仮面ライダーPOLARIS   作:正気山脈

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 評議会のリモートミーティングが終わった後。
 汐は北区にある屋敷の自室で歯を軋ませ、血が噴き出る勢いで強く拳を握り締めていた。

「あの、忌々しい女狐ェ……!!」

 彼女の頭に思い浮かぶ顔は、バーチャル空間の中で見たラブルスカの余裕の笑み。
 苛立ちのまま、汐は扉を開けて叫ぶ。

「来なさいウィル!」

 するとすぐに執事服の男が現れ、彼女の前で跪く。
 さらにその後ろには、フリルのあしらわれた可愛らしいミニスカートのメイド服を纏った女が、蘇芳田 ヒカルがいる。
 彼女はスカートの裾を引っ張って隠しながら、恥ずかしそうに膝を折っていた。

「ここに」
「ケプラー・ファーマに連絡、()()を大至急用意して欲しいと伝えなさい! 誰が最も優秀なのか思い知らせてやりますわ!」
「仰せのままに、お嬢様」

 ウィルはすぐに行動を開始し、その場を離れていく。
 そして汐は、羞恥のあまり耳まで顔を紅潮させているヒカルを見下ろして、舌舐めずりをしながら囁いた。

「それからヒカルさん、今すぐ中に入りなさい。気晴らしにたっぷり()()()()()差し上げますわ」
「クッ……」

 眉をしかめて涙の溜まった目を逸らすが、自分より圧倒的に格上の汐に逆らう事ができず。
 彼女に腕を引かれ、照明が落ちた部屋に連れ込まれるのであった。


ROUND.11[King Regulus(キング・レグルス)]

 ザナドゥー北区、闘技場にて。

 大勢の観客がそこに集い、これから始まる戦いに注目していた。

 

「さぁ、間もなく始まります、キング・レグルスに挑み打倒を目指すこのバトルロイヤル戦。実況は私、ライダーバトルコンサルタントのコリンズ・メスカルがお送り致します」

 

 実況席に座っている赤いドレス姿の黒髪の女、コリンズは、マイクに向かって唇を近付け観客たちへ挑戦者側の5人の選手の一部を紹介をする。

 

「要注目はランキング11位、スターライダーポルックスのキャベンディッシュ 弐那(ニーナ)選手。新進気鋭のトップスターということで、さらなる活躍とランクアップに期待が寄せられています」

「ハァイみんなぁ~! 応援、よろしくねぇ~ン!」

 

 カメラが紹介された選手の方を向いて、映し出された人物がそちらに向かってウィンクし、軽く手を振った。

 端正かつ穏やかな顔つきで年齢は20代前半、黒髪に黄色のメッシュを加えて右のもみあげ付近を編み込んで垂らしており、バナナの形の髪留めが先端に付いている。

 カールしたまつ毛や口紅など薄く化粧がされている他、ヒールの高い靴を履いており、仕草も女性的だ。

 

「さらに、恐らく最も打倒レグルスに燃えているであろう、トップスター2位のスターライダーヌンキのロカ・ナピート選手にも注目です。今日こそ1位の座を奪うことができるのでしょうか」

 

 続いてコリンズから紹介されたのは、オレンジ色のショートツーブロックヘアの、日焼けした小麦色の肌の細目の少年。

 歳は15歳ほど、長身で細身ながら引き締まった筋肉の持ち主であり、エスニックなデザインの衣服を纏っている。

 

「みんな、愛してるよー」

 

 美少年ロカがそう言って投げキッスすると、彼のファンである女性客から激しく黄色い歓声が上がり、ロカは他の選手の視線を全く気にせず両手を振って声援に応えた。

 

「そしてザナドゥー市民なら誰もが知る我らがキング・レグルス、獅子門 嶺皇様の入場です! 今回は一体どのような戦いを我々に見せてくれるのでしょうか!」

 

 コリンズがそう告げると同時に、入場口で音を立ててスモークが噴き上がり、一人の少年が姿を現す。

 威風堂々とした態度で、グラスプドライバーを腰に巻きハンドリンクを片手に歩く金髪の少年、トップスター1位の嶺皇。

 彼の姿を目にして、観客たちの声援が一斉に湧き上がり、同時に選手一同の緊張感も増していく。

 

『キ・ン・グ! キ・ン・グ!』

『レーグールス! レーグールス!』

 

 嶺皇は大衆の声に応えて、人差し指を天に掲げた。

 その挙動だけで、割れんばかりの拍手が会場に鳴り渡っていく。

 役者は揃った。コリンズが戦闘開始の準備を促すと、6人全員が一斉に変身を始める。

 

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

『変身!』

 

 掛け声が合わさり、全身をアンダースーツが包みこんで、姿が変わっていく。

 ムギムギダンダンや木霊一煎、デルタサイダーのフレーバーを選ぶ者たちがいる中、弐那とロカは彼らとは異なるハンドリンクを用いる。

 

YELLOW IS RIPE(イエロー・イズ・ライプ)! SHAKE THE BANANA(シェークザバナナ)!》

「ついにこの日が来たわね……行くわよぉン、レオちゃん。アタクシが勝って1位を貰うわ!」

 

 弐那の頭部が黒く厳ついゴリラのヘルムに覆われ、両腕と両脚に湾曲し丸みを帯びた形状の重厚なクリーム色のアーマーを纏った後、その目の前に剥いたバナナの形を模した武装『シェークスピアー』が突き刺さる。

 シェークザバナナは、酸味の少ないとろけるようなまろやかでクリーミーな味のバナナシェーク。

 トントンッと分厚い拳で軽く自らの胸を叩いた後、見かけとは裏腹な貴族のような華麗さを感じさせる所作で、ゴリラの戦士ポルックスは槍を取った。

 

ALL RANGE SHINING RAY(オールレンジ・シャイニングレイ)! AUREORANGE(オレオランジュ)!》

「それじゃあお仕事の時間だよ、よろしく」

 

 一方、ロカの方にはハヤブサのヘルムが装着され、ローブのような軽量の装甲が全身を包んだ後、その背にオレンジを彷彿とさせる形状のリング状の武器――乾坤圏が装着される。

 オレオランジュは、芳醇な果実をそのまま丸ごと味わっているかのような味わいの、果汁100%のオレンジジュース。

 ローブの裾をはためかせ、スターライダーヌンキは眼前の王者を見据える。

 

CAME SAW CONQUERED(ケイム・ソウ・コンカード)! CAESAR LEMON(シーザーレモン)!》

「王者とは常にただ1人、このレグルスのみ! 征くぞ挑戦者たちよ!」

OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

 

 そう言った嶺皇には獅子のヘルムと黄色い騎士甲冑が装備され、さらにマントが背から伸びる。

 スターライダーレグルス、キングと呼ばれた男が両腕の爪を展開し、不敵に笑う。

 全員の変身が終わり、先程までよりも大きな歓声が轟く中、コリンズは彼らに合図を送った。

 

「それでは、バトルスタート!」

 

 その瞬間に、レグルスとヌンキを除く4人が一斉に攻撃を仕掛ける。

 オオハシ頭でムギムギダンダンフレーバーのスターライダーエミゥに、カンガルーのヘルムで刀を振り被るサイフ、弓を引くカマキリヘルムの女スターライダーのカフ。

 さらにポルックスがシェイクスピアーを突き出すと、槍が大きくカーブを描いて伸びていき、尖った穂先がレグルスの腹部へと向かう。

 しかし。

 

「どうした? このレグルスに挑むからには、もっと全力で来て欲しいな?」

 

 エミゥの鉄球も、サイフの一刀も、カフの矢も、ポルックスの突きも。

 その全てが、命中するよりも前にライオン戦士の全身に隅々まで張り巡らされた、膜のような光によって妨げられていた。

 

「これぞキングをキングたらしめる由縁! あの『シーザーマント』によって発生するエネルギーフィールド、シーザーオーラは、あらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の鎧!」

 

 コリンズの実況と、観客の喝采がその場に響く。

 レグルスはそのまま光の矢を掴んでカフの体に投げ返し、サイフの刀を右腕の爪で圧し折り、エミゥの鉄球を蹴って押し返す。

 

「くっ!」

 

 ポルックスは自分への攻撃が来る前に飛び退いて、スピアーの長さも元通りとなる。

 それをわざわざ見逃した後、レグルスは鼻で笑って、全員に向かってクイクイと手招きをした。

 挑んでおいて退屈させるなよ、と挑発しているかのように。

 

「今までにこの硬い守りを単独で破ることができたスターライダーは、たったの3人! その内の1人が……」

 

 実況のコリンズが言い終えるより先に、その人物が極光と共に動いた。

 背中のリングが朱く輝き、凄まじい速度と威力の拳の乱打が繰り出され、シーザーオーラを散らしていく。

 

「ムゥッ!」

「そう、僕だよ」

 

 ヌンキがそう言って右腕を振り上げると、リングから無数の光の玉が飛び出してレグルスを包囲し、光条となって獅子を射貫かんと飛び交う。

 当然オーラによって阻まれるが、それによってエネルギーフィールドの薄まった胸部へとキックが叩き込まれ、光の膜を破って装甲に僅かながら傷をつける。

 

「オレオランジュの武装である『オランジュリング』はビームを発射するだけでなく、太陽光を吸収することによって、装備したスターライダーのスペックを通常の3倍に引き上げる効果があります! 即ち、日中のヌンキ選手は無敵なのです!」

 

 実況の間に他のスターライダーたちも動き出し、攻撃が再開。

 さらにポルックスは左腕に着いている、シェークザバナナが装填してある腕時計型のデバイス『ジェミニバイザー』に口を寄せ、高らかに叫んだ。

 

「おいで、ツインズモービル!」

 

 すると彼の背後から四輪のバイクが転送され、ポルックスはそれに乗り込んで走行、シェークスピアーを突き出し車体で痛烈なタックルを仕掛ける。

 だがレグルスは、そのバイクでさえ受け止めてもう片方の手で槍を掴んで、他のライダーの攻撃も受けながらそのまま止めてしまう。

 それを確認した後、ポルックスはバイクから飛び降りつつ、もう一度ジェミニバイザーへ叫ぶ。

 

「チェンジ! ドールモード!」

 

 指令に反応し、ツインズモービルが変形。シェークザバナナフレーバーの装甲とシェークスピアーを装備した人型ロボットとなり、そのまま槍を突き出してレグルスを牽制する。

 これがポルックスの専用装備、ジェミニバイザーの機能。マシンを呼び出し、バイザーにセットされているハンドリンクのフレーバーを与えて戦わせることができるのだ。

 ポルックスはさらに、腕時計の必殺技用ボタンを押し込み、自身のドライバーも操作し、必殺技を同時発動する。

 

「手数と威力が必要なら!」

SHAKE THE BANANA(シェークザバナナ) ()FLAVOUR MANIPULATE(フレーバーマニピュレート)!》

SHAKE THE BANANA(シェークザバナナ) ()FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

「こうしたら、どう!?」

 

 ツインズモービルと共に左右から放つ、エネルギーを纏う伸縮自在の槍の乱れ突き。頭上からはヌンキの連続蹴りやビームも。

 それに対し、レグルスはシーザーオーラの出力を限界まで上昇させ、拳に集中させて一撃一撃を殴り返す。他のスターライダーの攻撃も同様に。

 結果としてレグルスの腕部アーマーに亀裂が走るが、それ以外ほとんどダメージらしいものはなく、凌ぎ切られてしまう。

 

「ハッハッハァッ! 良いぞ、客も喜んでいる!」

「ウッソォ!? 今のでもダメなのぉ!?」

「もっと必死になって戦いを盛り上げろォ!」

 

 今度は両腕の爪にエネルギーを集めて回転し、自身の周囲一帯を薙ぎ払った。

 それによって、咄嗟に飛び退いたヌンキとポルックスを除いて、全員が変身解除される。

 

「あぁーっと! 流石はキングです、容赦ありません! もう3人も脱落してしまいました!」

 

 興奮するコリンズ、即座に反撃に転じるヌンキとポルックス。

 拳と拳で打ち合いつつ、レグルスはツインズモービルを踏み台にして2人の背後に回り込み、自身の右手を前に掲げた。

 

「並の相手ならこれで試合が終わっている。やはり、トップスターは歯応えが違うな」

LEO VISOR(レオバイザー)!》

「では、味見は終わりだ!! そろそろ決着といこうか!!」

 

 音声と共にその手に収まったのは、一振りの獅子頭の装飾がされた大剣。レグルス専用の武装である。

 その直後に、レグルスのシーザーオーラが消え、装甲が音を立てて砕け散った。

 スターライダーたちの猛攻を防ぐために、ハンドリンクのエネルギーを消耗しすぎて、エンプティフレーバーに変わってしまったのだ。

 

「ムッ!?」

「ヌンキちゃん、今よ!」

 

 ポルックスの方も、既にツインズモービル共々エンプティになっていた。

 最後の希望を託されたヌンキは、ドライバーを操作して跳躍した後、背中のリングを極限まで発光させる。

 

AUREORANGE(オレオランジュ) ()FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

「ヤァーッ!」

「そうでなくてはな!」

CAESAR LEMON(シーザーレモン) ()FLAVOUR CALIBUR(フレーバーカリバー)!》

「だが勝つのはこのレグルスだ!」

 

 刀身がシーザーオーラと同じ光を帯び、勢い良く振り抜かれた。

 二色の光がぶつかり合い、激しい戦いを制したのは――。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

『勝負あり! 勝者、キング・レグルス! 見事な試合でした!』

 

 その日の夜、ザナドゥー北区のとある邸宅にて。

 テレビから聞こえて来る録画映像の音声を聞きながら、2人の人物が向かい合って食事を摂っていた。

 片方は、ワイシャツとスラックス姿の壮年の男。厳格な雰囲気で、キリッと吊り上がった眉が特徴的だ。

 もう一方は、黄色いTシャツとジーパンを着た少年で、金色の髪が両目にかかっており、どこか怯えたような暗い印象を与える。

 その日の夕飯はステーキで、壮年の男はナイフとフォークを使ってキレイに肉を斬り分け、口に運ぶ。

 

「相変わらずの強さだな……まぁ、1位なのだから当然なのかも知れんが」

「……」

「今日は、評議会の方と会ったんだが。なんでも、レグルスに犯罪者の身柄の確保を依頼したいらしい」

 

 それを聞いて、無言でいた少年はピクッと反応を示す。

 彼の手は小刻みに震え始め、手に持っていたフォークを静かに置いた。

 男は訝しみながら、少年に問う。

 

「どうした。()()、お前のことだぞ」

 

 少年、獅子門 嶺皇は怯えた眼差しを送りつつも、父である獅子門 零地(シシモン レイジ)に震え声で答える。

 

「お父、さん……()は、た、戦いたく……ないよ……」

 

 嶺皇はおどおどと、しかし零地に向かって切実に自分の思いを打ち明けていく。

 

「あんな野蛮なことをするより、僕はお父さんの会社を継ぐための勉強をしていたい。自分の利益のために人を傷つけるなんて、ま、間違ってるよ……」

 

 零地は最後まで彼の話を聞いた後に、目を閉じて頭を振った。

 

「言いたいことは分かるぞ、嶺皇。だがな、お前のその考え方は甘い」

 

 そう言い切った上で、零地は言葉を続ける。

 

「ガリレオ・コーポレーションは荒廃したザナドゥーを立て直すのに必要な企業だ、その自負がある。だが未だ評議会の席に着く事ができていない。街の復興支援にも力を注いでいるにも関わらず、他の巨大企業……プトレマイオス社やケプラー・ファーマなどに一歩及んでいない」

 

 獅子門一族の経営するガリレオ・コーポレーションは食品関係の会社であり、ザナドゥーにおいては主に壁の外から輸送した自社の野菜や肉など様々な食品・飲料の類を安定供給するのが仕事だ。

 本社は壁外にあるが、若かりし頃の零地は隕石災害の話を聞いて自らこの地に赴き、他の企業とも連携しながらその辣腕を振るって、貧困と食糧難に喘ぐ市民たちに希望をもたらした。

 以来、会社の名は日本中に知れ渡り、社長となった零地は壁の中と外を股にかける現代の偉人として扱われている。

 

「この街に君臨する企業のひとつとして、力ある者の責任を果たすためにも、このままでいてはならん。我が社も評議会入りすべきだ。幸い、お前のスターライダーとしての活動と功績は彼らに期待されている、だからこうして依頼が来ている。貢献し続ければ認めて貰えるはずだ」

「でも、僕は……」

「私にはお前のその力が必要なんだ。嶺皇、やってくれ」

 

 嶺皇は口をパクパクとさせるが、父からそう言われてしまうと、何も言えなくなって頷いた。

 やがて夕食を終えると、嶺皇は自分の部屋に戻ってベッドに座り込む。

 そうして床を見つめながら、溜め息をこぼす。先程父から聞いた、評議会からの依頼を思い出しながら。

 直後に、室内にノックの音と女の声が響いて来る。

 

「若様、入ってもよろしいですか」

「七上……」

 

 入室の許可を出すと、そこにはメイドの七上の姿があった。

 彼女は泣きそうな顔の嶺皇の隣に座り、その背を撫でる。

 

「やはり、戦うのは嫌ですか? たとえ犯罪者が相手であっても?」

「うん……それに、万が一その人の命を奪ってしまったらって思うと……怖いよ……」

「若様はお優しいですね。ですが、このまま野放しにしては北区に危険が及ぶかも知れません」

 

 そう言われると嶺皇はハッと目を見張り、それに気付かずに七上は言葉を続けていく。

 

「そうなれば、この家や旦那様にも被害が――」

「そ、そんなのダメだ!」

 

 思わず声を荒げ、勢い良く彼女の両肩を掴む嶺皇と、ビクッと目を見張る七上。

 そしてすぐに我に返って、肩をすぼめて「ご、ごめん」と頭を下げる。

 しかし七上は首を左右に振り、彼を落ち着かせるようにそっと頭を撫でた。

 

「何も旦那様は、闇雲に戦いに出したいワケではありません。ただ机に向かって勉強するだけでは、若様は社長として成長できないと思っての行動なのです」

「ど、どういうこと?」

「旦那様は『力ある者には相応の責任が伴う』と常々仰っています。つまりスターライダーに変身する力を得た若様にも、果たすべき責任と使命があるということ。それをやり通してこそ、会社を継ぐための素養を磨く事ができるとお考えなのですよ」

「仮にそうだとして、僕にはそんな事ができる勇気なんて……」

「大丈夫です。若様は確かに人より臆病なところもありますが、必ずできます。ご自身を信じて下さい」

 

 そう言ってメイドはベッドから立ち上がり、振り返って一礼する。

 

「ご入浴のお時間になりましたら、またお呼び致しますね」

 

 七上が退室した後も、嶺皇は顔を両手で覆いながら、ただひとり思い悩む。

 

「僕は、僕は……僕は……」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌朝、ザナドゥー東区。

 最星たちトレミーの四人組は、いつものようにキッチンカーでハンバーガーを販売していた。

 

「いらっしゃいませー! あ、ご予約の方ですか? 環ちゃんお願い!」

「どうぞ、ご注文のハンバーガーセットです。ありがとうございました」

「最星、ちょっと調理手伝って! 今アタシ1人じゃ足りない!」

 

 茅英璃に言われ、最星はキッチンカーの中に向かおうとするが、その寸前。

 遠巻きにトレミーの看板を眺めている少年の姿を捉え、最星は僅かな逡巡の後に「ちょっと待っててくれ」と伝えてその場を離れる。

 そして、少年の方に歩いていき、丁寧に声をかけた。

 

「どうかしましたか?」

「わっ!?」

 

 大きな声で反応が返って来たので、逆に目を丸くする最星。

 すると、その暗い顔の金髪の少年は、ハッと我に返って慌てて頭を振る。

 

「あ、いえ、その……僕は、ただ人を探し、てて……」

「人探し。依頼ですか?」

「いや、その……や、やっぱりなんでも、ないです……!」

 

 少年はおどおどしながらそう言って、最星の前から走り去ってしまう。

 突然かつ奇妙な出来事で呆気に取られつつも、最星は改めて茅英璃の手伝いに向かう事にした。

 

「どうしたの?」

「人を探していたらしいが、なぜか帰って行った。なんだったんだろうな」

 

 茅英璃も首を傾げ、しかし考えている暇はないと思い返して、最星と共に調理を進める。

 そうしてしばらくの後、近くで男の叫ぶ声が聞こえて来た。

 

「デューラントだぁぁぁー!?」

 

 見れば、3体のエンフィク・デューラントがその場に現れ、刃を振るって人々を襲っている。

 すぐさま、トレミーの面々が動いた。

 

「ねぇ。度々こんな北区の近くまで出てくるの、なんかおかしいなって思ってたけどさ」

「もしかしなくても、これも評議会の手引きって事だろうね……!」

 

 未来と環の言葉を聞きながら、最星と茅英璃は目配せし合う。

 最星はデューラントの対処、茅英璃たちは市民の避難誘導。それぞれのやるべきことを、アイコンタクトだけで確認したのだ。

 指名手配中なのもあり、最星は一旦物陰に隠れた後、グラスプドライバーにハンドリンクをセットし、変身する。

 

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

「変身」

AWAKENING SURPRISE(アウェイクニング・サプライズ)! WONDER COLA(ワンダーコーラ)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「さぁ、ハジケようか」

 

 ポラリスへの変身を果たした最星は、真っ直ぐにエンフィクたちに突撃していく。

 そして、まだ東区に残っていた金髪の少年、獅子門 嶺皇は彼の姿を見つけて息を呑む。

 

「あ……あぁっ、アレは……ポラリスだ!?」

 

 ダッと汗が噴き出て、思わず近くの椅子に隠れるように伏せてしまい、息を荒くしながら頭を抱える。

 

「どうしよう、やらなきゃ、僕が……僕は、獅子門一族の嶺皇だ……僕は嶺皇なんだ、やるんだ……僕が……嶺皇だから、僕、嶺皇……」

 

 蹲ってブツブツと繰り返し「僕」と「嶺皇」を交互に呟く。腕が頭から地面に向かい、指先でむしるようにガリガリと地面を掻く。

 やがて指から血が滲み、汗が引いていくと――金色の髪が逆立ち、彼の目が、顔つきが変わる。

 

()()()()()ッ!!」

 

 コロシアムに入場した時と同じ、荒ぶる王者の面持ちに。

 

「ハッハッハッハッハッハァーッ! 見つけたぞ、スターライダーポラリス! この嶺皇が貴様を引っ捕らえてやろう!」

 

 口調すら変わっているが、全くの二重人格というワケではない。

 ただ自分自身を、この世の誰よりも強い『キング』だと思い込んでいる。強烈なまでの自己暗示、あるいは自己催眠と呼べるものだ。

 何事かと振り返りその姿を見た茅英璃たちは、思わず立ち止まって目を見張った。

 

「獅子門 嶺皇だ!!」

「なんでこんなところに!?」

 

 逃げようとしていた客たちも、嶺皇の姿を見つけると安心したように表情が明るくなり、あろうことか観戦を始める。

 ポラリスはというと、嶺皇を先程の少年と認識できておらず、突然現れ既にグラスプドライバーを装着している彼に動揺していた。

 

「変身!」

CAME SAW CONQUERED(ケイム・ソウ・コンカード)! CAESAR LEMON(シーザーレモン)!》

「さぁ始めようか、ポラリスよ!」

OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「このレグルスが相手だ!」

LEO VISOR(レオバイザー)!》

 

 大剣を力強く振り下ろし、ポラリスに向かって斬りかかる。

 シロクマの戦士はエンフィクを押しのけながらその大振りの一撃を避け、獅子の王者を睨む。

 

「バカな、まだ人が大勢いるんだぞ!? 戦う前にせめてデューラントをどうにかさせろ!」

「そんな事はこのレグルスには関係ない! 貴様を倒した後ですぐそいつらも始末する、それで万事解決だ!」

 

 再び剣が素早く振り抜かれ、今度は回避したポラリスの後ろにいたエンフィク1体が真っ二つになり、消滅。

 レグルスを観察する限り、武器は剣以外にも爪がある。接近戦は不利だ。

 ポラリスはそう考え、距離を取ってからポーラセイザー・ガンモードで銃弾を連射するが、弾丸はことごとくシーザーオーラに阻まれてしまう。

 

「効いてないな」

『気をつけて、レグルスはスターライダーのランク1位! 一番強いんだよ!』

「こいつが……?」

『そのバリアはどんな攻撃でも弾いちゃうから、銃はあんまり効果ないと思う!』

 

 それを聞いて、ポラリスはレグルスをじっと観察し始めた。

 最星には、他人の挙動を観察してその動きをほぼ完全にトレースする特技がある。

 しかしその視線を嫌ってか、レグルスは素早く踏み込んで剣を振るう。

 

「遠慮しない者は嫌いではない、が! 貴様がこのレグルスを対等に見るのは10年速い! 頭が高いぞ挑戦者!」

「く!」

「避けるなァ!」

 

 そう叫ぶ獅子のライダーであったが、斬撃は全てポラリスの観察眼に見切られ、あろうことか銃撃や拳打によるカウンターすらも食らっている。

 途中で爪やキックによるフェイントを織り交ぜていくが、その一切が通じていない。

 

「ぬぅ、案外すばしっこいヤツ!」

 

 レグルスの認識は間違っている、と最星は思う。

 なぜなら、ワンダーコーラフレーバーはスピードに長じた形態ではない。むしろ遅い方だ。

 攻撃をかわしたりいなしたりできているのは、レグルスの攻撃があまりにも単調すぎるためである。

 フェイントにしても、剣を振る前の段階で既に脚や反対側の手を動かそうとしているのが丸わかりなのだ。

 彼の攻撃からは、他のスターライダーと違って何も学び取れるものが()()。武術も戦術も我流どころか素人同然に思え、大剣の威力とオーラによる自動防御任せの雑な戦い方で、とても1位を取れるようには見えない。他のスターライダーほど怖くない。

 だから、ポラリスの中ではレグルスへの違和感や疑念のようなものが、以前洞窟でメトシェラと常治が話していた言葉と共に浮かんでいた。

 

『自分たちに都合の良いように順位を操作している』

『八百長までしてるのか!?』

 

 順位の操作。八百長。

 もしそれらが事実なのだとすれば、目の前のトップスターは――。

 

「こいつ……()()()()()()()?」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 ポラリスとレグルスが交戦を始めた頃。

 そこから離れたビルの屋上に、1人の男が伏せた状態で、下部にハンドリンクの装填されている長銃を構えていた。

 単に銃身が長いのではなく、2本のレール状の電極となっている。即ち、レールガンだ。

 その銃口が狙うのは、ポラリスの側頭部。

 

「ココニイタカ」

 

 しかしトリガーを引くよりも前に、背後から声がかかる。

 男が振り向くと、そこにいたのはジャッカルのヘルムの戦士、メトシェラだった。

 

「絶好ノ狙撃スポットジャナイカ、誰ニ教ワッタ?」

「……なぜここが分かった?」

「フッ、イツモノヨウニカワイコブッタ演技ヲシナインダナ。ロカ・ナピート」

 

 メトシェラの視線の先にいる男――ランク2位のロカは舌打ちをして、自身の銃、サジタリウスバイザーを置いてグラスプドライバーを装着する。

 

「本当鬱陶しいなぁ……必要ないだろ。これから死ぬんだ、貴様は」

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

「変身」

ALL RANGE SHINING RAY(オールレンジ・シャイニングレイ)! AUREORANGE(オレオランジュ)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「……フン」

 

 鼻を鳴らしつつ、ヌンキに変身したロカがサジタリウスバイザーをトンと軽く蹴り上げ、右手で取った。

 姿は全く同じのはずであるが、その雰囲気からは大会の時に見せた温和さなど微塵も感じられない。

 そして背中のリングを閃かせてメトシェラの周囲に光球をバラ撒き、即座にそれを光線に変えて撃ち込む。

 が、それらは全て展開されたバリアに阻まれる。

 

「ソノ程度ノ攻撃デ、メロナークノバリアハ破レナイ」

「ならこっちはどうだ」

 

 言うが速いか、ヌンキはサジタリウスバイザーから弾丸を放つ。

 電磁力で撃ち出された弾は、堅牢なバリアを一撃で砕く。そればかりか、メトシェラが咄嗟に構えた盾の端にヒビを入れ、弾道が逸れた先にある肩の装甲にも掠めただけでパックリと傷をつけた。

 

「ヤルナ、流石ハ殺シ屋ノスターライダー」

「無駄口を叩く余裕があるのか」

「ソレトモ『影ノキング』トデモ呼ンダ方ガイイカ?」

 

 ピクッとレールガンを持つ指先がブレて反応を示し、ヌンキがジャッカルの戦士を睨む。

 

「……随分とお喋りになったな、メトシェラ。解放軍の道連れが増えたのがそんなに嬉しいか?」

「無論嬉シイサ。ヨウヤク目障リナ評議会ヲ潰セルノダカラナ」

「ならばそのお仲間諸共消し炭にしてやる」

 

 オランジェリングがさらに激しく発光し、ヌンキの背から浮かび上がって、穴から極大の熱線を放出する。

 対するメトシェラは再びバリアを生み出す。今度は円形のものを前面のみ、ただし幾重にも層を作る形で。

 バリアは瓦割りめいて砕かれながらもビームを防ぎ切り、メトシェラは傷一つ負わずに、容易く難を逃れた。

 

「チッ!」

「ナゼソレダケノ力ヲ持チナガラ、評議会ノ味方ヲスル?」

「貴様に教える義理はない」

 

 ヌンキはトリガーから指を離して両手で銃身を持ち、棒術の要領で銃床で殴打する白兵戦に持ち込むが、それも盾に防がれる。

 

「焦ッテイルヨウダナ。知ッテイルゾ、オ前ノ役目ヲ」

「黙れ……」

「オ前ハ、評議会ニトッテ都合ノ悪イ者ヤ知リスギタ者ヲ裏デ始末シ、道化ノキングヲ護ル哀レナ手駒。彼ヲ1位デ居続ケサセルタメニ、常ニ手加減サセラレテイルンダロウ。オット、コレデハドチラガ道化ナノダロウナ?」

「お喋りがすぎる!! 黙れと言っているだろうが!!」

 

 サジタリウスバイザーを勢い良く振り被る、と見せかけてオランジェリングのグリップを手に取り、輪状の刃で斬りかかった。

 メトシェラはそれを盾で受け止めるが、亀裂の入った部位に命中した事で破壊されてしまう。

 その瞬間、ヌンキは再びレールガンの銃把を手にし、差してあったハンドリンクを差し直して必殺技を発動する。

 

「そんなに死にたいのなら……今すぐ黙らせてやる」

AUREORANGE(オレオランジュ) ()FLAVOUR ARTILLERY(フレーバーアーティラリー)!》

 

 浮遊するリングの中に銃を通し、太陽光から得た膨大なエネルギーを集中。

 対するメトシェラもまた、壊れた盾を捨てグラスプドライバーを操作し、錫杖を水平に構える。

 

MELONARCH(メロナーク) ()FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

「ヤレルモノナラ、ヤッテミロ」

 

 緑と橙、両者の身体から溢れる2つの光がぶつかり合って、スパークを起こす。

 そして2人は同時に動き出し――。

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