ライダーバトルコンサルタントのフィズにより、ミルキーウェイ☆トライアングルへの脅迫が為されてからすぐ後。
北東区の魔祓課のオフィスにて状況を聞いていた常治は、人質であるプロデューサーを助けに向かうべきだと進言した。
しかし課長の花胡から返って来た答えは、この場での待機。その言葉に反発し、常治は声を張り上げている。
「人質がいて!! あんな小さな子供が無理矢理他のスターライダーと戦わされようとしているんですよ!? これは警察の出番でしょう!!」
「北区は魔祓課の管轄区域ではない。それに、この件にデューラントや久峰の手の者が関わっていない以上、そもそもこちらの仕事でもない」
「そうだとしても向こうの地区の警察が行動していないのはどうかしてますよ!! なら、我々がやるべきだ!!」
花胡は言葉を詰まらせ、恵やモカも何も言えずに俯く。
そんな上司や同僚たちの態度に痺れを切らし、常治は立ち上がった。
「もう良い、誰もやらないなら自分一人で勝手に行きます!」
「待て!」
常治を呼び止めようとする花胡だが、それよりも前にその進路に立ち塞がる者がいる。
金人だ。彼は常治の胸倉を掴んで、ドアから引き離した。
「良い加減にしろよ若造。お前だけで行って何になる? 現場に辿り着く以前に、北区前のゲートで警備兵に射殺されんのがオチだろうが」
「な……」
「俺たちが本当に望んでこんなところにいると思ってんのか? 子供が殺し合いに向かって笑ってられるカスと同じとでも? あり得ねぇ、人の命がかかってるのを黙って見過ごすのが正しいことのワケがねぇ。やれるモンならやってんだよ、とっくの昔に」
捲し立てられ、常治もまた言葉を失ってしまう。
「じゃあ、どうすれば良いんですか……俺たちは」
そして絞り出すようにポツリと呟くと、その声に花胡が答えた。
「今はどうにもできない。だが、いずれ私がこの体制を変えてみせる……というかそれができなければ、久峰に関わる者を逮捕するなど夢のまた夢だ」
花胡の言葉を聞いて数刻の後に常治は頷き、金人の手から解放される。
しかし、彼は現状の全てを納得はしていなかった。
「俺は今すぐ、この状況をどうにかしたいんです……!!」
※ ※ ※ ※ ※
一方。
ザナドゥー北区のとあるオフィスビルの一室で、18歳ほどの少女が一人、縄で拘束を受けていた。
ライダーバトルコンサルタントによって拉致され人質に取られてしまった、天音たちの所属する芸能会社の社長の娘だ。
同じ部屋の中には、銃で武装した屈強な男たちが大勢いる。中には下劣な視線を彼女に向ける者もいた。
「へっへっへっ、それにしても可愛いじゃねぇかこいつ」
「おい、人質には手を出すなって言われてんだろ」
「分かってる分かってる、ちょっとからかってやるだけだって」
言いながら、その男は自らのズボンのチャックを下ろして彼女の目の前で見せつけようとする。
が、その寸前に男の手は止まった。
監禁部屋の外から、音色が聴こえて来たのだ。
「ん? なんだ?」
「……音楽と、歌?」
しばらくその歌声に耳を傾けていた、次の瞬間。
いきなり部屋の扉が開いたかと思うと、男たちがビクッと身震いした後に白目を剥いてその場で跪く。
直後に入室して来たのは、白いコウモリのヘルムが特徴的な、紫の装甲のスターライダー。マイクスタンドのような形状の大鎌を持ち、先端のマイク部に向かって歌い続けている。
コウモリのライダーは周囲に目をやって脅威がいないのを確認してから歌を中断すると、男たちの内の一人に声をかけた。
「あぁっ……う……あ……」
「そのままじっとしてなさい。大丈夫、この子を連れて帰るだけだから」
「は、いぃ……」
ほぼ途切れているであろう混沌とした意識の中で、男は返す。
「他にあなたたちの仲間はいるの? 監視カメラはない?」
「なかま、もう、いません……かめら、ありません……」
「そう。私たちが出て行ったら今起きたことは全部忘れて、明日の朝まで眠っていて。良いわね?」
そうして全ての質問に答えると、その場に居合わせた全員が目を閉ざして眠りについた。
少女も男たちと同じく眠っており、コウモリの女戦士は彼女を横抱きにして悠々と外へ出ていく。
「怖かったわよね、遅くなってごめんなさい。あなたの家族の元に帰りましょう」
スターライダースピカ、ラブルスカ・ブラムウェルチ。
プロデューサーが取った『対抗手段』とは、トップスターである彼女の力を借りる事であったのだ。
天音たちがトレミーの拠点を訪れてから、しばらくの後。
一台の黒いミニバンが、北東区と北区を隔てるゲートの前にやって来た。
近くを巡回していた警備員はすぐにその車両に近づき、声をかけに向かう。
「そこで止まれ! 何者だ!」
すると、助手席側の窓から一人の男が顔を出す。
トレミーのメンバーの一員、最星だ。今回はやや薄汚れた青い作業着を上下に着て、運転席には同じ服装の茅英璃、その後ろには未来と環がおり、最後尾の席には彼らを頼った三人の少女がいる。
少女たちは三人とも、後ろ手に縄で縛られていた。
「中に入れてくれ。ミルキーウェイ☆トライアングルを全員見つけて、連れて来た」
警備員たちは目をパチパチとさせて顔を見合わせ、すぐに窓から後部座席を確認。
そして無線機を取り出してしばし話をした後、再び最星に呼びかける。
「許可が出た、入って良し。ゲートを出てすぐ近くの駐車場に入れ、そこで三人の回収と報酬について交渉する手筈になっている」
「どうも」
「妙な真似はするなよ」
軽く会釈で返した後、最星は窓を閉じて、ゲートが開いたのを見計らって茅英璃がアクセルを踏む。
大きな門を通り抜けて、茅英璃は息をついてポツリと呟いた。
「……一応、
「ああ」
最星が頷き、一番後ろの席にいる天音たちに視線を向ける。
未来が立てた作戦。それは、あえて懐に飛び込んで人質を見つけ出した上で、即座に奪い返すというもの。
それには北区に入る必要があるため、一旦天音たち三人を引き渡しに来たのだ。
そのまま駐車場1階に停めてしばらくの間待っていると、外に黒いリムジンが停まって一人のスーツ姿の男がその場にやって来た。
ミルキーウェイ☆トライアングルの参戦放送を行った、フィズ・シャンパーニュだ。
「やぁやぁやぁやぁやぁ~、君たちが連れて来てくれたの? すごいねぇ、本物じゃーん! しかもこんなに速く!」
ヘラヘラと笑いながら、フィズは縛られた三人を引っ張り出し、最星と共にリムジンの方に連れて行く。
その途中で、一人でノコノコと現れた今なら殴り倒して制圧できるかも知れないという考えが最星の頭をよぎるものの、彼はそれを振り払った。
フィズがガンホルスターと銃を携帯しているのがチラリと見えたのだ。襲いかかったとしても、天音たちに危険が及ぶ可能性が高い。
何よりも――ただニヤニヤしているだけのはずであるこの男からは、全く隙を感じられない。下手に攻撃の意思を見せてしまえば、逆に自分がやられかねないとさえ最星は思っていた。
「報酬なんだけど、何が良いかな? できる限り希望に沿ってあげる」
「じゃあ、俺たちを自由に北区へ出入りできるようにしてくれ」
三人を乗せた後でその提案を耳にして、フィズはピクッと僅かに眉を動かす。
「別に永住する気はないし、問題を持ち込むつもりもない。ただ北区ではこいつらにやらせてるような、面白い見世物があるじゃないか?」
「そういうコンテンツを楽しみたいってことねぇ~……ふぅ~ん。オッケー、それくらいなら良いよ」
薄く笑みを浮かべ、フィズはこれを承諾。北区内の役所にN-フォンで連絡を送り、手続きの準備をしておくように伝えた後、リムジンに乗り込む。
その去り際、窓から最星が声をかける。
「今夜始めるんだろう? 早速、見て帰って良いか?」
「もちろん。キミなかなか良い趣味してるじゃん。ホテルの部屋は人数分取っておいてあげる、僕からのおごりだ」
そう告げた後に、リムジンはアイドル少女たちを乗せて去っていく。
「これで第一関門はクリアだね」
「あとは未来とアイツらにかかっているな」
最星の言葉に未来が頷き、車をフィズが紹介したホテルへと移動。
その最中に、早速未来は監視カメラのハッキングを開始するのであった。
受け渡しが行われた後。北区のテレビ局のビルの中で、ミルキーウェイ☆トライアングルは解放された。
「二人とも大丈夫?」
到着して早々に、天音がメンバー二人に問う。
レモンと柚子は頭を振り、堪えきれずに溜め息をついた。
「これしか方法がないとはいえ、結局戦うことになるなんて……」
「正直しんどい。天音はもう、覚悟できてるの?」
彼女らを拘束していた縄がフィズの配下らしい者たちによってハサミで解かれ、天音はレモンたちを振り返りながら答える。
「思ったんだけどね。もしかしたら私たち、ただ言い訳して甘えてただけなんじゃないかなって」
『え?』
「やりたくないことはやらなくていい、ってずっと思ってた。傷つけ合ってまで有名になるなんて馬鹿らしいって今でも思ってる。けど、だからって何もしないままじゃダメなんだよ」
拳を握って語る天音を前にして、レモンと柚子がぐっと息を呑む。
「私たちは応援してくれるみんなに勇気をあげたくてここまで来たんだもん……それなのに私たちの方が縮こまってたら、勇気なんて出せない。本気にならない。誰にも響かなくて当然だったんだ!」
己自身を叱責するように、天音は言い放つ。
その直後。少女たちの前に、二人の男が姿を現した。
「ようやくお気付きになりましたかァ?」
コブラー・スコットとフィズ・シャンパーニュ。ライダーバトルコンサルタントの二人だ。
フィズは晴れやかな笑顔を浮かべ、コブラーの腰に手を回して絡みついていた。
「パイセ~ン! 僕、ちゃんと仕事しましたよ! 褒めて下さいよ~!」
「あーはいはいはいはいエライデスネェー」
対するコブラーは適当な相槌をしながら、フィズの頭を掴んで押し退けようとする。
そしてその態勢のまま、アイドル少女たちに語りかけた。
「所詮あなた方は、上辺だけの紛い物。子供騙しの綺麗事を歌に乗せたところで、このザナドゥーでは届かない。何もかも無意味なんですよ。大衆が望むのは、もっと過激なショーなんですからねェ」
「……そうかも知れませんね」
「それでは、ご自分の役割を理解して頂いたところで、事前説明でもしておきましょうか」
ようやくフィズを引っ剥がして、コブラーは唇を吊り上げくつくつと笑う。
「今回あなた方が戦う相手は、スターライダーセイボです。本当はトップスターを呼びたかったのですが、それではあまりに一方的な戦いになってしまいますからねェ。彼もそれなりの実力者ではありますが」
「私たち三人がかりで良いんですね?」
「もちろんですとも。お客様はそれを望んでいます」
だからさっさと戦って殺すか死んで下さい、とコブラーは続けて言った後、三基のグラスプドライバーを地面に放って拾わせた。
「マンションに置きっ放しだったあなた方の忘れ物です。それから、ハンドリンクもお渡ししておきますね」
「……人質も解放して下さい。無事なんですよね? プロデューサーさんも、社長のご家族の方も」
「んん? あぁ、そういえばそうでした」
コブラーからの視線を受けて、フィズはニヤリと笑って自身の口で話を紡ぐ。
「社長の娘だったらもういないよ、君たちのプロデューサーが頑張ったせいでね」
それを聞き、天音たちは心の中で安堵の息をついた。
マンションから逃げる前、プロデューサーは『既に手を打った』と言っていたのだ。その作戦が実り、人質を解放できたのだろう。
しかし、フィズはその心の内を見透かしたようにケタケタと嘲笑する。
「
「えっ!?」
三人の反応を見て、二人のコンサルタントの笑みがより深まった。
目の前のオモチャを弄ぶのが、とても愉快だと言うように。
「アイツは命令に逆らって、人質を逃がした……その分の責任を君たちに取って貰うよ。生き残りたかったら大人しく戦うか、もしくは今からでも三人揃って素っ裸で土下座してお偉いさん方にヘコヘコ腰を振るか。どっちにしても頑張って泣き喚いてねぇ~」
「では時間になったらコロシアムに向かうように、健闘を祈ってますよォ」
再び廊下に響き渡る、コンサルタントたちの下卑た笑い声。
呆然とするアイドルたちを楽屋に送るよう部下たちに指示し、コブラーたちは廊下を歩いていく。
「パイセェン、アイツら本当にまともに戦えるんスかね」
「おや? 珍しいですね、あなたが他人の心配を?」
「あんなガキどもが死のうが生きようがどうでもいいッスよ。けど、死ぬ前にちゃんと客を楽しませて貰わなきゃ困るじゃないスか」
「それは確かに。まぁ、とはいえ瞬殺されることも自分から死ににいくこともないでしょう。まだ希望があると信じ込ませるために、わざわざハンドリンクを差し上げたんですから」
「おぉー! さ~っすがパイセェン! 性格最悪ぅ!」
満更でもなさそうにコブラーがフッと笑み、彼らは各々の楽屋に戻る。
その室内で、フィズはサッとN-フォンを取り出し、番号を入力して通話を始めた。
「よっす~セイボちゃ~ん。今日の仕事、ちゃんと分かってるよね?」
『今夜の闘技会で
「オッケーオッケー。ただし、今回は観客が見てる前でやる必要があるから、控室で暗殺とかはダメね」
『了解』
※ ※ ※ ※ ※
その日の夕刻。
トレミーの面々は各々、人質救出のために行動していた。
未来はホテルで体を休めつつ監視カメラなどをハッキングして過去の映像を含む状況を観測、残りの三人は自らの脚で調査に出ている。
やがて、未来から最星の端末へ連絡が入った。
『お待たせ、最星! プロデューサーの居場所が分かったよ!』
「よし。社長の家族の方は無事らしいし、早速始めよう」
《
「変身!」
《
最星は人目につかない場所ですぐに変身し、マシンスプライダーを駆って未来の案内で現場に急行する。
場所は北西区近郊の空き倉庫。周囲に目を配って警戒しつつ、ポラリスは中に侵入した。
だが。
「見張りがいない……?」
庫内中央で丸太と共に鎖に縛られた、猿轡をされているプロデューサーを発見したが、他には誰もいない。
照明は点いており他に何か物資が置いてあるということもなく、隠れられるような場所もないので、ポラリスの警戒心は逆に強まった。
とはいえ、このまま見ているだけでは助け出すことなど不可能なので、ポーラセイザーを片手にプロデューサーの元へ駆けつける。
「助けに来たぞ」
言いながらポラリスは鎖を斬り、猿轡も外した。
直後、血相を変えてプロデューサーが叫ぶ。
「に、逃げて下さい……
それを聞いたポラリスはすぐに周囲を見るが、どこにも何もいない。
しかし、彼らの耳には聞こえていた。
天井を
「ギャアウッ!!」
「くっ!?」
頭上からデューラントが襲いかかってくることを察知したポラリスは、プロデューサーをかばいながらすぐさま飛び退く。
そのすぐ後に、何かが勢いよく地面に落ち、丸太が倒れて砂煙が舞い上がる。
砂埃の先で一瞬微かに見えたのは、四足歩行で動く異形。口内や身体の各部にギザギザとした鋭利な牙が生えている、尾先からいくつもの長い鎖を伸ばすイモリのような怪物。
「こいつがあの三人の言っていた、見えないデューラントか……?」
煙が晴れると同時に、イモリの怪物の姿は再び透明になって消える。
ポラリスはこの倉庫で、プロデューサーを護衛しながらこの場を脱しなければならない。
ひとまずは出口に向かうべきと判断して走り出すが、直後にポラリスの右足に衝撃と激痛が走った。
「ぐあっ!?」
見下ろせば、足の装甲にはいつの間にかトラバサミが食い込んでいる。
さらに周辺に目を配ると、同じ罠が大量に仕掛けられていることが見て取れた。先程見えていた牙のようなものは、全てトラバサミだったのだ。
それでも踏まなければ問題はないと考え、足についたそれを破壊してプロデューサーを連れ罠を避ける形で動き出すが、件のデューラントは既にポラリスの正面に回り込んでおり、透明化が解けて口部のトラバサミで噛みついて来る。
「キシャシャシャシャッ!」
「く!!」
ポーラセイザーの刀身で辛うじて受け止め、殴りかかって反撃するものの、今度は背後からトラバサミに左足を食いつかれた。
再び見下ろすと、そのトラバサミはイモリのデューラントの尾に付いている鉄鎖で繋がれている。
仕掛けたトラバサミを尻尾の鎖に接続することにより、罠を無駄にせず自在に攻撃に転用できるのだ。それを理解するのと同時に、ポラリスはあることに気が付いた。
「こいつ、何か妙だ……」
イモリのデューラントは、こちらから攻撃を仕掛けるか攻撃を受ける度に透明化が解けている。尾の鎖も全く透明になっていない。
そういうデメリットのある能力なのだとすれば特に違和感はないが、それならば天音たちが一度も姿を視認できていなかった事実と矛盾してしまう。
加えて先程砂煙が舞い上がった際に、一時的だが姿が見えるようになっていた。
トラバサミを破壊し、続く攻撃を避けながら思索した後、ポラリスは意を決して行動に移る。
《
「これなら……」
《
「ハッ!!」
フレーバーをスポーティマリンに切り替え、マリンフローターに乗ってバリアを展開。
鋭利な牙を全て防ぎつつ、フローターのハンドルをひねって出力を上げ、風圧で勢い良く砂を巻き上げる。
それによって砂埃の先にいるイモリのデューラントが再び浮き彫りになり、その瞬間にポラリスは
すると白い膜のバリアは透明化し、砂煙の中に閉じ込められたデューラントは完全にその姿を晒した。
「な、なんだ? さっきまで透明だったはずじゃ……」
「思った通りだ。最初から透明化はあいつの能力じゃない、別の何かの仕業だ」
「どういうことです?」
プロデューサーに問いかけられ、ポラリスは庫内の天井に目をやりながら答える。
「おかしいと思わないか? こんな何もない空き倉庫に、人質を一人で放置しておくなんて。普通は見張りを用意したり待ち伏せしたり、万が一に備えて物陰に伏兵を忍ばせておくものじゃないか?」
そう言って、ポーラセイザーをガンモードに変形させ、天井の隅に銃口を向けて発砲。
バキッという音がして、上から無音で浮遊する小型の機械が落ちてくる。
丸く滑らかな装甲を持つ迷彩柄のドローンだ。機体には照明が付いており、その光が消えた部分だけ、バリアの透明化も喪失している。
「さっきから砂やバリアで姿が明らかになったように、何かで周りを遮られると透明化は機能しなくなる。だから遮蔽を徹底して排除した。恐らく、能力の正体はこの照明」
「……光で風景を描いて姿が消えたように見せていた!?」
謎が解けた今、このデューラントはポラリスにとって与し易い相手。
すぐに残りのドローンも破壊し、完全消滅させてやろうと考えた、その矢先。
銃声が庫内に響き、トラバサミの怪物、アートブリープ・デューラントの周囲のバリアを破壊した。
「何者だ」
弾丸が飛んで来た方に目を凝らして言い放つと、アートブリープの隣で着地する音が聞こえ、その姿があらわとなる。
深緑色のカメレオンのヘルムを被る、ミリタリーカラーのアーマーを纏うスターライダー。肩や膝の装甲は先程のドローンと似た形状をしており、透明化の能力の使い手が彼であることを物語っている。
そのライダーはアサルトライフルを肩で担ぎながら、目の前で舌打ちした。
「それはこちらのセリフと言いたいところだが、大体察しはつく。あの小娘共に人質の解放でも頼まれたんだろう。私は忙しい身なのでね、これ以上相手をしてやるつもりはない。そのプロデューサー共々そいつに喰い殺されてしまえ」
カメレオンのスターライダーはそう言って再び放銃し、ポラリスがバリアを展開して銃弾を防いでいる間に姿を消してしまう。
アートブリープの方も体を揺すってトラバサミを大量にバラ撒きつつ、鎖の本数を増やして接続し武器を増やした。
「どうして人間がデューラントと一緒に!?」
「考えるのは後だ」
無数のトラバサミがポラリスとプロデューサーに襲いかかり、再び生み出されたバリアがその全てを弾いて防ぐ。
すかさずポラリスは銃撃し、口部のトラバサミを粉々に砕いた。
「グギッ!?」
「透明になれないなら、お前相手に苦戦する理由はない」
そう言いながら、素早くハンドルレバーとスイッチを操作、必殺技を発動し、一歩一歩前進して再生しようとしている口部へバリアを押し込む。
「ギ、ギッ!? ウギギギギギギ!!」
「失せろ」
《
バキバキッ、と音を立ててトラバサミが砕け、顎が外れて口が段々と裂けていく。
ダメ押しとばかりにポラリスがバリアを蹴って飛ばし、アートリーブ・デューラントは木っ端微塵に弾け飛んで消滅した。
これで脅威は消えたが、彼らに休む暇などない。
「急いで戻るぞ、あの子たちを助けに――」
ポラリスがスプライダーの缶を手に取った、その時。
倉庫の扉が蹴破られ、ポラリスの前に二つの影が立ちはだかる。
ランタン怪人であるネルトラン・デューラントに、葉巻怪人のラジック・デューラント。
二体は身体に生えている瓶を砕いて何体ものボブルヘッズを生み出し、逃げ道を完全に遮った。
「……そうまでして、あの三人を戦わせたいのか……」
拳を震わせ、ポラリスはプロデューサーを下がらせつつ、怪人たちを睨みながら未来に連絡を送る。
「聞こえてるか。大至急、そっちで用意して欲しいものがある」
※ ※ ※ ※ ※
最星がプロデューサーを助け出した、そのすぐ後。
天音たち三人は既に北区のスタジアムでグラスプドライバーを装着し、ハンドリンクを手に入場していた。
反対側の入退場口には、セイボの変身者であるフェイスマスクとゴーグルを着けた迷彩柄の服の男が立っている。
フィールドには、障害物としてコンテナや鉄骨などが多数配置されていた。
「役者が揃ったようだねぇ。それじゃあ今から、楽しい楽しいライダーバトルを始めちゃうよぉ~!」
実況席にいるフィズの声を聞いて、観客席から歓声と拍手が沸き起こり、天音の表情が強張る。
「ルールは超簡単! 互いに変身して殺し合って、先に変身解除されるか死んだ方が負けだ! どっちも準備は良いかな?」
客の無遠慮な視線と野卑な雄叫びが、スターライダーたちに殺到していく。
殺せ、殺せ、殺せ、と。ミリタリースタイルの男はそれを聞き流し、三人の少女に睨みを利かせる。
「たかが小娘を数人殺せばいいだけの、楽な仕事だ。すぐに終わらせる」
対する天音は、席から飛び来る罵声を浴びながら深く息を吸い込んだ後。
「みんなーっ!!」
弾けるようなアイドル然とした笑顔を見せ、三人で元気に手を振った。
「今日は、私たちのライブに来てくれてありがとー!!」
「あたしたち一生懸命戦って、絶対勝つから!」
「最後まで聴いていって下さい!」
困惑する実況席と観客たちへと、天音・レモン・柚子の順で決意表明を叫び、改めてセイボの方に向かい合う。
やがて戸惑っていた客たちは、彼女らを口々に貶し嘲笑い始めた。
「何を……やっている? ちゃんと状況を分かっているのか? 私の手で死ぬんだぞ、今から」
未だ混乱の中にいるセイボが問う。
すると、天音は彼を真っ直ぐに見据え、拳を掲げた。
「死なないよ。私たちはこんなところで負けない、負けられない。あなたを倒して、今度こそ本気のミルキーウェイ☆トライアングルとして前に進むんだ!!」
覚悟を決め、少女たちはハンドリンクを開栓し、ドライバーへ装填。
セイボもそれに続き、迷彩柄のハンドリンクをセットした。
《
『変身!!』
「……変身」
グラスプドライバーのハンドルレバーを三度回し、一斉にスイッチを押し込む。
《
《
《
アイドル三人の姿が、それぞれピンクの軽量装甲を纏いギターを持つ隼、ベリーダンスの衣装のようなふわりとした黄色のベールを全身にはためかせる鷲、緑のアーマーに身を包んだ薙刀を構える白鳥の戦士にそれぞれ変化する。
《
一方のセイボは、ポラリスと対峙した時と同じドローンとして分離できるミリタリーカラーの装甲が特徴的なカメレオンの戦士に変身。
《
「さぁ、試合開始だよ!」
フィズの宣言と同時に、三対一のライダーバトルが幕を開ける。
真っ先に行動に移ったのはセイボで、装甲に備わった全ての照明を起動し、自分の姿を周囲の風景と同化させた。
「消えた!?」
「透明化の能力、って……あの時私たちを襲ったのはデューラントじゃなかったってこと!?」
当惑し、三人の動きが止まってしまう。
目に見えなくなったセイボはその事態を見逃さず、サバイバルナイフを手にアイドル少女たちを背後から斬り付けていく。
「きゃあぁっ!?」
「いない!?」
「どこに隠れてんの!?」
レモンの変身するスターライダーアルタイルが、長く伸びるベールを周囲に張り巡らせて位置を探る。
一瞬でも接触できれば捕捉可能だが、透明なセイボは既に彼女らから離れ、コンテナの上でライフルを構えていた。
「お前たちでは私の姿を捉えることはできない」
特殊な光を放つバイオアーマーは、合着状態であれば遮蔽に妨害されることなく効力を発揮する。つまり、壁や障害物など何の邪魔にもならず、むしろ有利にしか働かないのだ。
隙だらけな彼女らに対し、セイボは照準を頭に定め、無慈悲に銃弾を撃ち込む。
「あぁっ!?」
最初に
セイボは反撃が来ることを予測してコンテナを降り、サブマシンガンに持ち替え横から三人を撃ち続ける。
「無駄なんだよ、口先でどんなに高尚な決意を語ろうが……実力のない者がこの街で生き延びることはできない」
「うっ、うう……!」
透明化を維持したまま、再びサバイバルナイフを二本抜き、ゆらりと迫っていく。
「終わりだ」
刃をベガに向けて、セイボが振り下ろす。
だが、次の瞬間。
別方向から何度も銃声が響いたかと思うと、無数の弾丸が少女たちの頭上を飛び交い、その内の何発かがセイボの腕に命中。ナイフを地面に落とさせた。
見れば、そこにいたのはマシンスプライダーに跨るポラリスだ。
四肢を切り落とされたラジック・デューラントとネルトラン・デューラントを鎖で括りつけ、引きずり回しながら連れて来ている。
「乱入させて貰った、刺激的にな」
「バカな、あの状況で生き延びたのか……」
ギリッと歯を軋ませつつも、位置を気取られないためにセイボは口を閉ざした。
「うわあああ!? デューラントだぁぁぁ!?」
「警備員は何をやってるの!?」
「おい立つな邪魔だ!! バトルが見えないだろ!!」
いるはずのないデューラントが街に現れたことで会場は騒然となり、多くの者が慌てて逃げ出す。
セイボは距離を取り、ナイフを捨てサブマシンガンに持ち替える。
だが次の行動を予測していたポラリスは、ネルトランの鎖を切って土を踏む僅かな足音がする方に思い切り蹴飛ばした。
「なっ!?」
炎を噴きながら、カボチャ頭がカメレオンの戦士の胸元まで飛んで行く。
そして、爆発。
所持していた銃器が全て破損し、セイボ自身も炎を浴びて負傷してしまう。
相変わらず透明なままではあるが、ポラリスはさらにその隙に、残るラジックの戒めも解いた。
「ギッ、ギギギ……」
「煙を吐け。毒のないヤツだ、さっさとしろ」
ソードモードに変形したポーラセイザーを怪人の喉元に当て、小声で脅しつける。
すると、短い悲鳴と共に会場全体を埋め尽くす勢いで煙が吐き出され、それをセイボが浴びたことによって輪郭が白く浮き彫りになっていく。
「こいつ無茶苦茶だ!?」
「よし。
セイボやベガたちが狼狽しているのを横目に、ポラリスは小声で通信先に指示を出す。
次の瞬間、既に会場に入りフードを目深に被って潜んでいた茅英璃と環と未来が、赤いペンキの入ったバケツをセイボのいる位置に投げつけた。
ここに来る前に連絡を取り、最星が用意させたものである。セイボは飛来物に気付いて咄嗟に逃れようとするも、ふくらはぎから足裏までベットリと付着してしまう。
「ま、まずい、これでは……!!」
「ウギ、ギ……」
虫の息だったラジックはこの直後に消滅し、徐々に煙が晴れ、そこには赤い靴跡を残して動くセイボの姿があった。
ポラリスはその様子を確認した後、マシンスプライダーを缶に戻して背を向ける。
「後は任せた」
「……はい!」
改めて身構える彼女らの返事を聞いて、ポラリスは観客席の方に移動。セイボがまだ混乱の中にいる間に、攻撃を始めた。
デネブが薙刀で胸を突き、たたらを踏んだところにアルタイルがベールで拘束。続いてベガがギターを掻き鳴らして衝撃波を何度も放ち、身動きの取れないカメレオンの戦士はその連続攻撃で全身から火花を噴く。
拘束が解ければ再びデネブが攻撃し、またアルタイルとベガがコンビネーションアタックを仕掛けるための補佐をする。
このままでは確実に負けてしまうと悟ったセイボは、透明化を解除し、装甲を分離形態にしてドローンとして空に飛ばした。
「良い気になるなよ小娘ども! 私にはまだ、奥の手がある!」
そう告げて三人に向かって体当たりした後、散らばったドローンたちが円を描くように動き回り、眩い光を放つ。
すると、四人の見た目が、天音しか変身できないはずのベガと寸分違わず同じになった。
「えっ!?」
「本物は……!?」
ペンキの足跡で判別しようにも、ドローンの特殊照明の力で膝から下が地面も含めて濃霧に包まれているかのように真っ白になっており、見分けがつかない。
セイボは戸惑う三人を見て密かに仮面の奥で笑い、このまま隙を突いて地面に落ちている武器を拾って攻撃しようと画策する。
だが、そんな折。
セイボを除く三人の内の一人、本物のベガが、顔を上げてフィンガースナップでリズムを取り始めた。
それを見て、残る二人がハッとそのベガと顔を合わせる。
「ワン、ツー! ワンツースリー!」
二人のベガは本物のベガの両隣に移り、リズムに合わせ歌と踊りのパフォーマンスを披露。
「な!?」
「見っけ!」
唯一何もできなかったセイボは、三人からの蹴りを受けて吹き飛び、コンテナに背を打ち付けた。
その後ももう一度目眩ましをして、今度はベガをセイボ自身の姿を入れ替えた上で騙し討ちを試みるが、彼女らが再び息の合ったダンスを見せ合ったために即座に見破られてしまう。
「バ、バカな……こんなハズはッ!?」
頭を抱えるセイボへ、三人の少女のパンチやキックの連続攻撃が突き刺さる。
「練習はウソをつかないんだよ」
「見た目が変わったって、これだけはあなたには真似できない!」
「私たちは三人でひとつのアイドルユニットだから!」
セイボは大きな舌打ちをして距離を取り、今度はドローンを自身の手元に呼び寄せ、ドライバーに手をかけた。
「ならば正面から捻じ伏せる!!」
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「纏めて消し飛べぇ!!」
ベルトの操作の後、ドローンから放たれる熱光線。コンテナを容易に溶断せしめるそれが、少女たちへ向かっていく。
しかし自分たちの戦い方を理解して目覚めたベガたちは、攻撃が来ることを既に予測し散開しており、無傷で凌いだ。
そして反撃のチャンスを見逃さず、セイボを包囲し、彼女らもハンドルレバーを回して必殺技の態勢に移る。
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『行っけぇぇぇぇぇーッ!!』
ミルキーウェイ☆トライアングルの三人の右足に桃・黄・緑のエネルギーが集約し、三方向から一斉に飛び蹴りを放つ。
防ぐ術を持たないセイボはその同時攻撃を受けて装甲を砕かれ、変身解除させられ倒れ伏した。
肩で息をしながら、ベガたちは呆然とその場に佇む。
「勝っ、た……?」
しばらくして、ようやく何が起きたのかを理解したように、変身の解けたレモンが呟いた。
それを皮切りに、残りの二人も変身を解いて、目に涙を溜めながら互いを抱擁し合う。
「やった、やったよぉみんな!」
「これでまだ、アイドルを続けられるんだね……!」
次第に少女たちの顔から笑みが溢れていく。
さらにその彼女らの元へ、一人の男が駆け出した。
ポラリスに救助されたプロデューサーだ。
「プロデューサー!」
「みなさん、ご無事で良かった……」
「そっちこそ、ケガとかない!?」
合流を果たした様子を見て、煙に紛れた時に変身を解いていた最星が満足げに頷き、茅英璃たちと共に席を立つ。
もうここに用事はない。彼女らから報酬を貰う手筈にはなっているが、それは今すぐではないのだ。
「みんな、勇気を出して頑張れたね」
名残惜しそうにフィールドの方を振り返りながら、未来が呟く。
「良かったな未来。あの三人はもう大丈夫そうだ」
「うん! みんなを助けてくれてありがとね、最星!」
満面の笑顔を咲かせる未来に微笑みを返しつつ、一同は他の客に混ざって去っていった。
その一方セイボの変身者は、実況席から自分の元にやって来たフィズを見上げる。
彼の表情は笑顔だったが、その視線は鋭く冷たいものであった。
「人質に逃げられて、勝負にも負けて、何やってんのお前。ふっざけてんのかなァ?」
「ぐ……っ」
「今回の闘技会はこれで終わり、お前はクビだ」
そう言って額にツバを吐きかけ、フィズはその場を後にする。
そして出口に向かって歩きながら、ふと今回乱入したシロクマの戦士のことを思い出す。
「ポラリス……どこの誰だか知らねぇけど、アレは早めに潰しておいた方が良いよなァ……」
呟いた後、フィズはベロリと舌舐めずりをし、N-フォンでコブラーへメッセージを送るのであった。