ザナドゥー北区の、とある地下施設内。
無機質な白い壁に囲まれた、至る所に試験管や機材が乱雑に置いてある研究室にて。
N-フォンを片手に、にこやかに通話先の相手に語るその白衣の男は、キャスターつきの椅子をキィキィと鳴らしながら、もう片方の手で器用にキーボードを操作する。
「はぁい、ご利用ありがとうございますー。またのご連絡をお待ちしておりますー」
クマだらけの目が、暗く濁った緑の瞳が、愉悦の色を帯びた。
そして立ち上がった直後、一人の男が部屋を訪れる。
ライダーバトルコンサルタントの一人、コブラー・スコットだ。
男は彼を見ると、唇を吊り上げて手を振った。
「やぁコブラー、直接会いに来るのは久し振りだねー」
「リモートでも良かったんですがねぇ。たまにはこうして、自分の目で研究成果を確認しなければ」
「では、存分に堪能すると良い。僕の作品を」
白衣の男は鍵束を手に、コブラーの入って来た扉から共に外へ出る。
彼の置いていったカルテには、顔写真と共に、ルシタニアとニハルの名が記されていた。
雲の切れ間から光が差し込む朝。
ザナドゥー北東区にある魔祓課警察署にて。
「碧山巡査。今日でここに来て一週間になるが、もう慣れたかな?」
デスクの前に座る課長の花胡からそのように声をかけられた常治は、苦笑しながら首を左右に振った。
「いや、正直まだ分からないことばかりで戸惑うことも多いですよ」
「無理もない話だ。ただ、君にはそろそろザナドゥーでの本格的な仕事を覚えて貰わないといけない」
だから、と続けて手招きし、花胡はタブレット端末を操作してから常治の隣に移動する。
「改めてザナドゥーの地理について詳しく説明しておこう」
「は、はい」
傍らから鼻孔に抜ける芳しい花のような香りに思わず胸をときめかせつつ、常治がタブレットを見ると、その画面にはザナドゥーを上から見た地図が映っている。
壁によって外界から隔てられたこの街は円形となっており、北区から時計回りに青・緑・黄・赤と色付けされているのが分かった。
「地区ごとに色で分かれてますね。これは?」
「危険性の高い場所の大雑把な目安みたいなものだよ。北は安全地域、東側はその次。南側に近づくに連れデューラントの出没件数やスターライダー同士の抗争が増え、西側が一番危険。これをさらに四区分化し、北東区や南東区と呼んでいるワケだ」
「なるほど……」
「ただ飽くまでもこれは簡単な区分で、実際はより厳密に分かれている。例えば、同じ北西区でも北北西と西北西では状況が大きく異なる。西北西から押し寄せて来るデューラントから北区を守るために、北北西は軍事拠点のような有り様になっているから」
西区は人が住めるような土地ではないということを常治も何度か聞かされていたため、彼女の言葉に納得しつつも、地図のある一点を見て首を傾げる。
ザナドゥーの中心部に当たる区画、いわば中央区。そこだけが
壁も黒で塗られているので、ここだけ壁と同じような物体があるのかと考えたが、しかしそんなものがあるなら遠くからでも確実に見えるはず。当然ながら、常治はそんなものを見た覚えはない。
「ここはどうして塗り潰されてるんです?」
思い切ってその黒丸について尋ねてみると、花胡は僅かに眉をしかめた後、柔和な笑みに戻って答えを出す。
「そこは『禁域』だ」
「禁域……?」
「誰一人として立ち入ることを許されていない、人喰いの樹海。隕石が落ちて来た後、そうなった。君も迂闊に近づかないように」
樹海と言われ、常治は納得した様子で数度頷く。
閲覧できるザナドゥーについての資料の写真の中に、確かに森のような場所があった。それが中央区だったのだろう。
続いて、花胡はタブレットの画面をスターライダーが写ったものに切り替える。
「もうひとつ、君に教えておかなくてはならないのは……スターライダーたちの中には十二人の『トップスター』と呼ばれる者たちがいることだ」
「トップスター、ですか?」
「ああ。ザナドゥー全体で見たスターライダーのランキングにおける上から十二位までの者たちのことで、住民からの人気も高い。君も東区でポスターを見かけなかったか?」
言われて常治が思い出すのは、街に来たばかりの頃に貼り出されていた牛やライオンのスターライダーたちの姿。
その時に見た仮面と、タブレットに写る獅子のスターライダーが合致する。
重厚な鎧めいた黄色の装甲を纏う緑眼の戦士で、頭部は王冠やタテガミを彷彿とさせる形状である他、両手には大振りな剣が握られているのが分かった。
名をレグルスというらしく、ランキングは堂々の1位だ。
「彼らは市長から直々にザナドゥーの守りを任されている。最上位四人に北区・東区・南区・西区を、残る八人には中央区を除く残りの区画を順番交代で巡らせているんだ。それで住民への被害を食い止める、と市長は説明している」
「ん? 待って下さい、この街の市長ってかなり嫌われてるんではないんですか? 聞く限りだと、熱心にデューラント対策を講じてるように思えますよ?」
東区には市長のポスターもあったが、本人の顔と名前が分からなくなるレベルの落書きをされていた。
ランキング上位の者たちにパトロールをさせているなら、そこまで嫌われるはずがないのでは、と常治は考えたのだ。対し、花胡は頭を振る。
「ここだけ聞いたら君がそんな風に思うのも無理はないだろうが、現実には北区以外でデューラントの出現情報・被害報告は減っていないし、むしろ増加傾向にある。ライダーバトルの被害も含めてな」
「状況が全く好転していないから、住民の市長に対する不満が爆発してるのか……でも、どうして増えてるんです?」
「明確な理由は不明だが、大体の察しはつく。個人によって多少の差異はあれど、スターライダーたちはポイント稼ぎを目的にしている。そして被害が大きくなればなるほど、賞金首のデューラントに課せられるポイントも増えていく」
そこまで聞いて、常治は「まさか」と花胡の語る内容を理解して目を剥く。
要は、住民たちや街に起こる被害を徹底的に無視してどんどんポイントを貯め続け、肥やしてから奪い合うという手法を取っているということだ。それも、死人が出ようがお構いなしに。
願いを成就させることが目的である以上充分に考えられることであり、被害が全く減らないことにも説明がついてしまう。
「なんて酷い連中だ……市長も、これじゃほとんど対策していないのと同じじゃないか」
「まぁ市長が北区の住民以外から嫌われている理由についてはそれだけじゃない、というか原因は山程あるが」
「どういうことです?」
「知っての通りこの街を出るにはパスポートが必要だが、発行は北区でしか行われていない。紛失した場合の再発行も同じだ」
「でも北区に入るのは簡単なことじゃない、って……そりゃあ嫌われるな……本当に市長として仕事する気があるのか?」
頭を抱え、常治は溜め息を漏らした。
さらに花胡は再びタブレットを操作し、先程とは別のスターライダーの姿を彼に見せる。
「トップスターには極力接触しないようにしてくれ。特に、ランキング3位の『彼女』は最も危険だ」
「彼女、というのは?」
そこに映っているのは、頭部から二本の牛角を伸ばす、裏面に翼が刺繍された赤いマントとメタリックブルーの装甲が特徴的な女戦士だ。
花胡が画面をスライドさせると、写真が切り替わって変身者と思しき女の姿が映し出される。
「丹羽 汐、アルデバラン。南区を守っているスターライダーだよ。彼女を一言で表現するとすれば、そうだな」
画面内の縦ロールの赤髪と盛り上がった筋肉が目を引くお嬢様のような風貌の人物を見下ろしながら、花胡は呟く。
「『
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃、ザナドゥー南東区にて。
「はい、どうぞ」
茶色い毛並みの小犬を抱えてそう言いながら、解決屋トレミーのリーダーである茅英璃は、目の前に立つ幼い女の子の足元にその犬を下ろした。
小犬はキャンキャンと鳴きながら飼い主に擦り寄り、尻尾を振って立ち上がって、しゃがんだ少女の顔を舐め始める。
笑顔を咲かせた少女は犬を撫でつつ、連れて来てくれた茅英璃と最星に礼を述べた。
「ありがとうお姉ちゃん、お兄ちゃん! ペロちゃん見つけてくれて!」
「今度ははぐれないようにな」
「うんっ!」
少女は元気いっぱいに最星らへと手を振った後、ペロちゃんと言うらしい小犬と一緒にその場から去っていく。
二人も今回の依頼主である少女の背中を見送った後、公園に停めたキッチンカーの方に向かって歩き出す。
「今日は随分と平和な気がする」
「近場でデューラントの出現情報が出てないしねぇ。最星も、今の内にゆっくり身体を休めておきなさいよ」
言いながら茅英璃は未来のいる調理場に立ち、最星は環と共に接客を始める。
そして、しばしの後。キッチンカーに、一人の来客が訪れた。
「トレミーってここで合ってるかい?」
「あ、いらっしゃ――え!?」
来訪者の方に視線をやった環が、ギョッと目を見張る。
そこに立っているのは、眼帯を着けた女。スターライダースハイルの変身者、蘇芳田 ヒカルだった。
思わず、環はグッと息を呑む。まさか最星を直接襲いに来たのではないか、と。
「なんだよ。アタシの顔に何か付いてる?」
しかし彼女自身が戸惑った顔を浮かべたことで、その疑念はすぐに晴れた。
では、一体何をしに現れたのか。目的を探るため、最星は「オーダーは?」と尋ねる。
「とりあえずハンバーガーのMセット、ドリンクはコーラでね……それと、情報とか扱ってねぇか? ポラリスってスターライダーについて知りたいんだよ」
ヒカルの目当てはポラリスに関する情報。それが分かったところで、茅英璃が動く。
「どうしてそんなことを? ひょっとしてお客さん、スターライダーなのかしら?」
「まぁな。そんで、何か知らないか? 知ってそうなヤツを教えてくれるだけでも良いんだ」
「残念だけど、情報も心当たりもないわ。匿名ライダーだってことくらいしか聞いたことないし」
当然ながら、茅英璃は最星のことを教えない。相手の目的が何であれ、不利益にしか働かないことは明白なのだから。
とはいえヒカル側の事情も気になったので、最星はひとつ質問を投げかける。
「そのスターライダーの情報は、金を払ってまで欲しいものなのか?」
「そういう依頼なんでね。直接ポラリスに会えりゃ良いんだけど、居場所を知らないからそれも難しい」
目と鼻の先に本人がいるのだが、彼女がそれに気付くはずもなく、憂鬱そうに頭を抱えていた。
「ぶっちゃけ金のことは良いんだよ、仕事が済めばいくらでもお釣りが来るくらいの報酬が約束されてる。問題はあんたらが言った通り、匿名ライダーってところなんだよなぁ。分かっちゃいたが全然情報が集まらねぇ」
「難しいなら断れば良かったんじゃないの?」
「正直、断れるんなら断りたかったよ。でも依頼人が依頼人だからそうも行かねぇんだ。トップスター相手じゃなけりゃ、ブン殴って追い返してたのに……ハァ……」
ヒカルはそう言ってから、ハンバーガーセットを受け取り「また来るよ」と告げてから去っていく。
一同はその姿が遠ざかるのを確認しつつ、声を潜めて話し合う。
「今の話、ちゃんと聞いてた?」
「もちろんだ、でも意味が良く分からなかったな。トップスターとやらが俺を狙っているということか?」
だとすれば、一体何のために?
全員が疑問に感じる中、ハッと環が顔を上げた。
「もしかしてさ……そいつ、最星のことを何か知ってるんじゃ」
「だとしたら、最星のことを直接調べるんじゃない? 仮に誰が変身してるのかを知ってるなら、そもそもポラリスの情報を集める必要なんてないんだから」
「うーん……それもそうか。記憶の手がかりになるかもって思ったんだけどなぁ」
せめて誰がポラリスを探しているのかを聞き出すことができていれば、とも最星たちは考えるが、そこまで踏み込んで聞き込むと今度は怪しまれてしまう。
いくら頭を捻っても答えは出ないので、四人は一度この件について話し合うのを中断し、仕事に戻った。
そのすぐ後に、キッチンカーから少し離れた場所で事件は起こる。
「誰かぁぁぁぁぁ!! ひったくりよぉぉぉー!!」
耳を裂かんばかりの悲鳴が最星たちにも聞こえ、その方向を見れば、そこには赤いバッグを握って走り去る小柄な男と、躓いて足を挫いてしまった女がいた。
最星と茅英璃は目を合わせると、頷き合って背中越しに互いへ声をかける。
「行ってくる」
「早めに済ませなさいよ」
そして最星はすぐに、犯人を追跡するべく走り出す。
追われていることが分かると、男はさらに走る足を速めるが、最星もそれに対応してスピードを上げる。
男は僅かに振り返って小さく鼻を鳴らし、ビルの間にある狭い路地裏に侵入。そこにある柵や古い室外機を伝って、上へ上へと手早く登っていく。
「速い……!」
「ヘッヘッヘッ! もう諦めな兄ちゃん、パルクールはオイラの十八番だ! 同じことができない限り、ついて来れるワケねぇんだよォ!」
嘲笑い、男はビルの頂上まで跳躍。そのまま隣のビルまで飛び移る。
このままでは逃げられてしまうことは最星にも分かっているが、慌てる様子はない。
むしろ落ち着き払って、先程男がやってみせたパルクールの動きを思い出し――まるでトレースしたかのように全く同じ動作でそのまま登ってみせ、男のいる側のビルまで一気に辿り着いた。
「んなぁっ!?」
「これがパルクールというものか、分かったぞ。で? もう逃げないのか?」
「く、クソッ……調子に乗ってんじゃねぇ!」
気圧された男は上着のチャックを下ろして、に予め巻いておいたグラスプドライバーを露出し、ホルダーからハンドリンクを取る。
ここで変身するつもりだ。最星が同じように仕込んであるドライバーを見せようとした、その寸前。
「見つけたぞ窃盗犯! そこまでだ!」
階段から屋上に登って来た一人の男が、その場に介入する。
盗人の背後で警察手帳を突きつけているその人物は、最星も面識のある人物だ。
「刑事の……確か、碧山?」
「ん? 神浦くん?」
解決屋と警察官という二人組に挟まれたひったくり犯は、別のビルの方に向かって疾走。
「逃がすか」
しかし最星はそれを見逃さず、落ちていた鉄パイプを拾い上げ、鞄を持つ左腕に向かって投擲した。
「うおあぁっ!?」
男の手から盗んだバッグが落ち、すかさず常治がそれをキャッチ。
犯人自体は取り逃がしてしまったが、盗まれたものは無事に奪い返すことができた。
「まったく……盗みを働くばかりか、変身して危害を加えようとまでするとは。連中は恥というものを知らないらしいな」
「とりあえず助かったぞ、碧山。これを持ち主に荷物を返しに行くが、ついて来るか?」
「ああ、同行するよ」
そう言った後、常治はふと思いついた様子で自身の鞄から一本の缶を取り出して、最星に手渡す。
ラベルに『エメラルドキャニオン』と書かれたブレンド缶コーヒーだった。
「これは?」
「大したものじゃなくて悪いけど、協力のお礼。俺はこのコーヒーが好きでね」
階段の方へと歩きながら、常治が言う。
最星は缶を開けて一口、香ばしい匂いのするコーヒーを飲んでみた。
滑らかな舌触りの後に口の中で苦みが広がり、それと同時にクリーミーな甘い味が喉を通っていく。
「これは……コーラとはまた違う、新しい刺激だ」
「コーヒーを飲んだことなかったのかい?」
「こっちの地区では自販機でも置いてない。店で買うと、そこそこ値段がするから買わない方が良いと茅英璃が言っていた」
「あ、そういう……ともかく気に入ったみたいで良かったよ」
常治が再び歩き出した後、仕込んであったベルトが反応を示し、ハンドリンクを生成する。
誤って見つからないように注意しつつ、最星はそれを密かに回収してそそくさとトレミーへ戻るのであった。
一方。
盗んだ鞄を失った男は、その後南区の荒廃した貧民街に逃れていた。
「はぁっ、はぁっ……あのクソ警官め! 人の仕事のジャマしやがって!」
苛立った様子で、その男、
投摩は元々隕石が落ちる以前からこの近辺に住んでいた子供で、ザナドゥー化から生き延びた後も過酷な環境で生きていた。
それこそ、人から物を盗むことや、奪うために争うことなど日常的であると考える程に。
「欲しいモンは自分で盗んで奪うのが、この街のルールだろうが……!!」
『ごきげんよォう!』
「うお!?」
『
「な、なんだ……コブラーの放送か」
突然上空から聞こえて来た声に戸惑いつつも、投摩は廃墟の壁に背を預けて放送に耳を傾ける。
『現在、西区から大量発生したと見られるデューラントが猛スピードで南区に向かって進行中! ポイントの稼ぎ時ですよォ~! 南区の皆さん、死ぬならできるだけ惨たらしく死んで下さいね! デューラントに懸けるポイントが増えますので!』
それを聞くと、他の住民たちはすぐに避難を始めたり、建物の中に隠れていく。
だが投摩は逆に戦意を滾らせ、白キャップで全体が赤いボトルを取り出してキャップを回し、ドライバーに装填する。
「ちょっくら憂さ晴らしをさせて貰うか……」
ラベルに書かれている名前は『
そのままハンドルレバーを回転させ、天面のボタンを拳でプッシュ。グレーのアンダースーツを纏って、周りを赤い液の入ったボトルが取り囲む。
《
「変身!」
《
赤色の液を全身で浴び、それが装甲に変わって胸に
これによって完成したのは、全身が真っ赤な装甲で覆われた、緑のエネルギーラインが目立つカエルの戦士。
「ハッハァ! どけどけぇ!」
《
「未来のトップスター、ディフダ様が通るぜぇ!」
言いながら、スターライダーディフダに変身した投摩は得意のパルクールで建物の屋上に登り、両腕を突き出す。
直後に両腕の下部に備えられたノズルから赤い液体が放出され、それが外気に晒されてすぐに、熱を放ってメラメラと燃え上がり、地面に落ちると共に爆発した。
「デューラント? スターライダー? 人間? 何だろうと全部関係ねぇ! どいつもこいつも、オイラが纏めて爆破してやるぜ!」
今度は手にエネルギーを集めて握り込んでから離すと、ヘタの部分が安全ピンとなっているトマト型の手榴弾が形成される。
ディフダはピンの外れたそれを放り投げ、地上にバラ撒く。
幾度もの爆撃で火の手が燃え広がり、デューラントの襲撃もあって住民たちは悲鳴を上げ、街は混沌の渦に飲み込まれてしまう。
さらに、建造物などの障害物がなくなったことで怪人たちの侵攻もスムーズになり、逃げ遅れた者たちを襲いながら南区を通過していく。
「良いぜ良いぜぇ、そのまま南東区も越えちまえ。どんどん進んでくれりゃあオイラの貰うポイントも跳ね上がるってモンだ」
ポイントを得るには当然デューラントを倒す必要があるのだが、ブラストマトフレーバーは絨毯爆撃が得意な形態であるため、ディフダは余裕の表情を保っていた。
逃げ惑う者たちの中には、小犬を抱きかかえて走る少女の姿もある。
ディフダは彼女を見つけると、目障りだとでも言っているかのようにトマトグレネードを少女の方に投げた。
「あ……っ!?」
頭上から迫る爆弾と、背後から追跡して来るナイフ怪人、エンフィク・デューラント。
ヘタの取れた部分から熱を帯びる赤い液体が溢れかかる寸前、銃声が轟き、手榴弾はエンフィクの方に飛んでいく。
その瞬間に爆発が起こり、斧を持つ一人の戦士が爆炎を割いて躍り出た。
ワンダーライムフレーバーのポラリスだ。
《
ワンダーコーラハンドリンクを装填したポーラセイザー・アックスモードで横薙ぎにエンフィクの頭を叩き割り、振り返って声をかける。
「大丈夫か?」
少女は頷き、涙を滲ませながらもシロクマの戦士の手を取る。
よく見れば彼女は、先頃ポラリス――最星自身が助けた依頼人であった。
「ここは危ない。安全なところに行くぞ」
「ありがとう、ございます」
とはいえ犬を連れている以上、マシンスプライダーやメトロストリーマーを使うワケにはいかない。ワンダーライムの走力も、彼女らを置き去りにしてしまう。
ひとまずハンドリンクを変えるべきだ。そう考えるが、そこにディフダが爆破液を射出して介入した。
「くっ!?」
「ヒャッハハハァー!! お前面白いなァ、そのザマでオイラやデューラントから逃げるつもりなのか!? 笑えるぜお人好しちゃん、
ポラリスは少女を守りながら辛うじてディフダとデューラントの攻撃から逃れるものの、時折攻撃が掠めてしまい、装甲が摩耗していく。
さらに。追い打ちをかけるように、南西区から見覚えのある大きな装甲車が現れた。
乗っているのは、やはり見覚えのある太った男のスターライダー三人組だ。
「麦澤三兄弟……!」
ポラリスの姿を見つけると、三兄弟はそれぞれ下品な笑みを見せる。
「
「あいつには負けっ放しだからなぁ」
「丁度いいしここらで仕返しさせて貰おうぜ、
アルニラム、アルニタク、ミンタカ。ムギムギダンダンフレーバーを使う三人のスターライダーは、二人と一匹を轢き殺すために突撃して来る。
それでもポラリスは少女を守るために、纏めて抱えながら走り出した。
背後から何度も攻撃を受け、アーマーが徐々に崩れる。その姿を見た少女は、堪らず泣き出してしまう。
「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい! わたしのせいで……」
「君のせいじゃない、それより怪我はないか?」
指で少女の涙を拭いつつ、ポラリスは走り続ける。
そんな彼を嘲笑うかのように、紫色のメトロストリーマーに乗ったディフダが多量のトマトグレネードを落とした、その時。
「おいおいカス野郎共、よってたかって何つまんねぇことしてんだ?」
女の声と共に投げ込まれた白い盾がポラリスたちを守り、すぐに持ち主の手元へと戻っていく。
驚きながらも、ポラリスは自分の方に歩いて来るそのスターライダーに声を上げた。
「スハイル!?」
「アタシが相手してやるよ」
言いながらリスのスターライダーはポラリスの傍らに立つと、視線を合わせて短く頷く。
今の内だ、と。
ポラリスはその合図に従い、ドライバーにセットしたハンドリンクを、青と白で彩られたラベルのハンドリンクと入れ替えた。
《
「お陰で逃げ切れそうだ」
《
走りながら三度ハンドルレバーを回し、スイッチを入力。
ボトルから吹き出した半透明の白い液体、スポーツドリンクを浴びつつ、装甲を形成させていく。
《
それによって完成したのは、両肩や胸など必要最低限の部位に軽量の青いプロテクターを配している、
ポラリスがパチンッと指を弾くと、その場に大きな青色の水上バイクのようなものが出現し、操縦席に跨った瞬間に白いエネルギーラインが発光した。
《
「さぁ、乗ってくれ」
この水上バイク、マリンフローターはメトロストリーマーのような飛行能力こそ持たないものの、地上においては浮遊して移動することが可能。無論、水場では陸以上の速度を出すことができる。
少女も犬と共に搭乗、しかしそこへボブルヘッズと共にミンタカが奇襲をかけに動く。
「逃がすかよ!」
振り抜かれるハンマー。直後、ポラリスはハンドル中央部のパネルを操作、マリンフローターを覆う形で白く薄い球状のバリアを生み出して攻撃を防いだ。
さらにポーラセイザーをガンモードに変形させ、ミンタカの顔面へ数発の銃弾を食らわせる。
「ぶわっ?!」
「相手をしてやる暇はない、失せろ」
そう言った後、スハイルへ軽く手を振って礼を述べ、ポラリスは去っていく。
「悪ィな……結局、借りは返せてねェんだ」
小さく呟いた彼女の言葉は、マリンフローターの駆動音に掻き消された。
※ ※ ※ ※ ※
マシンを走らせ続けている内に、ポラリスは自身のホームグラウンドである南東区に帰還していた。
「ここまで来ればひとまずは安全だ」
近くにはトレミーの拠点もあるため、そこを頼れば保護して貰えるはずだと少女に伝えた後、再び南区に向かって出発する。
根本的な問題、即ちデューラントたちを全滅させなければこの戦いは終わらず、スターライダーもバトルを止めない。
スハイルの援護も必要だと考えて、来た道を引き返している、その最中。
「お嬢様、恐らくアレがポラリスです」
「まぁ! やっと会えましたわ!」
二人の長身の男女が、ポラリスの行く手を阻んだ。
「誰だ、お前らは」
マリンフローターを一時停止させ、尋ねる。
すると、青いドレス姿の赤髪の筋肉質な女が丁寧な所作で一礼した後、口を開く。
「ワタクシは丹羽 汐、スターライダーランキング3位のアルデバラン。あなたを探していましたのよ。強いという噂が事実であれば良いのですけれど」
自分を探しているトップスター。恐らくヒカルの言っていた人物だろうと、ポラリスは考えた。
相手はグラスプドライバーを装着しておらず、一見して無防備であるかのように思えるが、その強靭な筋肉からは全く隙を感じられず、ポラリスは油断なく身構える。
しかし、実際に前に出たのは彼女の執事らしい、レイピアを腰に帯びた金髪の男であった。
「まずはテストだ。貴様の、実力の程を見せろ」
「なんだ? いきなり何の話だ?」
「黙れ」
男はそう言い放って会話を打ち切った後、自らの腰にグラスプドライバーを装着する。
さらに赤いラベルに透明なボトルのハンドリンクを取り出し、それのキャップをひねってセットした。
《
「お嬢様の仰ること、お嬢様の求めることは絶対だ。無駄な疑問を挟んで時間を浪費するのはこの私が許さん」
「お前もスターライダーなのか……!?」
《
「変身」
ドライバーが操作され、アンダースーツが身体を覆って頭部にツノのようなものが伸びた鋭角な魚のヘルムと共に、周囲から現れたボトルから炭酸水らしい透明な液体が噴出。
騎士の甲冑めいた装甲が生み出され、背中や下腿や踵などにはバーニアも装備されていく。
《
「従えぬなら……今、この場で始末する!」
《
最後に、右手に透き通った細身の剣が握られ、そのカジキの戦士は完成する。
「我が名は
ナレディと名乗ったスターライダーは、騎士然とした仕草で剣を掲げて切っ先を突きつけ、言い放つ。
「構えろポラリス、決闘だ!」
バーニアで真っ直ぐに加速しながら突き出された剣先が、ポラリスに迫る。