スーツ姿の若い男が、自分の前で止まったその車に乗り込む。
「はいどうも。どちらまで?」
男が中年の運転手に目的地を告げると、その運転手は露骨に自らの眉間にシワを刻んだ。
「……お若いお客さん、本当に言ってるのかい? わざわざ
それでも、行かなければならない理由がある。
若い男がそう答えると、タクシー運転手はとりあえず目的地に向かって車を走らせ、ルームミラー越しに男へ語りかけた。
「知ってるかい? あの場所に関わろうって人間は、大体四種類くらいに分かれるんだ」
一体何の話だろう、と思いながらも男は話に耳を傾ける。
「中に取り残された誰かや何かを探してるか、変な
信号待ちでそう言いつつ一本一本指を立て、しかし最後にはすべての指を閉じてしまう。
「で、よっぽどな権力の持ち主以外は帰って来ない。パスポート盗まれたのか、中で死んじまったのか、理由は知らんがね」
男はそれを聞いて息を呑むが、だが自分の果たさなければならない使命を思い出し、己を奮い立たせる。
そして自らの身分を運転手に明かすと、運転手は目を丸くした。
「あぁ、あんたお巡りさんなの。通りで礼儀正しいと思った。若いのに難儀なところに飛ばされて……いや、こういう言い方は失礼だよな」
指先で頬を掻いて苦笑した後、信号が切り替わり運転が再開。
しばしの後、車は目的地付近に到着する。本来は電車の通る駅のホームだった場所を、検問所のように改築しているのだ。
そのさらに向こう側は、まるでその場所を国から遮断するような形で、異様に巨大な黒い
目の前にある壁の中こそが、男の向かう場所。タクシーから降りて荷物を手に、若者は礼儀正しく一礼する。
「あんたが無事に出て来ることを祈ってるよ、警察のお兄さん」
運転手はそう返すと、タクシーを動かしその場を去ってしまう。
残った男は、キャリーバッグを引いてすぐに目の前の検問所に向かっていく。
するとすぐさま、男の前に警備員らしい二人組が立ち塞がる。
「そこで止まって。これより入市審査と身体検査を行います、まずはそこに荷物を置いて名前と職業を」
言われた通りキャリーバッグを検査機のコンベアに置いて、手荷物も見せ、警察手帳を手に男は名乗る。
「
※ ※ ※ ※ ※
先程の検査から約10分。
壁に備えられた門から出て、ようやく終わったと思い、常治は大きく伸びをした。
茶色い短髪がさらりと揺れ動き、やや吊り上がった目が細められる。
しかし壁の中に入ると、やや緩んでいた気分と表情が一変、目が強張り唇が引き締まっていく。
「ここが『ザナドゥー』……か」
検問所から出た彼のオリーブグリーンの瞳が捉えているのは、壁の外とは大きく異なる歪な景色。
天井や壁が崩れた挙げ句無秩序にラクガキがされた古い雑居ビルや、刺々しい異様な装飾がされた装甲車やヘルメットなしで銃器のような武装を積んだ大型バイクを乗り回す若者など、日本では考えられないような有様だ。
比較的新しく建て直されたらしいビルにはこの都市の市長のポスターが貼られているのだが、顔が真っ黒に塗り潰され卑猥な言葉と共に下品な絵が描かれている他、街に来た者の目に必ず留まるよう『
さらに常治が街を散策してみると、そこかしこに無断で貼ったと思われるポスターがびっしりと並んでいる。その中には獅子の仮面や牛の仮面など多種多様な戦士の姿があり、それを見た彼はあからさまに不快そうに面をしかめた。
「ふざけるな。何が『スターライダー』だ、バカバカしい」
こんなポスターなど全部剥がしてやろうか、とばかりに憤って、常治はしかし目的地に向かうのが先と思い直し頭を振る。
が、そんな時だった。
「デューラントだぁぁぁ!?」
「誰か助けてぇ!!」
街の中で誰かの放った悲鳴が、助けを呼ぶ声が常治の耳に入る。
「怪人か!」
常治は、まだこの場所に来たばかり。住民の顔も名前も含め、知らないことだらけだ。
だが、彼にとってそんなことは関係ない。警察官として、その職務を全うする義務がある。
常治は空久里アクアシティにて開発されて最近支給された装備、ホッパーズバックルを鞄の中から取り出し、それを自らの腰に装着した。
《ホッパーズバックル》
「まさか警察署に行く前に出くわすとはな」
《
「市民の安全は、俺が守る!」
《
表面に『S』と刻印されたカードをバックル部のスリットに通すと、その姿が黒いアンダースーツと青と銀の装甲に覆われていく。
そうして完成した戦士、Sトルーパーは、悲鳴の聞こえた方に向かって疾走する。
辿り着いた現場にいたのは、右腕が変質し大きなライフル銃が伸びている異形の怪物。
顔には鼻がなく、大きな単眼の下にずらりと牙の並んだ口があるのみで、全身はイバラに包まれ白ブドウの果実が生っており、背中からは白ワインに似た液体の入った瓶が四本縦に並び、さらにそれを掴むようにいくつもの手が伸び出ている。
人々が恐れ逃げ惑う中、それでも常治は、Sトルーパー専用のナイフと拳銃を手に立ち向かう。
「こいつがデューラント……来い、やってやる!」
意気揚々と叫び、発砲。
そのまま視線を自分に惹きつけ市民の避難を促しつつ、銃弾で牽制しながら接近、ナイフで斬りかかる。
刃はライフルの銃身で防がれ、金属音がその場に鳴り響く。ナイフによる一撃は小さな傷をつけただけであったが、無理矢理に腕力で押し込まれデューラントはたたらを踏んでしまう。
行ける。自分でもやれる。確かな手応えを感じた常治であったが、直後に相手は想定外の行動に出た。
「ギギッ」
背中に生えたワインボトルがスポッと抜け、地面に落ちて砕け散り、それが生物のように蠢いて別の形に変化したのだ。
逆さまにしたワイングラスを被ったような形状の頭部に、黒い体毛の生えた身体をトゲのついたツタで覆う怪人。ボブルヘッズと称される、デューラントの手駒となる群体だ。
「増えた!?」
銃で狙おうにも軍勢が邪魔で照準を遮られ、接近するにしても立ち塞がれてしまう。
手をこまねいている間にデューラントはSトルーパーから距離を取り、ライフル銃で射撃。弾丸は間隙を縫うように突き進み、装甲の左肩部を破砕した。
「がっ!?」
あまりの衝撃と激痛に、よろめく常治。
さらにそこへ、ボブルヘッズたちが急襲。熾烈な攻撃によってアーマーに火花が散り、追撃のライフル弾を胸に受け、ついには前のめりで地面に倒れSトルーパーへの変身も解除される。
対抗する力を失った以上逃げなければならないが、負傷したせいで思うように身体に力が入らない。その上、既にライフル持ちのデューラントは自分に次弾を腕に込め、照準を常治に定めていた。
「く、そっ……!!」
ここまでか。まだザナドゥーに来たばかりだというのに、これで終わってしまうのか。
痛みと共に諦観が頭でよぎり、目が閉ざされていく、そんな時。
「グオオオオッ!?」
強烈な打撃音とデューラントの発した悲鳴が、常治の耳に飛び込んだ。
力を振り絞って身を起こしてみれば、そこには自分を守るように立つ一人の何者かの背中がある。
赤いエネルギーラインで縁取られた黒い装甲に身を包む、頭部にシロクマを思わせるマスクが着いた戦士。
振り向いたその胸のキャップには、青い字で『
「本物の、仮面……ライダー……?」
かつて常治が住んでいた
彼の意識は、そこで途絶えた。
ROUND.01[
「碧山巡査、君には『ザナドゥー』に向かって貰いたい」
常治が壁の中の街を訪れる日から、時を遡り。
帝久乃市内に設けられた大型警察署のトップである
翠月は警視正として市民を守りながら、必要に応じて仮面ライダーとして悪と戦う生ける伝説であり、常治にとってまさに雲上人。憧れの存在の一人なのだ。
「ザナドゥーについて聞いたことは?」
「もちろんあります。20年前の隕石衝突で中止された大規模宇宙開発都市構想、状況を危険視して当時の日本政府が建造させた壁が未だに壊されてないこと。それから……その防壁建設を積極的に促したのが
常治はそう言って、頭に思い浮かべた名を握り潰すかのようにグッと拳を作る。
帝久乃市のホメオスタシスという組織が、首謀者である
「当時久峰の一族ということ以外ほぼ無名議員だった久峰 遼の名を世界的に広めたのが、例の防壁による隔離と復興支援政策だった。ヤツは表向き街の再生を掲げておきながら、外からのあらゆる情報を遮断しつつ、壁内で秘密裏になんらかの活動を続けていた」
「活動の詳細というのは……?」
「それ以上を聞き出す前に、ヤツは一月前に獄中で発狂・衰弱死して情報を得られなくなった。久峰一族が何を企ていたのかを知るには、現地で捜査するしかない」
事情を概ね理解した常治だが、ひとつ疑問が浮かぶ。
ただの一人の巡査でしかない自分が、本当にそんな重要な事件に関わってもいいのか、という点だ。
すると、翠月は表情から不安を読み取ったのか、そこについての答えを提示した。
「君は最新装備であるホッパーズバックルを用いた訓練において、最も優秀な成績を出していた。だから審議の結果君が選ばれたのだが……もし望まないのであれば、この話はなかったことにもできる」
「えっ?」
「あの壁の中は未知な部分が多い。それに久峰一族が好き勝手をしたせいで、日本の法律が適用されない……いわば無法地帯だ。そんな場所にわざわざ若者を送り出すのは、あまりに心苦しい。そもそも、本当なら私が行くべきだ」
翠月には仮面ライダーとして戦った実績がある。
だが、今はそれほど自由に行動できる身分ではない。万が一のことがあれば警察側にとっても大きな損失となる。上層部はそこを危惧しているのだ。
常治としてもそこは理解しており、同時に翠月が自分のことを本心から心配していることも承知している。その上で、彼は己の胸を叩いて頷いた。
「自分に任せてください。市民を守り、必ずザナドゥーの全貌と連中の行方を暴いてみせます!」
久峰一族の中には、逮捕前に行方を晦ませた者もいる。もし、ザナドゥーの中に潜んでいるのだとすれば。
このまま逃げ切られるワケにはいかない。熱い正義感と強い使命感が、常治の心で燃え滾っていた。
「……分かった。君を信じて託そう、健闘を祈る。現地到着後は
「了解しました!」
力強い返事と共に翠月に敬礼し、常治はその場を後にする。
こうして、警官・碧山 常治はザナドゥーへと旅立つことになった。
「――なさい。早く起きなさい、碧山巡査」
「う……?」
そして、現在。
ここに至るまでの記憶の海から意識が浮上し、常治はゆっくりと身を起こしつつ周囲に目をやる。白い壁に白い天井。どうやらここは病院の中で、自分は病室のベッドの上にいるようだ。
さらに傍らにいるのは、見知らぬ女性。
困ったように下がった眉に、垂れた形の丸みのある目つき。黒い髪は肩にかかる真ん中分けのセミロングで、両瞼の上にはひとつずつホクロが付いている。
肌は白く滑らかで、女性的な魅力に溢れる整った体の上に青いスーツとタイトスカートを着用しており、寝ぼけ眼の常治を青い目でじっと見ている。起きるまで待機していたのだろう。
「やっと目を覚ました。到着初日でデューラント相手にケンカを売るなんて……バカなことをするのね。今どき流行らないわよ、熱血刑事なんて」
その発言にムッと唇を曲げつつも、意識を失う直前のことをすぐに思い出し、声を張り上げる。
「そうだ、あのライフル怪人は!?」
「アーリフ・デューラントね。ポラリスだっけ、あのスターライダーが追い払った。倒せてはいないみたいだけど」
スターライダーという名を聞くと、常治は眉根を寄せて頭を振った。
「いや、アレは仮面ライダーでしょう」
「は? それってどっちでも同じ……あー、まぁいいか」
言葉を途中で止めると、彼女は大きく伸びをして溜め息を吐く。
常治はその様子を見ながら、名前をまだ聞いていないことを思い出し、尋ねた。
「それで、ここは? あなたは誰なんです?」
「ここはザナドゥー北東区総合病院。で、人に名前を尋ねるならまず自分から」
「いや、でもさっき俺の名前……」
「それとこれとは別。自己紹介はコミュニケーションの基本、でしょ?」
常治はまたもやムッとしつつも、彼女の言い分も正しいと考え直して、咳払いしつつ名乗った。
「……碧山 常治、帝久乃市出身の刑事です」
「はいよくできました。私は
言いながら恵は、常治が持ち込んだ無傷の荷物類を見せる。
「あっ! 俺の荷物!」
「警察手帳もパスポートもちゃんと入ってるわよ。誰かに盗まれる前に私が来て良かったわね、お寝坊刑事くん」
「ありがとうございます、雪白先輩」
常治は深々と頭を下げて、中身をひとつひとつ確認していく。
その最中に、恵は自分の爪を見ながら質問を投げた。
「もう帰りたくなったんじゃない? 早速痛い目に遭ったワケだし」
「まさか。そんなに半端な気持ちなら、ここに来ようだなんて思わないスよ」
「……そう」
どこか虚ろな、気怠げな返事。
訝しみながらも、今度は常治の方が質問を行った。
「雪白先輩の方はいつからザナドゥーに?」
「三歳の頃に引っ越して、すぐ例の隕石が降って、それからずっと。そのせいでここから出られなくなったクチよ」
「それは……すいません」
「謝んないでよ。気にしてないし。でも同じような境遇の人って割と多いから、碧山くんが自分で気にするんならあんまり話題にしない方が良いよ」
恵はひらひらと手を振り、直後に常治は「ん?」と首を傾げる。
「ちょっと待ってくださいよ、三歳の頃からってことは……あんた俺よりひとつ歳下なんスか!?」
「でも私の方が先にここにいるから先輩。ってか、女子に年齢の話すんなし」
「いやあんたが自分で言ったんじゃん!」
「口答えもなしね」
言い返す前にビシッと指先を突きつけられ、思わず返事に詰まってしまう常治。
その後、目立った外傷はないものの安静にした方が良いという判断され、ほんの二日だが検査も含めた入院を言い渡される。
おまけにホッパーズバックルも破損してしまっており、修理が必要となってしばらく使えなくなることが分かり、常治は肩を落とした。
「来て早々これか……なんか俺、カッコ悪いな……」
※ ※ ※ ※ ※
常治が入院したのと同じ頃。
ザナドゥー南東区にある、今はもう給油施設としての機能を失ってしまったガソリンスタンドにて。
ハンバーガーのイラストと『
背に地球のマークが刺繍された赤い革製のライダースジャケットを羽織り、黒いライディングパンツを穿いた、ヘルメットを被った男。
バイクから降りて、彼はハンドルの中央部に付いたプルタブのような部位を倒す。
直後、機体が変形・収縮して
そうしてヘルメットを静かに脱ぎ、顔を外気に晒す。
「ふぅ」
左右で赤と黒に分かれた無造作な短髪と、星雲めいた複雑な模様の金色の瞳、さらにそれに見合った精悍で整った顔立ちがあらわとなった。
彼の名は
そして、先頃常治が気絶する前に邂逅した、ポラリスその人である。
最星がドアを開けて中に入ると、そこには同じ年頃の三人の女がいた。
「おかえり最星。ケガはない?」
「ただいま、
最初に声をかけて来たのは、マゼンタカラーの髪を黒いリボンでポニーテール状に結っている、ヘソ出しチューブトップとデニム地のホットパンツを着用している人物。
その茅英璃の後ろから、ヒョコッと小柄で童顔な黒髪の眼鏡をかけた女が顔を出す。
「取り逃がしちゃったねぇ、さっきのデューラント」
「あー……何度も距離を取られたからな、やりづらい相手だった」
「とりあえず情報収集は続けとくよ~、逃走地点付近から目撃情報を追跡追跡~」
「頼んだ、
下着の上にブカブカのTシャツ一枚のみと、生活スタイルは非常にだらしないが。
「向こうはライフルだけじゃなくボブルヘッズで手数を増やしたり時間稼ぎができるからねぇ、こっちも何かで差を埋めないと。というワケで、はいこれ」
ジャケットを脱いだ最星に続いて声をかけたのは、オレンジ色のウルフカットが特徴的な長身の女。メカニック担当の
タンクトップに作業着という出で立ちの彼女は、やや湾曲した形状の刀身を持つクリアなブレードの剣を手渡した。
「これは?」
「キミ用に調整したボクの自信作、名付けて『ポーラセイザー』だよ。ブレードのところを組み替えれば、銃とか他の形態にできる。次の出撃にでも使ってみて」
「ああ、使わせて貰う」
そう言いながら最星はそのポーラセイザーを取って、しばらく眺めた後そっとテーブルに置く。
続く形で茅英璃たち三人もテーブルに集まり、未来の持つ端末を中央に囲んで話し始めた。
「にしても。モニターでも状況見てたけど、途中で出て来たアイツって結局誰だったのかしら」
まず話題に出たのは、ライフル怪人のアーリフ・デューラントを追っていた際に現れた謎の戦士について。
映像をその出現の瞬間で止めて、未来と環は腕を組んで唸る。
「あのベルトってスターライダーのじゃないよね、全然見たことないし。
「もしくは……外から来た技術、とか?」
この街で見かけたことがないのならば、そういうことになるはず。茅英璃もそう思い、頷いた。
「そこはどっちでも良いさ。デューラントにやられる前に助けることができた、俺にはそれで充分だ」
最星の方はそう言って、コーラ瓶を開封して一口飲む。
それを聞いた茅英璃は呆れたように肩をすくめ、しかし口角を吊り上げる。環と未来も、同じように笑みを浮かべた。
直後、ガソリンスタンドの外から目覚まし時計のベルのような大きなアラーム音が響き渡る。
一同が驚いて窓から外を見ると、上空に巨大なホログラム状のモニターが投影されていた。
『やぁやぁ皆様ァ、御ッ機嫌よォ~う!
その画面の中に立つ人物、上下を黄色いフォーマルスーツとワイシャツで揃え、赤いネクタイを締めた茶髪の男が大声で言い放つ。
唇は不気味なまでに大きく吊り上がっており、歯を剥き出しにして常に笑顔を作っている。しかし、濃厚なブラウンレンズのサングラスで目が覆われているため、本当に笑っているのかどうかが判別できない。
『司会はお馴染みこの私! 皆様のお耳に幸福とお得な情報をお届けしております、ライダーバトルコンサルタントの
「いつもいつも無駄にデカい声で本当にムカつくわね……」
「私こいつ嫌い」
「ボクも」
「じゃあ俺も」
『そもそもライダーバトルとは何か! 野蛮な争いとは無縁でゴージャスかつエレガントな北区周辺の街で過ごしている方々は、あまり詳しくないかも知れませんねェ。そのような貴き皆様のために、この私が解説致しましょォう!』
辟易とした様子で四人がそれぞれ不満げに感想を漏らす。
しかしそんな声が聞こえているはずもなく、コブラーは進行を続ける。
『ここザナドゥーでは人間を襲うデューラントという怪人が出没することは周知の事実だとは思いますが、その怪人を討伐するための
「……あ! さっきのアーリフ、見つけたよ! ここからそんなに遠くない、南区からこっちに向かってるみたい!」
「また東区まで行こうとしてるのか? とにかくすぐ対処に行く、通信は繋いでおいてくれ」
「おっけー! 位置情報送るねー!」
情報調査を続けていた未来に頷き、三人に見送られながら最星はすぐさま出動した。
ガソリンスタンドの外へ出ると、再びスプライダーを取り出してプルタブを倒す。
《
それによって、缶はバイクへと再変形。そのマシンスプライダーに跨り、最星は端末に示された位置を目指した。
『ライダーバトルとは、そのスターライダー同士によるスリリングかつエキサイティングな、私共が運営するエクストリームスポーツ! ルールは簡単! 様々な形式で配布されるスターポイントを、シーズン中に最も多く手にした者が勝者となりまァす!』
「地図の通りなら、もうすぐ現場に着くな」
『なお、変身ベルトとハンドリンクはどのような身分の方でもお渡ししております! もちろん、懐事情次第ではありますがねェ!』
頭上から聞こえる大声を無視しつつ最星が目的地付近に到達すると、例のアーリフ・デューラントの背を発見。
それと同時に、荒れた建築物や瓦礫の中からボブルヘッズが飛び出して来る。
「……見つけた」
対して最星は即座に片手に赤いハンドリンク、ワンダーコーラを取ってキャップをひねり、既に装着してあるグラスプドライバーへセットする。
直後に、最星の全身にトライバルタトゥーのような赤い紋様が浮かび上がって、コーラのような内容液が入っている複数のボトルが進路でアーチ状に拡がった。
《
「変身」
《
さらにマシンスプライダーで走りながらハンドオープナーを三度回転、天面のボタンを押し込んだ。
瞬間、背後に
《
「さぁ」
《
「ハジケようか」
現れたのは、吊り上がった目を赤く輝かせる、半透明な黒いアーマーを装備し赤いエネルギーラインを唸らせるたシロクマの戦士。
スターライダーポラリス ワンダーコーラフレーバー。首裏についたマフラーめいた部位から赤い光の粒子を噴出し、アーリフ・デューラントに向かって一直線に加速する。
『怪人や賊を纏めて殺処分し! 連中の起こす被害で心を傷つけられた皆様へヒーリング効果をお届けするために作られた、まさに理想的システェ~ンム! さながら古代ローマの奴隷剣士の死合、富裕層にのみ許された最高の娯楽と言って良いでしょう!』
《
『おおっと! 肝心のスターポイントを得る手段を説明していませんでした! しかしこちらもとっても簡単! 我々が独自の方法で観測したデューラントにポイントを付け、それを狩った者には同じ数値の点が与えられます! これが
バイクのハンドルを右手で握りつつ、左手には剣から銃に変形したポーラセイザーを持ち、銃弾を放つ。
それを足に受けたアーリフはよろめき、叫び声を上げてボブルヘッズたちを招集。配下の戦闘員たちは号令を受けて融合の後に変形、頭部がワイングラスのようになった馬の形を取って、アーリフを乗せ遁走する。
このまま逃がすワケにはいかない、と考えるポラリスであったが、そんな自分の乗るマシンスプライダーとは別にもうひとつエンジン音が彼の耳に届いた。
「ん……!?」
僅かに振り向けば、そこには刺々しい装飾のされた真っ黒なトライクに跨る長身の女の姿が見える。
ヘルメットはなく髪は赤毛で、ドクロのマークが付いた眼帯を左目に着けており、赤いタンクトップの上に藍色のレザージャケットを羽織っているという出で立ちだ。
赤髪の女は車体同士がぶつかりかねない距離までポラリスに肉薄すると、ホルダーから『
《
「変身!」
《
最星の時と異なり全身に赤い紋様が浮かび上がることはないが、それ以外は同じだ。全身を包む鈍いグレーのアンダースーツの上から、ボトルで形作られたアーチから飛び出した白い内容液が浴びせられる。
それによって真っ白な装甲が形成されていき、完成したのはポラリスと少々違う姿の戦士。胸のキャップに『
《
「スターライダーか!」
「どきなクマ野郎! ソイツはアタシの獲物だよ!」
《
スハイルはそう言いながら車体でタックルしつつ、左手を天に掲げる。
するとその腕に青い円形の盾が装備され、彼女はそのままアーリフへと突撃していく。
『もちろん賞金首デューラントを狙うのは一人じゃありませェん! スターライダー同士で醜く激しく争い合うことになるでしょう、いやァ傑作ですね!』
「他の連中も近くで見てるな……面倒だ」
「ポイントはアタシのモンだぁ!」
雄叫びと共に青い盾をスハイルが素早く投擲すると、縁全体から鋭いトゲが展開され、ブーメランよろしく弧を描くように飛んでいく。
対して騎乗形態のアーリフは振り向きながらライフル弾を放って弾き返しつつ、加速してひたすら前へ進み続ける。
「チッ!?」
『さらに、私共の方でポイントを賭けた死合をマッチメェ~イクすることもございます! ライダー同士の直接対決はもちろん、レース形式のものやデューラント早殺し勝負など! お客様のご要望に合わせたものをお見せ致しますよォ!』
リスの
「ぐあっ!?」
「大人しく下がってろ」
「野郎ォォォ……新参者のクセに調子に乗るなよ!!」
再び盾の縁からトゲが飛び出し、振り回してポラリスへ攻撃を仕掛けるスハイル。
しかしその命中の寸前、ポラリスはポーラセイザーを逆手に持ってブレードを横向きで装着、トンファー型に変形させて受け止めた。
《
「残念だったな」
「チッ、ふざけやがって!!」
『んん? そもそもなぜライダーたちは戦うのか、ですか? 良~い質問です! 何を隠そう、ライダーバトルのシーズン最終勝者には
コブラーの放送を聞き流しながら、ポラリスとスハイル、加えて背後から追いかけて来るスターライダーたちはアーリフ・デューラントの背を目指す。
「あいつ一体どこまで走る気だ?」
『このままだと東区まで行っちゃうよ! 最悪、壁の門を突き破ってザナドゥーの外に出ちゃうかも!?』
「それはマズいな……!」
未来の言葉を聞き、ポラリスはさらに加速してライフルの怪物の元に急ぐ。
当然スハイルがそれを体当たりで妨害しようとするのだが、今回は衝突の寸前にポーラセイザー・トンファーモードで殴られ前輪が破損し、トライクを破壊することに成功した。
「あ!?」
「じゃあな」
《
怯んだ隙に銃弾で後輪タイヤを二つとも撃ち抜き、スハイルは完全に戦線を離脱。
ようやくアーリフ・デューラントに集中できる状況となって、この好機を無駄にしないように一気に速度を上げる。
『しかしながらスターライダーを目指す者の多くは生活に苦しむ貧困層や平民層! そのため富裕層の皆様と契約し資金を貸与して頂かなければドライバーどころかハンドリンクを得ることもできな~い! 最終的に得られる願いの権限も、
聞こえてくる笑い声を聞き流し、ポラリスはドライバーに備え付けられたホルダーから一本のハンドリンクを取り出すと、それをポーラセイザーにセットした。
黄色のラベルには『
ベルトと併用して変身を行う『チェンジタイプ』や、缶からサポートアイテムに変形する『ガジェットタイプ』と違い、これは特定のフレーバーの性能を拡張する『オプションタイプ』と呼称されるハンドリンク。
レモンの風味を強めたワンダーコーラの別種、それがワンダーレモンハンドリンクであり、攻撃範囲・射程距離を引き上げる効果を持つ。
狙うは、ガラス馬の脚。呼吸をグッと堪え、バイクに乗りながらもしっかりとそこに照準を定める。すると、輪切りにされたレモンのようなエネルギー体が展開され、アーリフの馬を捕捉した。
《
静かに引き金を弾くと、銃口から放たれた黒い光弾がレモンを次々に貫いて巨大化し、狙い通りに馬の下半身を吹き飛ばして粉々に破砕する。
「ギィッ!?」
「よし!」
喜んだのも束の間、アーリフ諸共転倒し砕けたガラス馬は、寄り集まって泡立つように変質。みるみる内に、再びボブルヘッズの姿に戻ってしまう。
数で囲まれて時間を稼がれてしまえば、また逃げられるだろう。そうなる前に、とポラリスはホルダーから一本のハンドリンクを取った。
緑色のラベルには『
《
「悪いが追いかけっこはもう終わりだ」
《
ボトルをドライバーに装填し、素早くハンドオープナーとスイッチを操作。
先頃と同様、ボトルから発射された液体によってアーマーが構築されていくが、今回は全身を走るエネルギーラインが緑色になり、両足にローラーが装備される。
《
「行くぞ」
《
ワンダーライムフレーバー、ワンダーコーラ使用中のスピードを強化する能力を持つハンドリンク。
そのローラーを走らせ、ポラリスは再変形させたポーラセイザー・ソードモードを振るって、瞬く間に周囲のボブルヘッズたちを斬り伏せた。
「ウギギッ!?」
「また遠くからチクチクやるつもりだったか? 気の抜けることするなよ」
ローラーによる高速移動で背後に回ると、そう言い放って再び剣を振り抜く。
しかし今度は直撃の前にライフルの銃身で受け止められ、さらにその勢いのまま距離を取って銃弾を連発し始める。
ポラリスはそれを見た上で前へと蹴り出し、両腕で頭や胴を覆うようにして弾丸から身を守りながら突き進む。
「追いかけっこは終わりだ、って言っただろ」
「グッ!?」
「願いを叶える権利は誰にも譲れない。お前のことも見逃さない」
ポーラセイザーの刃をアーリフの右腿に力強く突き立てて貫き、怯んだ隙にドライバーを操作する。
「だから……」
《
「刺激的に、決めるぞ」
緑の閃光が迸り、駆け出したローラーの回転音が空気を裂く。
アーリフはその動きを目で追い切ることさえできず、当てずっぽうに放った銃撃も地面を抉るのみとなり、鋭く刺すような拳や蹴りを一方的に受け続けた。
「じゃあな」
最後にそんな囁きを聞かせ、ポラリスはポーラセイザーのグリップを握った後にアーリフの腹へとキックを打ち込み、吹き飛ばして無理矢理抜き取る。
地面を転がされた後、そのままアーリフは爆散。キャップ型のコインが散らばり、青白い光の球が地面に溶けて消え去った。
『おっと? どうやら東区付近に現れたデューラントが討伐されたようですね。今回ポイントゲットしたスターライダーはポラリス、ぺーぺーの新人ですねぇ面白くない! まぁ富裕層と契約していない無名の活躍など一切どうでも良いので割愛しますが! さてそれでは、北区に所属する代表的なスターライダー、"キング・レグルス"
後ろから追って来ていた残りのスターライダーたちに、ポーラセイザーを肩で担ぎながら睨みを効かせると、彼らは悪態をつきながらもすごすごと退散していく。
その様子を眺めて息をつきつつ、ポラリスは手元のN-フォンを使い、地区ごとのスターライダーのランキングと自分の得ている点数を調べる。
自分の現ポイントは、TOP10に掠りもしていない。
「これでもまだ南東区の上位にすら全然届かない……もっと手っ取り早く、できるだけ多くのポイントを稼いで1位にならないとな」
言いながら、ポラリスは再びマシンスプライダーに跨る。
「なくなった記憶を取り戻すために」
空を仰いで呟きを残し、ポラリスは去っていく。自分の帰りを待っている、三人の元へ。
二日後。
いつものように東区の公園でキッチンカーを停め、開店準備を進めているトレミーの面々の前に、二つの人影が訪れる。
ラジカセを出していた最星は、そのうちの一人の顔を見て、僅かに目を眉を寄せた。
あの時アーリフ・デューラントの攻撃から助けた男、常治だ。
「……いらっしゃいませ?」
ラジカセのスイッチを入れながら、最星は目を丸くして、そう言った。