「そうかい。君には相変わらず負担を強いるね。銃の予算に関しては安心してくれて良い」
「おう。悪いな、お館様」
他の隊士が俺の様な口調で話し掛けりゃ周囲が不敬だの騒ぐだろうが、俺の場合はちょっと特殊だ。鬼殺隊に所属して三十年以上未だ現役、武器を扱う才能こそ皆無でも呼吸は使えるし武術の方は使えるもんだから一時期は産屋敷家の当主の護衛として先代当主の頃からそばに居た。
だから今のお館様の子供の頃、立場上子供らしく甘える事が許されなかった次期当主の話し相手にもなっていた訳で柱連中は元を含めて黙認している。本人だって気が楽だって言ってるから。
「それにしても君が逃してしまった上弦の参は行冥でさえも厳しい相手だなんて、半天狗の様に厄介な能力持ちとは別の方向で難敵だね」
「あの手の奴には正面から戦うしかねえしな。痣に関しちゃ無理に習得させたとして始まりの呼吸の使い手の時代の二の舞になっちまう。何処に居るかも分からないんじゃな。いや、寿命に関しちゃ本当の所は分からねえが」
寿命を削って力を底上げするって話の痣だが、一人を除いて二十五までに死ぬらしい。でもよ、今は薬も食い物も当時より恵まれてるから違うかも知れないんだよな。
そんな事を考えつつポリポリと掻く頬には鬼の紋様に似た痣がある。生まれ付きな。親父は遺産問題で揉めていた上に俺の痣を見て余計な事を言った親戚を殴っちまって俺にまで影響が出ている。
「今の柱の力じゃ討伐する可能性は低いが、今まで見た中で倒せる可能性があるのも今の柱だけだ。炎に関しちゃあの馬鹿の方が上な気もするけれどな。……長居した。そろそろ出るわ」
「君が言うなら今の柱の代で無惨を倒せるかも知れない。息子の代で呪いが消えれば良いんだけれどね」
「あーん? 自分の代で呪いが消えて、以降寝込むのは孫の相手してたら腰をやられた時だけとか言っとけ。かなーりヤバいらしいからな、ギックリ腰は」
「……そうだね。孫を抱くだなんて今まで考えた事も無かったよ」
さて、柱連中の尻は蹴り飛ばしたし、次は隊士見習い
「かかって来いや、雑魚助共がぁああ!」
柱合会議から三ヶ月後、狭霧山で修行を続けていた伊之助を引っ張って別の修行場にまで連れて来ていた。俺が世話になった元柱の一人である桑島さんの所だ。
来年辺りにでも最終選別に行かせてぇんだが、完全に俺の手を離れる前にもうちっと鍛えておきたいんだよな。肌の感覚を含めて独自の強みを中心に伸ばしたい。
「おい、俺を舐めてんのか。雑魚呼ばわりの上になんだ? 其処の餓鬼、目隠ししてんじゃねえか」
なので猪の頭を一旦外して目に布を巻いた状態だ。そりゃ侮ってると思うわな。
「はっ! 目隠しした程度で伊之助様がテメェみたいなのに負けるかよ!」
二人居る弟子の片方の獪岳と向かい合う伊之助は鱗滝さんに修行場を借りた事で常中を会得していて、あの人の新しい弟子の……蒲鉾権八郎? との触れ合いで少しは対人能力が向上したみたいだ。
稽古もしていたらしいが同じ相手とばかりじゃ経験を積むにはって事で桑島さんの弟子の相手を頼んだが、獪岳ねぇ。
『私達があの時に獪岳を追い出さなければ……』
確か同じ名前の奴が沙代から行冥の事で相談受けた時に同じ名前が出たが……まあ、確認しないで良いだろ。こうして鬼狩りになろうとしているんだし。
「あの小僧かなりやりよるな。既に鬼の相手をさせているのか?」
「ああ、縄で繋いだり担いだりして調査に同行させてな。前に下弦の壱の相手をさせた時は手も足も出なかったが良い経験にはなったみてぇだしよ」
獪岳は壱の型以外で果敢に攻め立てているが怒りのせいで動きが少し単調だ。それじゃあ今の伊之助には通じねぇ。あの狛治(推定)が血鬼術でやっていた殺気の探知を肌で行い、空気の流れを読んで振り下ろされる木刀を避けたり防いだりしている。
「守ってばかりじゃ勝てねぇぞ、カスが!」
彼奴、頭に血が登りやすい質か。一向に掠りもしない事に苛立ちを募らせて更に攻撃が激しく荒くなって行く。才能は……有るんだよな。少なくても俺に比べたら遥かに。
「百回! はっはー! もう我慢の時間は終わりだぜー!」
だが、今の伊之助の敵じゃねえ。幼い頃から険しい山の中で育った彼奴と数年厳しい修行をした奴とじゃ肉体の下地が違うし……格上相手の経験に大きな差があるからな。
今回百回攻撃を避けるか防ぐかしてから攻撃しろって言っておいた。そして七十回位で攻撃に転じて獪岳の脇腹に木刀を叩き込んで地面に叩き付ける。
あー、駄目だ。数をちゃんと数えられねえんだ、彼奴。その辺は拠点に残ってる隠に任せたが無理だったか。
「この前、煉獄家の馬鹿と喧嘩する為に行った時に先に相手させたんだが桑島さんの弟子二人も今度一緒に行くか? 何度か叩きのめしてたら鈍った腕も少しは戻って来てたから良い経験になると思うぜ」
「相変わらずじゃの、お主」
え? 流石に駄目? そっか。
「ひぃいいいいいいいいいいいいっ!? 彼奴の方が俺より強いのに、それを倒した奴に勝てる訳無いじゃんかよぉおおおお!?」
もう片方の金髪の方は震えてるし駄目っぽいな。随分と良い耳をしてるみたいだが……。
「もう片方もさっさと倒して次は大親分をぶっ倒すぜ、おらぁああああああ!」
「おーい。百回ってのは二人合計じゃ無いからな? そっちの攻撃も……聞いちゃいねえか」
涙目で全力逃走する金色の髪……異人の血でも混じってんのか? え? 雷直撃したら金髪になった? えぇ……。よく生きてんな、彼奴。そのまま急に寝たかと思ったら壱の型を放つも飛び上がって避けた伊之助の一撃を受けて終わりだ。
「ふはははははははは! 俺様最強! 次は大親分の番だぜ! 今日こそアンタに勝ーつ!」
「おうおう、元気だな。だが……」
正面から向かって来た伊之助の足を払う動作をしたら飛んで避けたので狙い通り振り上げる。腹部に足裏がめり込んで吹っ飛んで行ったが、咄嗟に内臓の場所をずらしてたし大丈夫だろ。
「さてと、次行くぞ、次」
育手やってない元柱の所も周りつつ受け持った柱の仕事の一部もこなさなくちゃならねえしな。木に叩きつけられてピクピク痙攣する伊之助を肩に担ぎ上げた時、轟天が急な任務を伝えて来た。
「東ノ山デ下弦ノ肆ラシキ鬼ヲ発見シマシタゾ! 直グニ向カッテ下サイ!」
下弦の鬼か……。よし!
「桑島さん、ちょっと弟子二人借りても良いか?」