仮面ライダーPOLARIS   作:正気山脈

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「すごい……すごいよポラリス、君は一体どこまで僕をときめかせてくれるんだ!?」

 巨大な望遠鏡を覗き込んでそんな言葉を零すのは、メシエのスターゲイザーを名乗る男、カルヴァドス。
 ザナドゥーのどこにあるかも分からないこの部屋から、今日も彼は最星を、ポラリスを見ていた。

「真実を知りたいという強い欲望の芽吹きによって生まれた、新しい力! 新しい姿! 流石は僕の推しだ!」

 子供のように目を輝かせながら、カルヴァドスは唇を吊り上げる。

「もっと魅せてくれ、君の輝きを!!」

 その全身には、変身する時の最星と同じように、トライバルタトゥーのようなものが浮かび上がっていた。

※ ※ ※ ※ ※

 ポラリスたちがアルデバランを倒すために奮闘しているのと同じ頃。
 ヒカルとウィルの変身するスハイルとナレディもまた、激戦を繰り広げていた。

「く、この……」
「クソッ、やっぱ強ェ!」

 2つのレイピアと投擲された大盾が火花を散らしてぶつかり合い、拳と剣が交わる。

「一体なぜ我々に歯向かう!? お嬢様と共に戦い、愛して頂くだけで金が貰えるんだぞ! 働き口としては、貴様のような下賤にとっては破格の条件だったはずだ! 逆らえば死ぬと分かってなぜこんな真似を!?」
「うるっせぇんだよこの騎士気取りのボケが! あんなクソ女なんかにこれ以上媚びてらんねーよ!」

 返って来たシールドを左手で構え直し、ナレディからの刺突の嵐を防ぎながら、スハイルは吐き捨てる。

「あんなヒラヒラしたメイド服とかミニスカ履かせて、ことあるごとに人の体まさぐってくるような筋肉女になんか従えるか! ずっとムカついてたしブッ殺したかったんだ!」
「お嬢様の愛が分からんだとぉ!?」
「分かりたくねぇよ! それに同じトップスターなら絶対1位の方が金払いも待遇も良いだろ、だからアイツにお前らとアタシの顔を売ったのさ!」

 カジキの剣士の胸に蹴りを食らわせつつ、スハイルは彼に指を差して堂々と言い放つ。

「お前らを踏み台にして、レグルスに取り入って丸儲けしてやる! 良く覚えとけ、アタシにとっちゃ忠誠心も正義もクソくらえだ! アタシはカネの味方だからなァ!」
「こ、こいつ……想像以上のゲスだ」
「ハッ、お前らが言えた事かよ! 外道主従が!」

 直球の罵倒の声に対してナレディは眉をひそめ、ハンドルレバーを回して二本のレイピアを強く握り込んだ。

「お嬢様への侮辱は許さん!!」
《SPARKINGDOM(スパーキングダム) (・)FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》
「ブッ倒してやる!!」
《SARPISIUM(サルピシウム) (・)FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

 スハイルもまた必殺の体勢に移行し、サルピシウムシールドを投擲。
 一方のナレディはバーニアで加速し接近しつつ、跳躍して盾を踏み台にしてさらに上昇・加速、頭上から刺突すべく襲いかかる。

「勝った! 死ねェッ!」
「そいつはどうかな?」

 そう言ってニヤリと笑い、ブーメランの要領で手元に戻って来たシールドを前に、スハイルは縁を蹴り上げて真上に飛ばす。
 これによって空中を舞う盾がナレディの顎を打ち、突進は中断された。

「がっ!?」
「オラァッ!」

 落ちて来たカジキの戦士の顔面を捉える、エネルギーを帯びたスハイルの鉄拳。
 その必殺の一撃により、ダメージ蓄積の影響でナレディは変身が解除されてしまう。

「く、クソッ! この私が、こんな下民に負けるなど!」
「逃しゃしないぜ? こっから徹底的にボコッて、再起不能になって貰うんだからな!」

 落ちて来た盾を取って拳を鳴らし、にじり寄っていくスハイル。
 しかしナレディは慌てる事なく、倒れた姿勢のまま指笛を吹いて立ち上がった。
 すると、近くにあったドラム缶を突き破ってエンフィク・デューラントが飛び出し、襲いかかって来る。

「デューラントだと!?」
「戦いはこれで終わりだ。私は、お嬢様と合流しなくてはならないのでな」

 万が一の時に備え、ウィルはこのデューラントを付近に潜伏させていたのだ。
 エンフィクは地面に瓶を叩きつけて割り、ボブルヘッズを召喚。さらに、他の場所に仕込んでいたのであろうデューラントたちも現れ、たちまち町がパニックに陥る。
 流石に東区でこれ以上騒ぎを大きくするワケにはいかない。スハイルがそう考えながら怪人らに立ち向かっている、そんな時。
 彼女の後ろの方から、戸を開く音が聞こえた。
 振り返ると、そこにあったのは東区で有名なラーメン屋の孔明で、ドアを開けたのは強面の男の店員だ。
 今日の彼の手に握られているのは、包丁ではなくハンドリンクとグラスプドライバーであった。

「あんた。これ以上、店の近くで暴れねェで貰えますかい。お客さんの迷惑になりやすんで」
「別にアタシにゃ店を傷つける気はねェって! そういうのはこのデューラントに言ってくれ、アンタ戦えるんだろ!」

 スハイルの言葉に対し、男は静かに頭を振る。

「よく間違われるんですがねぇ。それ、あ(・)っ(・)し(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)な(・)い(・)ん(・)で(・)す(・)よ(・)」

 そう言ってその男は入口から脇へ退いて跪くと、先程まで自分の後ろにいた人物へ変身用の道具一式を渡した。

「雲煌(ユンファン)店長! お願いしやす!」
「ハイヨ~」

 店から現れた者の正体は、赤いチャイナドレスを纏う小柄な女の店員。
 否。

「いやそっちが店長だったのかよ!?」

 スハイルの驚嘆を聞き流しつつ、女店主、烏 雲煌(ウー・ユンファン)はグラスプドライバーを装着。
 そして慣れた手つきでハンドリンクを装填し、レバーを回す。

《HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》
「変身~」
《MYSTICAL SHIMMER(ミスティカル・シマー)! HUANG LONG CHA(煌龍茶)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》
「ラーメン孔明のスターライダーティエンイー、ヨロシクヨ~」

 現れたのは、赤いキングコブラの姿を模したヘルムが特徴的な、グレーのアンダースーツと中国の武道着を思わせる軟質の赤いアーマーを纏うスターライダー。
 ティエンイーを名乗った彼女は、専用武器である煌龍偃月刀を持って軽やかに舞うと、必殺技など使うまでもなく瞬く間に敵を一掃してしまう。

「客じゃないならミンナ死んでヨロシヨ~」
「しかも強いのかよ……」


ROUND.15[Wonderful Energy(ワンダフル・エナジー)]

 ポラリスとジェーシュタ、そしてレグルスが手を組み、悪虐非道の限りを尽くすアルデバランに立ち向かう戦い。

 勝利したかと思われたその矢先、アルデバランはついにハンドリンクのパワーを100%まで引き出し、3人を潰しにかかる。

 だがポラリスの方も、力尽きかける前に新たなハンドリンクを入手し、誰も見た事のない姿に変身するのであった。

 

「なんですの、それ? 初めて見るフレーバーですわね?」

 

 アルデバランはボロボロのレグルスの首を引っ掴んだまま、問いかける。

 既にジェーシュタは変身解除されて元の常治の姿に戻っており、レグルスの方もほとんど余力がない。

 そんな光景を前にしてもポラリスは退かず、むしろますます闘志を漲らせていた。

 

「これが何なのかは俺も知らん。ただ、切り札を得た事は間違いない」

「あらそう。でしたら、その切り札ごと軽く踏み潰してやりますわ。虫ケラのよう――」

 

 反対側の手で磁力付与の粒子を放とうとする、次の瞬間。

 

「ニェ?」

 

 アルデバランは、地(・)面(・)に(・)尻(・)餅(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「は、ぇ? 痛っ……」

 

 後からやって来る、左頬への刺すような痛み。

 殴り飛ばされた。

 その事実を認識するのに、然程時間はかからなかった。

 ポラリスはレグルスを助け起こして逃げるよう促したした後、改めて深紅のウシの戦士に向き直ってじっと見据える。

 立ち上がるのを待っている。倒れた自分に追撃をかけるどころか、仲間を助け起こす余裕を見せた上で。

 呆然としていたアルデバランは、仮面の奥でカッと顔を紅潮させて、地面にヒビを入れながら体勢を立て直した。

 

「こっ……の、こいつ!! 調子に乗ってんじゃァありませんわよ!!」

 

 足元に粒子をバラ撒き、石や砂を固めて盛り上がらせ、蹴ってその破片を飛ばす。

 まだポラリスには磁力がないため、鋭利なそれらは自動追尾こそできないが、牽制にはなる。

 本命は接触による磁極付与。アルデバランは地面と反発する磁力によって前へ飛び上がり、直接シロクマの戦士を狙う。

 だが。仕掛けようとした時には、彼の姿は消えていた。

 

「はっ!?」

「俺はここだ!」

 

 頭上から聞こえる声、そして脳天に走る衝撃。

 より高く飛んだポラリスの肘打ちが、アルデバランの頭頂部へと突き刺さったのだ。

 しかしやられるばかりではいられないと、着地と同時に自分の方へと殺到する破片を、磁力操作で真上に飛ばす。

 が、やはり命中せず既に視界の外へと失せていた。

 

「また消えたッ!?」

 

 一体どこに行った、と目で周辺を探る暇もなく、拳が腹にめり込む。

 しかし今度はニヤッと笑ってその場で耐え、強く地面を踏みしめて磁力を真下に付与し、反発する磁極によって大量の小石と砂を巻き上げた。

 

「アナタがどんな能力を使っているのか知りませんが、これならワタクシの目を誤魔化せブッ」

 

 もし透明化か何かならこうすれば輪郭が浮き彫りになるだろう、と考えた頃には顔面に蹴りを食らっている。

 戦いを見ている2人にも、もうこの現象の理由が分かった。

 

「能力じゃない、あれは単純に『速すぎる』だけって事か……」

「音すら置き去り、まるで雷だ」

 

 巻き上げた砂粒が地面に落ちる前に、左右の手で実に10度の拳打を繰り出す。

 その一撃一撃の速さ故に防御は叶わず、ダメージが確実に蓄積されていく。

 

「ぐ、おおお……だ、だから、調子に乗るんじゃ……」

「黙れ!」

「げうぅっ!?」

 

 目の前に降り立ったポラリスのラリアットを喰らい、たたらを踏んだところでドロップキックが炸裂。

 完全に後ろへ転倒しそうになると、今度は背後に周り込んで腰に腕を回し、そのまま一気に後ろに向かって持ち上げる。

 ジャーマンスープレックス。先程ポラリスが使われた一撃だ。

 

「フッ!」

「ひぎっ!?」

 

 ゴシャッ、と音を立てて背中が地面に激突し、装甲が歪んで軋む。

 一連の攻撃は、全てアルデバランの得意技の完全な模倣。その事実が、肉体へのダメージ以上に彼女のプライドを大きく傷つけた。

 

「つ、強い……あのアルデバランより、さらに」

「あんな事があり得るのか!?」

 

 近くで聞こえて来る常治やジェーシュタの言葉もアルデバランの動揺を煽り、屈辱から仮面の奥で奥歯を噛み締める。

 

「あってはなりませんわ、こんな……100%のワタクシを超えるなど、そんなことを!! 許してたまるものかァ!!」

 

 言いながら反撃のためタウラスバイザーを突き出すが、当てずっぽうで放ったところで当たるはずもなく、脇腹に飛び膝蹴りを食らう。

 

「がっあ、ぁぁぁ!?」

「油断はしない、お前が何もできなくなるまで叩き込ませて貰う」

 

 ポラリスは高速で走り回って攻撃を続け、反撃を許さず確実に弱らせていく。

 これなら絶対に勝てる。攻防を見ている常治がそう考えた、次の瞬間。

 

「む!」

 

 ポラリスの動きが、止まってしまう。

 見れば、アルデバランは攻撃を堪えてしっかりと両足で踏み留まっている。

 反発ではなく吸着する組み合わせの磁力を足から放出しており、自分自身を地面に固定する事によって、手痛いダメージを受けつつも粒子を浴びせる事に成功したのだ。

 

「はは、あははははァッ!! つ、ついに!! 捕まえましたわァッ!!」

 

 こうなってしまえば、もうこちらのペースだ。

 そう言わんばかりにアルデバランはタックルの姿勢を取り、ポラリスを引き寄せるための磁力を全開にする。

 

「お終いですわッ!! トラックに撥ねられたハトみたいに!! 潰ゥれ死ねェェェーッ!!」

 

 狂喜し叫びながら、真っ赤なウシの戦士は走り出した。

 ぶつかれば、たった一撃で物言わぬ肉塊になるであろう、暴れ牛の突進。

 その猛威がポラリスに炸裂する、その寸前で『パチンッ』という音と共に、再び彼の姿が消失した。

 

「なにッ!?」

 

 豪快なタックルは空振りし、あわや転倒しそうになったところで、両足に反発磁力を発生させブレーキをかける。

 今度は本当にハンドリンクの能力を使ったのか、だとすれば一体何をしてどこへ消えた。

 そんな戸惑いの隙を突くように、ポラリスは彼女の後頭部を目掛け、キックを食らわせる。

 

「あぐっ!?」

「そう簡単にやられるワケにはいかない」

「な、なに!? 今何が!?」

 

 振り返って、アルデバランはポラリスの姿を目視。

 と同時に、彼の背後に半透明の大きなボトル型の機械が浮かんでいるのが見えた。

 

「それは……一体!?」

「エナジーカタパルトだ」

 

 ポラリスがそう言って指を弾くと、その姿が赤い光となって背後のボトルに収容される。

 そして栓の開いた飲み口から真っ直ぐに飛び出し、凄まじい速度でアルデバランを蹴り飛ばした。

 

「ごあっ!?」

 

 普通に走るだけでも速いワンダーコーラエナジーフレーバーのポラリスが、より強く加速して撃ち出される。

 絶対に対応できないスピード、その上エナジーカタパルトに入った時点で磁力すら解除されている。

 しかしアルデバランは、負傷しつつもこの能力に勝機を見出した。

 

「この程度の力なら、ワタクシは負けませんわ。もう一度来なさい、ポラリィス!」

 

 先程と同様に両足から磁力を発し、手招きをするアルデバラン。

 そんな挑発に対し、ポラリスは首裏のダクト部から光の粒子を発して、エナジーカタパルトを再度生成。

 中に入り込み、浮遊した後、カタパルトから一直線に影が走る。

 

「貰いましたわ!」

 

 嘲笑う声が響き、地面が隆起して何重もの防壁となった。

 出て来る方向が分かっているのなら、待ち構えて捕まえれば良い。土の壁を盾にして衝撃を和らげ、動きを止めたところで磁力を利用して一気に拘束するという算段だ。

 発射されたものは防壁を次々に砕き、しかし最後の1枚を半ばまで貫いたところで食い止められた。

 アルデバランは仮面の奥で不敵に唇を歪め、そのすぐ後に目を剥く。

 

「な……!?」

 

 土壁の向こう側から飛び出していたのはポラリスの足ではなく、ソードモードのポーラセイザーの刃先。

 エナジーカタパルトで射出できるのは、ポラリス自身だけではなかったのだ。

 

「敵の前で気を抜くなよ」

「はっ!?」

 

 呆然としていると、そんな言葉と共に壁が破れ、切っ先がアルデバランの胸に直撃した。

 改めて撃ち出されたポラリスの拳が剣の柄を叩き、防壁を粉砕したのである。

 あまりにも激しく素早い攻勢を前に、何もできないウシの戦士。

 必死の抵抗の果て、ついに限界が訪れる。

 

「ぐっ、マズい……!!」

 

 身に纏っていた赤い光が明滅し、徐々に色がくすんでいく。

 磁力操作の出力を全開にし続けた影響で、ハンドリンクの方が先に維持できなくなってしまった。

 戦闘の負傷と能力行使による全身への過剰な負荷も、もはや無視できないものとなっており、膝から下が震えている。

 その様子を見たポラリスは、ポーラセイザーを降ろして構えを解いた。

 当然、アルデバランは反発する。

 

「何の真似ですの!?」

「もう勝負はついただろう、ここから消えろ。そして二度と俺の前に姿を見せるな!」

 

 アルデバランは、汐は言葉を失った。

 自分を『倒すべき最大の敵』から『見逃しても良いか弱い敗者』に勝手に格下げしている。そんな現実を、突きつけられている。

 それがあまりに衝撃的で、同時に屈辱でしかなかった。

 

「冗談じゃアありませんわ……ワタクシは、まだ負けていませんわよ!」

 

 地鳴りのように怒号を轟かせ、ハンドリンクを交換し、全身に力を込める。

 すると赤い光が元に戻り、そればかりか先頃よりも禍々しく輝きを増していく。

 

「よせ! 何をするつもりだ!」

「100%で足りないなら1000%ォ!! ワタクシ自身の限界を、超越するゥッ!!」

 

 その直後、ゴポッとマスクの口部から血が溢れ出る。

 無理矢理にパワーを引き出した影響で、身体がその要求に追いつけなくなったのだ。

 それでもなお彼女は意識を保ち、ハンドルレバーを回して、ポラリスに襲いかかった。

 

《CRIMSON BUFFALO(クリムゾンバッファロー) (・)FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

「ワタクシの強さをォ思い知れェェェッ!!」

 

 翼を拡げて形振り構わず迫り来る、赤い暴力。

 雷光と共に後ろに飛び退きつつ、ポラリスは自らもグラスプドライバーに手をかけた。

 

「……やるしか、ないか。なら」

《WONDER COLA ENERGY(ワンダーコーラエナジー) (・)FLAVOUR STRIKE(フレーバーストライク)!》

「刺激的に決めるぞ!」

 

 三度レバーを回し、そしてダクトから光を噴射しながら目にも留まらぬ速さでアルデバランの顎下に潜り込むと、そのまま真上にアッパーカット。

 猛牛の如き巨体が僅かに浮かび、続いて生み出されたエナジーカタパルトの中へ自身を収容・即射出でさらに上へと彼女を飛ばす。

 痛みを堪えつつ、しかしアルデバランは笑う。

 空中にヤツの逃げ場はない。エナジーカタパルトに入る前に磁力を与えてしまえば、そのまま捻り潰せると。

 だが、その考えは容易く打ち砕かれる事となる。自身の周囲、360度全方位に張り巡らされたエナジーカタパルトによって。

 

「あ、あっ!?」

「空中にお前の逃げ場はない」

 

 アルデバランは失念していた。自身こそ、物体に磁力を付与できなければ能力が無意味となる事を。

 空中のエナジーカタパルトのひとつにポラリスが入り込み、アルデバランに向けて射出。飛び蹴りが炸裂した後、すぐにエナジーカタパルトへ収容されて別のボトルへ目まぐるしく移動。再び射出、転移、移動、射出。

 そのサイクルが超高速で繰り返される。何度も、何度も。何度も何度も何度も。

 閃光と残像が、まるで何人ものポラリスが雷光を纏って撃ち抜いているかのように軌跡を描く。

 

「ひっィギャアアアアアアッ!?」

 

 最後に稲妻のキックが炸裂した後、一際大きな悲鳴と共に地面に倒れたアルデバランの装甲が激しく爆散。

 変身が解けた汐は、白目を剥いて意識を失っていた。

 

「少し……刺激が強すぎたみたいだな」

 

 一方ポラリスも、フレーバーがエンプティとなり装甲が外れる。

 ただしワンダーコーラエナジーハンドリンクの方は無事。どうやら他のハンドリンクと違い、エネルギー切れになっても一時的に使用不能になるのみに留まるようだ。

 とはいえクリムゾンバッファローと同じエナジードリンクであるが故か、反動が凄まじく、ポラリスはあまりの疲労感から肩で息をしている。

 そんな状態を察してか、常治は彼に少し休むよう伝えつつ、倒れた汐に手錠を持って向かっていく。

 

「丹羽 汐、お前を逮捕する! スターライダーだけじゃなくデューラントもお前が差し向けたのは分かってるんだ、キッチリ取り調べさせて貰うからな!」

 

 だが、そこへ。

 

「お嬢様ッ!?」

 

 既に傷を負っているウィルが駆けつけ、レイピアを振って一同を遠ざけつつ、急いだ様子で汐に肩を貸して立ち上がる。

 このまま逃げるつもりか。常治は拳銃に手をかけようとして、しかしそれをポラリスが腕で制する。

 そしてウィルを真っ直ぐに睨み、シロクマの戦士は警告を放つ。

 

「戦えなくなったヤツに手を出すつもりはない、無駄に血を流したくないならさっさとそいつを連れて帰れ」

「く!?」

「……帰れ!」

 

 さらなる一喝で、ウィルは躊躇しながらもとうとう逃げ出した。

 ポラリスも常治も彼を追うような事はせず、レグルスに至っては逃げ出した2人を警戒すらしないまま、声をかけて来る。

 

「見事な手並みだった。それに、戦意のない相手を見逃すその慈悲の精神。とても噂通りの人間とは思えない」

「当たり前だろ! ポラリスは評議会の連中が言うような犯罪者なんかじゃない、人を守る『仮面ライダー』なんだからな!」

 

 レグルスは顎に手を当てて考え込んだ後、短く頷いて踵を返した。

 

「ぼ……このレグルスも命を助けられた身だ、今は戦いの手を止めよう」

 

 そう告げて、変形したマシンスプライダーに跨り、レグルスは去ってしまう。

 常治は彼の背を見送りつつ、感心したように頷いた。

 

「最初はいけ好かないなと思ったけど、案外良いヤツだったな」

「ああ。もしかしたら、心強い味方になってくれるかも知れない」

 

 そう言ってポラリスも同意し、2人はいずれまた会う事を誓い合って別れを告げる。

 

 一方、変身を解いた嶺皇は道の途中で深い溜め息をついていた。

 

「僕は……やっぱり、弱いんだ……」

 

 スターライダーの頂点、王と呼ばれていながら、自分の力だけではアルデバランを倒し切れなかった。

 それどころか、防戦一方で全く相手になっていなかった。彼女とまともに戦えて、討ち倒す事さえできたのはポラリス1人だ。

 複数人のトップスターを一度に相手にした経験があるにも関わらず、である。

 ひょっとしたら彼らは手加減をしていただけなのではないか、本気で戦えば余裕で自分に勝てたのではないか。

 そんな嶺皇の自信の喪失と共に、彼の王としての仮面は少しずつ、確実に剥がれていくのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 しばらくの時が経ち、夕方。

 丹羽 汐は、汗を滲ませながら薄暗い室内の天井を見上げて目を覚ます。

 視界はぼやけて意識もハッキリしておらず、ベッドから身を起こそうとするが、全身を苛む鈍痛がそれを許さない。

 一体ここはどこなのか、自分はどうなってしまったのか。考えていると、扉の開く音と共に聞き馴染みのある声が聞こえて来た。

 

「お嬢様!! ご無事ですか!?」

「ウィル、ここは……」

 

 朦朧としていた自我が徐々に取り戻されていき、汐は自分の置かれた状況を理解する。

 ここは北区にある自分の屋敷で、自室。戦いの後、ウィルがここまで運んで来たのだという事を。

 

「そう。そうでした。ワタクシ、負けたのでしたわね」

 

 身体に巻かれた包帯と全身の痛みが、どうしようもなくその答えを示している。

 一体何が間違っていたのか。自分のどこに落ち度があったのか。あんな力に対抗する手段などあるのか。

 彼女には何も分からない。これからどうすればいいのかさえ。

 だがウィルはそんな汐の手を取り、笑顔を作って声をかけて来る。

 

「大丈夫です、お嬢様! 今回はきっと、悪いアクシデントが重なってしまっただけです!」

「……ウィル……」

「お嬢様が強いお方なのは私が知っています! 次こそは、必ず――」

 

 その瞬間。

 

「おやぁ、次があるとお思いでェ?」

 

 ドアを蹴破る音が聞こえ、3つの人影が無遠慮に室内へと入り込む。

 その正体は、3人のライダーバトルコンサルタント。嘲笑家(ザ・スコーナー)のコブラー・スコット、空泣家(ザ・プリテンダー)のフィズ・シャンパーニュ、激怒家(ザ・レイジャー)のコリンズ・メスカル。

 彼らはみなニヤニヤとしながら、怪我をしている汐と彼女をかばうウィルを見下ろしている。

 

「ごきげんよう、無様なお嬢様」

「あなたたち……なぜここに!?」

「なぜ、ですかァ。ククッ! 呑気ですねェ~。どうやら重大な失態を冒したご自覚がないようで?」

 

 コブラーは室内の椅子に勝手に腰掛けて、嘲笑する唇の形を崩さずに汐とウィルへ話し始めた。

 

「ご自分の権力や財力にモノを言わせて評議会の意向に背き、あろう事かデューラントを引き連れる姿を衆目に晒してしまった。これは無視できませんよ」

「何を言ってるんですの、許可を出したのはアナタの方で……」

「しかも! その上! スターライダーたちの上に立つべきトップスターでありながら! あんな情けない負け姿まで見せてしまったァ!」

 

 言いながら腹を抱えて足をバタつかせた後、真顔になって立ち上がり、自らの懐に手を伸ばす。

 

「そんなクズ星に与えるべきは慈悲じゃな~いィ」

《BARTEND RIFLE(バーテンドライフル)!》

「執行させて頂きますよ。私直々に、重い罰(ペナルティ)をね」

 

 その手に握られているのは、カクテルのシェーカーに似せた形状の銀色の銃器。銃身はライフルと名付けられている通りに長く、開閉ができるようで本体にはスリットが見て取れる。

 コブラーはバーテンドライフルというその銃のグリップを握り、ボディを開けるため手でスライドさせ、ディスプレイと丸い窪みを露出させた。

 直後、彼の腰にホルスター付きのベルトが装着される。左腰のホルダーには6本のボトルが付属しており、コブラーはその内3本を手に取って窪みに押し込み、中身を注ぐように次々にひねっていく。

 

《WHISKY(ウィスキー)! COCKTAILING(カクテリング)!》

《VERMOUTH(ベルモット)! COCKTAILING(カクテリング)!》

《BITTERS(ビターズ)! COCKTAILING(カクテリング)!》

 

 ハンドリンクではない、ハードリンクというそのボトルの名前が銃から流れる電子音声によって読み上げられ、ディスプレイの色も様々に変わっていく。

 続いてコブラーはボディを閉じ、ガンスピンを始めた。

 

《SHAKE(シェーク)! SHAKE(シェーク)! SHAKE(シェーク)!》

「命掟(めいてい)」

《ROB ROY(ロブ・ロイ)!》

 

 しばらく回した後、その宣言と共に再びボディを開いて、天井に向けてトリガーを引く。

 

《FLAIR(フレアー)!》

 

 瞬間、発砲音が轟き赤い球状の金属質な液体が放たれ、コブラーの全身がメタリックイエローのアンダースーツに包まれる。

 そして液体金属がその身体に落ち、アンダースーツの上に装甲を形成し始めた。

 

《A-HAHAHAHAHAHA(アーハハハハハハァ)! STEAL YOUR HEART(スティール・ユア・ハート)!》

 

 グラスプドライバーを用いるスターライダーたちとは異なりその姿は動物を模しておらず、禍々しく捩れた三本角が頭から伸び、鋭いエッジが腕や足の装甲に配置されている。

 眼部も尖った形状で、波打つような歪んだ笑顔に見える大きなクラッシャーが口部にあり、同じく動物的ではない見た目のジェーシュタとも違って、その姿は悪魔を彷彿とさせるものであった。

 

《PHOBOS(フォボス)! CHEERS(チアーズ)!》

 

 そうして完成した魔神の如き戦士は、汐たちが呆然としている前で、長銃で再びガンスピンを始める。

 

「自己紹介致しますよォ、私はフォボス。ペナルティエンフォーサーフォボス」

 

 銃口の向く先が、汐の頭の位置でピタリと止まった。

 

「あなた方の敗北に……乾杯」

 

 その言葉の直後に、再び引き金が弾かれる。

 ウィルは咄嗟に汐の手を引いてビーム弾から逃れ、着弾地点にあったベッドは爆発炎上。

 あと一歩遅ければ死んでいた、と2人揃って息を呑み、全身の痛みを堪えグラスプドライバーを装着した。

 が、再び嘲る声が聞こえて来る。

 

「貴重な経験だよ、二人とも。なんせ今日だけで2回も敗ける事になるんだからね」

「しかもペナルティで。とんだ笑い話じゃない」

 

 フィズとコリンズ、彼らはフォボスの後ろでニヤニヤと見物するだけのようだ。

 明らかに侮られている。汐はギッと歯を噛み締め、ウィルも眦を吊り上げ、ハンドリンクをセットした。

 

《HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

「ほざけ! お嬢様は私が守る!」

《WILL BE KING SONG(ウィル・ビー・キングソング)! SPARKINGDOM(スパーキングダム)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「スターライダーと戦った事のないアナタにまで負けるはずがありませんわ!」

《VIOLENCE WITH WINGS(ヴァイオレンス・ウィズ・ウィングス)! CRIMSON BUFFALO(クリムゾンバッファロー)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

 

 変身を果たし、窓から中庭へ飛び出す3人。

 ナレディは飛び回りながら斬りかかって撹乱、アルデバランは最初から磁力の出力を80%にしてフォボスを襲う。

 磁力を利用した超速のショルダータックルの一撃が、木っ端微塵に敵を打ち砕く、はずだった。

 だが実際には、走り出す前に彼女自身が膝から崩れ落ち、フォボスから顔面を蹴りつけられるのみに終わってしまう。

 

「グッ!?」

「お嬢様!?」

「お、おかしい……身体が、いや……負荷がいつもより強(・)い(・)?」

 

 怪我のせいではない。事実、戦いとなれば痛みなど問題にしないのが汐だ。

 明らかに、普段変身した時と何(・)か(・)が(・)違(・)う(・)。

 その目に見えて困惑している姿が余程面白かったのか、フォボスはまた腹を抱えて笑い出した。

 

「おめでたい人ですねェェェ、本ッ当に!! 滑稽すぎて腹が何周も捩れまくってしまいますよォ!!」

「なっ、何を……何をしたの!?」

「まだお気づきでない様子! それでは教えて差し上げましょう、真実をね」

 

 今にその場で転げ回るのではないかという大きな笑い声を上げてから、すぐに落ち着いた声色に戻してフォボスは告げる。

 

「獅子門 嶺皇のグラスプドライバーには、戦闘能力を向上させる特別な仕掛けが施されているのはご存知ですよね」

「そんなの、当たり前で――」

「彼(・)だ(・)け(・)だ(・)と(・)思(・)い(・)ま(・)す(・)か(・)?」

 

 ふと、時間が止まったかのような静寂が訪れた。

 

「出力を上げれば上げるほど肉体に大きな負荷を強いるクリムゾンバッファローを、本当にご自身の筋肉だけで操れていたと思っていたんですか?」

「ま……まさ、か……」

「ええ。あなたのグラスプドライバーには、負荷を大幅に軽減する機能が仕込まれているのですよ。プトレマイオス社のルイ・ディアマンテ氏に頼んでおいたんです」

 

 アルデバランの息遣いが、僅かな時の間に荒くなっていく。

 あり得ない。そんな事があるはずはない。断じて、自分がレグルスと同じ道化などと。

 だが、この強大な負荷によって身動きの取れない状況が、何より明確に示している。

 フォボスの語った事こそが、真実であると。

 

「我々ペナルティエンフォーサーは、そのような違法な機能の存在を許しません。対峙する者全てのスペックブーストシステムは自動でオフになるのですよ」

 

 自分たちで仕掛けておいて、何を言っているんだ。

 そんな怒りから、出力を60%に落としつつも飛びかかるが、即座にライフルから放たれたビーム弾によって攻撃の手を挫かれる。

 

「ガハッ!?」

「まだ分からないんですか? あなたの順位なんて、レグルスと同じで見せかけだけなんですよ。実際のあなたの実力はトップスターの中じゃ下から数えた方が速いくらいだ。下の下です」

 

 今度は顔面を撃たれ、アルデバランのマスクが割れた。

 右眼とその周りが露出してしまい、顔に大きな傷を負ってしまう。

 ナレディも救援のために背後から襲いかかるが、全く相手になっておらず、裏拳を食らって屋敷の壁に叩きつけられた。

 

「ついでに言っておくと、残りの2人もペナルティエンフォーサーになれます。逃げ場はありませんよォ」

 

 その言葉がハッタリではないと明らかにするように、フィズもコリンズも自分のバーテンドライフルを見せつける。

 勝てない。仮になんとかフォボスを倒したとして、その後で彼らの相手もしなくてはならないのだ。勝てるワケがない。

 自分が道化であったという事実、トップスターのスペックブーストを無力化できるペナルティエンフォーサーの存在。

 それらを突きつけられたアルデバランは、半狂乱状態になって叫び出し、無茶苦茶に暴れ出した。

 

「う、うあああああーっ!」

「さて、それでは処罰についての話をしましょうか」

「こいつ、この! 死になさい! 死になさいよ、この!」

 

 拳も蹴りも、全て命中している。

 磁力による補助が充分でなくとも、当たれば岩を砕き鋼鉄をも捻じ曲げる破壊的なパワー。

 その上で、フォボス自身は全くの無傷。意に介していない。

 

「まずあなた方の持つあらゆる財産や土地は全て没収、オートバイヤーの所有権も剥奪ですねェ。グラスプドライバーも回収しますよォ。あぁそれから」

 

 そう言ってアルデバランの脚を蹴り返し、腕のエッジで装甲を斬り裂いてよろめかせ、再びライフルのボディを開く。

 ディスプレイから真っ赤な光が発せられて点滅し、次いで閉じると膨大なエネルギーが銃口に集中する。

 

《ROB ROY(ロブ・ロイ) (・)FLAVOUR DEATH PENALTY(フレーバーデスペナルティ)!》

「命も頂きましょうかねェ」

 

 狙う先に立つのは、満身創痍の猛牛の戦士。

 そのトリガーが引かれ、銀色の銃から赤い光がほとばしる。




 ――その日。
 トップスターのランキングから、アルデバランの名が消えた。
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