「クソッ、どうなってやがんだ!」
場所は再び町の中心部、その一ヵ所に建つ町の協会。
そこはやはり現在は、傭兵団に占拠されその拠点として利用されている状態にある。
その協会建物内には陣頭指揮を執るガイサの姿もあり。そしてそのガイサは今、大変に焦れて苛立っていた。
始めは、何やら現れたらしい得体の知れない存在とやらを、しかしすぐに片づけ。
その勝利を肴に酒や食べ物をかっ食らい、そして再び『お楽しみ』に興じようなどと企んでいたガイサ。
しかしだ。そのために集まり再編成を命じたはずの傭兵団の各部隊は、しかしその多くが戻る事は無く。
どころか、なにか這々の体で戻ってきた僅かな配下たちから聞き出せば。
「相手が音を鳴らすだけで、こちらが軒並み射貫かれ屍へと変えられてしまう」
「緑の鋼鉄の怪物に、仲間が啄み喰らわれた」
などなど。
聞かされるのはまたしても要領の得ない、そして面白くない知らせばかり。
皆目見えぬ状況に、思うように運ばぬ現状から。ガイサの苛立ちは積もるばかりであった。
「音が鳴って、射貫かれる……?まさか、「連中」が寄越した「アレ」と同じ……?」
しかしそんな苛立ちを感じながらも。ガイサはその得体の知れぬ存在について、一つのある思い当たることがあった。
「……うぇぇ」
脳裏にそのある事項を浮かべ、考えを巡らせようとしたガイサ。
だが次にはそれは、向こうから聞こえた泣き声には阻まれた。
今の場所は教会の聖堂、内部に並ぶ座席の隅には。傭兵たちの手で捕らえ集められた街の住民が、監視のもとに身を寄せ合っている様子があった。
その主は、体力ゆえに抗い戦う事も逃げることも難しく叶わなかった、高齢者や幼い子供たち。
住民の内の多くの男性や、一部の気丈な女性は、抗い戦った果てに命を落としており。
そして少なくない数の若い女や、一部の『見た目の良い』若い男は。先のガイサの元の夫婦に見るように、どこかに連れ込まれて傭兵たちの慰み物とされていた。
泣き声は、その囚われた住民の内の子供が上げたものであった。
「チッ、クソッ。おい!ガキがうるせぇぞ!」
その子供の泣き声は、苛立っていたガイサの神経を逆なでし。
ガイサは面白くない状況もあって、まるで物に当たるように囚われの住民たちに向けて声を荒げ飛ばし。
そして泣きぐずる子供を黙らせようと、住民たちにズカズカと詰め寄った。
「止めなさい!まだ小さな子供だぞ!」
しかし、そんなガイサの前に、進路を阻むように人影が立ちはだかる。
少し身長高めで、齢は50過ぎ程で少しの衰えが見えるが、しかし偉丈夫な男性。
その正体はこのフレンクィの町の町長であり、名をディーロと言った。
「はんッ!」
「がぁ!?」
しかしガイサはそんなディーロの抗いの行動を鼻で笑うように、次には詰め寄る歩みのまま、その脚でディーロを蹴っ飛ばした。
「町長!」
「おじちゃん!」
倒れ込んだディーロに、年長の子供から小さな子供たちが慌て駆け寄り囲う。
「大丈夫だ……」
そんなディーロはしかし子供たちを少しでも安心させるように返し。
次には己の目の前に立ち、見降ろして来るガイサを睨み返す。
「町長さんよォ、反抗的なのは感心しねェなぁ」
「っ」
そんなディーロをしかし嘲るように。次にはガイサは剣を抜いて、その切っ先をディーロに降ろし突きつける。
「聞くにテメェら、ドサクサに紛れてガキを数匹逃がしてくれたそうじゃねぇか?大人しくしてりゃぁ温情も考えたが、そんな態度だとこっちも扱いを考えねぇとなぁ?」
ディーロ始め、町の住民たちはなかなかに煩わしい抵抗を見せてくれた。
その事から、ガイサたちも住民への扱いを一層手荒いものとしていた。
そして今また忠告、いや脅すようにガイサは剣先をディーロの喉元に尽きつける。
「っ……!」
しかしディーロは、怯える子供達を己の背に庇いながら。ガイサを睨み見上げることを止めない。
それに一層の腹立たしさを覚え、ガイサはこの場でディーロを『見せしめ』に切り捨てることを脳裏に浮かべた。
「か、頭っ!き、来た!ヤツ等が来やがった!!」
しかし、そこへそれを阻み水を差すように。あからさまに困惑狼狽した配下の傭兵の一人が、叫び声を寄越しながら走り込んで来た。
「!」
そしてその次に、教会の外から聞こえて来たのは。何か聞き慣れない複数の破裂音に、そして狼狽の声に悲鳴。
「クソ、なんだってんだッ!ちゃんと伝えろ!」
「分かりやせん、分かんねぇ……!緑の服の……兵隊みたいなヤツ等が襲って来た……!!」
そんな苛立たしい配下の様子と要領の得ない説明に。ガイサは青筋を立てて声を荒げながら詳細を要求するが。
配下は変わらず狼狽の様で、分からぬことを喚くのみ。
「チ……『連中』の言ってたことは、与太話じゃなかったってコトか……?」
そんな部下に最早呆れ、舌打ちを打ちつつも。同時にガイサがその脳裏に浮かべたのは、ある「心当たり」。
「ハッ!上等だッ!なんだか知らねぇが、このガイサ様に逆らった事を後悔させてやる!」
そして次には、ガイサは己を鼓舞するようにそんな言葉を上げる。
「おめェら!ビビんじゃねぇ!相手が何かしらねぇが、やりようはいくらでもあらァ!このガイサ様の、剣牙虎の傭兵団の名を汚すんじゃねェ!!」
続けガイサは、ディーロたちにはもう興味は無いと身を翻すと。
周りの配下の傭兵たちを叱りつけ、併せて鼓舞する意味を含めて声を張り上げる。
「!……へ、ヘイ!」
「お、オウっ!」
「そうだ、叩き返してやる!」
それに配下の傭兵たちも、まだ狼狽残りつつもいくらかの統制を取り戻し。次には荒々しく戦いに向けての動きを始めた。
「オイ、お前。「アレ」も引っ張り出して適当な位置に据えろ」
「え!あの胡散臭い代物を試すんですかい……?」
そんな傭兵たちが動き始めた中。ガイサは傭兵の一人を呼び止め、何かの準備を命じる。
「そうだ。お前、冷やかしがてらに『連中』から使い方を聞いてただろ?」
「へぇ……ですが、『連中』は自慢げに話してやしたが、「アレ」は豆粒を飛ばすしょっぱい連弩としか……」
しかしガイサの命じ、尋ねる言葉に。その傭兵は困惑と疑惑の混じった色で返す。
「なんでもいい、利用できそうなモンは利用する!それに良い機会だ、『連中』の言が本当か試してやろうじゃねぇか!」
だがガイサはその傭兵に、有無を言わさぬ様相で命じ。
そして少し面白くなさそうに、しかし何かを企む色で言葉を発した。