仮面ライダーPOLARIS   作:正気山脈

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「はぁ~、つっかれたぁ~……」

 魔祓課のオフィス、その地下にある研究室にて。
 星馬 モカは、大きく伸びをして椅子にもたれかかった。

「あともうひと頑張りしなきゃだけどぉ。これでようやく、魔祓課も十分に戦えるねぇ」

 彼女はそう言いながら、デスクに置いてある一本のベルトを、自分の『成果』を指で撫でる。

「あ、でも使うのどっちなんだろぉ。課長かなぁ? それともぉ……」


ROUND.08[Justice(ジャスティス)]

 ザナドゥー北区警察本部、その本部長室にて。

 魔祓課の碧山 常治と雪白 恵、そして紅 花胡は、普段自分たちが利用している北東区のオフィスから、この場所にやって来ていた。

 室内には、彼ら以外に数名の警官の男たちがいる。いずれも花胡よりも階級の高い、あるいは同じ階級の者たちだ。

 

「一体どうなっておるのかね、紅警部」

 

 椅子に座っている人物、白髪頭の壮年の男、本部長が険しい目つきをしながら厳かに口を開く。

 

「昨日、北区でデューラントが出たというではないか。ポラリスとかいうスターライダーが連れて来たと、証拠の映像も挙がっているぞ」

「申し訳ありません、本部長」

「君たちが発見していれば、北区に侵入されることもなかったはずだ。そのせいで無関係な刑事課や警備課に苦情が来ているんだぞ。分かっているのかね」

 

 花胡がそのような暴論や嘲笑の的にされているのを見て、常治は額に青筋を立て、唇を引き結びながら手を挙げた。

 そして許可を待たず、丁寧な口調で発言する。

 

「お言葉ですが。北東区で市民からデューラントの目撃情報はなく、パトロールの際も発見できませんでした。別の侵入経路があったとしか思えません」

 

 本部長とその側に立つ警官たちはあからさまに眉をひそめ、常治の顔を睨んだ。

 しかし常治は一切怯むことなく、この場に集まった警官へと追及を続ける。

 

「それに、今無関係と仰りましたが、市民を避難誘導して我々に連絡を入れるのもそちらの業務でしょう。それとスムーズに対処ができるようゲートの警備員に連絡を通すのも。北区の警察はどれもやっていなかったじゃないですか」

「……君は?」

 

 明確な職務怠慢の指摘に本部長は咳払いしつつ大層機嫌を悪くし、名乗る前に花胡が口を挟む。

 

「失礼致しました、彼は最近配属された私の部下です」

「フン! 新人への教育もなっていないようだな? 口の利き方をちゃんと教えておきたまえ、薄汚い犬に噛みつかれたくはない。首輪で繋ぐのが丁度良かろう。君も傷を増やしてそれ以上醜い姿になりたくないだろうしな」

 

 周りの警官たちが大笑いし始め、常治と恵の目つきが鋭くなる。

 今にも彼らに飛びかかりそうな剣呑な空気を醸し出している二人だが、その前に花胡が腕で制した。

 一同はその後すぐに本部長室から解放され、北東区に戻るべく警察本部の廊下を歩く。

 そうして外に出て、常治はパトカーの前まで来たところで、堪えきれずに花胡へ尋ねる。

 

「なぜあっさり引き下がったんです、課長。どう考えたってこの件は俺たちに責任ありませんよ」

「デューラントが街に出現し、その対処に遅れたのは事実だ」

「だからって受け入れられるかどうかは別でしょう!」

 

 思わず声を荒げてしまい、しかし隣にいる恵は咎めることなく同じように花胡に対して問う。

 

「私も同感です。大体、向こうにデューラントが現れた時点で我々の立ち入りを許可すべきだったはず。なのに一方的に責任を擦り付けられるというのは、あまりに理不尽ですよ」

 

 花胡は二人の言葉を聞いて短い息を吐き、そして穏やかに微笑んで静かに振り返った。

 

「では、君たちの考えを聞かせてくれないか」

 

 車の中でね、と付け加えてから、花胡は助手席に乗り込む。

 恵は後部座席に、常治が運転席に移動して、シートベルトを着けながら恵が口火を切った。

 

「市民の通報がなく、パトロール中にも見つからなかった。それどころか侵入の形跡がどこにもない。だとすれば、デューラントが現れた原因は他にあるってことですよね」

「続けて」

「中央区や北西区側は戦力が配置されていて警備が厳しいから、そこから入るのは恐らく無理だと思います。っていうか、そんな容易い警備なら他区の住民もとっくに不法侵入できてるでしょう」

 

 そこまで発言した後で、今度は常治が手を挙げて発言する。

 

「俺、ずっと引っかかってたことがあるんですけど。そもそもデューラントってのは、一体()()()()()()んですかね?」

「ほう」

 

 彼の切り出した話を、花胡は真剣な面持ちで聞いて、数度頷く。

 

「みんなデューラントを恐れてますけど、そもそもアレの詳細がまるで分かってないじゃないですか。隕石墜落の後からいきなり現れたってこと以外は。だから、俺が思うに――」

「ストップ」

 

 瞬間。

 助手席から伸びた花胡の人差し指が、ムニッと常治の唇を塞いだ。

 突然の出来事に常治は素っ頓狂な声を上げ、顔を真っ赤にして仰け反った。

 花胡はイタズラっぽく笑いながら、しかしすぐに真剣な眼差しに戻して頭を振る。

 

「この場でそれ以上はやめてくれ。立ち聞きされる可能性もある。続きは、署に戻ってからだ」

「は……はいッス……」

 

 しどろもどろになりつつも、常治は赤い顔のまま車を操作してエンジンを始動させ、北東区に戻るべくパトカーを走らせた。

 後部座席の方で恵がジトッと彼を睨んでいることにも気付かずに。

 

 

 

 一方、本部長はそのパトカーが出ていく様子を、眉をしかめながら窓から見下ろしていた。

 先程までと違い、室内には全身にタトゥーを入れている20代前半の褐色肌の男が一人だけ残っている。

 警察の制服であるジャケットを肩で羽織り、ドクロマークの入った派手な柄物のネクタイを緩め、ワインレッドのワイシャツを素肌の上から着ている。筋肉質で、引き締まった腹筋や胸筋が服の上からでも分かるほどだ。

 さらにその制服には改造が施されており、両肩のトゲの付いたアーマーと背中の大きなサソリの刺繍が目を引く。

 

「全く目障りな連中だな。これ以上不必要に嗅ぎ回られては、我々の業務にも多大な支障が出てしまう」

「やっちまいますか? あんな連中、俺なら瞬きする間も与えませんぜ」

 

 切れ長の目をしたサソリの刺繍の金髪男が、ニィッと裂けるように吊り上がった唇で整った顔立ちを歪め、自信たっぷりに言い放つ。

 しかし、本部長は含み笑いをしながら首を左右に振った。

 

「まぁ慌てるな、今は泳がせておく。下手を打って()()の機嫌を損ねるワケにもいくまい。それにあんな連中如き、トップスターである君の手を借りるまでもなかろう」

 

 直後、本部長のデスクに置いてあるN-フォンが着信音を鳴らす。

 

「噂をすればなんとやらだ」

 

 画面を確認すれば、そこにはコブラー・スコットの名が記されていた。

 応答すると、いつも街で流れる配信とは異なる、落ち着いたテンションの声が聞こえて来る。

 

『やぁどうも本部長』

「本日は如何なさいましたか、スコット氏」

『察しはついていると思いますが、少々協力して頂きたいことがありましてねェ』

「ポラリスの件ですな?」

『ええ。それから、近日中にリモートミーティングを行います。今から資料を送りますので、日程の調整をお願いしますよォ』

「承りました。では」

 

 通話を切った後に、本部長は柔らかい椅子にもたれかかり、金髪の男と共に再び笑みをこぼした。

 

「下層市民どもに思い知らせてやるとしよう、このザナドゥーの支配者である『我ら』の恐ろしさを……な」

「楽しみじゃねぇですかァ、ヒヒヒッ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 それから数日後の夕方。

 最星たちトレミーの面々は、仕事を終えて東区のラーメン屋『孔明』を訪れていた。

 店内には黒いエプロンを着用し厨房に立つ坊主頭の男と、赤いチャイナドレスと白エプロンを纏って接客に勤しむ小柄な女性がいる。

 四人はテーブル席に座っており、それぞれが注文したラーメンを、今か今かと待ち続けていた。

 しばらくの後、ついに待ち望んだ料理が運ばれて来る。

 

「背脂にんにく醤油ラーメン一丁、野菜増し激辛味噌バターコーンラーメン一丁、鶏チャーシュー塩ラーメン一丁、ニラ肉玉豚骨ラーメン一丁お待ちヨ〜」

『いただきまーす!』

 

 醤油は茅英璃、味噌は環、塩は未来で豚骨は最星。それぞれが、最初の一口をすする。

 

「んんー! これこれ、やっぱこの味よ!」

「あ~、このカラさ。生きてるって実感する~」

 

 茅英璃と環がそのように感想を述べる中、未来は声を潜めて最星に話しかけた。

 

「ここの店主さんね、実はスターライダーなんだよ」

「そうなのか?」

「すっごい強いって聞いたことある。店でトラブルが起きた時は中国拳法で解決してるんだってさ」

「ほう」

 

 興味深そうに数度頷き、最星は厨房に立つ男に注目する。

 強面で筋肉質で、確かにスターライダーとして戦っていると言われても納得できる容姿だ。

 そうしてしばらくの後に四人とも食事を終え、店を出ていく。

 

「美味しかった、ご馳走様!」

「また来るヨロシヨ~」

 

 元気な笑顔の女性店員へ手を振り返しつつ、味の感想など雑談も交えつつ、トレミーの四人組は自分たちのねぐらを目指して歩いていく。

 が、その時。

 突然に空高くにホログラムモニターが出現し、そこに一人の男の姿が映し出される。

 

「ん?」

 

 天を仰ぎ、画面を確認する最星。茅英璃たちも、モニターを注視した。

 そこに映っているのは、壮年の警官。手には一枚の紙を持っている。

 

『毎度お騒がせしております。今回は私から直々に、皆様にお願いがあってこのような形で挨拶しております』

「コブラーでもフィズでもないな」

「アレって確か、ザナドゥーの警察本部長よ。かなりのお偉いさん」

「そんなヤツがこの配信を?」

 

 あまりに縁遠い存在のようにしか思えず、最星は怪訝そうに眉をしかめる。

 本部長は真っ直ぐにカメラを見据えながら、地上の市民に向かって語り始めた。

 

『数日前、北区にポラリスというスターライダーが不法侵入し、民間人のいる場へ故意にデューラントを連れてくるという事案が発生しました。そこで我々警察は彼を危険人物と判断し、本日から該当人物を指名手配するものとします』

「なに!?」

 

 最星たちが目を剥いている間にも放送は進み、本部長は口角を上げながら実際のポラリスが写った手配書を見せ、さらに続ける。

 

『市民の皆様には、このスターライダーを見かけたら即座に通報を。また、同人物を故意に逃がす行為は犯人蔵匿罪・犯人隠避罪に当たりますので必ず通報して下さい。逮捕に至った暁には、相応の報酬もお渡します。ご協力をよろしくお願い致します』

 

 深く頭を下げた後に、ホログラムが消えたことで配信は終わった。

 呆然と空を仰いだまま、言葉を失ってしまう最星。

 その隣で、茅英璃は頭を抱えて歯を食いしばり、地面を睨んでいた。

 

「……最ッ悪」

「ミルキーウェイ☆トライアングルの一件で目をつけられたみたいだね、まだボクらとポラリスとの繋がりには気付いてないと思うけど」

 

 環が腕を組んでムゥと唸り、その横で未来は眉を下げている。

 

「どうしよう、ごめん……私があんな作戦を立てなかったら、こんなことには」

「落ち着け。未来のせいじゃない」

 

 最星は慰めの言葉をかけるが、明確に悪い状況であることは彼にも分かっていた。

 戦うことが目的ではないとはいえ、このままでは迂闊に変身できない。戦いから遠ざかるほど、記憶を取り戻す手がかりにも遠のく。

 これからどうするべきか。歩きながら考えた末に、最星は再び口を開いた。

 

「しばらく変身は控えることにする。記憶も大事だが、茅英璃たちまで捕まるリスクは冒せない」

「本当にいいの?」

「戦わなくても手がかりを探ることはできるはずだ。それに、逮捕されたら記憶を取り戻すチャンスを一生逃すことになるだろう」

 

 だから、少なくとも今はこれでいい。

 最星はそう締めくくり、三人と共にトレミーの拠点に戻っていく。

 

「何事も起こらなければいいけど……」

 

 帰り道の途中で、ふともう一度空を仰いだ茅英璃がそう呟いた。

 

 

 

 同じ頃。

 その放送を見ていた北東区の魔祓課の常治は、その内容に目を剥いていた。

 

「ふざけるな……なんだ今のは!?」

 

 ダンッ、と机に拳を叩きつける。

 これが本当に警察のやることなのか。外では考えられない事態を前に、ただただ怒りが湧き上がっていた。

 

「完全にポラリスを悪人扱いしていたわね」

「これでスターライダー連中は血眼になってそいつを探すだろうな」

 

 恵が眉をひそめ、金人が深い溜め息を吐く。

 そのまま常治は花胡へ詰め寄り、じっと見据えて訴えかける。

 

「課長!! こんなことが、本当に許されるんですか!? 俺は納得できません!!」

 

 だが、花胡は何も語らない。

 それでも構わず、常治はさらに言葉を続ける。

 

「やはり俺の推測は正しいんじゃないんですか!?」

「推測ってなんだよ?」

 

 金人が首を傾げ、常治は頷いて先日の本部に訪問した際の自分の考えを述べた。

 

「俺は、北区にいる上流階級の人間がデューラントを管理しているんじゃないかと睨んでるんです」

「……はぁ~?」

「だって、おかしいでしょう? 北区の市民ですら怪人に怯えていたのに、同じく初めて遭遇するはずの警察上層部やライダーバトルコンサルタントは動じていなかった。これは不自然ですよ」

「そりゃ映像で何度も見てるから慣れたってだけじゃねぇのか?」

「じゃあ聞きますけど。いきなり本物のクマが目の前に出て来て、全く驚かず怖がらずにいられる人間っていると思います? 見てるだけでクマに慣れますか? そのくらいおかしいんですよ、ヤツらの反応」

「だからって、コンサルタントはともかく上の連中までってのは飛躍しすぎじゃねえか? ちょっと頭冷やせよ」

「なら、北区にデューラントが出て来れる理由に納得できる説明をしてくださいよ! 誰かが侵入ルートを作って中に誘き寄せているか、最初から中で管理しているとしか考えられないんですよ!」

 

 常治の推測をぶつけられ、金人は言葉に詰まり、短く唸る。

 確かに強く否定できる材料はない、だが手放しで賛成できるような根拠もない。

 金人がなんと答えるべきか考えていると、花胡が左手を挙げた。

 

「二人とも、そこまでだ。元よりポラリスの逮捕は我々の担当ではない。不服だろうが、今は必要以上に関わりを持つな」

 

 それを聞くと、常治は沈黙。

 そして眦を上げ踵を返し、出口のドアの方に向かう。

 

「ポラリスの素性が分かっていない以上、不法侵入とすること自体が誤りの可能性もある。なのに、ここまで個人を追い詰める必要があるんですか? ただ三人の少女を助けに行った人間を? だとしたら、警察の正義とは一体何なんですか?」

「碧山巡査……」

「俺は俺の正義を曲げるつもりはありませんよ」

 

 振り向きざまにそう語って、常治は署から出ていく。

 花胡も金人も、恵も止めることはできなかった。

 

「……大丈夫ですかね、彼?」

「今はこうするしかない。流石に、そんなに速く事態が動くこともないだろうしね」

 

 そう言って花胡は、椅子の背にもたれかかり、溜め息を吐く。

 だが後日、彼女の予想は大きく裏切られることになる。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 警察本部から声明が出された翌朝。

 南東区に住む最星たちは、遠くから聞こえるバイクの走行音や爆発音で目を覚ます。

 

「なんだ!?」

「朝っぱらからどうなってんのよ!?」

 

 下着姿の四人はベッドからすぐに飛び起き部屋を出ると、窓から外を確認する。

 見れば、マシンスプライダーを駆るスターライダーのチーム同士で抗争が始まっているようであった。

 元々荒野に近い南東区は度重なる攻撃でさらに荒れ、方々から悲鳴も上がり始めている。

 

「な、何? 何が起きてんの?」

「今調べてる!」

 

 タブレットを操作しながら未来が言い、そしてそこに現れた映像を目にして表情を強張らせた。

 

「これは……ヤバい、大変だよ! そこら中でスターライダーが暴れてる! 変身できない人たちも関係無しだよ!」

「どうしてそんなことに!?」

 

 悲鳴じみた未来と環の声を聞き、拳を握り込む最星。

 

「決まってる……(ポラリス)を探してるんだ、報酬目当てで」

 

 最星はすぐに部屋に戻ろうとして、その前に茅英璃に手を掴まれてしまう。

 

「どこ行く気よ!?」

「このまま黙って見ていたら、きっと南東区の住民だけじゃなくザナドゥー全体に危害が及ぶ。誰がポラリスの変身者だろうと関係なく、大勢にな」

「でも!」

「それに、放っておいたらお前たちまで被害に遭うだろう。それだけは絶対に許せない」

 

 衣服を着替え、グラスプドライバーを装着。

 さらにスプライダーの缶を手に取り、急ぎ足で裏口へ向かう。

 

「俺は解決屋トレミーの神浦 最星だ。ここで何もせずにいたら、きっと、()()()()()()()()()

 

 茅英璃も環も未来も、何も言えなかった。

 戦う力を持たない彼女らは、無謀な戦いに赴く最星の背を、ただ見ていることしかできない。それを自覚している。

 

「隠れていろ。俺が全部、終わらせる」

「待って!」

 

 それでも茅英璃は彼を呼び止め、一本のボトル入りジュースを差し出した。

 ワンダーコーラに似た黒っぽい色の炭酸飲料で、赤いラベルに白字で『CHEMICAL SPICE(ケミカルスパイス)』と銘打たれている。

 

「これはなんだ?」

「……アタシのお気に入りのドリンク。お守り代わりに、せめてこれを持って行って」

 

 じっと最星の目を見つめ、茅英璃は言った。

 しばらく互いの目を見合った後、最星はそのボトルを受け取り、静かに彼女を抱擁する。

 

「必ず戻る」

 

 耳元でそう告げた後、今度は振り返らずにその場から出ていく。

 そうして周囲に誰もいないことを確認し、ワンダーコーラのハンドリンクを装填。マシンスプライダーを呼び出し、それに跨りながらドライバーを操作する。

 

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

「変身!」

AWAKENING SURPRISE(アウェイクニング・サプライズ)! WONDER COLA(ワンダーコーラ)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

 

 ポラリスを乗せたバイクのエンジン音が、悲鳴と戦火の広がる方へ向かう。

 敵はどれほど強く多いのか。自分はどこまでやれるのか。分からない、分からなくても、戦わなくてはならない。

 疾走するポラリスはそんな思いを胸に、とうとう現場に到着した。

 

「お? こいつじゃねぇかポラリスってのは」

「やっとこさ見つけたぜ! おい、囲め囲めぇー!」

「フクロにしてやる、ケケケッ」

 

 マシンスプライダーから降りたポラリスの周囲に、数多のスターライダーと変身していないならず者たちが押し寄せて道を塞ぐ。

 彼らの背後や近くの建造物の方に目をやれば、そこには死体や負傷した人間が転がっている。

 男女を問わないばかりか、中には子供や老人の姿もあった。

 

「ひとつ聞かせてくれ」

 

 ギチッ、とポラリスが堅く拳を握り締める。

 

「背格好の似た男だけじゃなく、女子供に老人をわざわざ狙ったのはなぜだ。どう見ても俺の特徴と合致しないはずだが」

「ハッ! そんなもん決まってんだろ」

 

 男たちの背後で死体に紛れて死んだフリをしていた少女が、隙を見て逃げ出そうと這う。

 しかしポラリスと話している男は即座に拳銃を抜き、振り向かないまま数度発砲、少女の頭を撃ち抜いてしまった。

 

「大した理由なんざ……()()()()。あえて言うなら、お前が出て来ねぇからだ。みんな憂さ晴らししてたんだよ。遊びだ遊び」

 

 同じことが起こらないように、と他の者たちも死体に弾丸を浴びせる。

 

「そうか、よく分かった」

 

 真っ直ぐに、ポラリスは銃を持つ男の方に歩いていく。

 そしてその拳で拳銃を叩き壊し、肘打ちを鳩尾に叩き込んで一撃で昏倒せしめた。

 

「なっ!?」

「お前ら全員用済みだ。躊躇は一切しない、ハジケて失せろ」

「野郎ォッ!!」

 

 スターライダーも含めて、一斉にポラリスへと襲いかかるならず者たち。

 その全てをシロクマの戦士は薙ぎ倒す。怒りのまま、何人も、何度も。

 気が付いた時には暴力集団は全員倒れ伏し、立っているのは返り血に染まったポラリスのみとなっていた。

 

「……ずっと続けるつもりなのか、こんなことを……」

「あっれぇーっ? もう本物来ちゃった感じィ?」

 

 聞こえて来た声の方を、素早く睨む。

 そこにいたのは、短いタイトスカートと黒いスーツを着て、ワイシャツのボタンをほとんど外して肌蹴させているスレンダー体型の女。白い髪で前髪が異様に長く、両目を覆うほど。

 女はクスクスと笑いながら、腰に着けたグラスプドライバーを撫でる。

 

「せっかく遊べると思ったのに、残念だなぁ」

「……なんだ、お前は」

 

 スターライダーであろうその人物に問うと、女はニタニタとしながら名乗った。

 

「はじめましてェ。ランキング9位、スターライダーハマルの布留峨(フルガ) リア。アナタを殺しに来たんだ~……ん? 殺すんじゃなくて生け捕りだったっけぇ? まぁいいや」

 

 そう言って取り出したのは、ヒカルも使っていたサルピシウムソーダのハンドリンク。

 リアはドライバーにセットし、走りながらすぐにレバーを回す。

 

HOLD ON(ホールド・オン)! OPEN THE BOTTLE(オープン・ザ・ボトル)!》

「変身」

DEMOLISH BONE(デモリッシュ・ボーン)! SARPISIUM SODA(サルピシウムソーダ)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「アッハァー!」

 

 頭部に角を生やした白いヒツジのヘルムと、トゲトゲしく荒々しいアーマーが装着された、パイルバンカーを装備したスターライダーが真っ直ぐにポラリスへ飛びかかった。

 互いの拳と拳がぶつかり合い、激しく火花が散る。

 

「アタイのために死んでよ~」

「断る」

「断って何の意味があるのかなァ~? アナタが捕まらない限り、この街の誰かが襲われるだけなんだけどねェ?」

 

 ポラリスは彼女の腹を蹴ると同時に真後ろに飛んで距離を取るが、ハマルは逃さないとばかりに再接近し、胸に杭を叩き込む。

 

「ぐっ!?」

「それを見てられないからノコノコ出て来ちゃったんだよね? バカな人、そんな半端するくらいなら最初からスターライダーになるんじゃーなぁーいーよォッ!!」

「ガハッ!?」

 

 守りを一切考えていない、激しい攻めの姿勢。地面から伸びた骨の杭がポラリスに殺到し、装甲を砕く。

 ならばとポラリスはポーラセイザー・トンファーモードを手にして怒涛の連続攻撃を凌ぎ切りつつ、ハマルの喉を叩いて隙を作りドライバーのボトルを交換する。

 

DECISIVE ARROWS(ディサイシブ・アローズ)! DELTA CIDER(デルタサイダー)! OPEN THE BATTLE(オープン・ザ・バトル)!》

「これでどうだ!」

 

 超至近距離からのシュートサイダーによる一矢。

 それが脇腹へとクリーンヒット、したにも関わらず、ハマルは何事もなかったかのように再び真っ直ぐに飛び込んでパイルバンカーでポラリスの胸を打った。

 驚く暇さえなく装甲が貫かれ、シロクマの戦士はよろめき膝を折ってしまう。

 

「強、い……!」

「いーやぁ? アナタが思ったほど大したことないってだぁーけ。これでも加減してるからね?」

「なに!?」

「知らなかった? トップスターはみんな、運営グループが作った専用の武器を持ってるの。アタイは使ってないでしょぉ? その気になったらいつでも殺せるってこーと」

 

 言われて、アルデバランやアクベンスのことを思い出す。

 確かに双方とも、ハンドリンクを使わなくとも最初から武器を持っており、しかもエネルギーが空になったハンドリンクへのリチャージ機能があるように見えた。

 既に限界が近いポラリスは、アルデバランの時のように中央区へ逃げ込もうと考えるものの、その退路をサルピシウムソーダによって生み出された骨が壁となって塞いでしまう。

 

「今度は中央区に逃げるとかさせないからねェ」

 

 ケタケタと笑い、パイルバンカーを掲げて迫り来るハマル。

 このままではやられる。よろめきながら突破口を考えるポラリスだが、そう簡単に思いつくはずもない。

 諦めが頭をよぎった、その時。

 

「動くな、警察だ!」

 

 パトカーがハマルの後ろに飛び出し、常治が降りて来た。

 拳銃の照準をヒツジの戦士に定め、じっと睨めつけている。

 そのハマルが視線を一瞬外した隙を突き、ポラリスは常治の方に跳躍して逃れた。

 

「はぁ? 警察がなんでこんなとこいるの?」

「警察()()()ここにいるんだ、人殺しが当たり前にまかり通るのを黙って見ていられるか」

「で? ただの警察官に何ができるって?」

「お前を倒せる」

 

 強く断言し、拳銃をホルスターへ戻す常治。

 そして、その手にホッパーズバックルともグラスプドライバーとも全く異なるベルトを取って、自らの腰に装着した。

 左手側のバックル部に白色の四角いディスプレイがあり、右側には何かを装填するためのスロットが付いている。

 

DRIP DRIVER(ドリップドライバー)

 

 ベルトから音声が流れ、続いて右手にナックルダスターのような形状の武器を取った。

 これには拳の部分に丸型の窪みがあり、常治は反対側の手でドリップカプセルを手にする。

 カプセル表面には青い山の背景と共に『EMERALD CANYON(エメラルドキャニオン)』のロゴが描かれており、スイッチとなっている突起部分を押すと、その表面部が翻って『顔』となった。

 常治はさらにそのカプセルを、ナックル側のスロットにセット。すると、電子音が鳴り響く。

 

CAPSULE IN(カプセル・イン)

「変身!」

 

 ナックルをバックル部右側のスロットに上から装填し、手でディスプレイの方へ押し込む。

 その直後、ディスプレイ部が青く発光して白色の頭部のシルエットが浮かび上がり、カプセルの顔が映し出されて仮面ライダーの姿となった。

 

BREW UP(ブリュー・アップ)

 

 それと同時に、常治の足元から巨大で透明なコーヒーカップのようなものが形成されていき、頭上に現れた円盤めいたドリップカプセルから黒い液が注がれていく。

 全身を白一色のスーツが覆い、その上から液体が湯気を立てながら青色の装甲へと変化。オレンジ色の瞳が煌めきを放ち、白と赤の二色のマフラーが左肩の後ろからはためいて、サイレンの音がその場に響き渡る。

 

FIGHT FOR JUSTICE(ファイト・フォー・ジャスティス) EMERALD CANYON(エメラルドキャニオン)

 

 カップを内側から拳で砕き、生まれた戦士は空手の組手立ちの構えを取った。

 

「俺の名はジェーシュタ! 刑事で、仮面ライダーだ!」

READY GO(レディ・ゴー)

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