さよなら白禊流   作:ヘビとマングース

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2:38ヶ月後

 およそ三年が経った。

 刀匠の息子として、刀鍛冶の修行をしていた千鉱が刀を握って戦闘に関する訓練を積んで、大体それくらいの時間が経過した。

 

 千鉱は一端の剣士になり、そこそこの実力に過ぎない俺に言われるのもどうかと思うが、そこらの妖術師じゃ手も足も出ないほどの強者になった。

 その原因は彼が持つ“妖刀”にある。

 千鉱の父、六平(ろくひら)国重(くにしげ)が打った人生最後の一振り。

 

 そもそも千鉱の親父さんは妖刀を打ったことで英雄と崇められている。

 戦争を終わらせた六本の妖刀と六人の剣士。この国の英雄。知らない奴は居ない。

 

 あまりにも有名で、希少な人間だった。だから狙われて命を落とした。

 その日以来、千鉱の人生は狂ってしまったのだ。

 父親を殺した連中を殺す。千鉱が強くなったのはその目的のため、俺の手ほどきを受けたから。

 

「俺が一人で行ったっていいんだぞ」

 

 ここは列車の中。今回はちょっとした遠出だった。

 正面に座る千鉱に対して、返事はわかりきってるけど一応言ってみる。

 

「ケチなヤクザを調べたところで情報なんて何も手に入らないかもしれない。別に殺しがしたいわけじゃないんだろ? この程度なら、別に俺が一人でやっても」

辰羅(しんら)さんには感謝してます。だけどこれは、俺が自分でやらないと」

 

 千鉱は真面目だ。

 幼い頃からまっすぐでちゃんとしてて、柴さんの話じゃ親父さんよりしっかりしてたらしい。

 

 だからか、親父さんが死んでから、千鉱は真面目に一本気に復讐しようとしている。

 刀匠の修行はしてても剣術は素人だったのに、俺に習って剣術と玄力の扱い方を学んで、三年の月日で戦闘技術を身に着けた。並行しながら自分が持つ妖刀の理解を深めようとしていた。

 

 何より、度が過ぎた真面目さだと思うのは、親父さんが死んだのと同じタイミングで自分の顔につけられた傷跡を敢えて消さずに残していること。

 あの日を忘れないために、復讐心を消さないために、鏡を見る度に父の死を思い出す。

 常人じゃ心が壊れそうな毎日を過ごして、それでも真面目に生きてるんだから、こっちが辛くなる日があるくらいだ。

 

「そうか……ちゃんと寝てるか?」

「お気遣いありがとうございます。平気です」

「メシは? 毎日三食食べてるか?」

「食べてます。体に異常はありません」

「体は逞しくなったけど、やせ過ぎたり脂肪がなさ過ぎるのもまずいと思うぞ? そりゃ鍛錬は大事だけども、たまには休んで――」

「ちゃんと休んでますよ。大丈夫です」

 

 若干呆れた感じで言われてしまった。

 柴さんに対する態度に比べれば優しいと思うが、俺がちょっと心配するとこうだ。

 真面目で手を抜くことを知らない性質だから、お節介でそうでも言わなければいつまでも自分を追い込んでしまうかもしれない。そう思った日から俺はよくそうして千鉱の心配をしている。

 

 一歳だけ年上とはいえ、気分はまるで自分の弟か息子のよう。

 前世の記憶があるのもそうさせるんだろうか?

 とにかく俺は、この心優しい青年が辛そうにしているのは嫌なのだ。

 

「辰羅さんに口酸っぱく言われてますから。もう肝に銘じてますよ」

「そうか? それならいいんだけど……」

「懐かしくなります。昔は、俺がそういうことを言う側だったので……父さんの気持ちがわかった気がする」

 

 うーん、どうもセンチメンタルになってしまう。

 千鉱自身は真面目だし、閉鎖的な環境で幼少期を過ごしたから人間関係が極端に狭い。それだけ彼の父親に対する気持ちが大きくなって、失ってしまった影響も大きいが、他の人間に向ける機会がそもそも少なかったんだろう。

 

 俺が知る限りは俺と柴さんだけだ。流石に知り合いがそれだけってことはないだろうけど、ずいぶん昔に漫画を読んでた身からしてもそれ以外に知らない。

 転生してから約20年くらい経った。現在俺は19歳。すっかりこの世界に馴染んだ。

 

 前世のことはもうあまり覚えちゃいない。覚えてなくていいやと思ったからだけど。

 それでもどうでもいいことはなかなか忘れないもんだ。

 

「なあ、千鉱も強くなった。二刀流は試したことがあるし、三刀流でもやってみるか?」

「三刀流? どうやるんですか?」

「両手に二刀と、口で一刀銜える」

「いや、無理でしょう。顎が外れます」

「玄力で強化すればいけるぞ。俺は試したことある」

「銜えるだけじゃ斬ることはできませんよ……」

 

 軽い気持ちで言ってみたんだが、想像以上に引かれた。

 そうか、真面目に剣術を身に着けた人間からするとそう思うのか。

 この世界には“玄力”っていう“気”みたいな力があって多分やりやすくなってるのに。

 

「無限四刀流ってのもあるぞ。二刀手に持って、二刀宙に投げて、落下してくるのを掴んで斬ってまた投げてっていう」

「無駄じゃありませんか? 普通に二刀使う方がいいと思います」

 

 俺の渾身の提案が全く響かない。

 これでも強くなるまで待ったつもりだったんだけど。

 

「まあ、そういう戦い方もあるからさ。自由にやっていいよってこと」

「白禊流より奇妙ですね……」

「いや、むしろポピュラーだよ」

「聞いたことありませんが?」

 

 こういう時、ついつい漫画の世界に転生したことを忘れそうになる。

 マジレスってすごい威力なんだな。

 こうなってくるとこんな千鉱に「すごい!」って言ってほしい気持ちも芽生えてくる。

 

「日本には古くからひっそりと人から人へ継承され、知る人ぞ知る“飛天(ひてん)御剣(みつるぎ)(りゅう)”というあまりにも速すぎる殺人剣術があるとかないとか」

「ふざけてますか?」

「ふざけてないよ! ただ歴史の陰に隠れてるからそれを知っている人はほんの一部……なんていう話があった気がする」

「都市伝説じゃないですか」

 

 う~ん響かない。

 

「都市伝説だろうとロマンがあるなら真似てみる価値はあるさ。最速の剣術だぞ? 抜刀術もあるらしいぞ? 白禊流とどっちが強いかなとか思わない?」

「いえ特には」

「だめかぁ。じゃあまた調べとくよ」

「別に調べなくても……」

 

 まあ、俺と千鉱の付き合いは長くなりそうだし、チャンスはきっとまだまだある。

 前世の自分はどんどん忘れるけどこういうことならしっかり覚えているのだ、俺は。

 きっと千鉱に響く何かがあるはず。これからも伝え続けていこう。

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