キャラバン隊と別れ、須導率いる第101前進観測隊は目的地を目指す行程を再開。
目的地の要衝地、及び集落を目指して。各隊班の車両グループごと、一定の距離を取っての車輛隊形で轍を進めている。
牧歌的な光景の中を、装甲車、自動車の隊形がエンジンを唸らせて行く光景はなかなかに異様だ。
その隊形の先頭側。
87RCVが引き続き先鋒を務め。一応の距離を離して、須導等の共通軽装甲車に、他数輛からなる一グループが続く。
「――フレンド通知が来てたが、薩摩もあのタイトル触れてみたのか?」
「えぇェ、やりましたよ。どんだけピザにパイナップル乗せんの憎いんだってシロモンでしたがッ」
「実際、その域なんだろうな」
共通軽装甲車の車上では、道中の手持ち無沙汰潰しにまた雑談など飛ばしつつも。
しかし須導始め乗車各員は、それぞれの方向へ警戒監視の視線を向けて回している。
キャラバンからは、目的地の集落は馬を走らせれば半日も掛からぬ距離との話であり。車輛なら所要数時間程度であろうと換算。
「おや、あれか?――」
そしてそれが正しかったことを示すように。間もなく隊の進行方向の向こうに、集落のものと思しき小さな影が視認でき。
ハンドルを預かる加納が声を零しかけた。しかし、
「――ッ?」
それとほぼ同時か、何ならばそれより早いくらいに。須導は元より、各車各員は「違和感」、いや「異常」にに気づいた。
《22より10ッ》
「――見えている、気付いている」
直後には、前を行く87RCVから急く色での通信が寄越され。しかし須導も「皆まで言うな」と言うようにそれに返す。
「火の手……!」
須藤の隣の運転席で、加納が肩代わりするように零す。見える集落からは、火の手が上がっていた。
「生活のそれにしては、きな臭さが過ぎるんじゃないかッ?」
「チィッ」
まだうっすらとしたもので、数も少ないが。それからは「異常」、「荒事」の気配が嫌でも漂って来た。
それを目撃し、また加納が訴える言葉を上げ。薩摩はタレット上から隠さぬ舌打ちを寄越す。
《22より、前方に動き――こちらに来る人影複数ッ》
そこへさらに、87RCVから知らせの通信が来る。それは前方向こうにさらに見える動きを知らせるもの。
「あァ、それも視認しているッ」
それにまた、端的に答える須導。須導は助手席に座していることも煩わしいと言うように、走行中にも関わらず開け放った助手席ドアから身を乗り出し。
双眼鏡を覗いて向こうの光景を観察する。
「何です?何が見えます!?」
それに、運転席側から加納が。車輛を走らせつつも、焦りを見せつつの状況情報を欲する声を寄越す。
「子供だ――追われているッ」
それに須導はまた端的に、示し答える声を返した。
集落、リェエンの村より伸びる轍を。まさに必死の様子で走る二人の子供の姿がある。
「にい……ちゃん……!」
「がんばれ、リケ……っ!苦しいだろうけど頑張れ……!」
齢二桁も行かない男の子に、さらにそれより年下の女の子。女の子の方は、明かせば昨日に冒険者パーティーの三人にエールを送った子。
男の子が女の子の手を引き、懸命に走っている。
しかし見れば、手を引かれる女の子に。ばかりでなく励まし手を引く男の子のほうも、すでに息に体力は限界と言った様子であった。
そして二人の背後向こうを見れば。
この世界に存在する爬虫類型の生物――陸竜を騎乗動物として操り。二人に制止の声を怒鳴り、さらには下卑た笑いを上げながら、追いかけてくる複数の存在がある。
目に見えてまともでは無い存在。それこそ最近よりこの周辺を脅かしていた、野盗集団であった。
明かそう。この子たちも住まうリェエンの村は、野盗たちの襲撃を受けた。
昨日に冒険者の少年たちが、討伐に向かった矢先だと言うのに。
経緯に、願い託した冒険者の少年たちがどうなったかも皆目不明。
野盗の襲撃により村が混乱に陥る中。二人は居合せた大人たちにかろうじて逃がされ脱出。
しかし、その場面も野盗たちに見つかり。大人たちがしてくれた時間稼ぎも虚しく、すぐに追手が放たれ。
二人は今、追われる身に状況となっていたのだ。
「はぁっ……あぅっ!」
「!、リケ……っ!」
女の子の小さな体は、その突然始まった逃走劇にしかし長くは持たず。ついに限界を迎えて、脚をもつれさせ崩れる。
男の子もそれに引っ張られ脚を止める。しかしうずくまってはいられない。
慌て女の子の手を取り直し、身を支え。どうにか逃走を続けようとする。
「!、ぁ……」
だが、それよりも前に。二人にその身を脅かす影に追い付いた。
野盗たちの操る陸竜が、次々に追い付いて現れ。二人を囲い、その行く手、逃げ道を阻み閉ざしたのだ。
「糞!手間かけさせやがって!」
そして追い付くや否や、その陸竜の内の一騎の騎上から、野盗の荒くれ男が二人を見下ろし。目に見えて腹を立てた色での、荒んだ声を降ろして来た。
「逃げられると思ったのかよ!? 面倒なことしやがって!」
「追い掛けっこはおしまいだガキ共!ギャハハ!」
二人を取り囲んだ野盗たちは、いずれも荒げた声や、嘲る声を連ね降ろして来る。
そこに含まれるはあからさまな、隠そうともしない害意。
襲い奪い糧とすることを、当たり前として疑わぬ価値観。子供を痛めつけ害する事すらなんとも思わない、相容れない存在のそれだ。
「!」
「にいちゃん……」
そんな者たち囲われ、恐怖に襲われる二人。しかし男の子は己が役目と、女の子を抱き庇う。
「ガハハッ、お兄ちゃんは騎士様気取りかっ?」
「!、あぐ……っ!?」
しかしそれすら許さぬように。一人の野盗が陸竜を操り近づき。そしてなんと、男の子の身を容赦なく蹴り飛ばし、女の子から退けた。
「にいちゃ!……きゃぅ!」
そしてさらには、また背後から近づいた別の野盗が。女の子の身を捕まえ、乱暴に吊り上げるように引き摺り寄せた。
「ぐ……リケ……っ」
「やぁぁっ!」
蹴飛ばされ地面にうずくまる男の子は、苦し気な色で女の子を呼び。女の子もまた男の子に助けを求めるように叫ぶ。
「おら、手間かけさせんじゃねぇ!」
「あんまり喚くなよ、俺たちが悪者みてぜだろぉ?」
「何言ってんだ、実際その通りだろ?ギャハハ!」
そんな子供たちに対して。しかし野盗たちが浴びせ見せるのは、やはり下卑た怒鳴り声に嘲笑。
「オイタするガキどもにゃ、お仕置きが必要だな!ひひっ!」
「おいおい、こんなガキに興味あんのかよ?ガハハ!」
好き勝手を宣い、身の毛のよだつ下種な言葉を交わす野盗たち。
「ぃや……いやぁぁ……っ!」
聞かされたそれは女の子の恐怖を一層煽り。女の子は己をぶら下げ捕まえる野盗の手から逃れようと、必死で藻掻き暴れる。
しかし手足は虚しく空を切るのみ、最早逃れる術はない。
「あぁ、うぜぇ!大人しくしろや!」
そしてそれは野盗の神経を逆撫で。
藻掻き逆らう女の子を煩わしく思った野盗は。その動きを黙らせ封じようと、その荒々しい腕っぷしを、女の子のか細い首に伸ばそうとした。
――ドゥンッ。
端的に。鈍くもしかし、劈く音が届き響いたのは瞬間。
「――びげぁっつ!?」
そして、野太くもいかしえげつない悲鳴が。何か肉が爆ぜ裂けるような音を交えて、響いたのは同時。
「――ぁぅ!……ぇ……なに……?」
そして次には、女の子は支えを失い一瞬落下し。少し乱雑に、しかし芝生に尻を受け止められる形で地面に落ちた。
そして状況を手探る様に辿り、振り向き見上げれば、陸竜の騎上から、女の子を捕まえていたはず野盗の体が消えていた。
「は?……う、うわぁぁ……っ!?」
「なんだこれはぁ……っ!?」
その在りかは、他の野盗たちが上げた狼狽の声に示された。
主を失った陸竜より少し離れた背後。
そこに、女の子を捕まえていた野盗の体はあった。
跨っていた騎上より射ち退けられ、そして地面に叩きつけられ沈み。
――「砕かれた頭部」より、血に脳症をぶちまける姿を晒す姿で。
「な、なんだよぉ!?なにが……!?」
「一体……うわっ!?ひっ!?」
仲間の突然の惨たらしく慣れ果てた姿を前に、狼狽を見せ始めた野盗たちであったが。
しかし直後には、まるで動揺狼狽の暇すら認めないと言うように。
異様、異質な。まるで空気を切り裂くような様相で。
命の危機をも感じさせるそれが、野盗たちの頭上を脅かすように煽り掠め始めた。
「リケ!」
「……!」
そして大混乱に陥る野盗たちの中で、女の子は再び駆け寄って来た男の子に抱き庇われる。
同時にその最中で、二人は気づいた。
そのそれぞれの現象が、向こう遠くからの物であることに。
こちらに向かって唸り押し迫る、見た事も無い濃緑の物体――第101前進観測隊の、車輛隊であることに――