デューラントの大群がザナドゥー南区に押し寄せる中、スターライダースハイルは、怪人たちの猛攻から身を守るのと同時にスターライダーをも相手取っていた。
『ドォリャァッ!!』
「しゃらくせぇよ、クソ野郎共!!」
麦澤三兄弟が同時にヤカン鉄球を振り回し、ボブルヘッズたちを押し退けながら襲いかかる。
しかしスハイルはそれを、いとも容易く盾で弾き返す。
ヤカンはそのまま、持ち主たちの頭へと直撃した。
「ゲッ!? こ、こいつ!」
「女のクセに生意気なヤツめ!」
「俺たちの邪魔をすんじゃねぇ!」
怒声を発しながら反撃しようと動くアルニタクたちに対して、スハイルはサルピシウムシールドを投擲し追撃、三人のコンビネーションを事前に崩す。
「ごちゃごちゃうるせェんだよ三下兄弟! ちったぁマシな実力付けてからアタシに挑みな、ウスノロ共が!」
地面に尻餅をついたアルニラムに蹴りを食らわせようとするスハイル、しかしそこへ、大柄な怪人が割り込んだ。
日本の提灯を思わせる胴体に、ハロウィンのカボチャをくり抜いたような一ツ眼と大きな口が付いた異形で、本来頭があるはずの部位には燃え盛るランタン、足はなく浮遊している。
背中からはいくつものボトルが伸び出ており、中にはパンプキンリキュールと思しき液体が詰まっていた。
「新手のデューラント……確かこいつ、ネルトラン!?」
「ギャギャーッ!」
ネルトラン・デューラントは腹の口で大きく息を吸い込み、直後に三兄弟やスハイルに向かって、燃え盛る業火を吐き出す。
四人のスターライダーたちは咄嗟に回避、及び防御行動を取った。
アルニタク・アルニラム・ミンタカは逃げ切れずに炎で装甲を溶かされてしまい、シールドを構えていたスハイルも苦悶の声を上げる。
「うわ熱ィ!?」
「クソ、盾が保たねぇ……!」
デューラントの群れの多くはこの隙に南東区を目指して進行し、残りのエンフィクやアーリフなどは自身の配下であるボブルヘッズと共にスターライダーたちにトドメを刺さんと攻撃を開始。
さらに。
「ヒャハァーッ! 隙ありィー!」
メトロストリーマーで頭上を飛ぶディフダが、怪人もライダーも関係なく無差別にトマト爆弾を地上に投げ捨てた。
「は!?」
「えっ、ちょっ待っ……」
「兄貴ィ!? よ、避けろォーッ!!」
三兄弟は激しい爆炎に飲み込まれ、変身が解除。
しかし混乱に乗じたスハイルはデューラントの包囲から逃れ、ディフダを睨んでいた。
「チィッ、爆弾野郎がふざけやがって……」
「テメェは終わりだなァスハイル! 安心しな、今すぐ殺す気はねェよ! 代わりに手足フッ飛ばした後で、オイラが
「本当に最低のゴミ野郎だなテメェ」
そう言い捨てた後、スハイルはドライバーにセットしているサルピシウムハンドリンクを抜き、ホルダーから一本のボトルを手に取る。
そして、刃のついた腕を振りかぶるエンフィク・デューラントから身をかわしつつ、そのハンドリンクをセットした。
《
「守りは捨てる」
《
アーリフの銃撃とネルトランの口から放たれた火球もステップで避けながら、レバーを三度ひねった後、スハイルはすぐさまボタンを押し込む。
《
「アタシを怒らせたことを後悔させてやるよ!」
《
音声と共に装甲が修復され、両肩や脛のアーマーにトゲが増えた荒々しいデザインに変化する。
それに加え、盾も光に包まれて形状が変わっていき、表面にバックラーの付いたパイルバンカーに変形した。
だがディフダはその様子を見ても動揺せず、むしろ余裕ぶって鼻で笑っている。
「切り札を出したつもりかも知れねェけどなァ、バカ女め! そのちっぽけな盾でどうやってオイラの爆弾を防ぐんだよ!」
言いながら、ディフダは再び大量の爆弾を空からバラ撒いた。
その瞬間、スハイルは地面にパイルバンカーを突き立て、トリガーを引く。
すると轟音と共に、亀裂の走った地中から大きな白い骨が伸び出し、トマトグレネードをディフダの方に押し返す。
投げ捨てたはずの爆弾に周囲を取り囲まれ、逃げ出す間もなく、カエルの戦士は爆発に飲み込まれた。
「ウグガッ!?」
破壊的な威力の爆炎を自ら受けてしまい、ボードも壊れて地面に墜落。
強かに頭を打ったディフダは、地面に這いつくばったままスハイルを睨んだ。
「て、テメェ、このクソアマがァ……ッ!!」
「ヘッ、ざまぁねェな」
嘲笑う声を発した後、スハイルはふんぞり返って手招きをする。
ディフダは拳を地面に叩きつけながら立ち上がり、二人同時にハンドルレバーに手をかけた。
双方とも、必殺技を食らわせて決着をつけようと考えているのだ。
「ブッ殺してやるッ!!」
「やってみなよ」
《
《
スハイルがエネルギーの集中したパイルバンカーを構え、ディフダは両腕のノズルを彼女に向ける。
そして炸裂し、ぶつかり合う白と赤の二つの光。
ディフダは赤い液体を球状にし無数にて放ち、スハイルの進路を妨げつつ包囲。
だが彼女はその一切を無視し、疾走しながら白い閃光を真っ直ぐにパイルバンカーから解き放ち、無理矢理に進路を開拓。周囲のデューラントたちも巻き込んでそのまま突っ込み、閃光の杭で一撃を叩き込む。
「ギャアッ!?」
胸の装甲を砕かれて変身解除させられ、投摩は地面に背を打ち付けて倒れる。
スハイルはそのまま投摩のグラスプドライバーをも破壊しようと目論むが、その前に先程の攻撃から生き延びたネルトランやエンフィクが立ち塞がった。
「チッ、思ったより多い。こりゃ逃げるしかなさそうだな」
「ま、待ってくれ! 助けて、助けてくれ! このままじゃ死んじまう!」
「うるせェよ。ひとりで勝手に殺されて、デューラント連中の賞金上げの肥やしにでもなってろ」
「嫌だァァァッ!?」
ネルトランが再び息を大きく吸い込み始め、スハイルに対してエンフィクとアーリフが二体がかりで斬撃・銃撃による強襲を仕掛ける。
必殺技を発動した影響で、スハイルは現在エンプティフレーバー。防御能力は低下して武器も失っており、敵の猛攻もあってハンドリンクを換える暇もない。
「あークソッタレ、ここまでかよ……!」
エンフィクの刃やアーリフの銃弾をかわしながらも、次に来るであろうランタン怪人の火炎から逃れる術がないことを彼女は自覚しており、徐々に戦う気力も失われていく。
そして、その瞬間は訪れた。大きな口から吐き出された炎が、スハイルと投摩を飲み込まんと襲う。
死を覚悟し、スハイルが両腕で自分の身を覆った、その時だった。
「ギャアッ!?」
ネルトランの背後から影が一つ襲いかかり、胴体が逸れたことによってスハイルたちは火炎の息吹の被害を免れる。
「なんだ!?」
何が起きたのか理解できず、自分たちの前に現れた乱入者に目を凝らしてみると、そこには尖った耳のヘルムが特徴的な、ジャッカルの戦士が立っていた。
スターライダー共通のアンダースーツの上に、鮮やかな緑をベースとした網目状の金色の模様が入ったエジプト風デザインの堅牢な装甲が体の各部を保護し、薄黄色の鋭角な眼部が真っ直ぐにデューラントたちを捉えている。
さらに左腕にはアーマーと同じ模様が施された大盾が装備され、右手には先端部が天秤のような形状となっている長い錫杖を持つ。
その姿を見たスハイルと投摩は、目を剥いて後退りした。
「お前は確か、メトシェラ!?」
「トップスターの12位!? なんで、こいつがここに……!!」
二人の言葉が聞こえているのか否か、スターライダーメトシェラは何も言わず盾を構えながら、デューラントたちに詰め寄っていく。
先に仕掛けに行ったのは、エンフィク・デューラントだった。
「ギャアゥッ!」
右腕のナイフを素早く突きつけ、装甲を裂こうとする。
しかしその攻撃は容易く盾に弾かれて、反撃としてメトシェラの錫杖に頭を貫かれ、一撃で消滅した。
続くアーリフの銃撃も難なく回避、杖先から放った緑色の閃光がライフル怪人を射貫き、簡単に消し去ってしまう。
それを見たネルトランは身体に埋め込まれたビンを飛ばして砕き、ボブルヘッズたちをけしかけて大きく息を吸い込んだ。
ボブルヘッズで時間を稼ぐつもりだ。しかしメトシェラもその目論見を見抜いているのか、ワイングラス頭の戦闘員たちを盾で一息に押し退け、ネルトランが火炎を吐く前に杖で突いて中断させた。
「グ、グ……ゥ!?」
ゲホゲホと息を吐き出し、苦しむネルトラン。見れば、態勢を立て直している間にメトシェラは全てのボブルヘッズを倒し消滅させている。
あらゆる攻撃を防ぎ無傷のままでいるジャッカルの戦士を前に、完全に圧倒されて戦意喪失してしまっていた。
そんな折、ネルトランの背後からさらなるデューラントが現れる。
茶色い葉のようなものを全身に巻いて覆った、ミイラのような怪人。頭には、ラム酒の詰まったボトルビンの口が見える。
目鼻口の部分に開いた穴や葉で覆い切れていない隙間、指先からはもうもうと煙が立ち上り、目眩のするような臭気を放っていた。
そのデューラントは両腕を突き出しつつ、さらに大きく息を吐き出すと、激しい悪臭の白煙がその場を埋め尽くす。
「うわ、やべぇ!?」
堪らず声を上げ、スハイルは走って距離を取った。
ラジック・デューラント。毒煙を放って吸った者を中毒死させる力を持つ、葉巻の怪人である。
メトシェラが杖で地面を力強く衝き、緑の閃光を放って煙を吹き飛ばした頃には、敵影は全て消失していた。
ヒカルは変身を解除し、物陰に潜んで息を殺す。投摩や麦澤三兄弟はラジックの煙幕に紛れ姿を消しているが、まだメトシェラが残っているのだ。彼が襲いかかって来ないとは限らない。
《
しかし彼女の懸念とは裏腹に、ジャッカルの戦士は周囲に目を配ることなくスプライダーの缶を変形させ、バイクで早々に去っていった。
「助かった……のか?」
ようやく肩の荷が降りた、とばかりにヒカルは溜め息を吐いて、へたり込む。
そしてしばし休んだ後、ポラリスがいるはずの南東区に向かい足を進めた。
※ ※ ※ ※ ※
「ハァッ!!」
「く!」
スハイルが戦っているのと同じ頃、ポラリスは自身の前に現れたカジキの戦士、スターライダーナレディと交戦していた。
フェンシングの使い手である彼の素早い剣術は、今のスポーティマリンフレーバーでは文字通り太刀打ちできない程に苛烈なものであった。
「こんなものか、ポラリス! 貴様の実力は!」
そう言い放った後、ナレディは身体の各部に備えられたバーニアを吹かして加速し、自身の持つ細剣のスパーキングレイピアによる強烈な一突きをポラリスの胸部目掛けて繰り出す。
ポーラセイザー・ソードモードで咄嗟に応戦しようとするものの、斬撃が弾かれ全く通用せず、右肩の装甲を貫かれてしまう。
「がっ……!?」
「他愛ないな。お嬢様、もうよろしいでしょうか? トドメを刺してしまっても……」
ナレディが汐に問うと、彼女は退屈そうに頷いた。
「そろそろティータイムですものね。良くてよ、ウィル。戦えないスターライダーに用はありませんわ」
「かしこまりました」
言いながら、ナレディはグラスプドライバーのハンドルレバーに手をかける。
必殺技が来る。それを予感し、ポラリスもまた同じように動いた。
「遊びは終わりだ」
《
「くうっ!」
《
発動すると同時に、背後に停めてあったマリンフローターが自動運転を開始し、ポラリスは跳躍してそれに乗り込む。
そしてエンジンを唸らせてバリアを展開し、一気に突撃する。
対するナレディは激しい光を纏う剣をX字に振るい、バリアを斬り裂いて破った後、一気に突撃してマシンを砕く。
マリンフローターが破壊されたことに目を剥きつつも、ポラリスは咄嗟に剣をの側面で刺突を受け、しかし防ぎ切れずに吹き飛ばされてしまう。
「ぐ、はっ……!!」
そのまま地面に背を打ちつけ、フレーバーがエンプティになったことでポラリスの装甲が解除される。
溜め息の後、ナレディもまた必殺技を使ったことでエンプティフレーバーになった。
「所詮はただの下級ライダー、私の相手ではなかったな」
そう言いながら変身を解こうとした、その時。
「――気が抜けるな」
静かに立ち上がったポラリスが、ナレディの背に向かって声をかける。
「トドメを刺すんじゃなかったのか?」
「なに?」
「俺はまだ、生きているぞ。そこのお嬢様とやらに言った言葉、反故にする気か? 満身創痍の俺の命を奪うことさえできないのか?」
ピクッ、とドライバーを外そうとしていた手が止まった。
「刺激が足りないな、この程度じゃ」
指を弾くと同時に続け様に放たれたその一言で、ナレディは素早く振り返りつつ、ハンドリンクを入れ替える。
《
「図に乗るなよ貴様ァッ!!」
《
アーマーが再生成、さらにスパーキングレイピアも手にしたナレディは、ポラリスがハンドリンクを入れ替える前に切っ先を突きつけ叫んだ。
「せっかく拾った命をドブに捨てたことをッ!! 今すぐ後悔させてやるッ!!」
「やってみろ……」
そう返しながら、ポラリスは自身もポーラセイザーで斬りかかる。
その動作は、先程必殺技を発動してX字の軌道を描いたナレディのそれと全く同じもの。
無論、付け焼き刃も同然で自分の行動をトレースされたカジキの戦士は、より一層怒りを滾らせた。
「愚かな! 私の剣技を真似ているつもりか、貴様にスパーキングダムの突進力はあるまい!」
言いながら同じく剣を振って一撃目を正面から受け止め、二撃目はポラリスよりも速く斬り込んで彼を仰け反らせる。
続く最後の一撃で、ナレディは全力でバーニアを吹かせた。
《
「今度こそ終わりだ!! 死ねぇッ!!」
前へ踏み出した後に渾身の突きが炸裂しようとした、その瞬間。
よろめいていたはずのポラリスが、それよりさらに速く距離を詰めて潜り込んだ。
手に持っていたポーラセイザーはトンファーモードになっており、ハンドリンクをセットした状態で、ナレディの腹部に押し付けられていた。
「捕まえた」
「なっ!?」
「刺激的に、決めるぞ」
《
必殺技を使ったことにより、既にナレディはアーマーを失っている。
トリガーが小指で引かれ、必殺技が発動。トンファーを使って背後に投げ飛ばした後、振り向きながら思い切りシャフト部を叩きつけた。
「ガハッ!?」
凄まじい威力のカウンターヒット。
このたった一撃でナレディは変身が解けて、立ち上がることすらできなくなった。
「ば、バカな、この私が……」
「ただ真似るだけじゃ無意味なら、工夫して補えば良い。折角俺を侮ってくれてるんだしな」
「くっ……!」
拳を地面に叩きつけ、ウィルは上体を起こそうと藻掻きながらポラリスを睨む。
そうして立ち去ろうとしたところで、今度はグラスプドライバーを装着した汐が、ティーカップを手に立ち上がって声をかけて来た。
「あら、どこへお行きになるのかしら? まだ話は終わっていませんのよ?」
汐はニコニコと笑いながら、ティーカップに紅茶――ではなく『
続いてカップに口を付けて一気に呷ると、ドライバーに同じ名前のハンドリンクが自動生成された。
「ようやく盛り上がって来たんですもの、ワタクシとも遊んでくださるわよね?」
《
「……変身」
《
レバーの回転とスイッチの入力と同時に、地面から現れたメタリックブルーのキャップの上で、汐の筋骨隆々の身体がアンダースーツに包まれる。
さらに周囲を漂うボトルから黄色いエナジードリンクが放出され、色が変質してメタリックな青と銀の装甲を形成。背には、裏地が赤く翼の意匠が施されたマントが装備された。
《
「フッ、フフフ……ウフフフフフッ!」
《
最後に金色の双角が頭部から伸びた後、左腕を空へと掲げる。
すると、その手に牛の頭部を模した、エンプティハンドリンクが中央のスロットに収められている手甲型の武装が装着された。
《タウラスバイザー!》
「改めて……名乗らせて頂きますわね。ワタクシはスターライダーアルデバラン、ランクは3位。さぁ、楽しい遊びのお時間ですわよ」
言いながら、アルデバランは両腕を広げ悠然と歩む。
「そうですわね、今日は『鬼ごっこ』に致しましょう」
「なに?」
「ルールは簡単です。合図を出してから10秒経過したら、ワタクシはアナタを追いかける。その後1時間、追跡から生き延びればアナタの勝ち。時間になればこちらが勝手に追うのを止めますわ」
ハンデのつもりなのだろうか。そう思いながら、ポラリスは質問を投げかける。
「俺が負けになる条件は何だ?」
「それも至ってシンプル。ワタクシに殴られて、息の根が止まることだけですわよ」
アルデバランの赤い瞳が、鋭く閃く。とても愉快そうな、嬉しそうな声色で。
その姿を見て、ポラリスは息を呑みつつ確信した。
これはハンデなどではない。彼女自身が『狩り』という遊びを楽しむためだけに、ただルールを定めているに過ぎないのだ。
「では、カウントダウンスタート。10――」
《
《
数え始めてすぐに、ポラリスはドライバーにハンドリンクをセットしつつ、マシンスプライダーをその場に展開した。
今、ポラリスの手持ちのハンドリンクはかなり少ない。デューラントやナレディとの対決で消耗してしまっているからだ。この状況でトップスターと戦ったところで、勝ち目などない。
少しでも距離を稼ぎ、チェンジタイプのハンドリンクや、せめてメトロストリームを確保できれば。そう考えながら走り続けて、10秒が過ぎた頃。
爆音と共に、マシンスプライダーの速度に今にも追いこうとせんばかりの猛速で、地面に大きな蹄の靴跡をつけながらアルデバランが疾走して来る。
「なに!?」
「背中がガラ空きでしてよ?」
アルデバランは遠くからそう呟きながら、右拳を握り込みラリアットの態勢を取って、さらにスピードを上げた。
既に距離はほぼバイク一台分まで近付いている。このまま、背後から頭を薙ぎ払うつもりだ。それに気づいたポラリスはすぐにポーラセイザーをガンモードに切り替え、発砲する。
しかし、真正面から防御もせずに弾丸を受けたにも関わらず、アルデバランにはダメージを受けた様子も速度が落ちる様子も見られない。
「効いていない!?」
「ウフフッ」
笑いながら、アルデバランは追走を継続した。
クリムゾンバッファローフレーバーの装甲は非常に堅牢であり、並大抵の攻撃は通じない。ただし、その分重量も相当なものとなる。
それでも彼女がバイクに追いつけるレベルの異様な速さで走ることができるのは、ハンドリンクの能力でも何でもなく、鍛え抜かれ大きく発達した自前の筋肉があるからだ。
圧倒的筋力と走力、そして防御力を兼ね備えた暴れ牛の如き狂戦士。それが、スターライダーアルデバランである。
「ギャオッ!」
「む!」
考え事をしていると、今度はスハイルから逃れたボブルヘッズたちやエンフィク・デューラントらが目の前に立ち塞がった。
流石に相手をする余裕はない。ハンドルを右に切り、避けて通ろうとする。
瞬間、速度が僅かに落ちたタイミングで、アルデバランが加速した。
「うおっ!?」
咄嗟にポラリスも再びスピードを上げ、無理矢理デューラントを抜き去っていく。
その直後、強靭な腕から繰り出されるラリアットがエンフィクを薙いで上半身を容易に千切り飛ばす。
続いて向かってくるボブルヘッズたちに対しては、左手に持った手甲のタウラスバイザーに付いたトリガーを引きながら拳を突き出すと、牛角から超高温の赤いビームホーンが発振されて全ての敵を溶断した。
間一髪で逃げ切れた、と安堵したところで、アルデバランは再び左手甲を構えてポラリスの背に向けて引き金を弾く。
すると、今度は牛角を模した光の弾丸が二つ発射され、地面を抉ってバイクごとシロクマの戦士を転倒させる。
「ぐ、あっ!?」
「もう後がありませんわね、諦めた方がよろしくてよ?」
ポラリスはすぐに立ち上がりつつ、この状況を打開する術がないか、急ピッチで思考を巡らせた。
そしてホルダーに保持してある一本のハンドリンクに触れて、ハッと顔を上げ息を呑み、それを抜き取る。
「悪いがそうはいかない、意地でも逃げ切らせて貰う」
「負けを認めた方が速いと思うのですけれどねぇ」
「そうでもないさ」
ポーラセイザーの銃口を向けながら横転したマシンスプライダーを起こしつつ、ポラリスはグラスプドライバーにハンドリンクをセットし、ハンドルレバーに手をかけた。
《
「まだ試していない可能性が、ここにある」
《
ベルトの操作の後、アーマーが外れて再び周囲にボトルが出現。内包されたコーヒーのような液体が全身を覆い、姿が変化していく。
《
「さぁ、ハジケようか!」
《
流れる音声と共に現れたのは、軽量の青い装甲と肩周りにポンチョのような茶色いレザークロークを装備した、ガンマンのような風貌の戦士。
右手にポーラセイザー・ガンモードを、左手には専用武装である拳銃のエメラルドキャノンを持つ、スターライダーポラリス エメラルドキャニオンフレーバーである。
しかしアルデバランは少しも慌てることなく、真っ直ぐに突っ込もうと踏み出した。
「させるか!」
その寸前に、ポラリスは二丁の拳銃を構えて連続射撃を行う。
銃弾程度ならばどうということはないと高を括って先程と同様にノーガードでいたアルデバランだが、その油断が仇となる。
エメラルドキャノンから発射される黒い弾丸は、命中と同時に爆ぜて黒い粉末を撒き、装甲を同じ色で染めていく。
「あら、これは……」
粉末の侵食が進むに連れ、アルデバランは違和感と脱力感に苛まれていき、次第に腕の力も抜けてしまう。
これが、エメラルドキャニオンフレーバーの能力。粉末に含まれる毒素によって、敵を弱体化させることができるのだ。
度重なる黒化弾の命中に加え、アルデバランの背後からは残りのデューラントも迫っており、戦況は少しずつポラリス側に傾いていく。
《
そんな中鳴り響いたのは、タウラスバイザーからの電子音。
見れば、装填されていたエンプティハンドリンクがクリムゾンバッファローに変化していることが分かった。
さらにそれを確認したアルデバランは、そのハンドリンクを抜き取ろうと手を伸ばすが、その前にポラリスが左手を集中砲火して動きを妨げた。
そしてハンドリンクをポーラセイザーにセットすると同時に、ドライバーも操作して必殺技の態勢に移行する。
「お前には何もさせない、これ以上厄介なことをされる前に……」
《
「速攻で、刺激的に決めるぞ」
《
エメラルドキャノンの銃口の先に巨大な茶色い球体が出現、トリガーを引くとそれが撃ち出されて命中の後に砕け散り、彼女の全身を爆炎と黒い粉で埋め尽くす。
そこに殺到する、ポーラセイザーから放たれた緑色のエネルギーを纏う無数の銃弾。腕で身をかばったアルデバランであったが、装甲を脆くし力を失わせる黒い粉によって態勢を崩し、膝をついてしまう。
それでもまだ戦う力を残しているのか、すぐに立て直そうとするものの、様子を窺っていたデューラントに囲まれて進路を塞がれた。
「賭けは俺の勝ちだ。じゃあな」
ポラリスはその隙に、マシンスプライダーに跨って走り抜ける。
向かう先は、金網で仕切られた森の中――即ち、中央区だ。
「禁域に……なるほど、そこに逃げられたら確かにワタクシも追いかけたくありませんわ」
アルデバランがそう言って両腕を掲げて力を込めると、全身が一瞬真っ赤に発光した後、黒く染まった装甲が再び元の青色に戻る。
膂力も元通りになっており、立ち向かって来るボブルヘッズの頭を軽いチョップだけで粉砕せしめた。
だが、向かって来る怪人たちはまだまだ多い。アルデバランは短く息をついて、改めてタウラスバイザーのハンドリンクを一度抜き差しし、トリガーを引く。
「それにしても、
《
言いながら、アルデバランは両腕に真っ赤なエネルギーを集約させ、その場でラリアットするように一回転。
赤い竜巻が建築物も含めて全てを巻き込み、容易く粉々に打ち砕いてしまう。
「アナタが本当に禁域から出て来られるか、お手並み拝見ですわね」
変身を解除してそう言った汐の目は、まるで新しいオモチャを見つけた子供のように輝いていた。