魔祓課のオフィスで、恵はパソコンの画面を見つめてポツリと呟く。
「……どういうことかしら、これ?」
「なんかあったんすか?」
しきりに首を傾げる彼女の後ろからそんな声をかけたのは、常治だった。
恵は彼の方を振り返り、眉をしかめつつ画面を指で差す。
「いや、匿名でメールが届いてたのよ。でも言ってる意味が良く分からないっていうか」
「どれどれ」
言われて常治はディスプレイを覗き込み、内容を黙読。
そして徐々に、その表情が困惑の色に染まっていく。
「これは……マジなのか!?」
丹羽 汐、アルデバランが行動を開始してからおよそ30分後。
南東区にあるトレミーの拠点で、SNSで街の様子をそれぞれ観測していた未来と環が騒ぎ出した。
「大変! またデューラントが出たんだって! 今度は南区の方だよ!」
「しかもかなりの数みたいだ! 前回の比じゃない、これじゃ大勢被害に遭う!」
言いながら環が未来のタブレットの画面を取り、ザナドゥー内での被害状況を流しているアカウントを見せる。
何体ものデューラントが街並を破壊し、逃げ惑う人々の姿が映っていた。
その様子を見て、茅英璃も眉をしかめる。
「それだけじゃなさそうよ。不自然なくらい何人もスターライダーが町に散らばってるわ、キナ臭いわね」
「とはいえ、行かないとこの場所も襲われる。見過ごせないな」
最星は茅英璃と同じく悪い予感を嗅ぎ取りつつも、そう言いながら3人と顔を見合わせ、一度頷く。
たとえこれが評議会の仕掛けた罠であったとしても、行くしかない。
マシンスプライダーを駆り、ドライバーを装着した最星は叫ぶ。
《
「変身!」
《
「さて……行くか」
『ルートは任せて!』
茅英璃たちからの案内に従い、ポラリスはマシンスプライダーで道を走り抜けていく。
だがしばらく走行している内に、彼は違和感に気付く。
多少の痕跡は残っているが、SNSで投稿されていた画像や映像と違って、街の被害状況は然程大したものではない。
と言うよりも、そもそもデューラントの姿さえ確認できない。一体どこに行ってしまったのか。
「南東区にポラリス発見、食い止めておくので集合願う!」
「なに!?」
一度停車して周囲を見回しながら考えていると、そのような声が耳に入り、それと同時に建物や物陰などからスターライダーとデューラントが姿を現す。
「やはり罠……だが、これはどういうことだ」
奇妙なことにデューラントたちはすぐ近くにいる他のスターライダーたちには無視しており、ポラリス1人に襲いかかって来た。
疑問に答える者はなく、代わりにムギムギダンダンの鉄球やブラストマトの爆弾が、シロクマの戦士に向かって投げ込まれていく。
その猛攻を飛び退いて凌ぎつつ、ポラリスはドライバーからハンドリンクを抜き、別のボトルを装填する。
《
「だったらこれだ……!」
《
緑色の光と共に両足にローラーが装着され、即座にデューラントたちの間を走り抜け、すれ違いざまにポーラセイザーで斬り裂く。
さらに背後から襲いかかろうとしているスターライダーにも、ガンモードに変形させ弾丸を食らわせた。
しかし、当然ながらそれだけで倒す事などできない。被弾しなかった者たちが一斉に襲いかかり、避け切れない程の猛烈な波状攻撃がポラリスを襲う。
「ぐ!」
それでもダメージを最小限に抑えるべく、鉄球を蹴って弾き返したり、ポーラセイザー・トンファーモードで柚緑寿の薙刀を受け止め凌ぐ。
だが直後、頭上から野太い一本の丸太が飛来し、轟音を立ててポラリスの目の前へと突き刺さった。
「運が良かったですわ、偶然近くにいましたからね。ご苦労様」
丸太が飛んで来た方を振り返れば、そこには丹波 汐が変身する青いウシの戦士、アルデバランがいる。
彼女が手駒たちに手を出さず下がるよう指示を出すと、スターライダーもデューラントも大人しく引き下がった。
「この騒ぎはお前の仕業か」
「ええ。ワタクシ、何事も手段は選びませんもの。勝つためならね」
「少し前にレグルスと戦っている時にも、デューラントが乱入したな」
「もちろんそれもワタクシよ」
「俺はヤツと引き分けた。レグルスよりランクの低いお前が、俺を倒せるっていうのか?」
「アハハッ! あなたもとっくに気付いてるのではなくて? 彼の順位が単なるお飾りに過ぎないということに」
沈黙し、睨み合う両者。再び口を開いたのは、ポラリスの方だ。
「お前はレグルスについて何か知っているのか? お前も評議会と繋がってるのか?」
「そんなのはどうでも良いじゃありませんの」
自らの拳と拳を打ち合わせ、アルデバランは不敵に笑う。
「そろそろ始めましょう。ワタクシ、楽しみ過ぎて……どうにかなってしまいそうですわァッ!!」
まさしく暴れ狂う闘牛の如く、猛然とラリアットが繰り出される。
そのスピードは凄まじいもので、ポラリスの目には一瞬の内に目の前に現れたようにしか見えなかった。
「前より速い……!?」
咄嗟に両腕を交差させて前に出し防御姿勢を取るが、鋭く振り抜かれたアルデバランの筋骨隆々な野太い剛腕は、その防御ごと軽々とポラリスを吹き飛ばす。
「がっ!?」
「あの時は手加減していましたからねぇ、今もまだ60%の力でしかありませんわよ」
言いながら再び一瞬の内に接近し、今度は腹を目掛けて前蹴りを食らわせる。
態勢は崩れていたが、彼もまた腕で防ぐ、しかしやはり紙のように容易く飛ばされた。
「くうぅっ!!」
「アハッ、アハハハッ! どうしたのかしら? もっと頑張って避けなさい!」
「この!」
ポーラセイザーをアックスモードに切り替え、抉るように真下から振り上げるが、その反撃は身を反らされた事で胸の装甲を僅かに掠めるだけに終わってしまう。
そんな激しい攻防を目の当たりにして、周りのスターライダーたちはぐっと息を呑んだ。
「アレじゃ俺たちが出て行っても足手まといになるだけだな……」
「せめてアイツが逃げられないように包囲を維持するか」
コソコソと男たちが動き出す。傍にいる、石像のようになって動かないデューラントを尻目に。
「それにしても、本当に襲って来ないんだなこいつら。どうなってんだ」
「しっ! あんま深入りすんな!」
ならず者たちは声を潜め、アルデバランの視線を避け壁を作るように移動していく。
その時だった。
銃声と共に、スターライダーたちの背中に強い衝撃が走った。
「どわっ!?」
「え!? うおぉっ!?」
さらに棒立ちだった一部のデューラントにも被弾した事で、状況は一変。
怪人たちが怒りの声を上げて暴れ出し、近くにいるスターライダーを無差別に襲い始める。
その異変を察知して、ポラリスもアルデバランも銃声のした方に視線をやった。
「何事ですの?」
煩わしい、とばかりに凶暴なウシの戦士が振り返り、そしてそこにいた男を見てハッと息を呑む。
「匿名の通報があったんでな。そのバトル、魔祓課が介入するぞ」
他のスターライダーとは異なり、カプセルタイプのハンドリンクとドリップドライバーによって変身する戦士、ジェーシュタの姿がそこにあったのだ。
なぜこの場に警察がいるのか。そんな疑問が湧き上がるが、アルデバランはすぐにそれを振り払う。
「雑魚の分際でワタクシの邪魔をするだなんて……覚悟はよろしくて?」
「その言葉は、そっくりそのまま返してやるよ。警察をナメんな」
ジェーシュタはポラリスの隣に並び立ち、ドリップバスターを構えてアルデバランを睨む。
一触即発。3人の戦士がぶつかり合おうとする、その刹那。
「ちょっと待った!!」
ポラリスとアルデバランにとって、聞き覚えのある声がその場に響き渡った。
獅子のヘルムと全身に纏う重厚な黄色い装甲、たなびくマントと、煌めく大剣。
その姿を見て、思わずポラリスは目を見張った。
「お前は……!?」
「このレグルスを忘れて貰っては困るな! 参加するぞ、文句はあるまい!」
そう告げ、キング・レグルスは威風堂々とアルデバランの前に立つ。今回はポラリスと共に。
一体なぜここに。
ポラリスとジェーシュタ、アルデバランまでも驚きそんな言葉を心の中で発する。
特にアルデバランの動揺は大きかった。足止めに向かわせたはずのウィルは、どうなってしまったのか。
そこまで考えて、彼女はハッとある事実に気付く。
今回の作戦に参加しこの場にいるはずのスターライダーが1人、足りないと。
※ ※ ※ ※ ※
最星がスターライダーたちと戦いを始めるよりもさらに前。
嶺皇は、零地や七上にも無断で北東区に出ていた。
今度こそ、以前倒せなかったポラリスを捕らえるために、自らの意思で戦いの場に赴こうとしているのだ。
「でも一体どこにいるんだろう」
闇雲に走り回っても意味はない、ひとまず前回と同じ東区にでも向かってみようか。
そう考えたところで、嶺皇は1人の男が目の前に立ち塞がった事に気付いた。
執事服を纏う、レイピアを携える美青年。彼の放つ殺意に近い威圧感で、嶺皇はすっかり気圧されてしまう。
「獅子門 嶺皇……だな?」
「えっ、あの。あ、あなたは?」
男、仁王院 ウィルは、グラスプドライバーを装着してハンドリンクを装填する。
「つべこべ言わずドライバーを出して戦え。仮面ライダーレグルス。私が相手だ、貴様をポラリスの下には行かせんぞ」
「はぇっ!?」
有無を言わさずウィルは詰め寄り、さらにドライバーのレバーを回転させた。
《
「変身」
《
「さぁ戦え!!」
元々持っていたレイピアに加え、新たに生成されたスパーキングレイピアを手に取り、ウィルの変身するスターライダーナレディが迫る。
一方の嶺皇はまだ心の準備ができておらず、グラスプドライバーを装着すらできていない。このままでは一方的に刺され倒されてしまうだけだ。
しかし、そんな折。
《
突如としてグラスプドライバーの音が、ナレディの背後から響き渡った。
「な!?」
「え……?」
さらにその直後、一枚の盾がフリスビーめいてカジキの戦士に向かって飛来する。
咄嗟に盾を蹴りつけて難を逃れるが、それも束の間。
その影に潜んで下から疾走し迫っていた者の姿に、ナレディは気付けなかった。
そして、視線を落とした時には、もう遅い。そのスターライダーは、振り上げられた足の真下で硬く拳を握り。
股間目掛けて、思い切り一撃を叩き込む。
「ん゛う゛っ!?」
苦悶の声を上げ、股を押さえながら倒れ込むようにその場で蹲り、身を震わせるナレディ。
殴った本人はゆらりと立ち、その背を蹴って倒しつつ、盾を拾い上げる。
嶺皇とナレディの間に割って入った、その人物の正体は蘇芳田 ヒカル。スターライダースハイルだった。
「きっ、貴様、なぜ、ここに……!?」
「ハッ! 随分苦しそうじゃないか、キンタマ殴られンのは初めてかい?」
清々しげに笑いながら、スハイルは僅かに首を傾け、嶺皇の方を振り返る。
「良く聞きなキング! この野郎はランキング3位の丹羽 汐の手先だ、ポラリスを燻り出すためにデューラントを使って町を襲わせてやがる!」
「なんだって!?」
「他のスターライダーたちも大勢ヤツの味方をしてるんだ!
嶺皇の瞳から、迷いは失せていた。
マシンスプライダーをその場に呼び出して跨ると、すぐさま道路を駆け抜けて東区の方を目指して走り出す。
その間にナレディは立ち直り、殺意を漲らせスハイルにぶつけた。
「我々を裏切るつもりか!? タダで済むと思っているのか、お嬢様が必ず貴様を殺すぞ!!」
「オイオイ、そんな情けない事マジに言ってンのか? わざわざ自分のお嬢様の手を煩わせるってェ?」
「何ィ!?」
「始末くらい、今すぐ自分でつけろよ。それとも殴られて文字通りタマ無しになったのかい、お嬢さん?」
挑発的な言動を繰り返し、ナレディの醜態を鼻で笑う。
それを受けて強くレイピアを握り、切っ先を突きつけて叫んだ。
「スハイル!! 貴様を殺してやるぞ!!」
「やってみな」
スハイルの盾とナレディの剣がぶつかり合い、戦いが始まる。
その剣戟の音を背中越しに聞きながら、嶺皇はハンドルを硬く握り込んだ。
「こんなやり方絶対許せない……僕が、僕が……このレグルスが、アルデバランを倒す!!」
芽生えた怒りと静かな決意は、彼の心を王に変える。
※ ※ ※ ※ ※
そして、現在。
スターライダーレグルスに変身した嶺皇は、ビシッとアルデバランに指先を突きつけていた。
「話は聞いているぞ、この悪党め! 貴様がこのレグルスに刺客を差し向け、しかもデューラントどもを操って街を襲っている張本人らしいな! そんな卑劣な罠で王者の進軍を止められると思うな!」
「そう、そうですのね……この場に彼女がいないという事は、警察への通報も何もかも、ヒカルさんがやったんですわね……」
当のアルデバランは俯きながらそう呟くと、全身から赤い光を漲らせて、虚空を仰ぐ。
直後にポラリスたちを睨みつけ、拳を掲げて怒声を張り上げた。
「あ、あのアバズレめがァ……絶対に許しませんわ!! 纏めて息の根を止めてやりますわ、虫ケラどもォッ!!」
ビリビリと大気が振動し、ポラリスは仮面の中で僅かに汗を滲ませる。
先程から既に苦戦させられているが、その戦いがより激化するであろうという予感がしたのだ。
レグルスの方に視線をやりつつ、ポラリスは問う。
「今回は味方だと思って良いんだな?」
「安心しろ、今倒すべき相手を見誤ったりはせん。貴様を倒すのはこのレグルスなのだからな!」
大剣を振り上げ、勇ましく宣言するレグルス。
彼は名乗りの勢いのままに飛び出し、斬り掛かっていく。
「そんな単調な攻撃ィッ!」
アルデバランは自らの剛腕でその一刀を容易く止め、反撃とばかりに反対側の拳を突き出す。
だがレグルスの方は一切動かず、自らの堅牢な装甲で真正面から拳打を弾き返した。
「無駄だ! このレグルスには通用せん!」
「俺たちの事も忘れるなよ!」
それに続く形で、ジェーシュタがレグルスを盾代わりにしつつ銃を連射、ポラリスもソードモードのポーラセイザーで素早く斬り込む。
2人の撹乱によってアルデバランの防御が崩れ始め、ついにレオバイザーの一撃がウシの装甲に傷を負わせた。
このままひたすら押し続けていれば、もしかしたら。
そんな希望を打ち砕かんとするように、アルデバランは叫ぶ。
「3人がかりでならこのワタクシに勝てると、本気で思っているのではないでしょうねェ!!」
すると、角から順に下に向かって装甲各部へ真っ赤な光の粒子が浸透し、背中のマントが燃えて消滅した後、赤い翼を形取る。
いよいよ本腰を入れてかかって来ると理解し、ポラリスたちは気を引き締め身構える。
「これが80%の力ですわァ! ブチ殺して差し上げますわよ!」
「させるかよ!」
ドリップバスターから連続で発射された銃弾が、また真っ直ぐにアルデバランへ殺到していく。
しかし彼女はそのまま、足音もなくレグルスへと接近。
さらに、命中するはずだった弾丸は、まるでアルデバランを避けるかのように不自然な軌道を描き、外れてしまった。
「今のはなんだ!?」
「弾が逸れた……!?」
ポラリスもジェーシュタも目を見張り、獅子の戦士が再び力強く薙ぎ払う。
だがその破壊的な一閃も、命中の直前で目に見えて勢いが削ぎ落とされ、カツンという虚しい音を立てるだけに終わってしまった。
「まさか貴様、このレグルスと同じ自動防御を!?」
「アナタのとは少し違いますわねぇ」
言ってアルデバランはバックステップし、先程と同様にたったそれだけで大きく距離を開く。
それだけではなく、真上に飛び上がってそのまま上空にピタリと留まった。
その様子を見て、ポラリスたちは目を見張る。
「う、ウソだろ」
「浮いている……」
アルデバランは可笑しそうに口元に手を当てて笑い、空中で足を組んだ。
「教えて差し上げましょう。ワタクシの使うクリムゾンバッファローの真の能力、それは特殊な『磁力』ですわ」
「磁力だと……?」
「そう。金属だけでなく、あらゆる物体に付与できる磁力です」
こんな風に、と言いながらアルデバランは自らの持つ缶型のハンドリンクを取って、角から出た赤い光を浴びせる。
すると、2つの缶はピッタリとくっつき、開きっ放しの彼女の掌に吸い付いていた。
それを見て得心した様子で、ポラリスは頷く。
「高速で走ったり一足で間合いを詰める事ができたのは、単に身体能力が高いというだけじゃなく、その一瞬だけ磁力を利用していたからか」
「レオバイザーが振り切れなかったのも、同じ極の磁力を与えて反発させていたのが原因だな? フン、つまらん小細工を!」
「だがタネさえ分かってしまえばどうって事ない、一気に決めてやる!」
言いながらドリップバスターを腰のホルスターに戻し、銃撃ではなく接近戦による制圧をすべく、ジェーシュタはメトロストリームの缶型ハンドリンクを取り出した。
ポラリスも同じく、浮いている敵が相手ならばとメトロストリームを手に取る。
が、その瞬間。アルデバランの翼が羽ばたくと同時に、赤い光粒子が散布され、2人の身体の動きが急激に鈍くなってしまう。
「なっ!?」
「身体が、
見下ろせば、自分たちのいる地面にも赤い光が宿っている。
まるで全身にいくつもの鉛の塊を括り付けられたかのような、異様な鈍重さ。先程の彼女の浮遊状態とは真逆の現象。
ポラリスたちはすぐに、それがアルデバランの磁力操作の影響である事を理解した。
「滑稽ですわねぇ。こうして自ら仕掛けを明かした今、アナタたちに反撃の機会を与えるハズがないでしょう?」
くつくつと笑いながら素早く降下したアルデバランは、その浮いた状態のまま2人に肉迫。
そこへまたもやレグルスが割って入り、今度こそはと大剣で大上段からの豪快な一撃を繰り出す。
対するアルデバランは、命中するよりも前にスピーディに赤い光を帯びたキックを放つ。
その強烈な蹴撃もまたレグルスの装甲によって防がれるが、今度は赤い粒子を浴びた事で、反発し合う磁力によって吹き飛ばされていった。
「ぬおおおーっ!?」
「確かにシーザーレモンの自動防御は鉄壁。しかしこうして無理矢理磁力の翼を授けてしまえば、それを扱う術を持たないレグルスは簡単に封じる事ができる。そして!」
言いながら彼女はポラリスとジェーシュタにも光を浴びせ浮遊させ、タウラスバイザーのクリムゾンバッファローハンドリンクを抜き差しすると、上空にいる2人に向かって拳を突き出す。
《
「一気に決めるのは、ワタクシの方でしてよ!!」
瞬間左拳から解き放たれる、磁力の乱気流。
2人は、同じく磁力を与えられた周囲の瓦礫やスクラップと共に、それに飲み込まれた。
『うあぁぁぁっ!?』
反発と吸着、目まぐるしく入れ替わる性質に翻弄され、高速で飛来する鉄屑や岩の塊などにぶつかって大きくダメージを負う。
その間、アルデバランはさらなる追撃をかけるべく、翼から地面に粒子をバラ撒き、大きな土礫を引き寄せ嵐の中に巻き込んだ。
このまま射出されれば、磁力によって加速した土の塊が2人を襲い、確実に命を奪うだろう。
「させんッ!!」
そこへ再び、吹き飛ばされたはずのレグルスが立ち塞がる。
スペックの高さを活かし、磁力の影響から復帰して即座に飛び出したのだ。
彼もまた強大な磁力の嵐を浴びて身動きが取れなくなるものの、その身一つで硬く大きな土の礫を受け止め、自分の装甲諸共に粉々に砕く。
「れ、レグルス……!」
「チッ、取るに足らない雑魚のくせに。また余計な事を」
アルデバランの舌打ちと共に磁気の嵐は終わり、攻撃を受けていた2人が地面に落ちる。
フレーバーの解除と引き換えにポラリスたちを守り抜いたレグルスだが、窮地はまだ終わっていない。今度は彼自身が狙われているのだ。
装甲のなくなった腹をアルデバランに踏まれ、苦悶の声が上がる。
「これでキングもお終いですわね。またウロチョロと邪魔に入られても面倒ですし、今すぐラクにしてやりますわよ」
「ぐうっ……!!」
タウラスバイザーの角先をレグルスに向け、獅子仮面の喉首に狙いを定めるアルデバラン。
このままではやられてしまう。立ち上がったポラリスは、左腰から新たにハンドリンクを取り、キャップをひねる。
「絶対にやらせない」
《
「一か八か、これに賭ける!」
装甲が復元していき、足のローラーを維持したまま新たに両腕に大振りの腕甲が追加される。
ワンダーライムとワンダーレモンの併用。消耗は激しいが、パワーとスピードと広い攻撃範囲を兼ね備える、ワンダーコーラ系統の
ローラーを駆動させ高速接近し、真っ直ぐ突撃して下から掬い上げるような形で拳打を見舞う。
だがそれさえも、角から放出された赤い光を浴びた事により、反発の力で妨げられて彼女の
「無駄でしたわねぇ~?」
「……どうかな?」
言いながらポラリスは地面を拳で叩きつつ、アルデバランの頭上を取る形で、与えられた磁力の反発を利用してさらに上へと飛び上がり、その上空で
それは、ひとつの青いハンドリンク。ウシの戦士のホルダーから弾き飛ばした、彼女の愛用するあの力。
手に取ったものを空中でそのままドライバーに装填し、装甲を身に纏う。
《
「俺が賭けたのは、こっちだ」
「なッ!? まさか!!」
《
光と共に完成するのは、メタリックな青い装甲を纏う、赤いマントを背負った双角のシロクマの戦士。
クリムゾンバッファローの力を獲得した事で、ポラリスはこのフレーバーにおける2つの特徴を理解する。
ひとつ、頭部に追加される角や背中のマントは、単なる飾りではないということ。これらはそれぞれ磁力を付与する光粒子の発振・コントロール装置の役割も兼ねているのだ。
もうひとつは、この力によって発生し与えられている特殊磁力の磁極を見分けられるということ。これは他者が使っているもの、今ならばアルデバランの放つ磁力でも同様である。
そうと分かれば、やるべき事はもう決まっている。敵が未だ混乱の中にいる隙を突いてアックスモードのポーラセイザーにハンドリンクを装填し、ポラリス自身がアルデバランと対極の磁力を纏う。
「ハァァァーッ!!」
《
ポラリスはより出力の高いアルデバランの方に引き寄せられ、その超加速を利用し必殺の一撃を彼女の双角に叩き込む。
さらに態勢を崩したところで、磁力を纏い回転しながらの横薙ぎの一閃。
翼さえも両断せしめ、それと同時にアルデバランの身体から赤い光が消失した。
「し、しまった!!」
角と翼は磁力制御装置。それを失った今、もう能力は使えない。
一方のポラリスも、よろめき膝を屈しかけていた。
「ヤツ以外誰も使わないワケだ、ここまで反動が大きいとはな……」
必殺技の際、彼は磁力制御を50%程度まで引き上げた。角を狙って一気に降下するために、ほんの一瞬だけ。
ただそれだけで、ポラリスの全身に大きな負荷がかかり、自由に身動きが取れなくなったのだ。
アルデバランが新しいハンドリンクをセットされてしまえば、損傷はリセットされる。折角の反撃のチャンスだというのに、このままではそれを活かせない。
そう考えていると、今まさに予備のクリムゾンバッファローハンドリンクを手に取ろうとしていたアルデバランの右腕へ、銃弾がヒットする。
振り返ればそこにはドリップバスターを構えるジェーシュタがおり、レグルスもまたシーザーレモンを装填し直して復帰していた。
「フォローは俺に任せな!」
「今の内だ、急いで立て直せ!」
磁力制御ができていない隙に、レオバイザーですぐさま斬りかかるレグルス。
身体能力はほとんど衰えていないため、それでもなおアルデバランはタウラスバイザーで受け止めて抵抗し、膝裏を蹴って反撃。
だがシーザーレモンの防御能力の前では無意味で、今度は剣の柄頭で鼻っ柱を打たれてしまう。
「こォンのォ! 雑魚のくせにィッ!」
思わず顔を押さえながら叫んだ彼女が次に目にしたのは、それぞれの武器を構えて自身を狙う姿。
かわせない。そう思った瞬間に、トリガーは弾かれた。
《
《
《
赤と青の光弾と、大剣から放たれる輝く黄の斬閃。
三色の光の奔流が混ざり合い、アルデバランは大きな悲鳴を上げてその煌めきに飲み込まれていく。
やがて光が失せると、その先にはエンプティフレーバーになって仰向けで地に倒れているウシの戦士がいた。
ついに勝った。一同が歓喜を共有しようとする、その刹那。
「――出力、100%」
その言葉と共に、アルデバランは
ハンドリンクは既に差し直され、再びクリムゾンバッファローフレーバーとなっており、ゆらりとその身を起こした。
そして両眼と角が光を発したかと思うと、ブルーメタリックの塗装が、内側から燃え立つように剥がれ落ち、五体が深紅に染まっていく。
「もう手段は選びませんわ。全員くたばりあそばせ」
瞬間、彼女は音もなく3人の目の前まで跳んで来た。
「速っ……!?」
「マズい!」
咄嗟にレグルスが飛び出し、黄色の光で防御壁を展開。しかし同じく無音かつ高速で繰り出された前蹴りにより、そのバリアは容易く砕かれ、粒子を浴びて全員が吹き飛ばされる。
これがクリムゾンバッファローフレーバーの真の姿、真の力。
出力を最大にする事で常に全身に磁力を帯び、角や翼以外の部位からも赤い粒子を放出可能となった、いわば全力形態。
その分体にかかる負荷も想像を絶するものとなり、常人ならば100%のパワーを引き出そうとしただけで気絶するか死に至るが、汐は圧倒的かつ強靭すぎる精神と筋肉によって実戦での運用を可能としている。
「こんな事もできますのよ」
言いながらアルデバランはポラリスたちを取り囲む円陣を作る形で光の粒子を発し、そこに散乱していたものを浮かび上がらせ固め、別の形を作り出していく。
砂利や鉄屑で構成された無数の
もはやレグルス1人の力ではポラリスたちを守り切れない。バリアを形成しても、この物量の前ではすぐに砕かれてしまうのだ。
やがてジェーシュタが先に力尽き、その変身が解除される前にレグルスが大剣を地面に刺して盾としながら、防御に全霊を注ぐ。
「隙ありですわ」
その一瞬を、アルデバランは見落とさない。
槍の雨を止め、防衛の優先対象から外れたポラリスを狙って接近、そして痛烈なラリアットを食らわせた。
「ぐ!?」
「まだまだですわぁ」
吹き飛ばされた直後、その身体がアルデバランの方に引っ張られていく。ラリアットの際、磁力を付与されてしまったのだ。
直後に飛んでくるドロップキックを受け、凄まじい威力で再び地面を転がされる。
全身を走る痛みと、徐々に朦朧としていく意識。
その時、最星の脳内に突如として、電撃的な刺激と共に映像がフラッシュバックした。
白衣を纏い、ジュラルミンケースを片手に息を切らして走る者の視点。
飾り気のない真っ白な壁の廊下の中でサイレンが響き渡っており、何かから逃げるように度々背後を振り返っている。
手に持っているケースは、最星には見覚えがあった。かつて自分自身が持っていたものだからだ。
背中から野太い腕に抱きつかれた感触で、ポラリスの意識が現実に帰る。
「呆けている暇がありますの?」
「はっ!!」
アルデバランはそのまま力尽くでポラリスの体を持ち上げ、真後ろに反る形で地面に投げ落とす。いわゆる、ジャーマンスープレックスだ。
「ぐ……くっ、う……」
背中の装甲が砕け散り、激痛に苦悶するポラリス。
しかしアルデバランの攻撃の手はまだ終わっていない、倒れた彼の腹を蹴りつけて磁力で反発させ、サッカーボールをシュートするように吹き飛ばす。
その先にあった自動販売機に直撃し、体がめり込んで磔にされたように動けなくなったのを確認すると、今度は磁力を帯びた無数の石礫をダメ押しとばかりに連射する。
再び意識が遠のいていく。それと同時に、先程と同じように彼の知らない映像が頭の中で再生され始めた。
眩い太陽と青空の下、多様な木々が広がる密林の中。
先程の記憶とは違う自然豊かな光景で、視点となっている人物は褐色肌で腕が細く、動物の毛皮のようなものをトライバルタトゥーらしきものが彫られた素肌の上に纏っているようであった。
身長もついさっきの記憶とは異なり、視点がやや低い。その人物は泉の水面に向かって身をかがめ――。
そこで、またもや現実に戻される。
幸いな事に命は繋がっており、変身も解除されていない。
ただしグラスプドライバーにセットされているクリムゾンバッファローハンドリンクは大きく破損しており、液漏れを起こしている。
これではもう使えない。だが、今の最星にとってそんな事は重要ではなかった。
「俺は、何をしてる……今のは記憶、なのか? いや、
頭の中で湧いてくるいくつもの疑問と、明確な違和感。全身を襲う痛みすらも忘れ、戦いの中で垣間見たビジョンに困惑し正気を失って混乱し始めている。
「分からない……俺は……今、何をしている……何なんだ、俺は……?」
「邪魔ですわよ!! あんまり長引かせないで下さるかしらァ!!」
「黙れ! このレグルスは不退転の王、これ以上貴様の好きにはさせん!」
遠くから、トドメを刺す前に介入したと見られるレグルスの声が聞こえる。変身解除されて戦闘不能になった常治も、ポラリスへ逃げるようにと叫んでいた。
そして、耳元からも通信を介して声が届く。
『立ちなさい! 最星!』
茅英璃の声だ。途絶えかけていた意識が、一気に呼び起こされる。
『勝てなくたって良いから! ボクらは、君に死んで欲しくないんだよ!』
『お願い、がんばって……!』
続く環と未来の言葉。3人の声援を受けて、次第にポラリスの身体に活力が戻っていく。
「終われない……!! 俺はまだ何も分かってない、何一つ取り戻せていない!! 自分の記憶も、本当の名前も、真実も……何もかも!!」
壊れた自動販売機から抜け出し、傍に転がっていたワンダーコーラのペットボトルを拾い上げ、栓を開けて一気に飲み込んだ。
その瞬間。ドライバーに差さっている壊れたハンドリンクが火花を放ち、スロットから弾き出されて宙を舞う。
さらにポラリスの全身に赤い光を放つトライバルタトゥーが浮かび上がったかと思うと、ハンドリンクが一瞬で復元され、それだけではなく外装がメタリックレッドに変化し始めた。
表面に書かれているその名は、クリムゾンバッファローではない。全く別種の、新たなハンドリンクだ。
「お前が俺の邪魔をするのなら!! お前の全てを打ち砕いて、俺が勝つ!!」
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波打つようなデザインが特徴的なそれを再装填し、ハンドルレバーを3度回して、天面のスイッチを押し込む。
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すると地面からメタルキャップの土台がせり上がり、周りを金属質のボトルが取り囲み、そこからコーラのような内容液が勢い良く噴き出す。
それらはポラリスの身体に付着すると共に、新たなメタリックレッドの装甲を形成。シロクマのマスクも、赤く染め上げた。
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完成したのは、煌めく赤いアーマーを纏うシロクマのスターライダー。
通常のワンダーコーラに似ているがシルエットはやや異なっており、装甲の形状が稲妻を思わせる鋭いフォルムとなっている。また、カラーリングも全体的にメタリックレッドで統一され、エネルギーラインと眼部もメタリックイエローに変わっている。
スターライダーポラリス ワンダーコーラエナジーフレーバー。パチンと指を弾き、自分の姿に気付いたアルデバランを静かに睨む。
「さぁ……ハジケようか!!」
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