その報せを受け、零地は安心した様子でガリレオ・コーポレーションの社長室で頷いていた。
「そうか、嶺皇は戦いに出てくれたか」
「若様は無事に帰って来てくださるでしょうか……」
そう呟くのは、嶺皇のメイドを務める七上だ。
普段から表情があまり変化しない彼女であるが、今その両目には明らかな不安が見て取れる。
そんな七上に対して、零地はフッと微笑み、静かに頷いてみせた。
「なぁに心配はいらない。あの子の強さは私が誰よりも良く知っている。ザナドゥー最強の戦士なのだから、きっと平気だとも」
※ ※ ※ ※ ※
「普通なら獅子門 嶺皇如きがポラリスに勝つのは絶対不可能でしょうねぇ」
前日の夜。
北区の高層ビルの中にある、とある静かなバーのカウンター席にて。
スコッチウィスキーなどを使った赤い色のカクテル、ロブ・ロイを一口飲んで、コブラー・スコットはそう言った。
彼の両隣には、同じくライダーバトルコンサルタントであるフィズとコリンズがおり、2人もそれぞれ自分の好みのカクテルを飲んでいる。
カクテルが揃う前、コリンズはレグルスが単独でポラリスを確保できるかどうかという話をしていたのだが、それに対しコブラーが先頃の言葉を発したのだ。
「トップスターの持つ
そう言いながら、コリンズはグイッとテキーラベースのカクテルが注がれたグラスに唇を付けてを傾けた。
12人のトップスターは、他のスターライダーと違い、バイザーの名を持つ専用の装備をそれぞれ所持している。
これらには変身時の持ち主の全スペックを通常の倍近くまでブーストする機能が備わっており、それによって戦いを有利に進められ、かつ簡単にランクが入れ替わらないようにできているのだ。
故にただのスターライダー相手なら1人で戦いに行っても負ける要素がないというのがコリンズの弁だが、しかしコブラーはくつくつと笑い、その意見を否定した。
「いくらハッタリが利いていても、彼の戦い方はハッキリ言って素人そのものです。ロクに戦闘経験がないので当然ですが、
「だからレグルスの場合は、グラスプドライバーの方にも普通じゃない仕掛けがしてあるんだよねぇ」
「ええ。不可能を可能にするために、通常の何倍もスペックが上がるようにできています。並のスターライダーならパンチ1発当たっただけで昏倒するレベルのパワーを与えられているんですよ」
他のトップスターよりもさらに強大な補助機能、当然ながら脚力などにも同様の強化が為されている。
しかし、何よりも恐ろしいのは――コンサルタントたちでさえ、その影響の大きさにまるで気付いていないが――嶺皇や零地らが、大衆同様にそのスペックブーストについて
嶺皇は強烈な自己暗示によって自らを最強の無敗王者キング・レグルスであると思い込み、ドライバーと武器がそんな夢想を叶える。堂々としたカリスマめいた振る舞いや威圧感は敵を大いに萎縮、あるいは無駄に警戒させて判断力を削ぐ。
さらにバトルの映像を配信することによりキングの名声は高まり、ザナドゥー内で知らない者はいなくなる。つまり、元々レグルスの素性を知っているか、逆に
その全てが奇跡的に噛み合うことで、キング・レグルスの勝利のカラクリは成り立っているのだ。
「しかしながら、それだけではやはり不安も残ります。スペックだけではどうしようもない程の達人もいるかも知れませんからね。そこで必要になってくるのが……」
「真のキング、ロカってことね」
「市長が身寄りのない幼い彼を拾い上げ、徹底的に鍛えさせた結果誕生したのが、ロカ・ナピートという最強の戦闘マシンです。どんな過酷な命令でも聞き入れて必ず成功させる。それがたとえ人殺しであっても」
我々も随分世話になっている、と言いながら、コブラーは酒を呷る。フィズも頷いて同調し、さらに運ばれて来た料理を食べ進めていく。
「キングを守る存在であり、同時に抑止力でもある。暗殺で挙げた勝ち星は欲をかかずレグルスに譲って、何より文句を言わず従う。まさに理想的な最高のコンビだよね」
「獅子門親子ともども、これからも良い傀儡であって欲しいものです」
ザナドゥー東区では、ポラリスとレグルスの対決が続いていた。
とは言っても、状況はポラリスが圧倒的に優勢なのだが。
「ハァッ、ハァッ……!?」
レグルスは肩で息をしながら、剣を杖代わりにして目の前のスターライダーを睨む。
攻撃が当たらない。何をしても、全て軽々といなされてしまう。レグルスにとって初めての経験だった。
一方で、ポラリスの方も有効打を与えることができていない。堅牢な装甲に加え、ハンドリンクの能力であるシーザーオーラに阻まれている。
「スターライダーポラリス……トップスターを退かせたとは聞いていたが、まさかこれ程とはな……」
大したことは一切していないぞ、とポラリスは心の中で答えながらも、油断せずポーラセイザー・ソードモードを構えた。
レグルスは余裕ぶってフンと鼻で笑い飛ばし、自身も剣を振り上げ肩で担ぐ。
「だが貴様の顔もそろそろ見飽きた! 終わりにしてやる、このレグルスが!」
「やめておけ。どうせ、当たらんぞ」
「どうかな?」
獅子の戦士はそう言いながら、セットされているハンドリンクをホルダーに保持してあるものと入れ替えた後、素早くトリガーを引いた。
《
それは、ポラリスも何度か使ったことのある、ワンダーコーラのオプションタイプのハンドリンク。
攻撃の範囲を拡げる機能があり、武器に使った場合でも同じく拡大される。
全く当たらないのならば当たるようにすれば良い。その考えの元、光をまとって刀身が巨大化した剣を、横薙ぎに払う形で振り抜く。
だが。
「くぅっ!」
「ぬ!?」
ポラリスは前進しながら大きく跳躍して、その一撃から逃れる。
しかし空中ならば逃げ場はないと、続いてレグルスはそのまま脚を踏ん張り、光の大剣で斬り上げた。
その瞬間にポラリスは下から迫る刃にポーラセイザーの一撃を叩き込み、吹き飛ばされながらも無傷で切り抜け、逆にレグルスの頭に蹴りを入れる。
「むう!?」
シーザーオーラのせいでやはりダメージはないが、たった今発動した必殺剣を中断させることには成功した。
しかも広範囲攻撃だったお陰で、残っていたデューラントたちが光の剣に巻き込まれ、纏めて消滅。その点に関しては、状況はポラリスにとって優位に進んでいる。
さらに戦いを観戦している者たちの目にも、その光景の異様さが伝わり始めていた。
「いくらカウンターできても、アレじゃキリがないな……最星、大丈夫かなぁ」
「でも環ちゃん、なんか変じゃない?」
「うーん、未来もそう思う?」
真っ先に疑問を口にしたのは、環と未来だった。
さらにそれに続いて、茅英璃も訝しむ。
「レグルスの攻撃が一発も当たってないわね、さっきからずっと。何か狙いがあるのかもと思ってたけど、自慢の大技すら空振りするだなんてあり得るのかしら?」
その意見に環たちも首肯し、彼を怪しみ始める。
他の民衆もまた、ポラリスに手こずる様子にざわついており、この状況を理解できずにいた。
「貴様! ここまでこのレグルスを翻弄するとは、どうやら相当の才覚の持ち主のようだな! 犯罪者なのが惜しいくらいだ!」
「そもそもが違う、俺は犯罪なんて――」
「しかしこのレグルスは決して、負けん!」
「少しは話を聞け!」
2人のスターライダーが再びぶつかり合おうとする、その時。
彼らの間に割り込む形で、新たにデューラントが5体ほど飛び出して来た。
「な……!?」
「またデューラントだと!?」
彼らはレグルスの姿を認識すると、一斉にそちらに向かって襲いかかっていく。
「このレグルスに集中砲火するか! 身の程知らずの怪人どもめ!」
対する獅子の王者は、そんな事態でも強気に振る舞い、掴んだ剣で薙ぎ払う。
今がチャンスかも知れない。そう判断して、ポラリスはホルダーのハンドリンクを剣に装填した。
「一気に終わらせる」
《
「消え失せろ雑魚ども!」
《
緑と黄、2色の光の刃が飛び、デューラントたちを斬り刻んでいく。
攻撃しながら、ポラリスは見た。軽々と大剣を振り回すレグルスの斬撃を受けて、たった一撃で怪人らが消滅するのを。
そこで脳裏に考えがよぎる。
あれほどまで強力なのは、もしやレグルスのグラスプドライバーや武器にスターライダーとしての
この推測が正しいなら観客に違和感を与えずに1位で居続けることも可能かも知れない、彼自身のランクと相反する戦闘の拙さにも説明がつく。
そう考えたポラリスは、デューラント全滅を確認した後、爆風に紛れて密かにその場を去る。
「……む!? どこに行った!?」
レグルスは容易くポラリスの姿を見失ってしまい、周囲に目をやるも既に遅く、残っていた客に混ざってしまったのか見分けがつかない状態になってしまう。
いくら探しても見つからないので、彼は仕方なくその場で変身を解き、宣言する。
「悪運の強いヤツめ。だが、この嶺皇から簡単に逃げられると思うな! 必ず見つけてやるからな!」
そう言い残して、嶺皇はマシンスプライダーに跨り、北区へと戻っていく。
ヘルメットを被った後「誰も死ななくてよかった」と心の中で安堵しながら。
※ ※ ※ ※ ※
「ぐ、ガハッ!?」
ポラリスが逃走したのと同じ頃。
メトシェラとヌンキの対決にもまた、決着がついていた。
「私ノ勝チダナ。デハ、ココデ死ンデ貰オウ」
「チィ……!」
変身が解けてしまったロカが、自身に近付いて来るメトシェラを睨む。
互いの必殺技が発動した、あの時。
メトシェラは錫杖を使い棒高跳びのようにして頭上を取り、高密度のエネルギーを宿した弾丸を避けつつ、側頭部にキックを炸裂させたのだ。
それを受け、ヌンキの変身は解除された。このままではロカは、抵抗できないまま殺されてしまう。
「そこまでよ!」
屋上の入口から男の声が聞こえたのは、そんな時だった。
2人が振り向けば、そこにはバナナの髪留めを着けた女性的な仕草の男がいる。
「オ前、確カ」
「
ロカからそのように呼ばれて、その人物は「ちょっと!」と憤慨しながら指を差す。
「本名で呼ぶのは止めて頂戴! 今のアタクシはキャベンディッシュ 弐那よ、弐那ちゃんとお呼び!」
最近トップスターになった弐郎、もとい弐那はそう言って、毒気を抜かれた2人に向かってさらに続ける。
「ラブちゃんから頼まれたのよ、このビルの近くで怪しい動きがあるかも知れないから巡回して欲しいって。そしたら本当に上の方からドンパチする音が聞こえて来たし、アナタたちが戦ってるじゃない?」
「スピカ……ヤツが寄越したのか」
「ちょっと、アタクシも混ぜて欲しいなって。どぉ?」
言いながらズカズカと近付いていくが、メトシェラはどうでも良さそうに肩を竦めて頭を振り、錫杖で地を突いた。
「悪イガ、私ノ方ハオ前ニ用ナドナイ。帰ラセテ貰ウ」
「あ、ちょっと! 帰る前に話を……」
最後まで弐那の言葉を聞く事なく、ジャッカルのライダーは姿を消す。
「んもう! 失礼しちゃうわぁ!」
憤慨しつつも弐那はロカに近づいていき、手を差し伸べる。
「ロカくん、大丈夫? 立てるかしら?」
しかしロカは彼の手を借りずに立ち上がると、そのまま警戒心を解かずに問う。
「聞かないのか? なぜヤツと戦ったのか、なぜこんなところにいたのか」
「話したくないこと聞くような野暮はしないわよ、秘密を大事にするのがいい男やいい女の条件だしね。ただ、こっちは代わりに聞きたいことがあるんだけど」
弐那はそう言った後、穏やかな表情から一転、刺すような鋭い視線をロカへ送る。
「スターライダーカストル、って知ってるわよね? アタクシの双子の姉だった人なんだけど」
それを聞いて、ロカの眉がピクッと反応を示す。
「警察から事故死って説明されたけど、アタシは納得してない。死体が原型を留めてないからって遺骨だけ渡されたし。どうやって殺されたのか、なぜ死ななければならなかったのか、誰がやったのか。アナタは何か知らない?」
「……僕もそれほど長くスターライダーだったワケじゃない。悪いが、何も知らないよ」
ロカが真剣に答え、2人の視線が絡み合う。
やがて、弐那は短く息をつくと共に、彼に背を向けた。
「そう。じゃ、他のトップスターを当たるわ」
あまりにもあっさりした態度に、逆にロカの方が呆気に取られ、呼び止めて質問を返す。
「今の話を……信じるのか? ウソかも知れないだろ?」
「心配しなくても、ウソだって分かった時にちゃんと借りを返してあげるわよ。10倍にしてね!」
ニヤッと笑みを見せ、弐那はその場を去っていく。
ロカはその背を見送りながら、自らの額を押さえた。
「ワケの分からないオカマだ」
※ ※ ※ ※ ※
その翌日。
北区にある製薬会社、ケプラー・ファーマの研究施設を、3人の男女が訪れていた。
コブラー・スコットとフィズ・シャンパーニュ、そしてコリンズ・メスカル。いずれもライダーバトルコンサルタントだ。
彼らは、室内にいるクマだらけの濁った目をした白衣の男を見つけると、真っ直ぐにそこに向かって歩いていく。
「あぁ、これはこれは。コンサルタントの皆さん、お揃いで――」
「能書きは良いわ、
「おっと」
ケプラーの研究者、
対するコリンズは額に青筋を立てて拳を握り込むが、それが炸裂する前にコブラーとフィズが割って入り、携帯端末の画面で映像を見せた。
レグルスたちが戦っている場面だ。
「こちらはポラリスとレグルスの前に現れたデューラントたちの映像です。どれも、今回の作戦で使う予定になかったものですねぇ」
「どうしてこいつらが出て来たのか、そして誰に売ったのか。説明して貰えるかなぁ?」
3人に詰め寄られ、だが伽勒はそれでも平然とした顔で、ヘラヘラと頭を振った。
「ごめんねー、守秘義務があるから誰に売ったかは教えられないんだよー」
「なんだと?」
「売った理由については、そうだねー。こっちも先立つモノが欲しいから、かなー」
言いながら伽勒は指で輪の形を作ってみせる。
コリンズはそれを見て呆れたように深い溜め息を吐き、隣に立つコブラーが彼女の肩に手を乗せて下がるよう促す。
そうして一同が落ち着きを取り戻したところで、コブラーの目がズイッと伽勒の顔を覗き込んだ。
「別に商売相手がコンサルタントだけである必要はありません、買い手がいるならそうすれば良い。しかし、その結果、評議会の計画を妨害してしまうというのは頂けませんねぇ」
「そう言われても、僕自身は評議会のメンバーじゃないしなぁ」
「正直にお話して下されば、デューラント研究用の星杯のエネルギーと、
すると、伽勒の目が僅かに細められ、唇の角度がさらに不気味に上がる。
「悪かったってコブラー。でもさ、やっぱ言えないねー。こっちにも事情があるんだよー。お嬢様との商売だからさー」
コブラーはくつくつと笑い出すと、彼に向かって丁寧に頭を下げ、踵を返した。
「分かりました。では、我々はこの辺りで」
「君の友情に感謝するよー」
コリンズもフィズもポカンとコブラーの背を眺め、我に返ってすぐ後を追う。
そして、先程の問答について疑問を投げた。
「アイツを放置して良いワケ? またやらかすと思うけど?」
「そうだよパイセン。代わりの研究員なんて簡単に用意できないのは分かるけどさ、せめてキツいお仕置きくらいはしなきゃ」
対してコブラーはやはりニヤニヤと笑っており、しばらく歩いたところで種明かしを始める。
「彼のような人間はむしろ扱いやすくて助かる、利益をチラつかせれば情報を吐いてくれますからねェ」
「え? どういうこと?」
「彼はさっきヒントを口走っていたじゃないですか、
それを聞き、コリンズはハッと目を見張り、フィズは数度頷く。
コブラーと伽勒の間では、ちゃんと取り引きが成立していたのだ。
「お陰で犯人に大体目星がつきました。今はお互い感謝しましょうよ、この友情とやらにねェ」
不敵な、邪悪な笑顔を見せながら、2人を連れてコブラーは去っていく。
一方、伽勒はコンサルタントたちを見送った後、ケプラー・ファーマの地下へと移動していた。
「クククッ、彼らのお陰で研究が着々と進んでいるねー」
広大な地下空間には暗闇が広がっており、ライトアップされている場所にはいくつもの培養槽が並んでいる。
そしてガラスケースの中には斑に色が移り変わる液体が満たされている他、ひとつひとつに名前が割り振られていた。
実際に、中にはツルツルとした質感の人に似たシルエットの異形が入っている。
「このまま上手く行けば、クク……そろそろ
しかし伽勒はそれらには目を向けず、別の区画へ移動していく。
「おっと、こっちはそろそろいけそうかな?」
そう呟く彼の視線の先にあるのは、ちょうど人が1人入るくらいの大型の機械。
まるで棺桶のようなそれは、不敵に微笑む伽勒の目の前で、ただ不気味に冷気を放っていた。
同日の昼間、北区の汐の屋敷にて。
彼女のN-フォンから、着信音が鳴り響いた。
画面に映った発信者の名はコブラー・スコット。汐は鼻歌混じりに通話に応じ、挨拶を交わす。
「ごきげんよう、スコットさん」
『ええ、どうも丹羽さん。早速ですが、ご説明頂けますか?』
「なんのことかしら」
端末の向こうから聞こえて来る笑い声を聞きながら、汐は小首を傾げて見せる。
向こうに見えていないことを理解した上で。
『ポラリスとレグルスにデューラントをけしかけたのは、あなたですよねェ? 止めて貰えませんかね?』
「あらぁ、そんなことがあったんですの? 大変ですわね~今日はずっと屋敷にいたので全然知りませんでしたわ」
『カハハハハッ! ランキング3位の女王殿は、誤魔化すのがヘタでいらっしゃるんですねェ! そもそもレグルスを妨害して得をするのはあなたくらいでしょ!』
ケタケタと笑いながら、コブラーはそう返す。
しかしながら汐は少しも堪えた様子がなく、むしろ同じく愉悦に満ちた声で通話に応じている。
「もし仮にあなたの言う通り、ワタクシが犯人だとして。ポラリスを取り逃がしたのはワタクシのせいということにはなりませんわよ? 実力がない方が悪いんじゃありませんの? 2位に守られていながら、デューラントの相手をしたせいで捕まえられなかったんでしょう?」
『レグルスが1位であることについて、民衆から怪しまれると八百長にも勘付かれる可能性があるんですよ。それは困る。獅子門親子には、まだ都合の良い傀儡でいて貰わなくては』
「傀儡として扱うなら、1位じゃなくても問題ないのではなくて? トップスターであり続ける限り、支持はされると思いますわよ?」
『……どうしても諦めないつもりですか? あくまでも自分が1位でありたいと、そしてポラリスは自分が倒したいと。そう、仰るのですね?』
「はっきり言いますけれど、少なくともレグルスには無理ですわね。ワタクシでなくてはポラリスを捕まえられず、王座も守り通せない」
自信に満ち溢れた汐の言葉に、コブラーはひとしきり大笑いした後に、短く溜め息を吐く。
ウンザリとしたような、諦めたような声色だった。
『良いでしょう、ならお好きになさって下さい。ただし、失敗した時は全て自己責任でお願いしますねェ。我々は一度止めましたので一切かばいません。あなたが忠告を無視して勝手にやったと報告させて頂きます』
「大丈夫ですわよ。ワタクシは失敗しませんもの、情けないレグルスとは違ってね」
コブラーがその言葉を鼻で笑って、彼が切る形で通話が終わる。
汐はそれでも不快そうな様子を見せない。ただ大義名分を得た事実に震え、優越感を瞳に浮かべて薄く笑んでいた。
「これで心置きなくポラリスと戦えますわね」
「おめでとうございます、お嬢様。既に襲撃の準備は整っております」
「流石ねウィル」
喜色満面といった様子の汐は、自身の執事たるウィルにクリムゾンバッファローの栓を開けさせ、ティーカップで喉を鳴らして飲み干す。
「ポラリスの首を手土産に、ワタクシは必ず1位になる……力ある者には、相応しい順位と称号が必要なのだから」
「1位になって、その後はどうするんです?」
野心を剥き出しにする汐へと放たれた言葉。
それを言ったのは、無理矢理メイド服姿にさせられているヒカルだった。
汐もウィルも彼女に視線を向けて、一瞬目を丸くする。
「いや、その……何か叶えたい願いがあるんすか? 1位になったらそういう権利が与えられるって話だったと思うんすけど」
「誤解しているようですわねぇ。ワタクシ、願いを叶えることには然程興味ありませんの。このライダーバトルという競技を続けていたいだけ」
「そうすか……まぁ、あんた地位も名誉も金も何でも持ってるもんな……」
「強いて叶えたい願いがあるとすれば、そうですわね」
唇を大きく釣り上げたまま、彼女は自らの右手を頭上に掲げて、握り締める。
「ライダーバトルが永遠に愛されて、行く行くは壁の外にも最高のスポーツとして広まっていくことかしらね」
ヒカルはその願いを聞き、ゾッと背筋を震わせた。
確かにライダーバトルは名目上エクストリームスポーツとしてザナドゥーで広まっているが、スターライダーの存在自体は多くの住民に歓迎されているとは言い難く、ヒカル自身も金を稼ぐ手段として使っているに過ぎない。
真っ当なスポーツとは言えないのはもちろんのこと、壁外でも犯罪に利用されるのは疑うべくもない。彼女にすらそれは分かる。
にも関わらず、汐は恍惚と頬を上気させ、その恐ろしい願いが実現した後のことを夢想していた。
「そうね、最終勝者になった暁にはそれを願いましょう! 評議会にとっても悪い話ではないはずですわ!」
腹の底から声を上げて笑う汐。
その姿を見ながらヒカルは、グッと息を呑んで思う。
そんな願いだけは、実現させてはならないと。