さよなら白禊流   作:ヘビとマングース

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3:成果

 その男は突然現れた。

 黒い短髪に黒いロングコート、そして腰の右側に刀と脇差。

 武装しているのは明らかだが一人。その姿を見た男たちもまた刀を手に持ち、近付いていった。

 

「お前たちが爻籠(こうろう)組だな」

 

 六平(ろくひら)千鉱(ちひろ)は淡々とした冷たい声で問いかけた。

 

「あぁ? だったらどうした」

「お前なにもんだ? まさかとは思うが、あっちで捕まってる奴を助けに来たのか?」

「“毘灼(ひしゃく)”という妖術師集団を探している。お前たちに関係しているな?」

 

 とある町を牛耳るヤクザ組織、爻籠(こうろう)(ぐみ)

 その構成員たちは刀で武装しており、同じく刀を持つ千鉱を見ても笑みを浮かべていた。

 

「へっへっへ、妖術師を知ってるかだとよ。ちゃんとわかってんじゃねぇかお前」

「だったらどうすりゃいいかわかるよな? さっさと回れ右しろオラ」

「俺たちのバックにゃ妖術師がついてんだ。逆らったらどうなるかってのは、町に吊るしといた連中を見りゃわかんだろ?」

「それとも見たってわかんねぇバカだったかな? ハハッ!」

「もういい……十分だ。組長だけ残せばそれでいい」

 

 刀の柄に手をかけた千鉱が、男たちが警戒するよりも速く刀を抜き、常人では反応できない速度で一息に刀を振り抜いた。

 目の前に立っていた男の首が宙を舞う。

 他の三人はぽかんとしていて、落ちてくる頭を見ても状況を理解できていなかった。

 

「は?」

「て、てめっ――⁉」

 

 動こうとした時にはすでに遅く、千鉱が素早く刀を振り終えていた。

 一人は顔を縦に叩き割られ、一人は胴体が両断され、一人は頭部が目元から上下に分けられる。

 

 足元に転がった体と広がった血には目もくれず、千鉱は眼前にある大きな建物へ押し入る。

 中は広い空間で、吹き抜けから上階が窺え、黒いスーツ姿の男たちが無数に居た。そしてその多くが刀で武装していた。

 

 血のついた刀を持って現れた千鉱に注目が集まり、数十人、或いは百人以上居るであろうヤクザから見つめられている。

 その中で千鉱は構成員を見回し、組長であろう男を発見した。

 近くに居る下っ端を従えている偉そうなひげ面の男。それっぽいおかげで簡単にわかった。

 

「なんだぁお前は。生意気な目ぇしてやがる。殺せ」

「話が早くて助かる……」

 

 刀を振って刀身に付着した血を落とし、千鉱は改めて左手で握った刀を構える。

 

淵天(えんてん)

 

 そして妖刀から飛び出すようにして三種の金魚が現れた。

 元来人間が持つ生命エネルギー“玄力(げんりょく)”。その玄力を用いて発動するのが“妖術(ようじゅつ)”。

 そして“妖刀(ようとう)”とは、刀そのものに妖術を刻んだものをそう呼ぶ。

 

 千鉱が持つのは父・国重が生涯最後に打った妖刀。

 その力は並の妖術を遥かに凌駕する。

 

「な、なんだァありゃあっ⁉」

「お前らのようなクズが刀を握るのを、見過ごすわけにはいかない」

「おっ、おい行け! なに突っ立ってる! あいつを殺して吊るしちまえ!」

 

 組長に怒鳴られた組員たちが刀を抜いて向かってくる。

 その光景を見ながら千鉱は冷静に刀を振るった。

 横に一閃。刀から黒い斬撃が飛ぶ。

 

(くろ)

 

 刀を持って接近しようとしてた数十人が、腰から上下に分けられて血をまき散らす。

 千鉱は敢えて一呼吸置いた。

 その光景を見てぎょっとした男たちが、一拍置いて状況を理解すると、一秒と待たずに気勢が折れて動揺が生まれる。

 

 そのあとで千鉱は再び刀を素早く振り抜いた。

 足の止まった数十人の首が一斉に飛ぶ。

 今度は一呼吸待たずとも悲鳴が聞こえて、後ろの方に居た男たちがどよめいている。

 

 逃げ出す者や尻もちをつく者も居る中、千鉱が前へ向かって駆け出した。

 淵天のすぐ傍で金魚が空中を泳ぐ。

 

(にしき)

 

 

 

 

 一太刀目で逃げ出した勘のいい三人が、建物の裏手から飛び出してくる。

 彼らは組長を守ることを諦め、自分が生き残るために逃げていた。

 

「なんなんだよあれ⁉ バケモノだっ‼」

「ちくしょう、妖術師はどうしたんだよ! こんな時によォ!」

「なんのために上納金払ってたと思ってんだ! クソ妖術師ィ!」

 

 彼らの前には、あらかじめ待ち伏せしていた一人の青年の姿があった。

 身長も体格も千鉱と大して変わらない黒髪の青年。

 刀に手をかけて姿勢を低くし、彼らがあっと思った直後、その姿が視界から消える。

 

 次の瞬間には三人の男たちの両足が切断されていた。

 青年は血振りをして納刀する。

 

「ぎっ……⁉ ぎゃああああああああっ⁉」

「うあああああああああああっ⁉」

「がはぁっ⁉ あぁ、あああぁ……!」

「あーうるさいうるさい。悪人ヅラがぎゃーぎゃー騒ぐな」

 

 便宜上は千鉱の師匠である青年、辰羅(しんら)は男たちを見下ろす。

 両足を斬られて大量に出血し、このままでは当然死ぬだろう。そんな男たちを冷静に眺めてさらに刀の切っ先を突きつけた。

 

「“毘灼”っていう妖術師たちを探してるんだ。お前たちの組織のバックについてたな? 知ってることを教えてくれ」

「なっ、なんっ、なんなんだよ、お前らァ!」

「あぁそういうのじゃなくて」

 

 突きつけた刀の切っ先をぐりっと目の中へ押し込む。

 激痛を覚えた男の悲鳴が辺りに響き渡って、他の二人が声を出せなくなるほど驚愕した。

 

「妖術師について言え、って言ったんだ」

「し、知らないっ⁉ 俺は下っ端なんだ! 何も知らねぇんだよォ!」

「あっそ。じゃあ死ね」

 

 焦った様子で別の男が喋り出すと、辰羅は軽やかな足取りで近付き、頭にズンと刀を突き刺す。そしてその男は動かなくなった。

 残った二人は足を失った激痛と目の前の光景を目にして、この場所に逃げてきたことを、さらに振り返って爻籠組に入ったことを後悔した。

 

 足を失って、一人は片目を潰されて、目の前で一人殺された。

 今から自分たちは死ぬ。

 妖術師について喋っても死ぬ。喋らなくても死ぬ。どう転ぼうが生き残ることはあり得ない。

 

「俺は妖術師だから、ちゃんと話してくれたら傷を全部治してあげるよ。脚もちゃんとくっつく」

 

 辰羅が興味すらなさそうにそう言うと、目を傷つけられた男が考えもせずに喋り出した。

 

「俺は知ってる! 俺は妖術師のことを知ってるぞ! 全部喋る! あいつのことだろ!」

「いやいや、違うだろ。本当に知ってるならまず第一声目は有用な情報であるべきだ」

 

 不意に首筋にひやりとした硬い物が触れた。

 手で目元を押さえる男の首筋に刃が押し当てられている。

 

「つまりお前は何も知らない」

「あっ、あぁ、あぁぁ……⁉ ちくしょぉおおおおおおっ――‼」

 

 頭部と胴体が分けられて、地面に血だまりが広がっていく。

 残った最後の一人は顔を青ざめさせ、これまで感じたことのない恐怖に押し潰されそうになり、思考することも発言することもできなくなっていた。

 それでも辰羅は接近してきて、すぐ傍に立って見下ろされる。

 

「あの二人は間違えたんだ。でも間違えなくて済む方法をお前に教えてくれた。だからお前は間違えないよな?」

 

 自分が息をしているのかどうか、まだ生きているのかすらわからない。

 かつてないプレッシャーが全身にのしかかっていて、体は冷たくなっていて、こんなことならもうさっさと失血死でもさせてくれと思うのだが、残念ながら意識ははっきりしていた。

 

「で? 何か言うことは?」

「あ、あいつは……妖術師は、き、木を操る、妖術を使っていた」

「それは知ってるんだよ。漫画で読んだんだから」

 

 刀を振り下ろしてバンッと頭を縦に割られて、男は事切れた。

 血振りをした後、せっかくだからと言いたげに今しがた斬った男の服で刀身を拭いて、きれいにしてから納刀。

 他に建物から逃げ出してくる人間はおらず、他の方角も警戒していたが誰一人現れなかった。

 

 建物の正面に戻って中を覗き込む。

 百人以上の人間が殺されて地面に転がっていた。おかげで辺りは真っ赤である。

 千鉱は倒れている組長を見下ろしていて、ちょうど尋問しているところだったようだ。

 

化物(ばけもの)だろうが関係ない……俺は奴らを、斬らなきゃいけない」

 

 今や戦闘に関する心配はない。だがその仄暗い感情や冷たい声に対して思うことはある。

 辰羅は嘆息しつつ、拘束されている一般人を助けるべく、縛られている人物に駆け寄った。

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