ポラリスとレグルスの戦いが終わった後。
トレミーの一行は、南東区の拠点に帰還していた。
「すごいよ最星! あのキングを相手に生き残れるなんて!」
ソファーに座して休んでいる最星に環はそう言うが、しかし傍にいる未来と茅英璃は首をひねっている。
「いや、確かにすごかったけど。やっぱりあの戦い変だったよね?」
「そうね。獅子門 嶺皇の攻撃が1度も当たってなかった、逆に最星の方は的確に命中させてた……どう考えてもおかしいわ」
キングと呼ばれる人物の戦いにしては、明らかに違和感がある。それが全員の、共通の認識だった。
当然、戦った本人である最星も頷く。
「正直言って、俺はヤツを他のスターライダーほど手強いとは感じなかったな。攻撃の威力や自動防御の硬さは厄介だったが、本人の技巧がまるで追いついていないように見えた」
「でもそれっておかしくない? 全戦全勝、無敗のキングなのは事実じゃん」
環がそんな疑問を呈するものの、誰もそれについて明確な答えを持ち合わせていない。
しかし最星だけは、戦いの中で導き出した、それらしい推測が頭の中にあった。
「恐らくだが。ヤツはグラスプドライバーそのものや、武器に何らかの仕掛けを施すことで、変身時の性能を大幅に上げてるんだろう。一撃でも当たりさえすれば相手を倒せるくらいにな」
「え? インチキしてる、ってこと……?」
「確証はないが、あり得ないとも言い切れない。少なくともメトシェラは、八百長について知っているようだったぞ」
最星はそう発言するものの、それでも環は納得しきれていない様子だ。
「けどなんか、それも違和感あるよね。実績そのものはちゃんと挙げてるじゃない、ライダーバトルに勝ってるだけじゃなくてデューラントを倒してたり。流石に怪人退治までインチキじゃないでしょ?」
「俺もそれは気になった。仮に俺の推理が正しかったとして、それをやってる張本人があれほど堂々と殴り込んでくるのも、知ってるハズの周りの人間が止めないのも妙だ」
何かあるとすれば、それは一体どんな仕掛けなのか。
結論は出ない。ではもし、分かる方法があるとすれば。
「もう1度、全力で戦ってみるしかないだろうな」
※ ※ ※ ※ ※
戦いを終えて、キング・レグルスこと嶺皇は、北区のガリレオ・コーポレーションの社長室まで結果を報告しに向かっていた。
彼の表情は暗く沈んでおり、俯いてしまっている。
「ごめんなさい、お父さん……失敗、しちゃった……」
「嶺皇、気にするな。大丈夫だ。お前が無事で帰って来てくれて良かったよ」
零地はそう言いながら嶺皇の方に駆け寄り、肩にそっと手を置いた。
とはいえ、失敗した原因については考える必要があるため、七上も含めた三人で話し合うこととなる。
「それにしても不思議だ、あのポラリスとかいうスターライダーの強さもそうだが……なぜ、今日このタイミングであんなにも多くのデューラントが現れたのか」
「ほとんど若様が蹴散らしてしまいましたが、一体東区のどこに隠れていたのでしょうか。北区ほど治安が良くない土地とはいえ、人に見つからず通って潜伏できるような場所ではないはずですが」
「そもそも他のスターライダーたちに見つかるはずだよね。うぅん、なんでなのかなぁ」
腕を組んで、うんうんと嶺皇は考え込む。
そしてふと思い浮かんだ可能性を、ポソッと口に出す。
「デューラントを匿ってる人がいるとか?」
「ペットにでもしているということですか? それは犯罪では……というか、可能なのでしょうか?」
「い、いや流石にないよねそんなこと。やっぱり見つかっちゃうもんね?」
苦笑しながら、やや慌てた様子で嶺皇はそう言い繕って、もう1度考え直す。
だがやはりと言うべきか、評議会によって真実から遠ざけられている彼らには結論を出すことができず。
一旦考えを打ち切り、七上は嶺皇に向き直った。
「次こそはちゃんとポラリスを捕まえて、キングとして汚名返上しましょう」
「う、うん」
彼女に励まされて嶺皇は頷くが、そこへ咳払いと共に零地が口を挟む。
「そのことなんだが……実は、ポラリス捕獲作戦は一旦中断することになった」
『え?』
2人の声がピッタリ揃い、零地は困ったように眉をしかめて続きを話し始めた。
「理由はハッキリと分からない、しかしどうやらアルデバランの丹羽 汐氏が引き継ぐと名乗り出たようだ」
「ランクなら3位より1位の若様の方が高いはずですが、一体どうしたのでしょうか」
「さぁな。とはいえ嶺皇、気を抜くんじゃないぞ。また任命されないとは限らんからな」
嶺皇はそう言われて首肯しつつも、目を伏せて部屋を出る。
そんな彼の様子を察して、七上も退室し、声をかけた。
「若様。浮かないお顔ですが、どうなさったのですか? また戦うかも知れないのが嫌ですか?」
「いや……どっちかっていうと逆、かな。本当にこんな中途半端で終わって良かったのかなって……」
嶺皇にしては意外な発言だったので、七上は思わず目が丸くなる。
「だっておかしくない? どうしても確保する必要があったから、お父さんと僕に依頼したんでしょ? 一応……1位ではあるし。なのにどうして、こんなにあっさり諦めるの?」
「確かに不可解ではありますね」
「でしょ? もしかして僕が失敗したから、評議会の人たちはお父さんと会社を見放すつもりなんじゃ!?」
「流石にそんなことはないと思いますが……」
深刻な顔で言い放った彼を落ち着かせようと七上はそう告げるが、嶺皇の耳にはほとんど届いていない。
気弱な彼の目には、怯えこそ残っているものの強い決意の光が灯っていた。
「僕がなんとかしなくちゃ……!」
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
北東区の魔祓課オフィスで、とある報告を耳にして、常治は目を見張る。
「俺がいない間に、今度はレグルスがポラリスと対決してたんですか!?」
ポラリスが戦闘していた時間帯、常治もまたジェーシュタに変身して南区に現れたデューラントの鎮圧に当たっていたのだ。
そしてここで、ひとつ疑問が湧き上がる。
ポラリスたちの戦いは、デューラントの乱入で中断された。だが当時、常治も他の魔祓課の面々も、南東区方面にデューラントが向かっているなどという通報は受けていない。
加えて、常治は少なくとも自分の前に現れた怪人を、取りこぼすことなく全滅させた。
「連中、どうやって南東区まで着いたんだ?」
中央区を通らない限り、南区から南東区まで誰にも見つからずに移動するのはほぼ不可能。
しかも、その時ジェーシュタも南区にいた。
デューラントは、どこを通ってポラリスらの元に辿り着いたのか。魔祓課もまた、その疑問に直面していた。
「本部はこの件について何か言ってるんですか?」
恵が尋ねてみると、花胡は眉をひそめ頭を振る。
「何も。きっと、シラを切るつもりだろう。それ以上に不気味なのは、我々の作ったライダーシステムについて知っているはずなのに口出しして来ない事だが」
「確かに変ッスね……一体どうなってんだ?」
開発を中止させるにせよドリップドライバーを取り上げるにせよ、トップスターのハマルを一応は退却まで追い込んだその力に、上層部が目を付けないはずがない。
彼らが何を考えているのか、常治にも恵にもサッパリ分からなかった。
「とりあえず今後もレグルスの動向には気を配っておこう。ひょっとしたら、彼も評議会側の人間かも知れないからね」
『了解!』
花胡の言葉に常治や恵、金人にモカも声を揃え返答し、敬礼。各々仕事を再開するのであった。
※ ※ ※ ※ ※
それから数日後、ザナドゥー北区にて。
評議会の情報統制によるものか、ポラリスとレグルスの対決の結末はあまり話題になっておらず、しかしポラリスの指名手配は取り消されていないため、警戒は維持されている。
それもこれも、彼女――汐にとっては都合が良かった。
丹羽邸の自室でエナジードリンクを飲む汐の元に、彼女の執事たるウィルが参上する。
「お嬢様、デューラントが届きました。ポラリス討伐の志願者や傭兵のスターライダーたちも、いつでも準備万端とのことです」
「よくてよウィル。ついにこの時が来ましたわね、明日にでも仕掛けますわよ」
「あとは獅子門 嶺皇の対処をどうするか、というところですが」
彼が邪魔しに現れるであろう事は、十分に予想できる。
だがそれを聞くと、汐は大きな声で笑い飛ばした。
「ワタクシにはあの木偶の坊のハッタリなんて通じませんわ! スペックブーストは確かに多少厄介ですけれど、ポラリスを相手にしながらでも余裕で勝てるでしょうね」
「流石ですお嬢様」
所詮、レグルスなど大した実力を持たないハリボテの王に過ぎない。ウィルも同様の見解だ。
それ故、汐は思いついたように顔を上げて「あぁそうだわ」と残虐な笑顔を浮かべ、ウィルの方に語りかけた。
「いっそアナタがレグルスの足止めを引き受けてくれないかしら? 当たりさえしなければ問題ないし、邪魔が入らなければワタクシもやりやすいのだけど」
「仰せのままに」
「なんなら殺してしまったって良いですわ、事故に見せかけてね」
汐の言葉を聞くと、ウィルは「お嬢様がお望みなら」と返し、静かに一礼する。
そうしてウィルが汐の部屋を後にすると、廊下で窓を拭いて掃除しているメイド服姿のヒカルが目に入った。
自身の主である汐と対面した時と違い、ウィルは尊大な態度でヒカルに声をかける。
「当日は君にも来て貰うぞ、スハイル。お嬢様を援護しろ」
「は!? ふざけんなよ、なんでアタシまで!?」
「まだ自分の立ち場というものを理解していないのか? 君は既に我らの飼い犬だ。拒否権は、ない」
それだけ告げて、彼はヒカルを肩で押しのけその場を去っていく。
ヒカルは持っていた雑巾を強く握り締め、地面に思い切り叩きつけた。
「……クソが! どいつもこいつも、アタシをナメやがって!」
このまま使用人や便利な手駒のように使われるのは真っ平ごめんだ、とヒカルは思う。
もうこんなところにいたくない。とはいえ、ただ真っ向から逆らったところで返り討ちに遭ってしまうだけだというのは、火を見るよりも明らかだ。
何か手はないだろうか、それを考えて思考を巡らせた末に、ヒカルはニヤリと唇を釣り上げる。
「良〜いこと思いついちまったなぁ〜、クククッ。
必ず上手くいく。そう確信しているかのようにヒカルは頷き、一旦掃除を再開し始めた。
そして、翌日。
汐はウィルとヒカルを連れて、北東区の噴水広場に向かう。
そこが集合場所なのだ。20名以上のスターライダーが集っており、彼女はベンチの上に土足で立って、彼らに向かって号令をかける。
「お集まりの皆様、ごきげんよう。ワタクシが丹羽 汐ですわ」
グラスプドライバーを装着した彼女が穏やかに言い放った直後、群衆の中から同じくグラスプドライバーを装着した数名の男が飛び出して来た。
《
「死にやがれ、アルデバラン!」
「カチコミじゃあッ!!」
《
男たちはそれぞれ変身し、一斉にヤカン型鉄球を振り被って投げつける。
だが汐は即座に飛び退いて鉄球を蹴り返した後、ドライバーにハンドリンクを装填して自らも変身に移った。
《
「ヌルいですわね」
《
現れたのは、裏地に翼の刺繍がされたマントを背負う青いウシの戦士。
再び飛んで来た鉄球を殴って跳ね除け、左右に散開したスターライダーたちが見守る中、アルデバランは猛突進してそのままドロップキックを繰り出す。
「ぐへっ!?」
蹴りを食らったスターライダーの1人が吹っ飛んで仰向けに倒れ、さらに他の2人も盛り上がった筋肉から繰り出すラリアットで打ちのめした。
奇襲など物ともせず、反撃さえ許すことなく一方的かつ迅速に対処するその姿は、見る者全てに畏怖を感じさせる。
しかし、それでもなおスターライダーの男たちは戦意喪失していない。
「ならこいつで!」
《
取り囲むように散開して、ドライバーのハンドルレバーを回してボタンを押し込み、エネルギーを集中させた鉄球を振り上げ投擲。
その瞬間に、アルデバランの全身がほんの一瞬だけ赤く閃いた。
すると、鉄球が勢いを失ってフワリと反対方向に浮き上がった後、そのまま地面に落ちてしまう。
「なっ!? なんだ、今の!?」
どうやったのか分からないが、必殺技を完全に無力化された。
それを認識した直後に、アルデバランは再びその豪腕を振り回し、瞬く間に男たちを制圧して見せる。
『ぐあああああ!?』
「雑兵程度で、このワタクシに勝てるハズがないでしょう?」
既に変身解除された男の腹を蹴っ飛ばしながら、アルデバランは反逆者たちを嘲笑う。
圧倒的な支配者。誰もが彼女を恐れ、震え上がる。
「誰か、他に文句がある方はいらっしゃるかしら?」
歯向かった者たちは皆逃げ出し、返って来るのは沈黙のみ。
「いないようですわね。では改めて、ようこそ皆様。参戦を歓迎致しますわ」
そう告げて変身を解き、汐は満足そうに頷く。
「手強い相手ではありますが、大丈夫。このワタクシと勇気あるあなた方ならば、必ず勝利を手にできるでしょう」
汐は拳を天に掲げ、群衆に向かって呼びかける。
すると彼女へ質問するために、群衆の一部が挙手を始めた。
「ここに来るまで何も聞かされてないんだが、俺たちは一体何をすれば良い?」
「良い質問ですわ、簡単なお仕事です。まずは東区・南東区・南区をひたすら駆け回って、ポラリスを探しなさい。そして見つけ次第通達し、全員で囲んで潰す。シンプルでしょう?」
「なぜその3区なんだ?」
「ポラリスが頻繁に現れる場所が基本的にその辺りだからですわね、ちゃぁんとデータは取ってありますのよ」
おおっ、と声が上がる。先程の戦い振りも手伝って、頼れる存在として認識されている証拠だ。
「ヤツが現れなかったらどうする?」
「そこは心配いりませんわ。自分から出てきます、確実にね」
先程見せた高い戦闘力と今の自信に満ち溢れた言葉を聞いて、次第に誰も疑問を持たず深く追及しなくなった。
やがて作戦は開始され、マシンスプライダーやメトロストリーマーを駆って、スターライダーたちが文字通りに飛び出していく。
「さぁ、熊狩りの時間ですわよ」
目を爛々と輝かせ、汐は密かにN-フォンを操作しつつ、ウィルやヒカルと共に捜索を始めた。