仮面ライダーPOLARIS   作:正気山脈

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「南東区でスターライダーが暴れてる!?」

 最星たちが戦闘音を聞いて飛び起きたのとほぼ同じ頃、常治は魔祓課のオフィスで恵からそのような連絡を受け、目を剥いていた。
 聞けば、既に住民多大な被害が出ているという。全て、無理矢理ポラリスを指名手配したことで起きた事件だ。
 常治は歯をクッと噛み締めた後、席を立つ。その背を追って、花胡も。

「待て、碧山巡査」
「また止めるんですか!? もう今はそんな状況じゃ――」
「これを使いたまえ」

 そう告げて花胡が差し出したのは、銀色のアタッシュケース。
 言われるがままに受け取り、開いて中身を確認すると、そこにはドリップマシンを模した一本のベルトが入っていた。

「えっ、これは……まさか!?」
「時は来た、ということだ。今まで我慢させてすまなかった」

 常治が花胡を見ると、彼女の後ろからひょこっとモカが顔を出す。

「わたしが作ったんだよぉ~、やっと完成したんだぁ~。マニュアルは一応渡しておくけど、変身してもちゃんとマスクの中で読めるようになってるからね~」

 えっへん、と胸を張って笑うモカ。
 ついに自分が、と唇を吊り上げる常治であったが、ふと疑問が頭をよぎって質問を投げかける。

「あの、これどうやって作ったんですか? こんなところに隔離されてるのに、開発費用やら何やらどうやって用意したんです?」
「……協力者がいる、とだけ言っておく。君もいずれ知るだろう」

 そう答えた後、花胡は静かに天を仰ぐ。

「ザナドゥーの外にいた頃、私は仮面ライダーに救われた。私自身の命だけじゃない、その町の住民のこともだ」

 まるでそこに星を見ているかのような、遥か遠くを見上げる眼差し。
 その瞳に、常治はほんのひと時、呼吸することさえ忘れてしまう。

「あの日から私の脳には仮面ライダーの姿が焼き付いて、離れないまま今でも燻ぶり続けている。どうして私にあの力がなかったんだろう、って……ずっと、ずっと」

 不意に、彼女の視線が自分に落ち、常治はハッと立ち上がった。

「君もそうなんだろう、巡査? 仮面ライダーになろうとしているから、なりたいからここまで来たんだろう?」
「課長……」
「力を使うのなら、私に魅せてくれ。人々を救ってくれ。君が本物の仮面ライダーを目指すのなら、本物の仮面ライダーがここにいるということを……この壁の中の地獄で、君の『正義』を証明してくれ」

 花胡から冷たい右手が差し出される。
 己の心の内に、確かな熱を感じながら。
 常治は一度だけ頷き、力強くその手を取った。


ROUND.09[CHEMICAL SPICE(ケミカルスパイス)]

「は……? 誰? えっ、なんで変身してんの?」

 

 ポラリスを捕らえるために現れたトップスター、スターライダーハマルが、呆然としながらそう言った。

 目の前で変身した張本人、常治は、ハマルに向かって指先を突きつける。

 

「もう名乗っただろ。魔祓課の仮面ライダー、ジェーシュタだ!」

 

 ジェーシュタはそう言ってポラリスをかばいながら、かかって来いよ、と手招きをする。

 ハマルは鼻を鳴らし、パイルバンカーを持つ拳を握りながら迫っていく。

 

「悪いけどアタイの狙いはポラリスなの。警察なんかが、邪魔をするんじゃないよ」

 

 そう告げた直後に、半ば不意打ち気味にハマルの拳が振り抜かれる。

 だがその瞬間、ジェーシュタはその動きに反応して拳打を放ち、逆にハマルの拳を押し返してパイルバンカーを粉砕した。

 

「ぐっ、ぁがあ!?」

「どうした。別に、殴られるのなんて初めてじゃないだろ」

 

 拳を押さえて悶えるハマルへ、挑発的な言葉を投げかける。

 彼女は仮面の奥で眦を上げ、今度はジェーシュタの股を蹴り上げようとするが、その動きも見切られスネに強烈なキックを叩き込まれた。

 痺れるような感覚が足全体に走り、怯んだところで渾身の正拳突きがヒツジ戦士の顔を抉るように吹き飛ばす。

 

「な、ん、でェェェー……ッ!?」

「トップスターなんて大層な名前が付いている割に、こんなものなのか?」

「調子に乗るんじゃないよ! 時代遅れの熱血刑事が!」

 

 装甲が砕けてフレーバーがエンプティになり、ハマルは怒りを叫んで左腰のホルダーからサルピシウムのハンドリンクを取ろうとする。

 だが。

 

DRIP BUSTER(ドリップバスター)

 

 そんな音声と共に、ジェーシュタの右手へと、独特な形状の銃器が握られた。

 横側からだとミルクタンクのように見える、底部にグリップとトリガーがある無骨な武装。

 トリガーを引くと白い弾丸が発射され、ハマルはそれを腕に受けてボトルを取り落としてしまう。

 

「があぁぁぁッ!! くッそォォォォォ!!」

「毎日毎日、喧嘩三昧で腕っ節に自信があるんだろうが。あんまり警察をナメんなよ」

「こッの……黙れよクソが!!」

 

 そう言って拳を地面に叩きつけ、ポラリスたちを睨み上げながら立ち上がる。

 直後、ジェーシュタとハマルの間に三つの影が割って入った。

 

「うっ!?」

 

 現れた内の一体は、ランタンの怪人であるネルトラン・デューラント。さらにその両隣に、全く別のデューラントが一体ずつ。

 片方は、右腕がショベルとなっており左肩から芋焼酎の詰まった瓶が伸びる怪人。

 もう片方は、左腕がクレーンで右肩に麦焼酎の入った瓶を生やしている怪人だ。

 それぞれ、ヴォーセル・デューラントとケイナー・デューラント。それぞれの腕に付いた武器を振り回し、ポラリスとジェーシュタをハマルから遠ざけた。

 

「なんでこんなタイミングで来るんだ!?」

「今、こいつら明らかにハマルの手助けを……!」

 

 ハマルを背に立ち塞がる、三体のデューラント。

 ネルトランが炎で威嚇している間に、そのハマルは中央に白羊の頭の装飾がされた長柄の両刃斧を手に取った。

 

《アリエスバイザー!》

「アタイの本当の力を見せてやる!!」

 

 白羊の口部に付いたハンドリンクを外し、ドライバーのエンプティ化したボトルと入れ替え、ハマルはハンドルレバーに手をかける。

 

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

 

 周囲をボトルが取り囲み、中から噴き出たドロドロの白濁液が流体の装甲を形成していく。

 

MELTING WHITE BLOB(メルティング・ホワイト・ブロブ)! YOGURIAN(ヨーグリアン)!》

「纏めて死になァッ!!」

OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

 

 そうしてハマルはぬらぬらと光沢を放つアーマーが特徴的なヨーグリアンフレーバーとなり、斧を手にジェーシュタへと肉迫する。

 ドリップバスターで応戦しようとするも、クレーンに手を絡め取られてしまい、振り下ろされた斧を左腕で防ぐことになった。

 刃が装甲に深く食い込み、火花が散る。

 

「ぐっ!?」

「もっと痛めつけてやるよォ!!」

「させるか!」

 

 追撃が来る前に、斧を振り払って拳を撃ち込むジェーシュタ。

 しかし、手に伝わるのはブヨッという弾力のある柔らかい感触のみ。全く手応えを感じない。

 

「こ、これは……!?」

「効かないねェ、ヨーグリアンの装甲には! 銃が使えたって同じさァ、衝撃は全部逃がしてくれる!」

 

 再び斧を振り上げ、ハマルが接近。そこへ、ポラリスが駆け出す。

 

「なら斬撃はどうだ!」

 

 手にしているのはポーラセイザー・アックスモード。

 後ろから斬りかかろうとするものの、そこにネルトランとヴォーセルが立ち塞がり、ショベルの一撃がポーラセイザーを弾き返した。

 

「く、こいつら邪魔を……!」

 

 ネルトランは地面に炎を吐き、その炎をヴォーセルがショベルで掬って、土と一緒に炎の礫として飛ばす。

 そのコンビネーション攻撃の間にケイナーは再びクレーンを振り回し、ケーブルをジェーシュタの首に巻いて締め上げた。

 デューラントたちの妨害のせいで、このままでは彼を救助できない。

 そんな折、ジェーシュタの仮面に魔祓課からの通信が入った。

 

『碧山くん、聞こえてるぅ?』

「星馬さん……!?」

『聞こえてるねぇ。ピンチなら、()()を使ってぇ』

 

 それを聞いてハッと息を呑むと、ジェーシュタはすぐさま左手をホルダーに伸ばし、掴み取る。

 箱型の紙パックを模した形状の赤いハンドリンク、それをクレーンの怪人に投げつけた。

 

PACK MONSTER(パックモンスター) ()TEA-REX(ティーレックス)

 

 瞬間、ハンドリンクが変形して小さなティラノサウルスのロボットとなり、獰猛にケーブルを食い千切る。

 堪らずケイナーは苦悶して暴れ出し、続いてティーレックスはハマルの顔面に貼り付いて視界を妨げた。

 

「うわっ!? な、なんだこいつ!?」

「今だ!」

 

 そして、その隙を突いてジェーシュタが発砲。ケイナーのクレーンを破壊しつつ、ハマルの足を撃つ。

 だが、着弾と共に流体の装甲が弾けることによって衝撃が散ってしまい、全くダメージを負っていない。

 おまけに、破損部位は即座に再生している。

 

「せっかくのチャンスを逃したねェ! こっちは容赦しないよ!」

 

 ティーレックスを引っ剥がし、ハマルは全身の流体装甲を触手のように伸ばして、ジェーシュタの両足を絡め取った。

 

「くっ!?」

 

 分離した流体装甲はべっとりと足にへばりついており、完全に動きを封じている。

 だがジェーシュタはそれでも怯むことなく、ドリップバスターの銃口をハマルの方に向け、何度もトリガーを引いた。

 

「ハッ、そんな見え見えの攻撃が当たるか……」

 

 弾丸を受けるまでもない、とばかりに身をかわし、直後に「あっ」とハマルが声を上げる。

 彼の狙いは最初からハマルではない。その先にいる、ヴォーセルとネルトランの背中。ポラリスへの援護射撃だったのだ。

 

「ギャアアア!?」

「今だ!」

DELTA CIDER(デルタサイダー) ()FLAVOUR ASSAULT(フレーバーアサルト)!》

 

 その一瞬の間に、ポラリスはハンドリンクをポーラセイザーにセットして地面に現れたキャップを蹴り込み、二体のデューラントを纏めてボトルの中に封じ込める。

 そして大上段から斧を振り下ろし、一気に怪人を消滅せしめた。

 さらに、ジェーシュタもまた自身のドライバーに手を伸ばし、ドリップナックルを握り親指で三度トリガーを押し込んで、素早くそれを外す。

 

「ブチ抜く!」

EMERALD CANYON(エメラルドキャニオン) ()FLAVOUR IMPACT(フレーバーインパクト)

 

 カプセルが付いた拳の先に、碧い炎のように超高温のエネルギーが滾り、ケイナーの胸部へと真っ直ぐに渾身のパンチが打ち込まれる。

 それによってクレーン怪人の身体は木っ端微塵に砕け、跡形もなく消滅した。

 

「チッ、役立たずだね! 時間稼ぎもできないなんて……!」

 

 ハマルがそんな悪態をつく間に、ポラリスはワンダーコーラフレーバーになり、ジェーシュタは両足から炎を発して拘束を解き、両者が並び立つ。

 

「残るはお前一人だ」

「投降しろ! 聞きたいことが山ほどある!」

 

 二人からの言葉を聞き、ハマルは斧の柄を強く握り締め、再び全身から粘質の触手を伸ばした。

 

「アタイが負けを認めるワケないだろ……アタイは、トップスターなンだよォ!!」

「うっ!?」

 

 触手から手裏剣めいて投擲された白濁の液体がポラリスの身体にへばりつき、動きを鈍化させる。

 ジェーシュタは炎を纏うことで、飛んでくる液体を焼滅させているが、彼自身の射撃や打撃は尽く触手に防がれてしまう。

 一切の攻撃を無力化しつつ、斧を振り上げながらハマルが疾走し、ポラリスとジェーシュタを薙ぎ払った。

 

「新人と警察如きが!! アタイに勝てるワケねぇだろォォォーッ!!」

「ぐおっ!!」

 

 ジェーシュタもその猛攻を防ぎ切れず、ポラリス共々に吹き飛ばされてしまう。

 数の上では有利だが、その差を埋められてしまうほどの強敵。相手がトップスターであるということを理解せざるを得なかった。

 

「く!」

 

 そこでジェーシュタはハマルの足元に何度も銃弾を撃ち込んで砂煙を巻き上げ、ポラリスと共に逃走。

 一度近くの廃屋まで走って身を潜め、小声で話し合う。

 

「クソッ、二人がかりなのにまだ押し切れない」

「少し戦術を変えるべきだな」

「どうやって?」

 

 問いながらジェーシュタが振り向くと、ポラリスはペットボトルに入ったドリンクを仮面の上から喉を鳴らして飲んでいる。

 出る前に茅英璃から託されたものだ。

 

「飲んでる場合かぁー!?」

「飲まなきゃ戦ってられないんだ」

 

 そう言ったポラリスのグラスプドライバーは、既にワンダーコーラのハンドリンクが外されており、たった今飲んだ飲料から新たに生成されようとしていた。

 

「お前こそ、ハンドリンクを変えなくていいのか? 必殺技を使ったんだろ?」

「え? あぁ……ドリップカプセルはよっぽどのことがない限り交換は必要ない、って言われてる」

「それは便利だな。少し羨ましい」

 

 その言葉の直後に新しいハンドリンクが生み出され、同時にハマルが廃屋の壁を突き破って現れる。

 

「この甘い香り……新しい刺激だ、きっとこれなら行ける」

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

 

 ベルトに再装填し、ハンドルレバーを回してスイッチを押し込む。

 すると、纏う装甲が分離して周囲にボトルが出現し、そこから噴き出た液体がポラリスを新たな姿に変えていく。

 

CAPTIVATE SWEETNESS(キャプティベイト・スウィートネス)! CHEMICAL SPICE(ケミカルスパイス)!》

「さぁ、ハジケようか」

OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

 

 ポラリスの身体に合着したのは、濃い赤色の分厚いロングコート。フードを頭に被り、右手には両面に三本ずつ試験管が付いた銃を持っている。

 スターライダーポラリス ケミカルスパイスフレーバー。左手にポーラセイザー・ソードモードを持ち、白い眼を光らせ、再びハマルと相まみえる。

 

「さっさとくたばりなよォッ!!」

 

 ハマルが全身から白濁の触手を放出してヨーグルトめいた粘液を飛ばし、斧を手に駆け出す。

 一方のポラリスはバックステップで距離を離しつつ、剣を握ったまま指だけを使って、試験管上部にあるボタンを二つ押し込んでいく。

 そして引き金を弾いて銃弾を放つが、やはりハマルの装甲触手に阻まれた。

 ほくそ笑むヒツジの戦士だが、直後に異変が起きる。

 彼女の操る触手が、全て凍りつき固まってしまい、ハマル自身も含めそのまま動かなくなってしまったのだ。

 

「お前には刺激が強すぎたかな」

「な、なにが……ァ!?」

「このケミカルコンパウンダーは、様々な効果を持つ毒や薬を調合できる。今のはあらゆる液体を凍結させる薬だったということだ」

 

 微動だにできないハマルへと、触手の間を通り抜けてポラリスが迫る。

 だが。攻撃が来る前に、ハマルは全ての触手を根本から押し出す形で自切し、再び動き出した。

 

「クソバカがァ……この程度で、アタイを倒せると思ってんのか!!」

 

 もう凍結剤を撃つ暇は与えない。

 ハマルはその一心で自ら真っ直ぐに接近し、斧を振り被らんとする。

 瞬間、凍ったヨーグルトの触手を踏み砕きながら小さな影が飛来し、ヒツジ頭の頬を打った。

 

「んがっ!?」

「俺たちを忘れんなよ!」

 

 その正体は、紅茶と恐竜を模したサポートメカのティーレックス。

 ハマルの顔を蹴り飛び上がって紙パックの姿に戻ると、既にハマルの背後に回り込んでいたジェーシュタの手元に収まった。

 さらにジェーシュタは、そのティーレックスのハンドリンクを、ドリップバスターの上部にあるスロットに押し込む形でリードする。

 

TEA-REX(ティーレックス) ()FLAVOUR BURST(フレーバーバースト)

「喰らい尽くせ、ティーレックス!」

 

 トリガーを引くと、銃口からティラノサウルスの頭部を形取る巨大な光弾が発射され、凍った触手ごとハマルを飲み込み噛み潰す。

 それでもなおあまりダメージもなく倒れずにいるが、今度は粘液が僅かに漏れるだけで、装甲が形にならなくなってしまった。

 

「や、ヤバい……エネルギーを消費しすぎた!?」

 

 見下ろせば、ヨーグリアンのハンドリンクもエンプティに変わっている。

 急いで腰のホルダーの別のボトルと交換しようとするが、その隙を見逃す二人ではない。

 

「刺激的に決めるぞ」

(アッツ)いのを……くれてやる!」

CHEMICAL SPICE(ケミカルスパイス) ()FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

EMERALD CANYON(エメラルドキャニオン) ()FLAVOUR PUNISH(フレーバーパニッシュ)

 

 ポラリスがハンドルレバーを三度回してボタンを押し、ジェーシュタもグリップ上部のボタンを三度押してからナックルをディスプレイ側へ押し込む。

 それによってポラリスのケミカルコンパウンダーに赤紫色のエネルギーが集約し、ジェーシュタの両脚に碧い炎が灯る。

 ジェーシュタは地面に炎の軌跡を描きながら一直線に疾走し、素早く連続で拳打を放った後に回し蹴りで胴を薙ぐ。

 

「いぎゃあっ!?」

 

 そうして身体が炎に包まれたところへ放たれる、ポラリスの薬弾。

 着弾と同時にガスが散布され、即座に引火して天井を突き破るほどの火柱と大爆発を引き起こし、ヒツジの戦士を吹き飛ばした。

 ジェーシュタはそれを見て「よし!」と拳を掲げる。

 

「やったか!」

「思ったより、なんというか……火力が出たな。死にはしていないだろうが」

 

 ケミカルコンパウンダーを肩で担ぎ、仮面の奥で目を細めるポラリス。

 未だ廃屋に燻る火の粉と煙。その奥から、二人の視線の先から、未だ健在のハマルが黒煙を纏い姿を現した。

 

「なぁっ!?」

「まだ戦えるのか!?」

 

 見れば、アリエスバイザーにセットされていたエンプティハンドリンクが失われており、代わりにグラスプドライバーの方にはヨーグリアンが装填してある。

 ジェーシュタの必殺を受けた時点でバイザーのエネルギーが満タンになり、ヨーグリアンが生成されていたのだろう。そして銃弾を受けるギリギリのところでフレーバーを変更が間に合い、触手で全身を包んで防御したのだ。

 ポラリスはそのように考え、ジェーシュタともども再び身構える。

 

「く、クソどもがァ……アタイにここまで楯突いて、どうなるか分かってんのか!?」

 

 斧を引き摺りながら、ハマルは二人を睨む。流石に無傷とはいかなかったようで、その足取りは重い。

 しかしそれでも力強く、ハンドリンクを再び斧にセットして頭上に掲げた。

 

「マズい、来るぞ!」

「ブッ殺してやァる!! お前ら二人ともォッ!!」

YOGURIAN(ヨーグリアン) ()FLAVOUR DIVIDE(フレーバーディバイド)!》

 

 両刃の戦斧が白濁液を纏い、そしてそのまま振り抜かれる。

 斧から繰り出され、猛速で飛ぶ巨大な白い刃。防ぐ術は二人になく、回避する余裕もない。

 万事休すかと思われた、その時。

 

MELONARCH(メロナーク) ()FLAVOUR BALANCE(フレーバーバランス)!》

 

 ポラリスたちとハマルの間に、突然緑色の球体が介入し、飛んで来た刃を防ぎ切った。

 

「えっ!? 今の、何だ!?」

「どこから……!?」

 

 ジェーシュタとポラリスも動揺し、衝撃で砂煙がもうもうと立ち込める中、球体が割れて一人のスターライダーがその薄黄色の眼を閃かせる。

 天を衝くような尖った耳が特徴的な、ジャッカルのヘルム。装甲と同じ金の網目模様の大盾と、先端部が天秤のような形となっている長い錫杖。

 ハマルと同じトップスター、ランク12位のスターライダーメトシェラだ。

 

「メトシェラ!? なんで邪魔するんだよ!?」

 

 言いながら再び斧を振るおうとしたとことで、その動きが止まる。

 見れば、先程割れたバリアがいつの間にか櫛状に切られたメロンのようになって、光の刃としてハマルの周りを包囲していた。

 メトシェラの錫杖の動きに反応し、ジワジワと近付いているようだ。

 

『変身ヲ解イテ、コノ場ヲ去レ。デナケレバ私ハ彼ラニ加勢シ、オ前ヲ潰ス』

 

 ボイスチェンジャーを使っているようで、メトシェラの声から性別や年齢を判別することはできなかった。

 仮面の中で脂汗を滲ませながら、ハマルは問う。

 

「それはアタイ()()の敵に回るって意味かい?」

()()ニソウ伝エテオケ、帰ルコトガデキタラナ』

 

 メトシェラ以外の三人が、ぐっと息を呑む。

 やがてリアは自らハマルへの変身を解除することを選び、メトシェラもまた攻撃を止めた。

 そして去り際にポラリスたちの方を振り向くと、ポツリとひとつ言葉を残す。

 

「……後悔するよ」

 

 マシンスプライダーを駆って、脅威は完全に去った。

 ジェーシュタは短く息をついて座り込み、ポラリスも肩の荷を下ろす。

 だがそんな二人を振り返り、メトシェラはトンッと錫杖で地面を衝いた。

 

『悪イガ、少シ付キ合ッテ貰ウゾ』

「え?」

「なにを言って――」

 

 ジェーシュタが言い終えるよりも前に。

 三人の姿は緑色の光に包みこまれ、その場から消失してしまった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 それから数時間後。

 

『――それで、結局成果は得られなかったのかね』

 

 偽りの星空が見下ろすバーチャル空間の会議室で、ザナドゥー警察本部長は、眉根にシワを刻みながらそう言った。

 古代ギリシアの庭園風の広大な部屋で、四角いテーブルが六角形を描くように放射状に配置されており、本部長はその席につく者の一人だ。

 彼の隣には、サソリの刺繍の制服を纏う警官もニヤつきながら座っている。

 

『申し訳ありません。こちらも手は尽くしましたが……』

 

 そう言ったのは、会議室の中心で跪く布留峨 リアだ。

 戦っていた時と違い、言葉遣いが丁寧で頭さえ下げている。

 

『言い訳は不要だ。まったく、どうしてくれようか』

『まあまあ、落ち着いて下さい本部長殿。どうやら、事情はそう簡単なものではないようですよ?』

 

 そう言って落ち着かせたのは、ライダーバトルコンサルタントのコブラーだ。

 両隣にはフィズともう一人コンサルタントの姿もあり、リアに対しフィズは『話して良いよ~』と軽い口調で促した。

 

『途中、スターライダーの邪魔が入ったのです。あの神出鬼没のライダー、メトシェラの』

 

 名前を聞いて、会議室は騒然となる。

 トップスターの反逆。匿名のためスポンサーがついていないとはいえ、その事実はこの会議場に集ったザナドゥーの権力者たちに大きな衝撃を与えた。

 同じトップスターであるサソリ警官はくつくつと笑いながら、頬杖をついているが。

 

『アイツかァ……12位のクセに、随分生意気なこと仕出かしやがりますねェ?』

『そもそも、なぜ格下相手に退いた!? その場でポラリス共々殺してしまえば良い話だろう!!』

 

 一人のメンバーがそんな野次を飛ばすと、同じように次々と罵詈雑言が飛び交う。

 その最中に、最も高い席に座す一人の男が木槌を鳴らした。

 

『静粛に』

 

 たった一言で、全員が沈黙する。

 灰色がかった髪をオールバックにしている、シワひとつないスーツを纏う壮年の男。口元には髭を蓄え、キリッと唇を引き締めている。

 彼の名は巨峰 卓(オオミネ スグル)。ザナドゥーの市長であり、この『ザナドゥー評議会』の議長を務めている男だ。

 リアは再び発言を許可され、跪いたまま話の続きを語り始める。

 

『ヤツの目的は分かりませんが、ポラリスと魔祓課の男を守った挙句、我々の敵に回ることを一切否定していませんでした』

『つまり、ポラリスを匿うつもりというワケですか。それは少しばかり厄介ですね、彼の居場所も全く分からないというのに』

 

 頬杖をつきながらコブラーは目を細め、その隣で今度はフィズが声を上げた。

 

『ルイ社長。ポラリスへのハンドリンクの供給をストップしたり、グラスプドライバーを直接追跡することはできないのかい?』

 

 卓の向かい側の席に座る真っ白なスーツを着た若い男が、その声に反応を示す。

 腰近くまで伸びる長く艷やかな金髪に、女性と見紛うほど整った目鼻立ち。瞳はエメラルドグリーンで、まつ毛は長いがその目つきは猛禽のように鋭い。どこか自信と余裕、そして気品を感じさせる笑みを浮かべている。

 ルイと呼ばれたその美丈夫は、指を組みながら頭を振った。

 

『申し訳ありません、そのような機能はグラスプドライバーには搭載されておらず……プトレマイオス社の方では対処できかねます』

『まぁ、でしょうねぇ。エンターテイメント性を損ないますし?』

 

 コブラーが肩を竦めて、しかし喉奥で笑い声を漏らす。

 その後も参加者たちが口々に話し合って会議は進み、結論が出ないままでいる中で、一人の女が立ち上がって高らかに宣言した。

 

『慌てる必要はありませんわ、皆様。ポラリスもメトシェラも、結局のところ倒してしまえば解決するのです。ハンドリンクも()()()()()()()、質の良いモノを用意して下されば……』

 

 そこにいたのは丹羽 汐。スターライダーのランク3位、狂戦士アルデバラン。

 

『このワタクシが全て、捻じ伏せてご覧に入れますわ』

 

 戦いへの愉悦に浸る笑みを浮かべた彼女が、拳を高く掲げて断じた。




 時を遡り、ハマルとの戦闘直後。
 メトシェラによって姿を消してしまったポラリスとジェーシュタは、いつの間にか洞窟の中らしき場所にいた。
 周囲に空いている穴から見える景色は、空と砂漠。全く見知らぬ場所だ。

「こ、ここは……?」
「さっきまで廃屋にいたんじゃなかったのか!?」

 ひとまず武器を手にして、ポラリスたちは警戒態勢に移る。
 直後に、二人の耳に声が聞こえて来る。

『アマリ騒グナ、落チ着ケ』

 見れば、そこには洞窟の出口に佇み自分たちを見つめるメトシェラの姿があった。
 ジャッカルの戦士は錫杖で肩をトントンと叩きつつ、ボイスチェンジャーを介した声で語りかけて来る。

『単刀直入ニ用向キヲ伝エル……オ前タチ、私ノ仲間ニナレ』
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