さよなら白禊流   作:ヘビとマングース

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4:妖刀バトル

(めい)

 

 突如発生した雷が店先を破壊した。

 常人であれば掠っただけでも立っていられなくなる威力だったはずだが、直撃したはずの男はなおも立っていて、金魚を象る玄力を発して刀を握っている。

 

 自分が知らない刀。それは、知識にはないが妖刀だとしか思えない。

 その事実に双城(そうじょう)厳一(げんいち)は喜びと不満と好奇心を抱いていた。

 

「なあ……それは妖刀だろう? なぜお前がそんな物を持ってる」

 

 対峙した千鉱は努めて冷静でいようとしていた。

 突然目の前に現れた男、双城が持つ刀は紛れもなく彼が探している妖刀の一本。

 目的の物を目にして心が暴れ出しそうだったが自制しようとしている。

 

「お前に教えることは何もない」

「つれないな。だが構わない。今は気分がいいんだ……」

 

 妖刀“刳雲(くれぐも)”がバチバチと雷を発し始める。

 咄嗟に店の奥へ逃げたとはいえ、店内には人が居る。彼女たちは辰羅が守るだろう。だが大規模な攻撃をされては庇い切れない。

 千鉱は咄嗟に駆け出し、店の外へ飛び出した。それを追って双城も素早く駆ける。

 

「もっと質問するさ……お前が答えてくれるまで!」

 

 地面を蹴って空へ飛ぶ。

 玄力の使用による身体能力の向上により、常人では不可能な動きを可能として、思い切りとはいえ一度地面を蹴っただけで近くにある小型ビルすら飛び越えていた。

 

 勢いよく飛び掛かってきた双城を迎え撃ち、移動しながら一度、二度、三度と切り結んだ。

 落ち着いている。反応できている。

 まずは刀での攻撃。その程度ならば特別問題ない。

 だが妖刀を持つのにそれだけで済むはずがなかった。

 

 双城の体の傍には、刳雲から現れた龍の形をした雲が漂っている。

 そして双城が刳雲を強く握り直した瞬間、千鉱は次の攻撃を察した。

 

(ゆい)

 

 振るった刀の軌跡に合わせて、突如発生した氷が飛んでくる。

 刀よりも大きいつららのようなそれらは、飛来するだけで立派な凶器だ。千鉱はビルの屋上に降り立つと同時に自らも妖刀“淵天(えんてん)”を振るった。

 

(くろ)

 

 涅は斬撃を飛ばす能力。

 刀身が届かない距離であっても攻撃は届き、刀から飛んだ斬撃が飛来する氷を破壊した。

 その光景を見る双城は見るからにワクワクした様子であった。そして同時に自分が知らないその力をさらに知りたくなっている。

 

「素晴らしい。それは間違いなく六平国重の妖刀。玄力反応から能力からそうとしか思えない」

 

 訳知り顔で語っている。刳雲を握り、すでに使用した経験があるからか。

 心を静める。それでいて千鉱の眼光は冷たく、鋭くなっていく。

 

 攻防が途切れた一瞬の静寂の中で千鉱は淵天を鞘に納めた。

 唐突な行動。上機嫌だった双城の表情が曇る。

 行動の意味がわからないのか、ハイテンションだったせいで理解しようという気すらなかったのかもしれない。

 

「おい、どうした。なぜ納める? もっとその妖刀を見せてくれ。他にも力があるはずだ。六平国重が打った妖刀なら、三つの能力を持つはずだ」

「言ったはずだ。お前に語ることはない。妖刀のことも、六平国重についても……」

 

 千鉱は腰に差した鞘を右手で握り、左手で淵天の柄を握り直して、膝を曲げて前傾姿勢になる。

 意図は伝わった。

 双城も刳雲を構え直して迎え撃つ姿勢になる。

 

「居合か……まあいい。ただの剣術に興味はないが、それで妖刀の力を存分に引き出せるなら」

「語るつもりはないが、お前を殺してその刀を取り戻すためなら、少しくらい力を見せてやる」

「ん? 取り戻す?」

(にしき)

 

 視界の中心に居る千鉱の姿が変わった。見た目の変化ではない、強い玄力を感じる。妖刀の能力が使用されたことを勘と肌で感じ取り、警戒するよりも先に双城は心を躍らせた。

 応じるのに心構えなど必要ない。体は勝手に動く。

 

 一瞬、千鉱の姿が視界から消えた。

 音すら感じない高速移動。だが彼の戦士としての本能が咄嗟に防御を選択する。

 

 両者の刀が激突し、激しく火花を散らして、千鉱と双城は同時に驚愕した。

 鍛錬を積んだ一般的な剣士ですら反応できないはずの居合切り。玄力で刀を覆い、鞘から抜き出す際に爆発的な速力を生んで敵を仕留める、必殺の一撃だったはずだ。

 その一閃を止められたことと、想像以上の攻撃が来たことに、どちらも表情を変えている。

 

 驚いて思考が反応していなくても本能が体を突き動かした。

 相手の攻撃で距離が近くなり、双城が刳雲の能力を使用する。

 千鉱と刀を合わせた状態で、ぐっと強く柄を握るだけでそれは発動する。

 

(こう)

 

 次の一手を瞬時に察知し、千鉱が地面を蹴って後ろへ跳ぶ。

 ほぼ同じタイミングで刳雲から大量の水が放たれた。辺り一帯に飛び散って降り注ぐが、素早く回避行動を取った千鉱の体には当たっていない。

 

 この時、双城は違和感を覚える。

 自らを中心に大きな水溜まりが広がって、ちらりとその水を確認してから、刀を持ち上げた。

 

「お前、降の発動前に避けたのか……? 俺の攻撃を読んだのか。いやそうだとしても、この刀が水を放つなんて能力を、そこらの人間が知っているはずがない」

 

 千鉱は黙して語らない。

 そして考える。

 錦は止められた。だがいつも通り、自分の体にダメージを与えないよう必要最低限を使ったからその結果になったのだ。まだ全力を止められたわけではない。

 

「お前は何者だ。妖刀を持ってることといい、刳雲のことを知ってるなら話が変わる。なぜ俺が知らない妖刀を持ち、刳雲を知っている!」

「答えるつもりはないと言ったはずだ」

「必ず聞き出すさ。だが、そうだな、その前に……こいつの全力を出せるような相手に出会ったのは初めてだ。話を聞く前にまずはそれでいい」

 

 にやりと笑った双城が刀を構え直す。

 ここからは彼も全力。しかし条件は同じではない。刳雲を握って日は浅いはず。

 同じく構え直した千鉱は、深く息を吐いて精神を落ち着け、必殺の覚悟を持って敵を見据えた。

 

 ビルの屋上に刀を突き立て、ガリガリとコンクリートを削り取りながら強引に振るう。

 先に仕掛けたのは双城だった。

 

(こう)

 

 刀を振り上げると同時に大量の水が宙へ放たれた。

 勢いよく飛び出した後、重力に従って降り注いでくる。自身に接触する前に後ろへ跳んだ千鉱は冷静に対応しようとしていた。

 

(ゆい)

(くろ)

 

 放たれて頭上から降ってくる水が、一瞬にして氷結して氷塊となった。

 変わらず頭上から降ってくるが千鉱はあらかじめその攻撃を読んでおり、斬撃を飛ばして氷塊を斬り砕くと、落ちてくる氷塊が当たらないよう最小限に足を動かす。

 

 初撃はやり過ごした。そして次の攻撃は、やはり予想通り。

 自らが生み出した氷塊を踏み砕きながら双城が現れた。

 その手に握る刳雲はバチバチと強烈な電気を内包しているようで、全てを抑え切ることはできずにわずかだけ漏れ出している。

 

 刳雲の能力は水の“降”、氷の“結”、そして雷の“鳴”。

 千鉱はそれら全てをよく知っていた。

 

「一点集中……! 全力だ!」

(にしき)

(めい)

 

 刳雲に雷を溜めて、爆発的な玄力を思うままにコントロールして、溜めた力をビームのような雷にして放つ。狙いは千鉱だが眼下にあるビルを丸ごと消し飛ばすつもりだった。

 双城は嬉々として千鉱を狙い、突きを放つ。

 その刹那、千鉱の姿が消え、右腕に強い熱が走った。

 

 “鳴”を放つコンマ数秒前、刳雲を握る双城の右腕が斬り飛ばされる。

 気付けば千鉱は彼の隣を通り過ぎて空中に飛び出しており、地面を砕くほどの跳躍で、高く頭上を取っていた。

 

 双城は呆気にとられ、状況を理解するのがわずかに遅くなっていた。

 だが彼は目の前の光景を目にして即座に判断する。

 

 右腕を斬り飛ばされて失ったこと、千紘の攻撃に反応できなかったこと、自分の攻撃が発動さえしなかったこと。

 それら全てがどうでもいい。

 今この瞬間、彼が認識しているのは自分の手から離れた刳雲がくるくると宙を舞っていて、もしかするとそれが、誰とも知れない千鉱に奪われてしまうかもしれない状況だけだ。

 

「俺のだぞッ‼」

 

 残った左手を必死に伸ばす。

 頭上を取った千鉱は冷静に狙いを定め、まずは敵を切り伏せようとしている。

 いつ斬り殺されてもおかしくない状況の中、双城はただ一心に刳雲を見つめて、求め、今にも心臓が破裂してしまいそうな衝動につき動かされて愛しいそれを引き寄せようとする。

 

(くろ)――」

 

 そしてその時、奇跡や偶然ではなく、奇跡のような事象が起こった。

 溜めた雷を放って刳雲が動き、双城に向かって高速で飛んだのだ。

 油断せず素早く斬撃を放っていた千鉱だが、その攻撃が届くよりも先に刳雲が双城に届く。

 

 そして全方位へ向けた雷の放出。

 まずは閃光。そして轟音。真下にあったビルの上階が爆発するように消し飛ぶ。

 

 咄嗟に淵天を前に構えて防御した千鉱は、自らの身を守ることこそできたが、空中に居たせいもあって他を守る余裕などない。

 完璧に電撃を防ぎ切ることもできずに、多少のダメージを受けながら吹き飛ばされ、数十メートル離れた地点にあるビルの屋上に激突して転がる。

 

「ぐっ……⁉ くそっ、まさか、あいつ……!」

 

 体に走った痛みを気にしていられる暇すらない。焦る様子の千鉱はすぐさま飛び起きてビルの屋上から屋上へ飛び移り、双城が居た地点まで戻ろうと急ぐ。

 錦を使った影響は確かにあった。体に小さくない痛みが走っている。しかし今、自分の体を気にするよりも町の被害を考えなければ。

 

 千鉱には懸念があった。

 六平国重が打った妖刀には妖術が組み込まれており、基礎的な三つの能力を持つ。

 それ以外にも妖刀の“本領”と呼ばれる、基礎的な能力とは別の能力に目覚める、或いは基礎的な能力をさらに昇華させる現象がある。

 先程の状況は刳雲の能力だけではあり得ない。嫌な予感がしていた。

 

「ハァー……ハァー……戻って来たか……」

 

 双城は半壊したビルの中に立っていた。

 右腕を失ったまま、ボタボタと血を落としているが気にした様子はなく、左手でしっかりと刳雲を握っている。その姿に千鉱の表情が苦々しく歪む。

 さっきの錦で終わらせるつもりだった。この状況は予想外だ。

 

「今ならもっと理解できる気がするんだ……こいつのことを」

「待て!」

「お前に感謝しよう……」

 

 刳雲から強い光が放たれると同時に、双城の全身に強烈な雷を纏われる。

 向かってくる千鉱に対して刀を振るうと、まるで斬撃を飛ばすように雷を撃ち出し、咄嗟に刀を構えて防御したが、強く殴りつけるように叩き返す。

 

 何かを掴んだ気がしていた。

 双城の感覚通り、彼は自らの必死と刳雲を強く求めたことにより“本領”へ至ったのである。

 

「刳雲、俺に恭順しろ……! 俺に共鳴しろ、俺のモノになれ! 武器とは殺戮のためだけに生み出される! 妖刀はその最高峰! お前は最高の殺戮兵器なんだ!」

 

 凄まじい力が次から次に湧き出てくる。双城はその力にただ身を任せた。

 

「俺が見せてやる、お前の真価を! お前の存在理由を! 俺はお前のことなら何もかも全て理解してやれるんだ! そして最強の座はお前にこそ相応しい!」

「勝手なことを言うな」

 

 声が聞こえて視線を上げた。

 隣のビルの屋上に吹き飛ばしたはずの千鉱が立っている。

 何度か雷を浴びて肌や服が焦げているが、今もなお冷静さを保っていた。

 

「お前の裁量で妖刀を……六平国重を語るな」

「俺が間違ってるとでも言うつもりか! 俺は六平国重を心から愛している……! 俺ならば彼の望みを体現してやれるんだ!」

「その刀は悪を滅し、弱者を救うために作られた。お前の考えは間違っている」

「何?」

 

 双城の表情が一変した。興奮と喜びは一瞬にして消えてしまい、失望と怒りが露わになる。

 

「お前もそうか……六平国重を侮辱する輩。真に彼を理解してやれるのは俺しかいない」

「お前のそれはただ自分に都合のいい妄想だ」

「自分なら理解できると? そういえば、お前の妖刀……お前は誰だ?」

 

 油断こそしていないものの、戦闘態勢を解かずに千鉱はふと目を閉じた。

 

(すみません……こいつからは情報を取れません。ここで仕留めます)

 

 覚悟は決めた。今、ここでこいつを殺す。

 そう決めた千鉱は双城を見据えてぽつりと呟いた。

 

「俺は六平千鉱。六平国重の息子だ」

 

 双城が目を見開いて驚愕した。

 その一瞬、千紘はすでに動き出していた。

 ビルから飛び降りるようにして双城へ向かい、淵天の柄を両手で握る。

 

(あか)・“(めい)

 

 今度は千鉱が全身に雷を纏い、迷わず淵天を振るった。

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