「通信が途絶えてしまったな」
仮面ライダーに変身したジェーシュタが、ポラリスと共にスターライダーハマルと戦った後。
突然に現れたトップスターが介入してから、魔祓課のオフィスで常治との連絡が取り合えなくなってしまう。
金人は腕を組んで深刻な表情で唸り声を発し、首を傾げていた。
「最後、メトシェラって言ってたよな? まさかとは思うが、ポラリスごとそいつに……」
「上島先輩! 縁起でもないこと言わないでください!」
引っ叩かんばかりの勢いでそんな怒鳴り声を上げたのは、恵だ。
席を立ってパトカーの鍵を取り、出口の方へ歩き出す。
しかし、そこへ花胡がモカと共に立ち塞がった。
「どこへ行くつもりだ雪白巡査」
「決まってるでしょう、探しに行くんですよ!」
「一旦落ち着いて。何も殺されると決まったワケではないんだ、それに下手に我々から動けばポラリスを狙う輩の抗争に巻き込まれる危険もある」
「でも!」
必死に食い下がろうとする恵に対し、花胡は静かにその両肩を掴み、真っ直ぐにその眼を見据える。
「大丈夫だ。私を、そして彼を信じてくれ」
モカもまた、恵の手を握って安心させるように微笑む。
恵は一度深呼吸した後、二人に向かって頷き、席に戻って行った。
その様子を見送りながら、やはり難しい顔をして金人は唸る。
「……流石にパトカーは回収した方が良くねぇか?」
「確かに」
トップスター9位、スターライダーハマルの布留峨 リアとの戦いを生き延びたポラリスとジェーシュタ。
しかし休む間もなく、彼らを助けたメトシェラの力によって洞窟の中に移動させられてしまう。
警戒して身構える二人に対し、メトシェラは「自分の仲間になれ」と語りかけるのであった。
「どういう意味だ、いきなり仲間になれって」
『言葉通リダ。ポラリスハ既ニ目ヲツケラレテイル。君モ時間ノ問題ダ、スグ同ジ立チ場ニナルダロウ。我々ナラバ、君タチヲ助ケラレル』
そう言われても、二人ともすぐには納得しなかった。
ジェーシュタは仮面に仕込まれたカメラ機能をオンにして密かに録画を開始しつつ、口火を切る。
「アンタが俺たちを売らない保証がどこにある? 上手く丸め込んで、北区の警察に引き渡すつもりなんじゃないのか?」
「大体ここはどこなんだ、なぜこんな洞窟で話をする」
ジェーシュタとポラリスの疑問に対し、メトシェラは尤もな意見だと頷きつつ、まずはポラリスの質問に答えを提示していく。
『ココハ、ザナドゥー西区ダ。北区ノ連中ニ聞カレナイ場所トシテ、コノ場所ヲ選ンダ』
「そんな離れたところまで来たのか!?」
「デューラントが多すぎて人が住めない土地とは聞いていたが、ここまで地形が違うとは……」
『確カニ荒レ果テテイルシ、デューラントガ他区ヨリ多イノハ事実ダガ、ココニモ少ナクナイ数ノ市民ガ住ンデイル』
メトシェラ曰く、西区には主にデューラントやスターライダーの襲撃のせいで住居を失った者や、犯罪行為に手を染めたり陰謀にはめられて北区から追放された者が流れ着き、集落を作って住んでいるのだという。
ただし家屋やテントなどの類は、簡単に見つからないようにする必要があるため、このような暗い洞窟や地下を利用して隠す形で暮らしている。
ここは予め人払いをしているため誰もいないが、暑い時期は休みに来る者もいるとメトシェラは語った。
『ザナドゥー評議会ノ連中ハ、彼ラガコノ世ニ存在シテイルコトサエ認メナイツモリノヨウダガナ』
二人とも聞き馴染みのない名前を耳にして、首を傾げてしまう。
「ザナドゥー評議会ってなんだ?」
『ザナドゥー全体ヲ牛耳ル権力者タチヤ組織・企業ナドノ支配層ノ集マリデアリ、ライダーバトルノ運営ヲ行ッテイル機関ダ。ソノ代表、ツマリ議長ハザナドゥー市長ノ巨峰 卓ダ』
巨峰、という苗字に「あっ!」とすぐに反応を示したのは、ジェーシュタであった。
この町に来る前に仕入れていた知識の中に、その名前があったのだ。
「巨峰って名字は聞いたことがあるぞ、確かあの久峰一族の分家の名前だ! 市長がそうだったのか!」
「俺が指名手配されているのも、その巨峰という男や評議会の連中の仕業ということか?」
『ソウダ。ソレト、連中ノ中ニハザナドゥー警察本部長モイル』
「本部長自身が……クソッ、通りで警察が全く機能してないワケだ!! ふざけやがって!!」
拳を強く握り締めてながら、ジェーシュタはそう吐き捨てる。
その様子を眺めつつ、メトシェラはさらに話を続けた。
『私ハ市長ト評議会ニ対抗スル勢力ニ属シテイル。イワバ、レジスタンスダ』
「レジスタンス……」
『君タチモトモニ来イ』
そう言って右手を差し出すジャッカルの戦士だが、それでもまだポラリスは頭を振り、質問を重ねる。
「分からないんだが、お前はなぜトップスターなのにその評議会と敵対しているんだ?」
するとメトシェラは言葉に間を置いた後、心底から怪訝そうに返答した。
『人ヲ人トモ思ワズ容易ク命ヲ奪イ、尊厳サエ踏ミニジル、ザナドゥーノ歪ナ社会ガ気ニ入ラナイ。ソレヲ作ッタ評議会ガ許セナイ。コレ以上、何カ理由ガ必要ナノカ?』
今度はポラリスの方が言葉に詰まってしまう。
反応からウソは感じない。少なくとも、評議会を潰そうとしているのは確かなようであった。
さらにメトシェラは、ジェーシュタを指して話を続ける。
『ソモソモ、少ナクトモ私ハ既ニ君ノ味方ノツモリダゾ』
「……何の話だよ?」
『ドリップドライバーノ開発ノ話ダ』
ハッ、とジェーシュタが息を呑む。
花胡たちは、ベルト製作に協力者がいると言っていた。
いずれ分かるとも話していたが、目の前にいるスターライダーが、それもトップスターがそうだとは、常治は夢にも思わなかったのだ。
「アンタだったのか、協力者って!?」
『ソウダ。先程ノ戦イ振リハ見事ダッタ、魔祓課ト手ヲ組ンダ甲斐ガアッタトイウモノダ』
メトシェラの言葉を聞いたジェーシュタは、意を決して自らの右手を差し出す。
「敵が久峰一族の関係者なら、放置はできない。こっちはアンタらに協力する」
『ポラリス、君ハドウスル?』
ジェーシュタと握手を交わしながら、メトシェラは問う。
彼の話を聞いてなお、それでもポラリスは簡単には頷かない。
先程助けられた時から、ずっとメトシェラのペースで話が進んでいる。あまりにもできすぎているし、利用されている気がしてならない。ポラリスは、そう考えているのだ。
それを見抜いてか、メトシェラは別の質問を投げかけた。
『君ハ、何ヲ願ッテスターライダーニナッタ?』
「え?」
『何カ叶エタイコトガアルカラ、戦ッテイルノダロウ?』
ポラリスが、最星が追い求める願いは、自分自身の記憶。
しかしこの場にいる常治は、最星が記憶喪失であることを知っている。ここで軽々に願いを明かすと、ポラリスの変身者が自分だとバレてしまう。
リスクを冒さないために、ポラリスは真実を伏せて答えることにした。
「話すことはできないが、願いならある。絶対に取り戻さなければならないものが」
『ソウカ。デハ、コノママデハソレガ一生叶ワナイトスレバ、ドウダ?』
「なに?」
言葉の意味が分からずにいると、メトシェラは冷静に自らの持つ情報を明かしていく。
『評議会ハ願イノ力ヲ独占シテイル。有用ナスターライダーヲ配下ニ置ク事デ、自分タチニ都合ノ良イヨウニ順位ヲ操作シテイル……ソノタメノライダーバトルコンサルタント、ソシテトップスターダ』
「八百長までしてるのか!? 何がエクストリームスポーツだ、エンターテイメントだ!! 一体どこまで腐ってるんだ連中は!?」
「そもそも、願いを叶える力とは具体的にどういうものなんだ? 評議会はどうやってそれを利用している?」
ジェーシュタとポラリス、二人の発言に頷きつつ、メトシェラは錫杖で地面を衝いた。
すると緑色の光が溢れると共に、ポラリスたちの目の前に、どこか神秘性を感じさせるゴブレット型の杯が投影される。
外側は黄金だが中身は夜闇を映したように真っ黒で、煌めく星々のように宝飾が散りばめられているのが分かった。
「これは……?」
『願イヲ叶エル力ヲ満タス器、ソレヲ"
星杯と呼んだそれを再現した映像を見せながら、メトシェラは言葉を紡ぐ。
『星杯ハ人々ノ強イ願望ヤ情動ヲエネルギーニ変換シ、蓄積スル性質ヲ持ツ。ソノ溜マッタ力ヲ解放スル事デ、使用者ノ願イヲ叶エル』
「ライダーバトルを放送したり闘技場を作っているのは、見ている住民を利用して星杯を満たすためか……」
「でもそんなものが本当に実在するのか!?」
『私自身ハ手ニ入レテイナイガ、実物ヲ見タ事ナラアル。評議会ハ星杯カラ抽出シタエネルギーヲ利用シテ技術開発ヲ進メナガラ、何カヲ企テテイル。恐ラク……イツカ、
それを聞いたジェーシュタは仮面の中で目を見張り、ポラリスの方は新たな疑問を挟み込んだ。
「そんな遠回りなことをしなくても、星杯の力を使えばなんでもできるんじゃないのか?」
『私モソウ思ッタガ、ドウヤラ消費エネルギー量ト釣リ合ワナイ大キスギル願イハ、ソモソモ叶エラレナイヨウダ。評議会ノ連中ガ何度カ実験ヲ重ネタラシク、資料ノ中デソウ結論ヲ出シテイル』
「では、ヤツらは星杯をどこに保管しているんだ?」
『ソコマデハ分カラナイ。ダカラ、市長ヲ捕ラエテ自白サセル。評議会ニ星杯ヲ管理サセルノハ危険ダ』
ここまでの話を聞いた上で、ポラリスは思考に耽る。
星杯が実在する物的な証拠はない。しかし、それなら何のために、わざわざそんな大掛かりな嘘をついてまで自分と対話する必要があるのか。
いずれにしても、このままでは茅英璃たちを守ることができず、記憶を取り戻すことさえ困難であるのは事実。
ならば、とポラリスは顔を上げジャッカルの戦士と向き直る。
「レジスタンスとやらに入るつもりはない……だが、俺も俺の仲間や周りの人たちを守りたい。それが叶うなら手を貸そう」
『自分ノ願イハ二ノ次ナノカ?』
「それが俺だからな」
『……デハ、決マリダ。ポラリス、ジェーシュタ。我々、解放軍"アリストテレス"ハ君タチヲ歓迎スル』
そう告げて握手を交わそうとメトシェラが手を伸ばした、その時。
大きな地鳴りが響くと共に、洞窟を崩落させんばかりの咆哮が外から聞こえて来る。
デューラントか。そう思って外へ出て応戦しようとする二人であったが、それよりも早くメトシェラが錫杖を振りかざしてバリアを展開し、彼らを閉じ込めた。
『今日ハココマデダ。オ互イ生キテイレバ、近イ内ニ再ビ会オウ』
「え? ちょ、ちょっと待ってくれ! まずは外のヤツを倒さなきゃいけないし、俺にはまだ聞きたいことが――」
『ソノ話ハマタ後日シヨウ。ココモ然程、安全デハナイ。敵ハ私ガ処理スル』
言いながらメトシェラが地面を杖で衝くと、ポラリスたちは再び緑色の光に包まれて姿を消してしまう。
そのすぐ後に、今度は悲鳴じみた叫び声が外から聞こえ、洞窟の外から一人の戦士が現れた。
「なんじゃ、挨拶しようと思ったのにもう行かせおったのか」
頭部がカニのヘルムとなっている、トップスター7位のスターライダーアクベンス、伊東 縁だ。
全身におびただしい返り血を浴びており、先程まで戦っていたらしい巨大なデューラントの眼球を手から放り捨てる。
「お主もポラリスのヤツを気に入ると思っとったわ」
『トップスター相手ニ全ク怯ンデイナカッタ、期待デキル戦力ダ』
「それだけではあるまい? 面白い男だと思ったじゃろう?」
『イズレニセヨ、コレデ星杯ノ奪取ニマタ一歩近付イタ。君ノ願イノ成就ニモナ』
「……そうじゃな」
言いながら縁は変身を解き、自らの首に下げたロケットペンダントを開く。
そこに写っているのは、黒髪の若い女。年のほどは20歳前半で、朗らかな柔らかい笑みを浮かべている。
縁はその写真を見て反対側の拳を強く握り締め、メトシェラは彼の傍に降り立って肩に手を乗せた。
『ポラリスノ指名手配ハマダ取リ下ゲラレテイナイ、オ前モ目ヲ光ラセテオイテクレ』
「おう、分かっとる」
『デハイツモ通リ、オ前ノ友人ノ伊呂葉先生ノ病院ニ送ッテオクゾ』
コツン、と錫杖で地を衝いて、メトシェラは縁を別の場所へ転送。
残されたジャッカルの戦士もまた、洞窟から姿を消してしまうのであった。
※ ※ ※ ※ ※
ポラリスたちがメトシェラと洞窟で話し、そして再びワープさせられた直後。
二人は、先程とは違って見知った場所に来ていることに気が付いた。
ハマルと戦った廃屋から、少し離れた地点だ。ハマルをも打ち破ったことが原因か、それともメトシェラと共にしばらく消えていたことが理由か、抗争は既に沈静化している。
「ここは……」
「南東区に戻って来たのか」
ジェーシュタは安堵の溜め息を吐いて天を仰ぎ、ハッとして自分の乗って来たパトカーを探す。
しかし全く見当たらないため、止むを得ずオーツミルクのパック型ハンドリンクを取って放り投げる。
《
するとそのハンドリンクがダチョウ型に変形し、みるみる内に巨大化した後、転送されて来たタイヤやパトランプなどの追加パーツと合体してバイクへと姿を変えた。
「ポラリス、君の口から聞きたい。スタジアムにデューラントを連れ込んだことや、不法侵入の件についてだ」
「……観客を傷つける気なんてなかったし、デューラントはあらかじめ抵抗できないようにしてあった。実際に被害は出してない。不法侵入もしてない、許可は降りてた」
「つまり全部冤罪か。そんなことだろうと思ってたけどな」
完成したオーツチェイサーに跨った後に、ジェーシュタはポラリスに向かってサムズアップをする。
「しばらくは辛いかも知れないが安心してくれ。俺が必ず、君の指名手配を解除させてみせる」
「ありがとう。また会おう」
《
ポラリスもマシンスプライダーを呼び出して跨り、急いでトレミーの拠点へ向かう。
彼女らは無事に切り抜けただろうか、怪我をしていないだろうか。不安な気持ちが徐々に膨らんでいく。
やがて拠点に辿り着いた後、変身を解除してすぐにドアを開き、中へ飛び込んだ。
『最星!』
すると、すぐに環と未来が迎えに現れ、その後ろから茅英璃も姿を見せる。
全員欠けることなく揃っている。それを確認して、最星はホッと息をついた。
「みんな無事か、良かった……」
「多分最星が目立つように戦ってくれたお陰だね、この周辺までは誰も来なかったんだ」
環がそう言いながら、彼の手を引いて「お腹空いてるでしょ?」と中へ導いていく。
未来は冷蔵庫から食材を出し、調理を開始。当然のようにハンバーガーだ。
「トップスターのハマルを撃退したって情報が流れてるから、流石に今回みたいな大規模な抗争や暴動はしばらく起こらないと思うよ。強敵と戦いたいんじゃなくて、ラクして金儲けしたいだけだろうからね」
「そうか。しかし、既に死人まで出ている以上、まだ完全に打ち切られることもないだろうな」
最星は未来の言葉にそう返答しつつ、席に座ろうとする。
その寸前に、茅英璃が最星の隣に座り、無言でワンダーコーラの瓶を差し出す。
見れば、彼女の目には涙が浮かんでおり、こぼれ落ちるのを必死に堪えている様子だった。
最星は瓶を受け取って、茅英璃の手を握る。
「また心配かけて悪かった、茅英璃」
「……あんたって本当、無茶しすぎなのよ。バカ」
「すまん。でもお前がくれたお守りのお陰で、なんとか生き延びることができた。ありがとう」
「だったら、ちゃんと何かお返しとか……しなさいよね」
そう言って、茅英璃は最星の肩に寄りかかった。
瞬間、彼女の腹からクゥ~、と音が鳴る。
どうやら警戒態勢の間、ちゃんと食事を摂っていなかったようだ。環と未来が噴き出してしまい、茅英璃が顔を真っ赤に染め、最星はフッと笑みを見せた。
直後に、今度は茅英璃以外の全員の腹の音が鳴って、指差し笑い合う。
そうして一同はハンバーガーを作って一緒に食べながら、最星がメトシェラから得た情報を共有していく。
「ザナドゥー評議会に解放軍アリストテレス……それに星杯かぁ、ライダーバトルにそんな裏があるとは」
「っていうか、一緒に戦ってたのってあの刑事さんだったんだねぇ。変身できるようになったんだ〜」
環と未来がそう言って、茅英璃は俯いて口元を手で押さえる。
そんな三人へ、最星が問いかけた。
「何か知ってることはないか? 評議会とか、星杯について」
「悪いけどボクはさっぱりだね、北区のお偉いさんなんかと縁なんかないし?」
「私も。それっぽい企業の名前くらいなら、多少は思いつくけどねぇ~」
「そうか。茅英璃はどうだ?」
尋ねるものの、彼女からの返事がない。
最星は怪訝そうに、茅英璃の顔を覗き込む。
「どうした? 大丈夫か?」
「え? あー、えっと……アタシも、特には」
そう返す茅英璃であったが、明らかに顔色が優れない。
すぐに休ませるべきだろうと判断して、最星は席を立つ。
「もう遅いしみんな疲れただろう。気を抜いて、そろそろ寝よう」
茅英璃もその言葉に頷き共に寝室へ歩いていくものの、その表情には陰りが残っていた。
最星がトレミーの拠点へと帰還した後。
常治も魔祓課の警察署に辿り着き、無事を報告しようとしていた。
――だが。
到着して早々、彼は何故かオフィスの床に正座させられ、腕を組んだ恵から見下ろされていた。
「あの……俺、なんかしました?」
「何もしなかったから怒ってるのよ!! どうして何も言わずにいなくなったのよ、いきなり通信も切れるし!!」
「だからその事情を説明したいんスけど……」
彼女からじとっとした視線を上から送られ、肩をすぼめる常治。
そこへ、花胡が苦笑をこぼしながら助け舟を出した。
「雪白巡査、そろそろ許してあげてくれ。彼を心配していたのは分かるが」
ピクッと恵が片眉を動かし、花胡の方を向いて僅かに頬の染まった顔を左右に振る。
「違いますよ課長、おかしなこと言わないで下さい。誰がこぉんな、古臭い熱血気取りのバカ刑事なんて!」
「気取ってはいないです……」
まだ肩を小さくしながら常治がそう返し、改めて魔祓課の一同はジェーシュタのカメラに収められた映像を確認。
メトシェラから明かされる情報を聞く内に、モカや金人、恵の表情が真剣なものに変わっていく。
「やっぱりポラリスは無実なんだねぇ。願いを叶えるシステムについての話は初めて聞くなぁ」
「っつーかお前なんで勝手に協力するとか言っちまってんだ!? 相手はスターライダーだぞ、信用できるかよ!?」
「しかし上島先輩、話を聞く限りだと彼は既に我々と協力関係にあったようですが?」
恵の言葉で、一斉に花胡へと視線が注がれる。
常治も真っ直ぐに彼女を見ながら、質問を浴びせた。
「そこのところ、どうなんですか。課長」
「事実だ。利害が一致し、資金面や技術的な部分で色々と提供して貰ったよ」
「それで完成したのがドリップドライバー、ですよね。ではなぜ最初から教えてくれなかったんですか? メトシェラや、星杯や、解放軍のことを」
「全て話す事は簡単だ、確かにそれもできた。が……いきなり打ち明けたところで、納得できるか、心から信じられるかどうかは別の話だろう? 私は皆がちゃんと全てを理解できる状況を待っていたんだ」
そう言いながら花胡はオフィスチェアにキィッと背を預け、常治たちへと語りかける。
「メトシェラは『評議会は星杯から抽出したエネルギーを使い、壁外を支配することを目論んでいる』と語っていたね。私はこの話を聞かされた時……碧山巡査、君と同じように、デューラントは評議会が生み出し、管理している存在だと考えたんだよ」
恵や金人にモカもその言葉に目を見張り、常治が頷く。
星杯のエネルギーを利用すれば、怪人を管理するだけでなく作ることさえも不可能ではないはずだ、とメトシェラの話を聞いて改めて確信したのだ。
「ザナドゥーの壁は、帝久乃市から来た仮面ライダーが総出でかかってもヒビひとつ入れることができなかったと聞いている。ヤツらはその強固な壁を利用し、スターライダーやデューラントを使って外を侵略する準備を進めているんだろう」
しかし、と続けて花胡は首を左右に振り、仮面が付いている顔の右半分を手で押さえた。
「それらを理解したところで、力を持たない以上はどうすることもできなかった。加えてこの怪我だ」
「課長……」
「だが君が来てくれてようやく、評議会と戦う準備が整った。本当は、私が真っ先に変身して部下を守るつもりだったが……」
そこまで聞いた後で、常治は自分自身の胸を叩く。
彼の表情には、少しの陰りも迷いも見られず、戦う覚悟に満ちていた。
「俺が証明してみせますよ。俺たちの、魔祓課の正義を」
花胡はその言葉に頷き、恵たちもまた微笑んで首肯している。
こうして、改めてひとつの正義の道を目指すために、魔祓課の面々は団結するのであった。
※ ※ ※ ※ ※
それから時は進み、夜。
ザナドゥー評議会によって作られたバーチャル空間の会議場で、汐が自らの拳を掲げ、宣言する。
『このワタクシが、全て捻じ伏せてご覧に入れますわ』
威風堂々と胸を張る彼女に対し、評議員たちはざわめきながらも心強さを感じて、徐々に賛同の声が挙がっていく。
だが、そこへ。
『そんなことをする必要ないんじゃないかしら』
1人の女が挙手し、その場にいる評議員の視線を自分に集中させる。
キッと汐がその方向を睨むと、声の主は笑みを湛えながら立ち上がった。
4位のトップスターであるスピカの変身者、高身長でスタイル抜群の黒髪の歌姫、ラブルスカ・ブラムウェルチだ。
汐は額に薄く青筋を浮かべながら、ラブを見下ろし腕を組む。
『ラブ様、何かワタクシに意見でもありまして?』
『そんなに怖い顔をしないで。私はね、こう思うの。あなた1人でポラリスたちを探すより、
ザワッ、と先程よりも大きく議場に動揺が広がった。
本部長とコブラーは、すぐにラブへの反論を口にする。
『そっ……それは、いけません。魔祓課は本部から隔離しているとはいえ、あくまでも警察です。警察から指名手配犯が出たら我々の威信に関わります!』
『こちらとしても同じ意見ですねェ。ただのいちスターライダーを犯罪者に仕立て上げるのは問題ありませんが、相手がトップスターとなると話は別ですよ。下手をすればあなたや丹羽氏までも北区の皆様の不信を買うことになる』
彼らの意見には他の評議員も同調し、一度彼女へ落ち着くように促す。
しかしラブは、可愛らしく首を傾げながら「う~ん?」と訝しむ。
『別にいいんじゃないかしら? だって、そうしたら住民の情動に呼応して、星杯にもエネルギーが溜まるんでしょう? だったらむしろ、良いことづくめだと思うけど?』
本部長が言葉に詰まり、コブラーが小さく舌打ちをする。
さらに、彼女は人差し指を形の良い唇に押し当て、目を細めて汐の方を流し見た。
『それに汐ちゃんは1回ポラリスを逃がしてるわよね、また同じことが起こるだけじゃないかしら~?』
『……なんですって……』
バーチャル空間だというのに、まるで本当に本人がその場にいるかのように、汐の筋肉がビキビキと隆起し、それだけで相手を捻り殺さんばかりの視線を放つ。
そんな彼女と相対しても、ラブはどこ吹く風と言った様子で、鼻唄さえ口ずさんでいた。
評議場の空気が一変し、今にも汐が飛びかかろって暴れ狂うのではないかという、その瞬間。
『静粛に』
木槌を叩く音と共に、そんな重々しい一言が議場を静まり返らせる。
議長・巨峰 卓だ。彼は全員が沈黙し、汐も殺意を収めて着席したのを目視してから、ラブに向かって声をかけた。
『ブラムウェルチくん。その意見も間違いではない、だが今はまだその時ではない。ザナドゥーを首都として日本を掌握し、最終的に世界を支配するためには、まだまだ北区の市民の協力と信頼が必要だ』
『議長がそう仰るのなら、分かりました』
『そして丹羽くん、残念だが今は君に任せることもできない』
汐は一瞬眉をしかめた後、卓を見上げる。
『理由をお伺いしてもよろしいですか、議長?』
『確かに君は、ハイランクのスターライダーだ。実力は疑うべくもない。だが……それでは恐らく、大衆は
意味を理解しかね、汐は再び眉をしかめる。彼女だけでなく、他の評議員たちも同様に。
『ヤツは北区にデューラントを持ち込んだ、住民たちにとっては倒されるべき"悪"そのもの。悪は徹底的に"正義"によって排除されるべきだ。そうでなくては、民衆の心にはスターライダーに対する恐怖と不安が残ってしまう』
それでは星杯に供給されるエネルギー効率も悪化するだろう、と卓は続け、右手の人差し指を立てて見せる。
『であれば、ここは誰もが認める我らの"ヒーロー"に出て来て貰うしかあるまい』
『ヒーローに……』
そこまで聞いて、汐を含む全員がハッと目を見張った。
薄らと笑みを浮かべたのは、ラブのみだ。
『スターライダーランキング1位、ザナドゥー最強の戦士にしてガリレオ・コーポレーションの御曹司。キング・レグルス、
議会が再びざわめき、しばらくの話し合いの末に、一同は席を立つ。
これにて会議は終了し、バーチャルによって作られた評議場は閉ざされた。
後日、昼。
北区の闘技場の控室の前で、前髪を七三分けにした若いメイドが番人のように立っていた。
自らの黒いポニーテールの毛先を指で撫でながら、時折腕時計を見下ろしている。
一方で、控室の扉の内からは、ガリガリという何かを引っ掻くような音が微かに漏れ聞こえていた。
やがてメイドはドアの方を振り返って、ノック音を向こう側へと転がす。
「若様、そろそろお時間になります」
その瞬間、掻く音がピタリと止まり、メイドは静かにその扉から離れていく。
続いて唐突に勢い良くドアが開け放たれ、中から人影が飛び出して来た。
「ハァーッハッハッハッハァ! では勝つとしようか、この嶺皇が!」
金髪をライオンのたてがみのようにツンツンと逆立てている、身長の高い17歳ほどの少年。まるで獣のように雄々しい目つきと、堂々たる振る舞いが幼さや若さを感じさせない。
黄色い革ジャンに袖を通し、指貫きグローブに包まれた拳をギュッと握り込む。
ザッザッと歩く彼の隣で、メイドがベルトとボトルなど用意した荷物を手渡していく。
「こちらハンドリンクとグラスプドライバーになります」
「うむ!」
「
「いらん下らん! 勝つのはこの嶺皇と常に決まっている!」
「ではいつも通り廃棄しておきます。戦いが終わった後、旦那様からご夕食の席でお話があるそうです」
ピタッ、とまた唐突に動きが止まる。
だがすぐに高笑いを始め、歩くのを再開してメイドに言い放つ。
「ならば
「いってらっしゃいませ」
丁寧にお辞儀をし、七上と呼ばれたメイドは少年を見送って客席へ向かう。
一方の金髪の少年はグラスプドライバーを装着して会場入りし、観客席から沸き起こる声に、拳を掲げて応えていた。
『キ・ン・グ! キ・ン・グ!』
『レーグールス! レーグールス!』
相手のスターライダーは四人。中には上位ランクの者や、トップスターすらもいる。
それでも少年は全く恐れる様子を見せず、右手に持ったハンドリンクのキャップをひねり、グラスプドライバーにセットしてハンドオープナーに手を伸ばした。
《
「変身!」
《
天面のボタンが押し込まれ、グレーのアンダースーツと共に黄色い獅子のヘルムが装着された後、周囲に張り巡らされたいくつものボトルから黄色い液体が噴出。
騎士の甲冑を彷彿とさせる黄色の装甲が全身の各部を覆い、背中から黄色いマントが伸び出て、額に一点の赤い光が灯る。
《
「王者とは常にただ1人、このレグルスのみ! 征くぞ挑戦者たちよ!」
《
緑色の瞳を輝かせながら、勇壮たるライオンの戦士は両腕を広げ、ガントレットに備わった五本の強靭な爪を展開した。
彼の名は獅子門 嶺皇、民衆からトップスター最強と謳われているキング・レグルス。
人々からの声援を受ける中、王者の戦いが始まった。