りの連弩の。そこに着き、必死の様相で矢撃をこちらに放っている弩手。
「――ッ」
その弩手の頭を、スコープのクロスに収め捕まえ――引き金を引いた。
スライドの下がる衝撃が越生に伝わり、撃発の音が響き上がり。それからコンマ数秒遅れるもほとんど同時。
荷車の上で連弩に着いていたその敵が、次の瞬間には一瞬だけその身から血を吹き散らす姿を見せ。そして向こうへと弾かれ吹っ飛んで消えた。
「悪いな」
静かに、冷淡なまでの声色でそんな声を零しつつ。越生はその向こうに注視し続けることは無く、次の標的を探す。
次に見つけ捕まえたのは、馬車の遮蔽から身を乗り出し。今まさに投石紐をその腕っぷしで回し、投げ放たんとしている瞬間の人影。
それは屈強な体を獣毛で覆い、そして狼の耳や尻尾を持つ、この世界の獣人と呼ばれる存在。
しかしその獣人が行動を成すよりも早く。越生は手早くスコープにその狼獣人を収め捕まえ――発砲。
次に向こうへと撃ち込まれた7.62mm弾は、その獣人の屈強な胴をしかし易々と貫き。
その狼獣人は口から血を吐き散らし、投石紐を落とし膝を付いて崩れ沈んだ。
「――来るか」
その狼獣人の姿にまた注視し続けることはなく。越生は再び視線を広くに走り巡らせ索敵。
そして向こう敵方の騎竜や荷車からなる縦列の一ヵ所に、動きを見る。
敵方縦列の間を割り、荒い動きで繰り出て来たのは三騎ほどの陸竜騎兵。その先頭の陸竜に跨る人間は、剣を振り上げ何か怒鳴り喚いている。
様子から、こちらに向けて突撃行動を企んでいることが伺えた。
次には威嚇か、仲間への鼓舞か。陸竜の前足を跳ね上げさせ、そして猛り奮う鳴き声を上げさせる。
そして次にはまさに、地面を踏み切ってこちらへの突撃行為を開始しようとする。
だがそれを成させる前に。越生はすでにスコープのクロスに捕まえていたその陸竜騎兵に――発砲。
陸竜の騎手は、面白いまでの勢いで騎上から吹っ飛び打ち退かれ。地面に叩き落ちて動かなくなる。
そして騎手を失い、制御を失い『暴れ竜』となって飛び出したその陸竜は。
前進観測隊の車載重機や、要員の汎用機関銃が成すクロスファイアに食われ。砕かれ主である騎手の後を追った。
「各隊各班、射撃を慎重にしろ。味方が前に出る」
それを確認した直後の越生の耳に。隣近くにいる須藤の声が届き聞こえる。
それは肉声、及び通信に上げての各隊各班への知らせと指示。
視線を前方正面に向ければ、示された通り。
普通科小隊 第2小銃小隊に組み込まれる24式装輪装甲戦闘車(以降、24ICV)が。車列縦隊の後方より正面に、庇い任されるように徐行速度で繰り出て来た。
そして続き、少しの距離を置いて16式機動戦闘車(16MCV)も繰り出て来る。
また、それぞれの車輛の背後には普通科小隊からの1個チームづつが随伴。両装甲車両にカバーしながら、各射撃を向こうに突き出し向けている。
その動きの最中、敵側の重弩を乗せた荷車より。一発の杭のサイズの矢が放たれ襲い来て。
24ICVの正面装甲を叩き、微かに嫌な音を当てた。
しかし、それにより24ICVが行動に支障をきたすことは無く。次にはその砲塔が旋回、搭載のMk.44 30mm機関砲がその重弩を捕まえ――咆哮を上げた。
応射にて撃ち込まれた機関砲弾は、重弩を乗せた荷車を。その射手共々、あまりに容易くそしてえげつないまでに、木っ端微塵に砕き散らし。
その次に向こうのその付近に残ったのは、あらゆるの「欠片」の散らかった光景のみであった。
「崩れ始めたな」
また越生の耳に届く、須藤の零した声。
敵方には明確な態勢の瓦解、一部には場を放棄して逃走する者が見受けられ始める。
そんな敵の縦隊体隊形に。先鋒を務め繰り出て行った24ICVに16MCV、そして随伴の普通科のチームが至り踏み込み。
近接交戦から制圧無力化に掛かっていく様子がこちらからも見える。
そんな進展と、さらにその間により効果的に展開した他各隊各班からの火力もあって。
敵の無力化の完了、遭遇戦の決着は、すでに時間の問題となっていた。
「――はン」
越生はスコープから外した目で、全体のそんな動きを観測しながら。
血生臭い「仕事」の一区切りに、倦怠の混じった一息を吐いた。