突如として最星の前に立ち塞がった、スターライダーナレディの仁王院 ウィルとスターライダーアルデバランの丹羽 汐。
ナレディを退け、アルデバランから逃れる形で中央区へと侵入した最星は、少しの間森の中を進んだ後にマシンを降りて変身を解除した。
「なんとか撒けたか?」
少なくともアルデバランが追いかけて来る様子はない。
あとは来た道を真っ直ぐに戻り、汐たちに見つからない内に森から抜け出して、トレミーに帰還するだけ。
最星はマシンを缶に戻し、歩き進む。
だが、その途中で奇妙なことに気付いた。
「おかしいな、ここはどこだ」
それほど奥深くまで入っていないはずなのに、同じ道を引き返しているはずなのに、全く辿り着く気配がない。
周囲の風景は似たような木々が続くばかり、最星は移動している気がしなかった。
それなら、とN-フォンを取り出すが、圏外となっている。
「クソッ、通信もダメか。どうなってるんだここは」
中央区が禁域と呼ばれる樹海であるということ、安易に近付いてはならない場所だということは、最星自身も茅英璃たちから聞いて知っていたが、ここまで脱出が困難になるなどとは予想もしていなかった。
それでもひたすらに歩き続けたところ、さらに想定外の事態に発展する。
「ギャァウッ!」
「デューラント……!?」
立ち並ぶ木々の向こうから、何体もの怪人が姿を現したのだ。
先頭に何体もの猪口頭のボブルヘッズが長槍を持って並び、その後ろに甲冑を纏う鎧武者のような姿の真っ黒いデューラント数体が控えている。
もう手持ちのハンドリンクはかなり少ないが、死なないためには、戦うしかない。意を決して、最星はドライバーを装着した。
《
「変身!」
《
ポラリスへと変身した最星は、ポーラセイザー・ソードモードを手に颯爽とボブルヘッズたちに襲いかかる。
「中央区にもいるとはな……なおさら、脱出を急がなければ」
「シャアァッ!」
「今はこいつらをどうにかする方が先決だが!」
消耗させるのが目的なのか、戦っているのは陣笠のような猪口を被ったボブルヘッズたちばかりで、後ろのデューラントたちは刀を持ったまま様子を窺うのみだ。
さらに、デューラントによって差が生まれるものなのか、雑兵であるはずのボブルヘッズの戦闘能力と連携能力も高い。
ポラリスが距離を詰めようとすれば他の者たちが立ち塞がって動きを抑制し、後ろに回り込もうとすれば他の猪口頭が進路に槍を突き出してそれを妨げて来る。
かと言ってその場から逃げようとしても、今度は敵側の一斉突撃で阻止されてしまう。
このままでは生き残ることすらままならない。どうするべきか、武器を構えて悩んでいた、その矢先。
風を切るような音が、草を踏み枝を折って走る音が、ポラリスの背後から聞こえて来た。
「――はっ!?」
まさか、アルデバランがもうここまで追って来たのか。こんなにも早く。
そう考えて身構えるポラリスであったが、問題の人物は軽やかに大きく跳躍すると、一気にデューラントとポラリスの間に着地する。
先程の軽業めいた動きの印象に反して、その人物は老人であった。長い白髪を背中で一つに束ね、背筋をピンと伸ばしている、和装の男だ。
「アルデバランじゃない……誰だ!?」
「おや。なんじゃ、お主人間か」
その乱入者に対してボブルヘッズが一斉に長槍による刺突を繰り出し、老爺は攻撃をバックステップでかわした後、余裕綽々とハンドリンクを装填する。
《
「とりあえず下がっとれ、若いの」
《
ドライバーを操作しながら槍を蹴って取り落とさせた後、スターライダー全員に共通したグレーのアンダースーツが構築され、老戦士はその身にボトルから噴き出した緑茶のような液体を浴びた。
頭部にカニの甲殻を思わせる萌黄色のヘルムが合着、陣羽織のようなデザインの軟質装甲が装着されると共に、右手には鞘に納まった刀が一振り握られる。
《
「じゃあ、往くかの」
《
数体のボブルヘッズが迫って来ると、カニの武士はゆるりとした所作で前に踏み出し、クリアグリーンの刃を抜刀。
そうしていつの間にかすれ違ったかと思うと、カシッという納刀の音と同時に、猪口頭の足軽たちの胴がズルリと横一線に落ち、消散した。
あまりにも鋭い剣術。ポラリスがその技に思わず見惚れていると、デューラントたちも脅威を悟ったか、逃げ出していく。
老武士はその後ろ姿を見送り、自身の背後にいるシロクマの戦士に向き直って声をかけた。
「何をしに来たのか知らんが、若いの。ここに来るのは止めておいた方がいい。生半可な腕で生き残れるような場所ではないからの」
「忠告には感謝するが……南東区で人に追い回されて、やむを得ずここに来るしかなかったんだ。それで、帰り道が分からなくなって」
「ふぅむ」
自分の顎をさすりながら、老いたスターライダーは数刻の思索の後に「よし」と顔を上げる。
「ここで会ったのも何かの縁、ワシが元の場所に帰してやろう」
「良いのか?」
「おう。ただ、無条件というワケにはいかん。ワシはちょいとここで用事があるんじゃが、一人では手こずりそうでな。お主に手伝って貰いたい」
「こんな場所で用事?」
「まぁの。奇妙に思うかもしれんが、詳しいことは故あって話せん。ただ、危険なことからなるべくお主を守ると約束するよ。どうじゃろう?」
ポラリスもまた、それを聞いて考え込む。
わざわざ身体を張って守ってくれたということは、少なくとも今この場で騙し討ちなりで不意討ちなりでどうにかしようというつもりはないはず。それなら、先程のデューラントたちと一緒に攻撃した方が確実だからだ。
そして別の目的があるのなら、少なくともその間だけは身の安全は保証されるだろう。そこまで考えたところで、ポラリスは頷き返答した。
「分かった、条件を飲む」
「よぉし。ワシはスターライダーアクベンス、
「ポラリスだ。悪いが、本名は出せない」
「構わん構わん、ザナドゥーで生きてりゃそういうこともあるさ」
カッカッカッと笑い、アクベンスは刀を手に歩き出す。
その後に続いて足を進めながら、ポラリスは尋ねた。
「そういえばアクベンス、メトロストリーマーで空から脱出することはできないのか?」
「無理じゃなそりゃ。ここにはそこそこ大物のデューラントもおる、しかも飛べるヤツがの。飛行型は他にもおるし、上を取られて食い殺されるのがオチじゃ」
「そうなのか……」
「それにな、運良く見つからなかったとしても、その方法じゃ出れんよ。どういうワケか、ある程度の高度に到達するとどのガジェットもエネルギーを失って、変形解除されるようになっとるからの」
話を聞きながら、ポラリスは仮面の中で目を細める。
なぜ、そこまで知っているのか。少々この場所に詳しすぎるのではないか。
しかし、その疑問を口に出す前に、アクベンスはふと一本のハンドリンクを手に取り、それを放り渡した。
アクベンス自身が使っているのと同じ、木霊一煎。緑茶のハンドリンクである。
「分けておいてやろう、備えは多い方がよかろう?」
「何から何まで、すまないな」
老爺の笑う声を聞くながら、ポラリスは彼についていく。
前を行くアクベンスは、時折しゃがんで地面を調べたり、樹に近付いて観察してから移動ルートを決めている。
そして、一度決めたら引き返すことなく、迷いなく歩みを進めた。
「次はこっちじゃな」
「さっきからどうして道が分かるんだ?」
ポラリスの問いを聞くと、アクベンスは自身の左右に並ぶ樹の葉っぱを一枚ずつ拾い上げ、その裏側を見せた。
形こそどちらもほぼ同じであるその葉は、近くでじっくり見てみると、葉脈の色が全く異なっていることが分かる。
道の左手側の樹から採ったものは黄、右は青だ。
「これは!?」
「不思議じゃろう? まぁ、ワシも詳しいワケではないから理屈は知らんが、葉脈の色で行くべき道が分かるようになっておる。赤同士の木の間を通れば西区、黄同士なら南区。南東区なら、緑と黄の間を通れば辿り着けるじゃろうな」
「なるほど……いや待て、それなら俺たちはどこを目指している?」
先程のアクベンスの話から、地面から拾った葉は北区と南区を示していることは分かっている。
だが、方角が正反対な北南区などという場所があるはずがない。この道を通っても、ただ迷ってしまうだけなのではないか。
そんな疑問を口にしたところ、アクベンスは鞄から一枚の葉っぱを取り出して見せた。
この葉は、他のものと違い裏側の葉脈が黒くなっている。
「ワシが辿っておるのはこの黒い葉じゃ。込み入った事情があってな、色々と調べとるんじゃよ」
「これが何か重要なのか……?」
ポラリスがじっくりとその黒い葉脈を観察しようと近付いた、次の瞬間。
進行方向から、再び鎧姿のデューラントたちがボブルヘッズを伴って現れた。
「さっきと同じヤツらか」
「おーおー、騒がしいのが来よったわ。ポラリス、足軽どもの方は任せたぞ」
「了解した」
ポーラセイザー・ソードモードを構え、シロクマの戦士が足軽たちに肉薄する。
先刻と同様に槍を突き出して妨害しようとするボブルヘッズたちだが、ポラリスは素早く前進して間隙を縫うように間合いを詰め、回転しながら周囲の敵を斬り付けた。
「よし!」
「ほぉう……」
黒甲冑のデューラントたちの繰り出す斬撃を避け、喉首に
「見ただけでワシの剣術と体捌きを真似たのか、若いのにお主も中々やるのう。まだ少々脇が甘いが」
ポラリスの攻撃は、アクベンスに比べてパワーでは大きく勝るものの、攻撃速度・移動速度の両面で劣っている。
ワンダーコーラが破壊力に特化したフレーバーであるが故に、決して無視できない差が生まれているのだ。
「ただ真似するだけでは意味がない。ハンドリンクの性能も合わせ、戦い方を考えるんじゃ」
「一番使いやすいから多めに持っていたが、確かに形態の使い分けも重要か……」
ならば、とポラリスは、受け取ったばかりの木霊一煎に手を伸ばす。
実際、このハンドリンクはスピードに長けたフレーバー。使えば戦いを有利に進められるだろう。
しかしアクベンスがそう考えて見守る最中、突然にけたたましい咆哮が森中に響き渡った。
「今のは……!?」
「来よったか」
アクベンスの言葉の直後に黒い影がその場に差し込み、甲冑のデューラントたちは転びそうになる勢いで離れていく。
何事かと思い空を見上げれば、そこには蛇のように胴が長い、巨大な緑色の龍がいた。
風雨を伴って現れたそれは、揺らめく長い髭と枝分かれした赤い角を生やし、手には瓢箪を持っている。
その圧倒的な脅威を前にしたポラリスは、思わず叫ぶような形でアクベンスに問いかけた。
「一体なんだアレは!?」
「さっきも言ったじゃろ、ここには大物がおると。ヤツがそうじゃ。嵐の竜……トロムス・デューラント」
暴風雨を纏うトロムスはポラリスたちの存在に気づき、再び咆哮すると、二人のスターライダーへ真下にダイブする形で襲いかかる。
ポラリスとアクベンスは左右に分かれて避けるが、攻撃と同時に生じた爆発的な突風に飛ばされて、背後の樹に叩きつけられてしまった。
あまりの威力に苦悶の声を漏らしつつも、ポラリスは立ち上がってアクベンスと合流する形で龍から遠ざかる。
「あんなものをどうやって倒すんだ?」
「どんな生き物でも首が落ちるか脳や心臓が潰れれば大抵は死ぬ。じゃが、そのためには他のデューラントが邪魔になるのう」
言われて周囲に目を配ってみれば、先程の黒甲冑たちが嵐に巻き込まれないように位置取りつつ、いつの間にか武器を弓に切り替え狙いを二人に定めていた。
遠方から矢を放って隙を作るつもりだ。体勢を崩したところでトロムスに攻撃されたらひとたまりもないだろう、とポラリスは思う。
「甲冑のヤツらは俺が対処する」
「うむ。ではその間ワシは、お主が狙われんようにトロムスの方の注意を引こう」
そう言ってアクベンスは木霊刀を携え疾走し、龍の放つ空気弾を避けつつ、時折跳躍して攻撃するといった行動を繰り返す。
彼が時間を稼いでいるその間に、ポラリスは改めて木霊一煎ハンドリンクを手に取った。
《
「もう出し惜しみしていられないな」
《
「さぁ、ハジケようか」
ドライバーの操作により、装甲がアクベンスと同じ緑色の陣羽織に換装された後、木霊刀も握られる。
ポーラセイザーと木霊刀の二刀流に、木霊一煎フレーバーによるハイスピードな高速攻撃。
これらが組み合わさったことによって、瞬く間に距離を詰めて次々と足軽ボブルヘッズたちを斬り伏せていく。
「すごいな、本当にフレーバーを入れ替えただけで全然違うぞ」
あっという間に、その場に残ったのは黒甲冑のデューラントのみ。そして武器を刀に持ち替える暇も与えられず、今のポラリスに文字通り太刀打ちできないまま、一方的に斬り刻まれた。
しかし、倒れた黒甲冑たちはいずれも今までのように消滅せず、墨汁に似た黒い液体となって、地面に染み込んでいく。
「なんだ今のは……いや、まさか」
ポラリスは顔を上げて周囲を見やり、その場で二振りの刀劍を重ね合わせ、キィンッと音を鳴らす。
木霊刀が起こす金属音の反響。木霊一煎フレーバーはこれをソナーのように利用し、敵の位置を捕捉することが可能である。
これによって、ポラリスは木陰に潜んでいるデューラントを発見した。
いわゆる黒子装束で、口部や袖口などから触手のように巻物を伸ばしている姿の怪人。先程の墨汁に似たものと同じ色の液体が、その巻物の紙面からドロリと滴っている。
その液体が地面に落ちると、大きな塊となってポラリスたちが戦っていた甲冑のデューラントの姿になった。
「ギギッ!?」
「やっぱりな、甲冑の方は本体じゃなかったのか」
背に日本酒の入ったビンを生やした巻物の怪人、ルクロース・デューラントは触手から黒い液体を放って、生み出した黒甲冑たちを使役する。
だがもはや甲冑たちはポラリスの敵ではなく、素早い剣捌きによっていとも簡単に全員が絶ち斬られた。
ならば、とばかりにルクロースは巻物を振り回し墨汁を飛散させ、それらを無数の刃に変えて攻撃を仕掛ける。
「遅い」
それさえもポラリスにとっては苦にならず、二本の刀剣で斬り払いながら進み、伸びうねる巻物もバラバラに裂いた後、本体を蹴倒す。
「ギギッ!?」
「刺激的に決めるぞ」
《
ルクロースが倒れ込んでいる間にドライバーを操作し、ポラリスは緑の閃光を纏う打刀とポーラセイザーを振るった。
波紋のように斬撃の音響が鳴り広がった後、黒子の五体は細かく分割され、キャップコインを撒き散らして完全消滅する。
その様子を見届け、再びワンダーコーラフレーバーに戻ったポラリスは、すぐさま銃撃で上空のトロムスを撃って攻撃の手を妨げた。
「待たせたな」
「いいところに来よったわ。ここからは全力で行く、龍退治の時間じゃ」
仮面の奥で愉快そうに笑うアクベンス。彼が右手を前に掲げると、そこにもう一振りの刀が形成されていく。
《キャンサーバイザー!》
「むん!」
現れたのは、カニの爪を模した形状の鍔と柄が特徴的な、大振りの刀。ハンドリンク装填用のスロットがあり、既にエンプティハンドリンクが配置されている。
木霊刀との二刀流となったアクベンスは大きく跳躍して巨大な龍に飛びかかり、二度の斬撃を繰り出す。
トロムスは身を捩って回避することによって、被害をヒゲが断たれるのみに抑え込むが、既に背後にはメトロストリーマーに乗るポラリスがいる。ポーラセイザー・アックスモードによる強襲で、首の裏に僅かながら傷を作った。
「ガァァァッ!!」
しかし攻撃はほとんど通じておらず、トロムスは一吠えした後に全身から風を放ち、凄まじい勢いの風の障壁を生み出す。
「うお!?」
ポラリスはその風に煽られて吹き飛ばされてしまい、ボードが制御不能となって墜落。
そこへ風の龍が尻尾を叩き込もうとする、その寸前にアクベンスが介入し、双刀によって弾き返す。
落とされたポラリスも戦線復帰を急ぐものの、メトロストリーマーは先程の風のせいで高く飛ばされたことで再変形してしまい、行方が分からない。
一体どうしたものか、と考えて周囲を見回していると、ポラリスは奇妙なことに気がついた。
自分の背後に、先程まではなかったはずの湖が広がっているのだ。
「ここは……?」
トロムスに飛ばされたせいか、戦っていた場所から大きく離れてしまったらしい。
そう思って急いで戻ろうとしたが、直後にポラリスの身体に異変が起きる。
変身の際に彼の身体に顕れるトライバルタトゥーのような光の紋様が、今再びポラリスの全身に、いきなり浮かび上がって来たのだ。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに光は収まり失われてしまう。
「今のは、一体?」
この場所は一体何なのか、自分の身に何が起きたのか。
ポラリスは困惑するが、今はそのことについて考えている場合ではない。一刻も早くアクベンスの救助に戻り、トロムスを倒さねばならないのだから。
幸いなことに、アクベンスが派手に武器を振って音波を響かせているため、すぐに戦場に復帰することができた。
「アクベンス! 無事か!」
「そりゃこっちのセリフじゃ、まだやれるか?」
「当然だ。やるぞ」
言いながらポラリスは武器をガンモードに切り替え、木々を飛び立ち回るアクベンスの援護のため、地上からの射撃を試みる。
カニの戦士の刀に気を取られていたトロムスは、ポラリスの放った弾丸に気づくのが遅れ、下顎に付いている逆さまの鱗を抉られてしまう。
龍の逆鱗。そこに傷を受けたことで、たちまち力を失って高度が下がっていき、ついには地上でのたうち始めた。
「怯んだ!」
「そこが弱点じゃな!」
《
弱っている今こそが好機。
ポラリスは残った最後のハンドリンクをソードモードに変えたポーラセイザーにセット、アクベンスもキャンサーバイザーによってチャージが完了した木霊一煎を挿し直し、エネルギーを刃に集中させる。
そして一気に喉元まで駆け上がり、三本の刀剣を逆鱗に突き刺した。
《
《
『ハアァァァーッ!』
三つの斬閃が迸り、巨大な龍の頭を引き裂く。
トロムスはゴボゴボと喉から音を立てながら絶叫した後、通常のデューラントとは比べ物にならない量の、山のようなキャップコインを残して消滅した。
とはいえ、二人の本来の目的はこのキャップを手に入れることではないのだが。
「これでようやく探索に集中できるな」
「うむ。じゃが、お主はもう帰った方が良い」
戦いが終わって安堵していたポラリスは、老戦士からそのような言葉をかけられて目を丸くした。
「帰り方はもう分かるじゃろ? 待っとるモンがおるなら、速く行ってやりな」
「待った、本当に良いのか? 調査はどうする?」
「こんなに消耗したお主を連れて行くというのは、流石に忍びないからの。元々はワシ一人でする予定だったことじゃ、気にせんでいい」
アクベンスはそう言いながら持てるだけのキャップコインをポラリスに分け、自分自身も同程度の量を取りつつ、残りを地面に埋めて隠す。
そしてポラリスの素性については一切尋ねることをしないまま、改めて互いに別れを告げた。
「ありがとう、お陰で助かった」
「なぁに、お互い様じゃよ」
硬く握手を交わした後、ポラリスは去っていく。
その様子を見送りながら、アクベンスは独りごちる。
「あやつは中々使えるかもしれんのう」
夜、最星が戦いに向かってから半日以上の時間が経過した頃。
トレミーのキッチンカーは既に、南東区の拠点へと帰還していた。
しかし、中にいる未来はタブレットと向き合って頭を抱えていたり、環の方は椅子に座ったかと思えば立ち上がってテーブルの周りをうろうろとしたり、落ち着かない様子である。
「なんかポラリスが中央区の方に入ったって情報が出てるよ……」
「最星……大丈夫かな」
二人のそんな呟きが室内に聞こえる中、茅英璃はベッドに座って指を組んだまま動かずにいた。
その表情は僅かながら青ざめており、時折静かに深呼吸する息遣いが他の二人にも聞こえている。
もし、このまま帰って来なかったら――三人が三人ともそんなことを考え始めた、その時。
扉が開く音と、静かな足音が玄関から聞こえて来た。
環も未来もハッと顔を上げ、その二人よりも先に茅英璃が飛び出していく。
入口に立っていたのは、やはり最星だった。キャップコインがたっぷりと詰まった鞄を抱え、戻って来ていた。
「ただいま」
「おかえり」
何気ない日常のような会話。互いに見つめ合いながら、二人はクスッと笑う。
怪我をしているがひとまず彼の無事を確認でき、茅英璃は最星の手を取って中に招いて――環と未来が、そんな二人に飛びつくのであった。