「俺に剣術を教えてください」
そう来たかと思った。
俺にそう言ってきたのは『カグラバチ』の主人公、
原作開始の三年前の姿だ。
父親を殺され、家を失い、復讐を誓った悲劇の主人公。
根は優しくて面倒見がいい子なんだが、事情があって世の中からは距離を置いて育った。それだけに彼にとって父親の背中はあまりに大きく、家族というだけでなく憧れだった。
その父親を殺されて、犯人を自分の手で殺すまで止まるつもりがない。
どういうわけだかこの世界に生まれた俺は、千鉱の一つ年上で、柴さんの知り合いで、自然な形で二人の味方だった。
この世界は結構物騒なので、俺は剣術と妖術を学んだ。どっちも使える。
だから千鉱に剣術を教えるのは何もおかしいことじゃない。千鉱はあくまで刀匠の息子、柴さんは格闘は強いけど剣術は習得してないから。
「戦うなとは言わないよ。でも俺の剣術は基礎を学んでから我流で鍛えたんだ。それが千鉱に合うかどうかは……」
「構いません。それなら俺も我流で極めます」
事情が事情だ。復讐をやめろって言われたってやめないのはわかりきってるし、何を言っても今更止まらないんだろう。きっと死ぬまで。
それなら、こっちはせめて死なないように傍でサポートしてやるしかない。
「わかった……俺に教えられることは教える」
「ありがとうございます」
原作の物語が始まるのは今から約三年後。
俺から柴さんに警告して、千鉱の親父さんが死なないように備えていたはずだったのに、それだけじゃ足りなかった。
もはや原作の流れが変わってしまうのは避けられない。
本来、千鉱は紆余曲折あって原作の流れの中で剣術を覚える。
その名も居合
変な構えから繰り出す最速の居合。使い手は極端に少なくて、この世界に来てからも自ら調べでもしなければ名前すら聞かない。
もちろん俺が使えるはずもないトンデモ抜刀術だ。
俺に教えを乞う以上、千鉱が白禊流を使うことはなくなったってことだろう。
達人レベルの使い手と出会う日が来ればわからないが。
俺はこの物語の結末を知らない。
連載中に、しかもかなり早い段階でこの世界に転生してしまったからだ。
どうせ守るべき原作も一部しか知らないんだし、気にしたところでどうしようもない。
「逆に俺は妖刀のことを知らないから、“
「わかりました。そうします」
幸い千鉱は癖の少ない人格者だ。
主人公だが他のキャラより上手く付き合っていける。
その点については安心だった。